歴史の立会人に   作:キューマル式

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ガンダムカードビルダー稼働当時、執筆していた作品。

パプティマス様はオカルト以外では倒せなかった最強の敵だと思うんですがどうだろう?




第01話 シロッコ、ジオン軍に立つ

 

 さて突然だが……『転生』というものをご存知だろうか? 

 二次創作などでテンプレートともいえるもので、大概の場合、間違いで殺してしまった神様が何かしらの能力を与えて漫画などに酷似した異世界へ送ってくれるというものだ。

 まぁ、物語を面白おかしくするための味付けといったところだ。

 これだけで『転生者』というものが酷く荒唐無稽なことはわかるだろう。しかし、『転生者』と言われる者は、実は本当に存在する。

 何と言っても……この私がそうなのだから。

 

 とはいえ、私も『神』などという者に出会ったことなど無い。

 私の場合、ある日気がつくとある人物になってしまっていたという、転生というよりは『憑依』といった方が正しい状態だ。しかしながら、その人物が将来有するだろう才能をすでに知識として得てしまっているところは、なるほどよく聞く何かしらの特典を付けてくれる神様転生というやつに類似している。

 そう、私は現在自分が『憑依』している人物が誰なのか理解しているし、ここがどんな『世界』であるかも理解している。この人物が将来開発するだろう理論やシステムも、すでにこの頭の中にある。

 だがしかし、私とその『人物』はすでにイコールでは繋がらない。それは私がいる状況が、すでに私が知るはずのその『人物』とはかけ離れてしまっているからだ。

 この『世界』に産まれ落ちてから十数年、今までの自分の辿ってきた人生は、もはや私の知る『人物』のものではない。

 これは気まぐれな神のいたずらか、はたまた悪魔の導きか……。

 

「ここに居たのか」

 

「ん?」

 

 見れば私を呼ぶのは、私の良く知る友である。

 

「ドズル学校長が君と私をお呼びだ、シロッコ」

 

「そうか、やっとか……今行く、シャア」

 

 私は読んでいた本を閉じると、シャアと共にこのジオン士官学校の校長室へと向かっていく。

 

 

 そう、何の因果か、私は『初代ガンダムの世界』で、どういう訳か『パプティマス・シロッコ』として友である『シャア・アズナブル』とともにこのジオン士官学校で過ごしている。

 

 何故、こんなことになったのか……?

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そもそも、私はごくごく平凡な学生であった。別に死んだという記憶があるわけではない。そんな私は気付いた時には、赤子として父と母に抱かれていた。

 何が起こったのか混乱する私の視界に飛び込んできたのは巨大な木星の威容、同時に呼ばれる名前と何処からか流れ込んでくる未来の技術知識に、自分が『パプティマス・シロッコ』としてこの世界に生を受けていることを理解した。

 

 確かに、私はガンダムという作品において『パプティマス・シロッコ』というキャラクターは大好きだ。優れたニュータイプとしてのパイロットスキル、ティターンズを乗っ取るまでの策謀と知略、そして優秀すぎるMSを自力開発する天才性……その思想や狙いについては疑問な点も多いし人を道具として利用する尊大な態度はいささか問題だが、能力でいうなら個人的にはガンダムシリーズにおける最優秀の人物であると思っている。

 また、その搭乗MSにおいても私は大好きだ。

 転生する前にはほとんど誰にも理解されなかったが、シロッコの『ジ=O』を私は至高のMSの一つとして推している。

 一見すると武装はビームライフルとビームサーベルのみ、その後に現れたファンネルなどの特殊装備を持ったMSと比べるとかなり地味な印象を受ける。さらに独特なずんぐりとしたフォルムは鋭角的なデザインの多いガンダムにおいては見劣りするかもしれない。

しかし、そこがいいのだ。あくまで信頼性の高い基本装備であるビームライフルとビームサーベルだけを採用。そして全身にくまなく装備されたアポジモーターと機体追随性を驚異的に上げるバイオセンサーを装備。

 モビルスーツに必要なものは特殊な機構ではなく、自分の思い通りに素早く動く運動性。武器は信頼性の高さを重視し冒険はせず、しかし隠し腕というギミックによる近接奇襲が可能。美しすぎるコンセプトだと思う。

 

 とにかく、よく分からないがこうなってしまっては『パプティマス・シロッコ』として生きるほか無い。私は産まれた木星船団での幼少期、出来る限りのことをした。各種論文を読み漁り、暇があれば機械をいじり作業用重機(のちのプチモビ)を動かしては自らを鍛えた。さすがは『パプティマス・シロッコ』の身体、知識も操縦技術もすんなりと入っていくし、木星という環境のおかげかいつの間にか危機察知能力や空間把握能力が尋常では無くなる……私は幼くして『ニュータイプ』として覚醒していた。

 幼い子供であった私の行動は良く奇異の眼で見られたものだが、そんなものは関係ない。この世界はこれから大きな戦火に巻き込まれていくのだ。自らを鍛えなければどこで死んでしまうか分からない。

 無論私は、私の知る『パプティマス・シロッコ』のような最後を遂げる気はさらさら無い。そもそも、中身である私がごくごく平凡な一学生だったのだ。知識や能力が幾らあろうが、大それた野望など持ちようはずもない。増長と慢心、そして他者への尊大な態度は敵だ。

