という事で短いですが、第二話です。
冥界の管理人、西行寺幽々子さんが来店してから数日が経過した。
あれ以来も客足が見える事は無く、閑古鳥は鳴くどころか大合唱を始めている。
流石にこれでは拙いと考え、僕は人里に足を運ぶ次第と至った。
幻想郷にある人間の里は、妖怪の賢者である八雲紫が保護している。
大昔に起きた騒動以来、里の中は平和で満ち溢れている。今では里の中に妖怪向けの店もあり、有名な妖怪なども足を運んでいたりする。
また里には守護者がおり、里の人間を襲おう者ならばその守護者が黙ってはいないのだ。
河童が作ったという龍神の石像が置いてあり、その眼の色を見れば天気が分かるというのだが……
「あれ、おっかしいなぁ」
人里に入り、少し歩いたところで人だかりが出来ていた。
興味が湧いたのでその人だかりの中心近くまで歩み寄り、原因となっている物に目を向けた。
「ちぇ、今日も天気が分からないのかよ」
「おっさん、しっかりしろよな」
集まっていた野次馬達が口々に呟きつつ、その場を後にし始めた。
中心にいたのは初老の男性と、河童が作ったという龍神の石像であった。
何があったのか知りたかった僕は、その初老の男性に声をかけ質問をした。すると初老の男性は若干項垂れた様相で答えた。
「はあ。季節が夏に移ってからというものの、天気の予知が出来なくなってしまっていて」
「原因が分からないのか」
「いえ、原因と思われるものは目星が付いているのですが……」
そう言って初老の男性は、天に向けて指を刺した。
「見えますか、あの紅いのが」
指の指し示した先を見ると、何やら紅い霧のようなものが森の奥深く頭上を覆っていた。
「あの紅い霧が発生してからというものの、予知の的中率が激減してしまい、今に至っては予知すらできない状態となっているんです」
「なるほど」
「それに今年の夏は少し、暑さに欠けるとは思いませんか?」
初老の男性がそう問いかけてきた。
確かに夏場とはいえ、まだ羽織物をしている者も見える。
「確かに、そうかもしれないね。六月頃の気候から変わっていないと思う」
「その通りです。今はもう七月も終わり、既に八月です。こんな馬鹿げた事があると思いますか?」
初老の男性は少し憤慨を見せると、若干乱れた羽織物を整えて踵を返す。
彼はこの後何処に行くのか気になったので、僕は何処に行くのか質問をした。
「これから里の者たちと共に、あの紅い霧を対処するべく話し合いをしてきます」
「そうですか、頑張ってください」
それだけ言うと、初老の男性はその場を去っていった。
龍神の石像の前にいるのは僕だけとなってしまったので、僕もその場を後にする事にした。
*
そもそも、僕が人間の里を訪れた目的は何なのか。
考えるまでも無い、僕のお店を宣伝するためである。
しかし大々的にやるのも柄ではないので、所謂"張り紙"を貼って宣伝とするのが目的である。
何処に貼るのが最も効果的なのか、無論人が多く通る場所である。
では人が多く通る場所は何処か。
僕はそれを知らないので、人間の里をぶらぶらと歩き回っている次第である。
見るに、繁華街と思わしき地帯に辿り着いた。
人通りが多く若い者も多い、並ぶ店も飲食店や装飾品店が多い。
しかし、そのお店のどれが人気店で繁盛しているのか分からないので、通りすがりの人に聞いてみた。
「すみません」
通りすがりの年配の男性に声をかけた。
「此れからどちらへ行かれるんですか」
「仕事だよ、仕事!ほら、どいてくれ!」
言うや否や、急ぎ足で立ち去っていってしまった。
しようがないと、次の人に声をかけた。年配の女性だった。
「すみません、この辺に」
「しょうがないねぇ、とっときな」
これまた言うや否や、僕に向けて小銭を渡して立ち去っていった。
確かにみすぼらしい格好をしているかもしれないが、僕は乞食などではない。
受け取ってしまった銭をどうしようかと思ったが、捨てるのも勿体無いので懐に入れておくことにした。
めげずに次の人に声をかけた。
「すみません、少し良いですか」
僕がそう声をかけると、立ち止まってくれた。
返事などは無かったので、そのまま用件にはいる事にした。
「この辺りで一番人を集めているお店は何処か、ご存知無いですか」
そう質問すると顎に指を当てて少しの間思考し、間もなく口を開いた。
「この道の突き当たりに茶店があるでしょう。今の時間帯なら、人で溢れてるはずだけれど」
「そうですか、ありがとうございます」
そう説明だけすると、直ぐに去っていった。
此処より反対側の道の突き当たりに人気の茶店があるらしいので、そこに赴くとしよう。
それにしてもさっきの人は少々特殊な人であった。人里にはメイド喫茶など無かったはずだが。
