東方外来禄 -往年幻想物語-   作:くりすてぃあーね2世

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巻ノ五 紅い館と魔法使い

霧の湖にある建物とやらに向かう。

道中で出くわしたチルノという氷の妖精から、赤い霧に関する情報を質問したところ、この建物が出てきたのだ。

他に原因が考えられないので、とりあえずその建物に向かう事にしたのだ。

たとえその建物が原因ではなかったとしても、今度はそこの住人に聞けば良い話だから。

 

言われたとおりに霧の湖を歩いていると、やがて当の建物が見えてきた。

紅い霧のせいでよく見えないが、近づいて見てみると紅い霧と同様に真っ赤な建物……洋館であった。

何処から如何見ても、紅い霧を出しています、と言っているようなものである。が、決め付けるのは良くないのでまずはその洋館を訪れてみる事にした。

正門に近づいてみると、何やら女性が立っていた。門番の方なのだろう、声をかけてみる。

 

「すみません」

 

聞こえたかは知らないが、此方の方を見ていたので聞こえているだろう。

 

「はい、何でしょうか」

 

「この建物に住んでいる方にお会いしたいのですが」

 

高貴な人なのだろう、門番まで雇って派手な紅色の館を擁しているのだから。

チャイナ服を着た女性が門番をしているので、もしかしたらそういう趣味のある御仁なのかもしれない。

 

「お嬢様にですか?」

 

「ええ。何か問題でもあるんですか」

 

「いえ。うーん、大丈夫なのかなぁ」

 

どうやら此処の館の主人は女性らしい。

門番の方が唸っているのは放って置いて、とりあえずは謁見だ。

 

「心配なら僕の他に誰か、監視をつけてもらっても構いません」

 

「と言われましても。参ったなぁ、持ち場を離れるわけにもいかないし」

 

余程警戒されているのか、或いは判断しかねているだけなのか。

どちらにしても急を要するので、可能な限り迅速な判断をしてもらいたいのだが。駄目なら駄目で、また別の方法を考えれば良いのだし。

僕が門番の方の回答を待っている時であった。

何気ない出会いと言ってしまえばそれまでだが、僕の中ではやけに印象的な出会いの一つだったのかもしれない。

 

「───っと、やっぱり何かあったわね」

 

そう呟きながら現れたのは、紅と白の巫女装束を纏った少女であった。

何故だか腋を露出しており、巫女装束の割には露出度の高い服装であるのが窺えた。

 

「む、貴女は?」

 

最初に動いたのは門番の方であった。

当然と言えば当然か。突然空中から巫女が現れたのだから、不審者の登場である。

 

「私は博麗霊夢よ。因みに、あんたは?」

 

「因みにって何ですか。私は紅美鈴、紅魔館の門番をしています」

 

お互いに自己紹介を交わしていた。

紅白の巫女装束が博麗霊夢で、チャイナ服の門番が紅美鈴と言うらしい。

そしてこの紅い洋館は紅魔館。一度に情報を得る事が出来たので、僕としては嬉しい出来事である。

とか何とか考えていると、紅白の巫女が僕に向けて視線をやっていた。何だかよろしくない視線だったので、少しだけお辞儀をし『どうも』とだけ言っておいた。

 

「で、通してもらえないかしら」

 

紅白の巫女が単刀直入に聞いた。

 

「駄目よ、通さない」

 

「なんでよ」

 

「貴女からは危険な香りがしますので、此処を通すわけにはいきません」

 

「そ。じゃあコレでさっさと決めましょ」

 

紅白の巫女がお札を取り出す。何だろうか、噂のスペルカードルールで決闘でも行うつもりか。

対して門番である美鈴さんも、臨戦態勢に入っていた。

これは間違いなく決闘するという雰囲気である。

僕は決闘に参加するつもりはない。だからと言って傍観するのも時間の無駄なので、先に進んでしまおうか。

 

「霊符『封魔陣』」

 

「彩符『彩光風鈴』!」

 

互いのスペルカードが発動したらしく、何だか穏やかではない。

いつの間にか両者共に空中に浮いており、綺麗な弾幕を放っていた。

僕が声をかけても反応する事はなく、決闘に夢中になっていた。決闘中に声をかけるのも無粋だとは思ったが。

決闘が終わるのを待つのも時間が勿体無いので、僕は紅魔館の中へと入る事に決めた。

後で何か言われたら、門番の人がいなかったとでも言っておけば良いだろう。

 

 

 

 

*

 

 

 

博霊の巫女が紅魔館の門番と対峙している隙に、僕は紅魔館の中へと進入した。

少々語弊が生じてしまった。

紅魔館の門番の方が忙しそうだったので、時間も無かったので紅魔館の中へお邪魔させてもらったのだ。

正門から中に入ってみると、外部から見るよりも複雑な造りをしているのが見て取れる。

一番目に付いたのが、内部の装飾や作り物の全てが紅い色をしていた事だ。

正直なところ気色悪いし、ずっと見ていると気分が悪くなりそうである。

 