戦争に関わらず技術者として生きてもいいし、このまま木星船団で過ごすのもいい。とにかく、私は歴史の中心にいるつもりはなく、歴史の傍観者になろうと心に決めていた。だが、その破綻はまるで定められたかのように突然だった。

 

 木星船団も地球圏に帰還し、私は初めて見る地球に興奮を隠せないでいた。その時我々が滞在していたのは奇しくもあのサイド3である。何でも、母がこちらの出身だったのだそうだ。

 だが地球連邦との関係も日に日に悪化していくこの時期だ、私はテロ事件に巻き込まれ両親を失ってしまう。

 身寄りとなるものを亡くした私だったが、そこに母と既知の間柄だと言う女性が私を引き取りたいと言い出したのだ。

 その女性の名とは『アストライア・トア・ダイクン』……あの『ジオン・ズム・ダイクン』の妻であった女性だった。かくして私はアストライア・トア・ダイクンにより引き取られ、彼と、のちの『シャア・アズナブル』ことキャスバルと出会ったのである。

 アストライア・トア・ダイクンは真に素晴らしい女性だった。私に本当の息子同然に愛情を注いでくれたのである。あの包み込むかのような母性はなるほど、かのシャアがララァ・スンの中に母の姿を求め続けたのも頷けた。実際に私もこの新しき優しき母や、私を迎え入れてくれたジオン・ズム・ダイクンには心からの感謝をしているし、情愛は尽きない。

 そんな生活の中、自然と私は新たな家族であるキャスバルとアルテイシアとの関係も築いていった。

 正直に言って私の前世(と言っていいものか?)の記憶のせいでシャアの印象はよろしくなかった。あのアクシズ落としに関しては擁護出来ない下策であったとも思う。しかし幼いせいか素直かつ真面目なキャスバルを実際に前にするとそんな気も失せ、経験によってああも変わってしまったのだろうと納得するとわだかまりは消えていた。何より同い年の友人のいなかった私にとっては同い年の同性の初めての友人だ、彼とは素直に友誼を結んでいた。

 一方のアルテイシアも私のことを『シロッコ兄さん』と呼び、キャスバル同様に懐いてくれた。

 

 しかし、そんな生活も数年で終わりを告げる。ジオン・ズム・ダイクンの暗殺である。

 私も前世の知識を使って何とか止めようと考えたが、当時の私は10にも満たない子供だ。注意を促すことが精々であり、どうしようもなかった。

 その後のことは、今思い出しても悔しさが募る。ザビ家からのキャスバルとアルテイシアとの逃亡の日々、尽力してくれたジンバ・ラルの死、そしてそんな中でのアストライア・トア・ダイクンの死……それを前に、私とキャスバルはザビ家への復讐を誓い合ったのである。

 

 

 そしてその計画の第一歩として私とキャスバル……シャアはジオン士官学校へと入校したのだ。

 ジオン士官学校では、私とシャアはとにかくその存在感を示すことにした。訓練・試験での成績はもとより私の方はいくつかの論文も発表し、技術者としての側面も発揮。

 またジオン士官学校での重要人物であるガルマ・ザビへの接近も行った。今ではガルマは私とシャアを友として手放しで信用している。ザビ家の者ではあるが、この素直さに関しては正直好感が持てた。

 

 そしてU.C.0078、現在であるが私たちは一つの事件を起こした。あの『暁の蜂起事件』である。私とシャアによって提示された作戦、そこに我々によって誘導されるようにガルマが立ち、連邦軍駐屯地へと突撃を行ったのである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まぁ、こんなものだろう」

 

「私の予想通りだな」

 

 ドズル学校長に呼び出されお決まりの罵声の後、私とシャアは学籍を抹消され除隊処分を言い渡されたが、それは始めから想定内の出来事だ。

 

「なに、しかし短い間のことだ」

 

 もうすでにジオンと連邦の間で緊張はどうしようもないほどに高まっている。そうかからずに、我々も呼び戻されることだろう。

 

「その間君はどうする、シャア?」

 

「地球へ降りる」

 

「……南米か」

 

「さすがの洞察力だな、シロッコ」

 

「なに、君の能力と考えを読んだだけのこと。

 君ほどに優秀な者ならそう出るだろうと思ったまでだ」

 

「君に言われると世辞と分かっていても、悪い気はしないな」

 

 そう言ってシャアは笑う。

 

「そう言う君はどうする、シロッコ?」

 

「私か? 私はもう決まっている」

 

 そう言って、ビッと掲げるのは一通の手紙のようなものだ。

 

「あの坊やに頼んで紹介状をしたためてもらった。

 権力やコネというのはこういう時こそ使うべきだ」

 

「開発か……」

 

「連邦との戦争は、もはや避けられん。

 優秀な兵器はいくらあっても足りまい」

 

「その通りだな」

 

 そう言って、私とシャアは交差点へとやってくる。

 

「ではな、地球では気を付けろシャア」

 

「君もな。

 君の造った兵器で戦えることを楽しみにしている」

 

「期待には応えよう」

 

 そう言って互いに笑い合うと、私とシャアは別れる。だがその道が再び交わるのはそう遠いことではない。

 時に宇宙世紀0078、戦争の足音は近くまで来ていた……。

 

 

 

 




とりあえずの第一話でした。
次回からはツィマッドのお話に行きます。

ドム……カッコイイですよね?

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