あまり深くは考えず、僕は人気の茶店に赴くことにした。
*
───茶店
休憩所の一つであり、注文に応じて茶や和菓子を提供する店舗である。
茶屋と表現される事もあり、他にも待合茶屋、料理茶屋など様々な種類がある。
料理茶屋などは現代でも料亭として営業している店もあるとか。
兎にも角にも、繁華街にある休憩所は盛況を極めていた。
確かにこの辺りは大分歩くうえに、既にお昼時である。此処で昼食を取るものも少なからずいるのであろう。
当の茶店には列が出来ていたので、僕はその最後尾に並んだ。
「な、知ってるか。あの紅い霧の原因が判明したってよ」
「本当か。どうせ山の妖怪どもの仕業だろうとは思うが」
僕の三つほど前に並んでいる男達がそう会話をしていたので、傍聴する事にした。
「いや、それが違うらしい。里外れに奇妙な建物が建った噂があるだろう、妖怪が一枚噛んでるって噂の」
「ああそれ知ってる。だけど、そんなもんが紅い霧と何の関係が」
「関係あるかどうか分からないからこそ、調べるんじゃあないか。近辺に怪しい物がないってわけだし、あそこに調査が入るのも時間の問題だろうな」
「へぇ、そんなもんか。あ、おい前詰めろよ、前」
完全に僕の家の事を指している会話内容であった。
此処で"違う"なんて反論をしたところで、混乱を極める一方なので黙っている事にした。
調査調査と言えども、僕は何もしちゃあいないので悪くされる事はないだろう。
十数分ほど列に並んでいると、ようやく僕の番が訪れた。
中に入ってみると、ノスタルジーに浸れそうな和風な造りをしていた。
江戸時代のような簡素な造りではなく、もっと木材を駆使した立派な造りなので驚いた。
席に着き注文を聞かれたので、みたらし団子と茶を注文した。
この時代の金銭価値というものは実に複雑であり、僕自身でさえ良く分かっていない。
先程注文したものは2銭2厘と、比較的良心価格なのではないだろうか。1円が遠い未来では、数万円ほどの価値となっているので驚きだ。
程なくして注文した物が届いたので、直ぐに頂いた。
みたらしの甘さと餅の柔らかい食感が口いっぱいに広がり、お茶の渋さも相成って直ぐに完食した。
完食して直ぐに茶店の主人の下を訪ねてみた。
「すみません、ご主人とお見受けしますが」
「らっしゃい、追加かい?」
「いえ、少しお願いがありまして」
お願いがある事を伝えると、茶店の主人は表情を歪ませた。
「実は僕、小さいですがお店を経営しておりまして。最近開業したばかりなのですが、何分客足が遠くて」
「おや、そうなのかい」
「貴方のお店はとても繁盛していますね。そこで一つお願いなのですが、この張り紙を店内に張っては頂けないだろうか」
用意した張り紙を主人に見せる。程好く色付けした、老若男女問わず興味を持って見てもらえる内容にはしてあるはずだが。
まずは宣伝の一歩として、張り紙を里内に展開しようという考えだ。
そこで繁盛している店を利用しようとしているわけである。
怪訝な表情で張り紙を見ていた主人だが、やがて口を開いた。
「うーん、悪いけど他を当たってもらえないかな」
「そこを何とか」
「うちも他店と鎬を削ってるからねぇ。既存の顧客を取られちゃあ、敵わないよ」
確かに茶店は里中にあちこちに展開している。
その中でも大手規模のこの茶店を選んだのは間違いだったであろうか。
いや、他の店を訪ねたところで結果は同じなのは、このやり取りを見てれば分かる。
そこで一つ、条件をだしてみた。
「確かに、おっしゃる事はよく分かりました。しかし僕も、是非ともご主人のお店にお願いしたいと思っております。そこで一つ提案なのですが」
「提案?」
「ええ。張り紙を掲示する場所を提供して頂ける対価、広告費をお支払い致します」
再び怪訝な表情をする主人であるが、その場で広告費とするお金を手渡すと、驚いたような表情を浮かべた。
「げっ! こ、こんなに……受け取れませんよ」
「良いんです、受け取ってください。何でしたら、話題の一つとして宣伝して頂ければ」
「そ、そうですか……それでは」
主人に張り紙を手渡し、掲示してもらう事を約束した。
手渡したお金は、お札の貨幣を数枚といったところ。特にお金に困る生活はしていなかったので、貯蓄はある。
今は客で溢れ返っているので、営業時間が終了した後に張り紙を掲示すると、主人から伝えられた。
とりあえず今日は一件だけで、帰路に着くとする。
直ぐに効果は出ないだろうが、数週間もすれば徐々に客足が見えてくれば幸いである。
感想の方でご指摘して頂いた方、ありがとうございました。
まさかタグの処理を間違えているとは夢にも思っておりませんでした。取扱説明書は熟読するべきでした。
修正の方を行いましたので、あらためてよろしくお願いいたします。