東方外来禄 -往年幻想物語-   作:くりすてぃあーね2世

4 / 42
巻ノ三 森と茸と宵闇と

里で宣伝活動を僅かながら行ったが、客足は見えてこない。

あれから数日経った今日も、僕は誰もいない店内で読書に耽っていた。

此のままじゃあ生産性がない、そう考えると辟易とする。近くの森にでも出てみようと、僕は準備を進めた。

 

 

───魔法の森

幻想郷で森と言えば、魔法の森の事を示している。

この森は瘴気で満ちており、普通の人間ならば長時間居座ると忽ち体調を崩してしまう。

無論それは妖怪にも言える事なので人間は勿論の事、妖怪すらもあまり立ち寄らない場所なのだ。

 

僕が魔法の森に訪れた理由は至極簡単である。

森の中で誰にも刈り取られず健やかに成長した野草や木の実、茸などを収集するためだ。

僕は瘴気に対して耐性があるので、あまり気にする事無く魔法の森へと侵入した。

 

「お、キノコが生えてる」

 

大きな木の根際に、茶褐色の小さなキノコが生えていた。

僕はそれを引っこ抜き、齧ってみる。

 

「……苦いな、食べれたもんじゃない」

 

齧った部分を吐き出し、キノコは元の場所に戻しておいた。

今のは恐らくニガクリタケという、強い苦味のあるキノコだろう。詳しくは無いが。

 

「こっちには木の実があるじゃあないか」

 

上を見上げると、小さな粒粒の木の実が沢山実っていた。

一つ毟り取り齧ってみると、僅かな甘みと酸味が舌を刺激した。

 

「うん、磨り潰してジャムにできるかも」

 

木の実を何個か毟り取り、持ってきた小さな鞄の中にしまった。

流石に人の手が入っていない森なので、瘴気に満ちていようとも自然は豊かである。

 

「さてさて……おや、これは」

 

少しばかり歩くと、瘴気がより一層強くなった気がした。

ふと下を見下ろすと、怪しげなキノコが生えている。

 

「これはベニテングダケのようなキノコが……」

 

赤い傘に、白っぽい棘棘のようなのが無数に生えている。

気持ち悪い、見てるだけで嫌悪感が増してくる。だが、物は試しと毟り取ってみた。

 

「ふむ……意外と瘴気と中和されて、美味しく頂けたりするのかも」

 

引っこ抜いた毒キノコを舐め回すように見ていると、不意に近くの茂みが大きく揺れた。

何か潜んでいるのかと目を向けると、茂みの中から何かが出てきた。

 

 

「おや、こんな場所に女の子が」

 

茂みから出てきたのは、小さな女の子であった。

金髪に赤いリボンを付けており、赤いネクタイに真っ黒なスカートと随分な色合いである。

 

「此処で何してるの」

 

金髪の少女が、そう僕に問いかけてきた。

それは此方の台詞であるのだが、僕は言葉を返す。

 

「食べられそうな野草とか、木の実とかを収集してるんだよ」

 

「へぇ、そう」

 

とても詰まらなそうな声色で返答する少女が、僕の容姿を上から下まで凝視し始める。

 

「ところで貴方は、食べられる人間?」

 

突然訳の分からない事を言い出す始末なので、僕は凄く吃驚した。

推測するに、この少女は人喰い妖怪なのかもしれない。だとするなら刺激するのは極めて危険である。

 

「僕は食べられないよ。こっちは食べられるかもしれないけど」

 

「なにそれ」

 

「さっき此処で拾ったキノコだよ」

 

「ふーん。美味しいの?」

 

「食べてみるかい」

 

僕の持っているキノコ、もといベニテングダケに興味を示した少女。

何やらお腹が空いてそうだったので、当のキノコを渡した。

キノコを受け取った少女は、まず臭い嗅ぎ、次に傘の部分を一口だけ齧った。

僕は毒キノコを食べる少女の図を見てはいられなかったので、目を瞑っていた。

 

「───ぺっ! なにこれっ、不味ぅ……」

 

目尻を潤わせ、口に含んだキノコを吐き出していた。

当然と言えば当然かもしれないが、やはり妖怪でも毒キノコは食べられないようだ。

 

「……口直ししなくっちゃ」

 

そう少女が唾を吐きながら言うと、周囲が暗くなりだした。

どうやら戦闘態勢に入ったのか、少女の雰囲気が危険なものに切り替わっている。

このままでは拙いと、僕は少女を宥めようと言葉をかける。

 

「まぁ、待ちなさい」

 

「何よ、命乞いなら後にして」

 

死んだ後に命乞いは出来ないと一言入れてやりたいが、我慢する。

 

「口直しするのなら、僕よりも良いものがあるよ」

 

「今度は何よ」

 

鞄の中に入れておいた食べ物を用意する。

お腹の空いている様子なので、食べ物を持って制する事にした。

 

「僕の作った握り飯だけど、食べるかい」

 

「いらない。どーせ美味しくないよ」

 

「そんな事はない。僕が作ったんだから」

 

簡易な包装を解き、握り飯を露にする。

とはいうものの、警戒して食べようとしない。仕方ないので自分で食べることにした。

 

「美味い、美味いなあ。塩気が効いてて食が進む」

 

「……」

 

「うん、胡麻がよく絡んでて米に合う。全部食べちゃおっと」

 

