それっぽい伝奇ものだよ。設定はふわっとしてるよ。
 初音探偵事務所に厄介なお仕事が持ち込まれて四苦八苦する話だよ。

1 / 1
 リハビリがてら短編あげます。
 もしかしたら続くかも。


アラサーに面倒な依頼を持ち込まれた、の巻

 

 

 旧知の仲である斎藤一(さいとうはじめ)が私のねぐらを訪ねてきたのは、夜も随分と暑くなってきた6月の終わりのことだった。

 

 「ほらよ、差し入れだ」

 

 ソファの上で寝転がっていた私は、一がそういって投げ渡してきたモノを腹で受け止める。冷たい感触に何かと見てみれば、コカ・コーラの500mlペットボトルであった。

 水分に飢えていた私は、これ幸いと礼も言わずにキャップを開け、ゴクゴクと音を立て一気に半分ほど飲み干す。

 

 「行儀の悪い。寝転がったまま飲むな」

 

 一が苦言を呈するが、私は無視してそのままコカ・コーラを飲み干し、ポイ、と投げ捨てる。投げ捨てられた空のペットボトルは、カランと音を立てて硬い床に転がった。

 そのままゲップを一つした私は、のそのそと起き上がり、ソファに腰掛ける。別段体に異常はないものの、長いことソファで寝ていた体は動作一つするにも億劫だ。

 

 「ったく、ちったあ目が覚めたかよ初音」

 

 「ああ──おかげさまでなんとかね」

 

 そういって私──初音翠(はつねみどり)はようやく一に向き合う。彼女は、まるで今から会社にでも行くかのようなきっちりとしたスーツを上下に着こなした姿で、腰に両手をついた姿で私を見下ろしていた。一はいつもこれだ。平日休日問わず、年がら年中スーツ姿である。別にサラリーマンでもないにも関わらず。焦茶色の髪も短く切り揃え、その切れ長の瞳には呆れを滲ませている。

 

 「そうか。ならとりあえずまともな服を着ろ。その姿は少しばかり……いやかなり目に毒だ」

 

 言われて自分の姿を見てみれば、なるほど。着ているのは薄い肌着にパンツ一枚のみ、しかもところどころはだけているせいで裸同然といった姿であった。もう少し身動ぎすれば、かろうじて隠されている部分も見えてしまうだろう。なるほどこれは目に毒だろう。悪いことをした。

 

 「ああ、すまない。少し着替えてくるよ」

 

 「早くしてくれ、こちとら少し急いでるもんでね」

 

 その言葉を背に、私はクローゼットへと歩いていき、中から白いワイシャツと濃い紺色のストレッチジーンズを取り出す。人の格好に文句をつけておいてなんだが、私も外出する時は仕事プライベート問わずいつもこの格好である。

 着替え終わると洗面台へ向かい、歯磨きと洗顔を手早く行い、起きたばかりで寝癖の残る髪を整える。幸い私の髪は素直なもので、水に濡らして軽く櫛を入れてやれば、濡羽色のやや長めの髪はすぐに元の姿へと戻った。

 そうして居間に戻ると、一は画面をひび割れたスマートフォンをいじっていたようで、私が戻ってきたことに気づくとすぐにスマートフォンをしまい込んだ。

 

 「それで?何か話があるんじゃないのかい?」

 

 「ああ、もちろん。といっても仕事の話なんだがな」

 

 その返答に私はうへえ、という感想を抱いた。こいつが持ってくる仕事は何度も受けたことがあるが、そのどれもが碌でもないものばかりで、私は毎度面倒な思いをすることになっているのだ。

 

 「そんな顔するなよ、長い付き合いだろ?」

 

 「長い付き合いだからだよ」

 

 ニヤリと笑ってみせる一に、私は思わずため息をつきそうになる。色々と恩も借りもあるから仕方なく付き合ってやっているものの、それさえなければ即刻縁を切りたいところだ。

 

 「……まあいいさ。それで?仕事ってどっちのかな?」

 

