レテンド大陸興亡記   作:嶺月

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まだ戦闘は続きます。元は2話程度でサラッと流すつもりだったのですが、最初のスペクタクルシーンという事で変に気合が乗ってしまっています。


揺蕩う決着、勝利を狙う男たち

 砲撃戦の最初の犠牲者は都市連合艦隊の中から出たが、それは王国軍の優位を証明するものでは無かった。むしろ戦友の復讐心に猛った砲艦は、王国の大型艦の射程を探るような慎重さをかなぐり捨て、レイシン河の流れを利用して急速に間合いを詰めて砲撃を始めた。まるでコヨーテの群れがバイソンを狩るかのごとき剽悍(ひょうかん)さは、この会戦の第一章で小型艦が見せた消極性を償うかのようだった。

 標的となった五隻も単なる浮島などではないことを証明しようと激烈な反撃を加え、レイシン河の水面は狙いを外した砲弾が上げる水柱でまるで間欠泉と化したかの様。

 だが全体的に戦況は都市連合の優勢に傾いていた。前進しながら砲撃を繰り返す、ただでさえ少し小振りな砲艦は横腹を晒す王国軍の大型艦に比べて小さな的だったし、例え左右について狙いが定まったとしても、距離をどんどん詰めて来るために距離を測るのは容易ではない。二、三発砲弾を喰らって船体が傾きながらも打ち返していたレンデンマーニ号が火薬庫を破壊されて轟沈(ごうちん)すると、レンデンマーニと撃ち合っていた二隻は隣のジルミニートラ号へと狙いを変え、なんとか一隻に主砲を直撃させたジルミニートラも残った三隻の集中砲火に沈んだ。これで戦力差は三対八。

 撃沈された艦の乗組員のほとんどは、旗艦シューラリス号の直掩(ちょくえん)として後ろに控えていた小型艦まで泳ぎ切ったので人的被害はそれほどでも無いが、大型艦が(ことごと)く沈められれば撤退を余儀なくされる。また各大型艦は隊の司令座乗艦でもあったため、十数隻ほどの王国軍の小型艦のうち半数近くは司令官を失った状態だ。

 ここ100年程の王国と都市連合の戦いは殆ど砲撃戦に終始した為、各小型艦もこういった状況は慣れている。敵小型艦の列を越えて前進してきている砲艦の中でも、当座の敵を(たお)して次の獲物へと移ろうとしている三隻を包囲しようと自主的に動いているが、命令系統を失ったその動きは個人プレーによるもので連携を欠くため、意図は果たされていない。

 

「やべぇな…今回はさすがに…」

 負け戦か、と続けようとしたサーマイヤーフは慌てて言葉を飲み込む。司令官がその言葉を口にする時、得てしてその予想は現実のものとなるものだ。オカルトじみたゲン担ぎだけでなく部下の士気を保つためにも、決して口にしてはいけない。苦境に有っても毅然(きぜん)と振舞うのも司令官の任務と言って良い。

「閣下、司令座乗艦を失った小型艦は個々の判断で砲艦を包囲しようとしています。通例であればそれで間違いではないでしょうが、今回は例の小型艦の突撃戦法が有ります」

「なるほど、優位に立てば判断力を取り戻す可能性があるってか。だが制止しようにも命令の出しようがねぇぜ」

「危険ですが砲撃戦にシューラリス号も加わりましょう。それで当面の戦力差は四対八で元に戻ります。意表を突くことでしょうし、一、二隻は沈めることができる筈です。敵のマッコミヤット砲に注意を怠ることはできませんが…」

「砲艦はそれでいいとして、小型艦の対処にはなってねぇぞ」

「予め当方の小型艦が集結しつつある、右翼に近いミルメラディオに、敵砲艦を六隻まで減らしたら急進するように伝えます。大型艦が砲撃戦から離れて前に出て来れば、緊急で隊の指揮を取る事は小型艦にも伝わるでしょう」

「なるほどな。賭けにはなるが…まぁ前に出るのも、敵旗艦をマッコミヤット砲の射程に捉えるためと考えれば一概に悪手とは言えまい。やるか」

「はい、ただミルメラディオが指揮権を得る前に再び小型艦が制圧され始めた場合は、残念ですが今回は…」

「わかっている。その時は小型艦は諦めて大型艦のみで撤退だ」

「申し訳ありません」

「今から謝ってるんじゃねぇ。景気の悪いツラ見せんな。俺たちはここから盛り返すんだぜ」

 言葉だけでどうなる物でもないとは判っているが、敗戦を前提にした言葉を無視できずにサーマイヤーフが(げき)を飛ばす。気持ちは伝わったようで、幕僚はきびきびと新たな作戦を残る三隻それぞれに伝えるためのボートを用意し始めた。

 