中に入ったのは良いものの、何処に向かって良いのかわからない。

近くに誰かいる訳でもないので、適当に道なり歩いてみよう。

階段があったら降りてみて、扉があったら開けてみよう。そのうち従者の一人や二人に出くわすだろうし。

 

という事で、道なりに適当に進んだ。

何だか途中でホテルの客室を連想させる廊下が現れたり、地下深くに繋がっている階段など色々あった。

地下室に館の主人がいるとは思えないので、降りの階段は極力避けて通った。馬鹿と何とかは高い所が好き、なはず。

 

しかし僕の思惑とは裏腹に、いつの間にやら地下の方へと歩んでしまっていたようである。

何となくであるが、空気が冷えてきているような感覚がし、更に空気も悪くなっている気がする。

兎にも角にも目の前に現れた、誰の趣味で造られたかは知らないが立派な扉があったので、開けてみる。

 

「……おや、此処は図書館かな」

 

後ろ手に扉を閉めると、木造りの扉が閉まる音が木霊する。

洋館の中に図書館があるとは、此処の主人は本が好きなのか。それにしても長い年月をかけて収集したのだろう、視界には収まりきれない程の蔵書の数だ。

扉の前で立ち尽くしていてもしようがないので、この大きな図書館の中を散策してみよう。

 

「難しい本ばっかりだ。どれ、ひとつ」

 

歩けど歩けど本棚は何処までも続くので、試しにと目の付いた本を一冊取ってみた。

開いてみると、小さい文字が隅から隅まで敷き詰められている。

 

「ふむ、分からない。コレはどうだ」

 

難しいことばかり書いており、意味が分からないので元の場所に戻した。

次に取り出した本も、先の本と似たような小難しい本であり、つまらなかったので戻した。

魔術書の類や、聖書の類なのであろうか。此処には魔法使いでも住んでいるのかもしれない。

そう思考しながら歩いていると、魔術書や聖書とは違った類の本を見かけたので取ってみた。

 

「ん、どれどれ……"バカでも分かる歴史書"」

 

他の本とは比較的読みやすく、綺麗な日本語が並んでいる。恐らくは機械的な技術で印刷されたものだろう。

 

「こっちは"サルでも分かる魔術入門書"」

 

此方の方は、蛞蝓が這った様な字体なので人の手によるものか。これを読めば、僕も今日から魔法使いの仲間入りになれるかもしれない。

なんてバカみたいな事を考えながら、本を元あった場所に戻した。

 

「もしかして此処の主人は、バカなのか」

 

この後にもバカでも分かるシリーズが続き、サルに続いて猫にも分かるシリーズの本も並んでいた。

此処の図書館は変な本ばかりが並んでおり、本のカテゴリーもバラバラである。

一通り周ってみても何も無かった……というよりは、広すぎて周りきれなかった。

図書館に入出した扉とは別の扉を見つけたので、そこから先に進めるだろうと思い扉に手を掛ける。

 

「痛っ」

 

扉に手を掛けた瞬間、軽く火花が散った。炎による火花ではなく、結界に触れた事により発生した火花だ。

誰がこんないけ好かない事をしているのだろうと思いつつも、何処か別の扉を探そうと思って振り返るとそこには一つの人影が。

 

「あなた、何してるの」

 

薄紫と濃い紫の縞模様の、ローブのようなワンピースのような、どちらともつかない服装をしている。

女性の服装に興味の無い僕には、そう判断せざるを得なかった。

脇に本を抱えており、読み途中の本を持って歩いてしまうほど読書が好きなのかな、と思った。

 

「こんにちは」

 

何してるのと聞かれたのに黙っていては、相手に失礼なのでとりあえず挨拶で返した。

 

「ええ。けど、もう日は落ちているわよ」

 

「あ、そう」

 

紅い霧の解決に出て、大分時間が経過していたようだ。

これは早急に解決しないと、今夜ぐっすり眠る事はできない。

 

「で、貴方は誰?」

 

「僕は天道。君は誰?」

 

「私はパチュリー。パチュリー・ノーレッジ」

 

「そっか。よろしく、ノーレッジ」

 

本を抱えた少女の名前は、パチュリーというらしい。

見た目や雰囲気から察するに、この娘は魔女の類に間違いないだろう。

 

「ところでノーレッジ君」

 

「パチュリーで良いわ。そっちのほうが呼ばれ慣れてるし」

 

「じゃ、パチュリー君。君が此処の主人なのかな」

 

僕はそうパチュリー君に訊ねた。

この気色の悪い館の主人が魔女であろうと、今更驚嘆に値しない。

 

「いいえ。私はこの図書館で本を読んでいただけよ」

 

「こんな暗がりで読んでたら、目が悪くなるよ。もっと太陽の光を浴びた方が良い」

 

