アイユーヴ王国首府艦隊司令ヨルムベルト・ラキサリスは、アイク島からの外交使節の実情についての報告をシムレー号からビーニーグルへと乗せた大型艦ゾイゾットの艦長から受けていた。
「…以上のように、艦内での彼らの様子は極めて統制が取れ、同時に家庭的な雰囲気を保っていました。使節団の代表であるアイク島騎士団政務局のレオンハルト・カシウス卿はその若さにもかかわらず、
そこでヨルムベルトの部下はいったん言葉を区切る。話を盛り上げようというつもりだろうが、この後手早く行動したいヨルムベルトにとっては余計な演出だ。
「もったいぶるな」
「失礼しました…使節団の中にまだ年端もいかぬ少女が一人居ります。驚いたことにあの巨艦を建造したのはその少女の技術によるものだとか」
「少女?それは確かに驚きだ…しかも技術者ということは、わが国での女性の扱いでは不満だろうな」
「いえ、それはこちらの作法に合わせると代表殿から。その件に関して付け加えることがもう一つ。レオンハルト卿の王国での作法に自信がないので、陛下への
「サーマイヤーフ殿下から?王族直々の依頼ともなれば
予想外の依頼だったが、ヨルムベルトには元々今回の件で外務部に意を通じておきたい事が有ったので渡りに船だった。他に報告がないことを確認すると、部下を下がらせてヨルムベルト自身は予定通り
ヨルムベルトはロレンツォの執務室に続く天井の高い
だが自身の武功に
「サーマイヤーフ殿下はシンドゥムとの闘いであげた功績を
そう、それがレイシン河から王宮へと戦場を移し、訳も分からないまま宮廷のパワーバランスで第二王子派へと組み込まれたヨルムベルトが知った真実。
「殿下はむしろ王太子殿下の
表面上は
理由は自分にも定かではない。軍人として王国への忠誠を叩き込まれた自分にとって、本来
どれも自分の暗い情熱を正当化するに足る説得力を有してはいないが、今回のアイク島の使節団の
その為におそらくサーマイヤーフのシンパと目されるアイク島使節団、特に団長であるレオンハルト・カシウスに接触し、二人の仲を裂くようロレンツォに働きかける。それもできれば王族であるサーマイヤーフに対する悪意が露見しないように、あくまで表向きはサーマイヤーフを元のシンドゥム戦線へ戻すという形で。
「サーマイヤーフ殿下の政敵は短絡的に行動しがちな王太子殿下。第二王子派のギルバーグ殿の接触は怪しまれることは無いだろう」
廊下に自然光を入れるための大きな窓ガラスを拭く下女たちには聞かれないように、小さく独語したヨルムベルトは目的の部屋のドアを叩いた。
「どうぞ」
「失礼する」
「時間通りですね、ラキサリス殿。それにしても今日はどうされました、外交などに興味を示された事は今まで有りませんでしたのに」
「シンドゥムとの関係についてはともかく、全く未知の国からの来訪者ともなればこの老骨も血が騒ぎます…というのは建前でして」
同じ派閥に属する者同士、しかも互いに平民ということで二人とも堅苦しい儀礼は抜きだ。安価だが質の良い杉材で作られた執務机で書き物をしていたロレンツォに勧められるままに、ヨルムベルトは木製の椅子に腰掛けた。これが貴族を訪ねるとなればまず形式ばった挨拶に始まり、長々とお世辞とも皮肉とも付かぬやり取りを経て、舌を回すのが面倒くさくなる頃に
「ほほう。その辺りがわざわざ今日を選んでの面会希望でしたかな?」
わざわざ、とチクリと一刺しが有るがこれは当然だろう。外交使節団の
「そうですが…予定外の依頼が舞い込んだので、予め今日訪ねることにしていたのは都合が良かった。先に裏のない話を進めてしまいましょう。実は使節団を港まで運んだ部下にサーマイヤーフ殿下から内々の打診がありました。使節団はやや王国の儀礼に不安が有るので、事前に綿密な打ち合わせを行ってほしいと」
「ふむ…確かに王太子派が妙な茶々を入れるかもしれません。完全に予定調和の
「せんだっての都市連合との戦でサーマイヤーフ殿下が大敗を
「それこそ王太子派の連中が勝手に突き回すでしょう。我々としてはむしろ仲裁に回ることで双方に恩を売っていきたいと…我らの盟主たるラボーラル殿下ご自身がそうお考えなのですが」
確かにその選択が妥当だろう。母親の身分が度を越して低い第三王子は派閥という武器をほとんど持っていない、と王太子派の盟主と貴族は考えがちで、それゆえに無益な攻撃を繰り返してもなんの問題もないと考えているようだ。しかし軍人として確固たる業績を持ち、また本人の人柄も平民受けする第三王子には軍部や官僚から一定の支持がある。無思慮に攻撃して足元が
「そのお考えの根拠となるサーマイヤーフ殿下の平民からの支持が危うくなるのでは、と私は今回の戦いでの大敗について考えているのです」
「その視点は確かに有りませんでしたな」
「これは私が軍人であるが故の
「成程、決してサーマイヤーフ殿下を攻撃するわけではない」
「殿下ご自身がどうお考えなのかは判りかねます。畑違いの場所で10年も頑張ってこられたのに今更、とお怒りになるかもしれません。しかしやはりサーマイヤーフ殿下にお似合いの戦場は陸戦ではないかとも思うのです」
これは全くの
「ただその際にネックになるのが、アイク島使節団とサーマイヤーフ殿下の関係です。アイク島使節団の皆様がこの動きをサーマイヤーフ殿下、ひいてはアイク島とアイユーヴ王国の外交の地盤に
「ラキサリス殿のお考えは承りました。いずれにせよ異国の強力な支持が今まで弱小勢力だった第三王子に付く事で、王宮の勢力図が激変するのは望ましくない。我々が間に入るのはアイユーヴ王国全体のためにもなる
ロレンツォを味方につける事はできたようだ。アイク島使節団を新たな第三王子派と決めつけて、国交を開くこと自体に消極的な王太子派との兼ね合いで、今まで第二王子も表立って使節団と接触することは避ける様子だったが、官僚、軍人双方から声を上げれば公然と
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