「あちらはんも気張ってはるけど、どうやらこっちが一枚上手のようどすなぁ」

「当然です。それに砲艦が劣勢になっても、こちらはまだ大型艦を予備兵力として残しています。やはりヴィセングル兵は砲撃戦でこそ」

 暗にお前の提言は机上の空論に過ぎなかった、とリーゼンバーグが告げると流石に気分を害したのか、ウンヒョウから返答がある。

「せやかてせっかく数年かけて練り上げた白兵戦用の兵士を遊ばせとくのも阿呆らしわぁ。ラインズマンはんが改めて命じたら、砲艦を囲もうとしとる敵艦を(つぶ)すんは造作ないんとちゃいます?」

「ふむ‥‥確かに放置するのは面白くない動きです。再び突撃させるとして…」

 そこで言い(よど)んだリーゼンバーグを(いぶか)しんでウンヒョウがフードで隠した顔を向ける。

「それだけで済ますのも芸が無いな、と思いまして」

「それは当然やわ。勿論小型艦の掃討(そうとう)が済んだら、撃ち合いに夢中になっとる大型艦まで向かって貰いましょ」

「魅力的な案ですが、船縁(ふなべり)の高い大型艦にも通用するものですかな?」

「兵士の勢い次第では乗り込ませても良いかもしれへんなぁ。ただ忘れとるみたいやけど、衝角(ラム)は元々は船の腹に大きな穴開けて沈ませるもんや。一回鉤縄(かぎなわ)なり梯子なり試して上手くいかんようやったら、直ぐに後退してもっかい勢いよくぶつけてを繰り返したらよろし」

「仰る通りですな。では小型艦に指示を伝えましょう」

 大きく頷いたリーゼンバーグが少し離れ場所で控えていた‐彼らも得体の知れない雇われ軍師を嫌っている‐幕僚団を呼び寄せ、指示すると慌ただしく伝令の支度を調え始める。

「これで勝負あり、といきたいものですな」

「そうやなぁ。もっと準備に時間が取れたら、勢いをかってレミレイス言うたかしら、王国の港まで揚陸できるくらい数揃えられたんやけど」

 欠伸をかみ殺しているかのように口元に手をやるウンヒョウを(にら)みつけた。この戦いが終わればこの不愉快な男とも縁を切ることができるのか、それとも口にしたように艦隊の本拠地を落として王国との関係が劇的に変化するまでヴィセングルに居座るつもりなのか、余裕がそうさせたのか戦いの趨勢(すうせい)以外の事にリーゼンバーグの思案が()れる。しかし今はそんな事に時間を使ってはいられない。

 都市連合の元々の作戦では小型艦は状況に関わらず衝角(ラム)を使った突撃戦法を続けることになっていたので、これから下す命令に対応した手旗信号は無い。また、引き返してしまった兵士たちの士気を再び上げるために、リーゼンバーグ自身の言葉を届けた方が良い。兵士をけしかけるに当たってなにがしかの恩賞も有った方が良いだろう。伝令に出すボートの準備ができるまでに文面を練っておこうとすると、戦況を把握する役目の乗組員から大声があがった。

「シューラリスです!敵の旗艦が前に出てきました!」

 思わぬ言葉にリーゼンバーグも窓の外に目をやると、確かに他の艦より一回り大きく、加えて王国の国旗と艦隊、そしてサーマイヤーフ個人の紋章が掲げられた見紛(みまご)う方なきシューラリス号が戦列に加わろうとしている。

「数の不利を補うつもりか?」

「司令官、砲撃をシューラリスに集中させますか?他の艦に対して手を緩める危険は有りますが、旗艦を沈めてしまえばこの戦いは我らの勝利です」

「そうだな…いや待て、他の大型艦に当たる砲艦を一隻ずつ残して五隻をシューラリスに集中することはできるか?」

「直ちに検討します!」

「任せる。それと小型艦にはさっきの命令をそのまま遂行させる。そちらの準備は?」

「数が多いため、手間取っているようです」

「そうか」

 都市連合艦隊旗艦は会戦の勝利、いや宿敵サーマイヤーフの命を手にするチャンスを前に色めき立ち、いつの間にか司令官の隣で傍観者のような風情を(かも)し出していたフードの男が姿を消していることに気付かなかった。

 

 艦橋をこっそり離れたウンヒョウは母国語でヴィセングルの船乗り達に対して毒づいていた。

「低能の猪武者どもめ、折角この俺が必勝の策を授けてやったのに中途半端な時期に激発しおって。これではあのお方に合わせる顔が無いわ」

 戦場に有って興奮のあまり胴間声を交わす艦内に有っては、たとえ都市連合の公用語を使っていても気にも留められなかっただろう。なおも不満を漏らしながら、ウンヒョウはボートが係留されている甲板へ向かう。

 容易(たやす)い戦勝の可能性に浮かれる司令部の連中は気付いていないようだが、シューラリス号が危険をおして前に出てきたという事は精製水式の大砲がこの艦を吹き飛ばす心算(つもり)という事も充分有り得る。ウンヒョウはこんな大陸のはずれの戦争ごっこで命を落とすわけにはいかないのだ…




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