「嫌よ。髪が痛むし、何より図書館の本が劣化するの」

 

この娘は引き篭もり体質のようだ。そうですか、と適当に返事をして会話を切り上げた。

けれども太陽光を嫌う辺り、紅い霧を発生させた元凶とも考えられる。

 

「紅い霧を発生させてるのは君か」

 

仮にこの娘が元凶なら、わざわざ館の主人を探す手間が省ける。

何とかして紅い霧を止めてもらえば、全て丸く収まるはず。

 

「紅い霧? ……ああ、レミィの言ってた」

 

「レミィとは」

 

「貴方の探してる、紅魔館の主よ。 紅い霧の事もレミィに聞けば分かると思うけど」

 

因みにレミィとは、レミリアという名前の略称らしい。この会話の直ぐ後に、彼女がそう補足した。

 

「そのレミリアという人は何処に」

 

「結界の張ってある扉があるでしょう。その先を適当に進めば、レミィの私室があるわ」

 

「適当にって」

 

頭の良さそうな外面の割りに、説明は適当である。

外から見るよりもずっと広いこの紅魔館であるが故に、内装を把握しきれないのも仕方ないのか。

そもそもこの娘は此処に引き篭もってそうなので、そういう知識には乏しいのかもしれない。

 

「ま、特に危険はなさそうだし、通っても構わないけど」

 

「それはどうも」

 

「この先で迷っても咲夜がいるし、館の中で餓死する事はないわよ」

 

「君は案内をしてくれないのか」

 

僕がそう訊ねると、パチュリー君は辟易したかのような表情を浮かべた。

 

「私は……野卑な侵入者の相手をしなくちゃ」

 

彼女はそれだけ言うと、僕から顔を背けた。

その瞬間、図書館の何処かから誰かの叫び声が聞こえてきた。

叫び声というよりは、戦意むき出しの雄叫びのような、兎に角好戦的な輩の声色である。

それにしては甲高い声質なので、もしかしなくても声の主は女性であろう。

 

「知り合いでも訊ねてきたのかね」

 

「私の知り合いに、あんな教養の無いのはいないわ」

 

知り合いでも何でも無い人の声という事なので、彼女の思惑通り侵入者なのだろう。

僕達が声を交えているのも束の間、それをぶち壊すかのように侵入者が現れた。周囲の本棚を蹴散らしながら。

 

「おぉ、勢い余って本棚まで壊しちゃったぜ」

 

壁ごとぶち破ってきたのか、跨っていた箒から飛び降りた少女はそう呟いていた。

黒い魔女が身につけるような帽子を被っているところを見ると、この少女も魔法使いのようだ。

黒系の服に白いエプロンを着用しており、片方だけおさげを垂らしているのが特徴的である。

 

「勿体無いなー。後で持って帰ろうと思ったのに」

 

心底勿体無さそうにしているが、この少女は盗人の素養でもあるのだろうか。

 

「勝手に持っていかないで。本棚まで壊しておいて他人の物を盗ろうだなんて、盗人猛々しいにも程があるわよ」

 

「まだ何もしていないぜ」

 

パチュリー君は侵入者に対し、大層憤慨を感じているようだ。

僕については読書愛好家という訳でもないし、義理堅いわけでもないので何も感じていない。

とりあえず先に進んでも良いと図書館の主様に言われたので、その通りにしようと思う。

 

「では僕は先に行くから」

 

「ええ。あまりレミィをからかわないであげてね」

 

「はあ」

 

僕はそのレミリアという人物を知らないので、からかうもへったくれもない。

想像するに堅い人物と見受けられたのだが、案外幼稚な人物なのかもしれないな、と想像した。

軽い挨拶も済ませた事なので、結界の張ってあった扉から先に進む事にした。

 

「あれ、お前はそいつの仲間じゃないのか」

 

去り際に白黒の魔法使いにそんな事を訊ねられた。

 

「違うよ。じゃあね、白黒の魔法使いさん」

 

「おう、また会うと思うけどな」

 

そんな言葉を返されたが、この白黒の魔法使いも館の主人に用事があるのだろうか。

もしかしたら紅い霧の解決に取り組んでいる最中なのかもしれない。

仮にそうだとしたら、紅白の巫女といい白黒の魔法使いといい、僕の仲間という事になる。

けれども彼女達のやり方はとても乱暴である。はっきり言って、この館の主人に喧嘩を売っている事に変わりないのだ。

彼女達は別に構わないのかもしれないが、僕としてはそうはいかない。

もしも僕より先に、彼女達が館の主の下へと辿り着いてしまったら……恐らく交戦状態に突入するだろう。

僕はそんな事態に巻き込まれたくはない。

少しばかり、急ぎ足で館の主下へ向かうとしよう。

 

 








以上、第五話でした。
紅魔郷の異変について東方SSで執筆するのは、今作で三度目です。
人鷹禄のように進行しようかとも考えましたが、少し捻りました。足痛いです。
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