「……一個ちょーだい」

 

僕が少女の前で握り飯を頬張っていると、物欲しそうに"一つくれ"とのたまう次第である。

元々食べさせる目的だったので、はいどうぞと少女に握り飯を差し出した。

 

「うん、美味しい」

 

「そうだろうとも」

 

「もう一個ちょーだい」

 

お腹が空いていたのか、直ぐに一つ目を完食した。

更にもう一つ欲しいと言うので、今度は違う味付けの奴を与えた。

やがて三個目となる握り飯を食べ終えると、少女は満足そうな表情になった。

これで僕を喰らおうとする意志もなくなっただろうと思ったので、僕はその場を後にする。

 

「さてと、食後のデザートを」

 

その場を後にしようとしたが、周囲は闇に包まれたままであった。

更には背後からそんな声が聞こえてくる始末なので、辟易とした。

 

「待て待て、普通はここで満足する感じだったろう」

 

「それはそれ、これはこれ。デザートは別腹だもん」

 

少女の体躯であれだけ食べておきながら、人間は別腹とのたまうので辟易する。

 

「僕は里の外れで飲食店を経営している。この握り飯よりも、もっと美味しい物を知ってる」

 

「あっそう」

 

「僕を食べたら、美味しい物が食べられなくなるよ」

 

「私、あんたの店なんか知らないし」

 

「教えてあげるよ、地図を描いてあげよう」

 

「お金なんか持ってないし」

 

文句が多い少女であるが、もう一押しで見逃してもらえそうだ。

僕はお金の代わりになる物を提示する。流石に無銭飲食では仕事にならない。

 

「森の中に実ってる食べられそうな物で良いよ。キノコとか、木の実とか、そういうもので構わない」

 

「ふーん、さっきのキノコでも構わないの?」

 

「あれはダメだ」

 

根に持っているのか、そう言いながら僕を睨み付けてくる。

暫しの沈黙の後、周囲に視線を向けると闇が薄くなっているのが分かる。

 

「ま、それで良いわ。あんた弱そうだったから食べてやろうと思ったけど、興醒めしちゃった」

 

「そいつはどうも」

 

渋々、と妖怪の少女は同意してくれた。

見逃してくれるのならば、いつまでも此処にいる道理は無い。

僕は地面に地図を描いてやり、店の大まかな位置を教えてやった。

 

「僕の名前は天道、他の妖怪達にも僕の店の事を宣伝しといてくれよ」

 

「あっそ、天道ね。私はルーミア、気が向いたらあんたの所に行ってみるわよ」

 

名前を交わし、僕は魔法の森を後にした。

思わぬ事態に遭遇してしまったが、何とか切り抜ける事が出来て助かった。

厄介な客が一人増えてしまった事を考えると辟易するが、それはそれで面白いかもしれないのでよしとする。

 

 

 

*

 

 

 

人喰い妖怪のルーミアから解放され、自宅へ戻ってみると何だか集団が出来ていた。

今日は既に出かける為に休業としたのに、何の集団だと言うのだ。

遠くから傍観するのも時間の無駄なので、人間の集団を無視して自宅へ戻ろうとするが声をかけられてしまった。

 

「此処の主人は君かい?」

 

集団の中から出てきた年配の男性が、そう問いかけてきた。

 

「はあ、そうですが。何か御用ですか」

 

「実は最近になって発生してる、紅い霧についてなんだが」

 

そういえば前に耳にした記憶がある。

紅い霧の原因が僕の店にあるという、出鱈目話を。

どう考えてもあの紅い霧は、森の更に奥の場所から発生しているのに、如何して僕に原因があるのか。

 

「すみませんけど、僕は知りませんよ。原因を知りたいのなら、森の奥地に行った方が早いんじゃあないですかね」

 

「いや、そういう話ではないんだ」

 

「じゃあ、何ですか。食事でしたら、また明日にしてほしいんですが」

 

 

僕がそこまで言うと、男性は黙り込んだ。

騒いでいた集団は既に静まっており、目の前の男性が代表として僕と対話している。

少しの沈黙の後、男性は再び口を開いた。

 

「紅い霧についてなんですが、原因は私達にもわからないのです。博麗の巫女に解決を依頼したのですが、依然と動かないままでして」

 

「それで僕に何の関係が」

 

「今日偶然にも妖怪の賢者様の式神様が訪れまして、我々が解決を依頼しましたところ……その、外れにある建屋の主人に依頼しろと仰せつかりまして」

 

僕は酷く辟易した。

 

「その式神が、直接言ったんですか」

 

「いえ、式神様が賢者様に話しをあげ、結果として貴方に依頼しろと……」

 

「……そうですか」

 

僕の知らないうちに、話が動いていたようだ。

今日は訳の分からない事態に遭遇したので、酷く疲労しているというのに。

 

「わかりました、善処しますので今日は皆さん帰ってください。夜になるとこの辺りも危なっかしいので」

 

「ありがとうございます、報酬の方は別途用意致しますんで……」

 

それだけ伝えると、集団は帰路に着き、僕は自宅の中へと入った。

とりあえず休養するとして、後で如何するか決めないとならない。

僕は勝手に話しを進めた八雲一家を、呪う次第であった。

 




この話を執筆したのは、今から数ヶ月ほど前になります。
平日になると執筆速度が激減してしまい、思うように執筆できないのが辛いですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。