 「んー……確証はないけど十中八九オカルトだな」

 

 今度こそ私は盛大にため息をついた。ただでさえこの女が持ってくるのは面倒な仕事ばかりだというのにさらにオカルト案件ときた。

 私は魔術師でも聖職者でもバンパイアハンターでもない。だというのにこいつときたら彼らですら手こずるような仕事を定期的に持ち込んでくるのだ。本当に勘弁してほしい。そもそも私はオカルトが本業ではないのだ。にも関わらずなぜこんな……

 

 まあいい。いくら現状を嘆いたところで私にはこの仕事を受けるという選択肢しかない。ただでさえ今月は割とカツカツだったというのに、バイト先が一つ潰れてしまってここ数日は常に空腹との戦いだったのだ。

 

 「……内容は」

 

 「最近のニュース見たか?」

 

 「……ああ、女子高生連続失踪事件」

 

 なんでもこの近辺で女子高生が突如失踪する案件が今月だけで4回も発生しているらしい。テレビニュースでリポーターが深刻な声色で話しているのを聞いた覚えがある。自殺か誘拐か、という話だったが……

 

 「そうそれ。ほぼ間違いなく吸血鬼の仕業だってさ」

 

 「……教会は何やってる」

 

 「バッカお前、日本の一地方都市で数人吸血鬼の被害にあっただけで教会が動くわけねえだろ?奴らは数十人規模まで膨れ上がらない限り出てこねえよ。それでようやく下っ端が動くかどうかってレベルだ」

 

 言われてみればそうである。奴らは本拠地である欧州はともかく、それ以外の地域にはなかなか出てこない。だからバンパイアハンターという職業が生まれたわけなのだが、そちらに依頼するにしてもこれまた高い。だからこうしてその地方ごとの私のような人材が酷使される羽目になるのだ。

 

 「全く……それで、報酬は?いくら?」

 

 「現金50万、それでどうだ」

 

 「命懸けの仕事にしては安い気もするけどね。わかった、受けよう。期限は?」

 

 「明日中に頼むわ。早ければ早い方がいい。被害者が新たに出ても困るしな」

 

 またしても無茶振りである。こいつは私を超人か何かと勘違いしてやいないだろうか。吸血鬼狩りに費やせるのが一日だけとは。ろくな情報もないのにこれとは、命の危険が危ないというものだ。勘弁してほしい。

 

 「……まあわかったよ。明日だね?であれば今日は寝ることにする」

 

 「そうか、なら俺は帰ることにするさ。というかその格好で寝るのか」

 

 「いや、一度脱ぐとも。私は寝る時は下着しかつけない主義なんだ」

 

 「着た意味、あったか?」

 

 「君が着ろと言ったんだろうに……」

 

 呆れ返りながらも、私は服を脱ぎ、再びソファに寝そべる。一が顔を赤くしているが、なんなのだこいつは。まさか30を過ぎて未経験の喪女なのだろうか。

 

 「……寝るかい?」

 

 「寝らん!帰る!」

 

 そう言い残して一は本当に帰ってしまった。……まあいい。私は一晩ぐっすり寝て英気を養うことにしよう。

 

 「おやすみなさい」

 

 電気を切り、そうひとりごちる。そのつぶやきは、暗い部屋に吸い込まれていった。

 

 




 リハビリなんで短めです

 キャラ設定

 初音翠 18歳 男性

 高校を卒業して「初音探偵事務所」を開いたはいいもののオカルト系の依頼しか入ってこず嘆いている
 見た目は俗に言うメスお兄さん。仕事の時は長い黒髪をポニテにしている。プライベートだと結ばない。


 斎藤一 32歳 女性

 アラサー俺っ娘酒ヤニパチカスお姉さん。属性過多。初音にいつも厄介な仕事ばかり持ち込んでくる謎多き女性。
 初音はこの人に多大な迷惑を被っているがそれを相殺してあまりある恩があるので何も言えない。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。