あるネームドキャラを味方に引き入れました。
この人、生き残って欲しかった……。
時代に乗れずに自分の生き方を変えられず、それでも軍人として戦場で働きたい思いがあったのは事実。
こういう不器用なキャラは大好きです。
宇宙世紀0079年5月9日、アリゾナの半砂漠地帯。私はニキとレイチェルを連れてモビルスーツで走行中だった。
北米大陸では、未だに連邦の抵抗勢力が根強い。戦線も虫食い状態であり、所々に連邦の勢力圏があるような状態だ。
それを掃討し戦線をしっかりと構築できればいいのだが……生憎と人手が足りず、そこまでには至っていない。ついこの間も物資集積場が1つ、連邦に襲われて破壊されてしまったところである。
クスコはマリオンとエリスを監督し、メイ嬢と共にハイゴッグの調整とテストをさせている。そのため、私は手の空いたニキとレイチェルの演習も兼ねるように哨戒任務に出ていた。
ニキとレイチェルは新しく受領したドワッジの慣らしをするように、その感触を確かめる。私の搭乗機は専用のドムだ。
「ニキ、レイチェル。
ドワッジの様子はどうか?」
『良好です。
ドムと操作性の差もなく、違和感はありません』
『すごいですよ、この子の性能!
これだったら連邦なんてさっきみたいに楽勝ですね』
先ほども連邦の残存戦力である61式戦車3台を発見、瞬く間にニキとレイチェルによって撃破されている。
「こらこら、61式戦車ごときドワッジで楽勝でなければ困るよ。
これごときのことで慢心はいかんな」
『そうよ。
少佐の言う通りよ、レイチェル』
『はぁい。 気を付けま~す』
気の抜けたような返事をするレイチェルに私は苦笑しながらも、現在の戦況を考える。
確かに現在ジオンは押しているだろう。だが、それはモビルスーツの性能あっての話だ。しかし、モビルスーツだけで地上のすべてが制圧出来るかと言えばそうではない。
モビルスーツは高価な兵器であり数が限られる。
『戦いは数』とはドズル・ザビの言葉だが真実だ。モビルスーツは強力だが、全ての戦線に投入できる数はない。そうなればモビルスーツ以外の通常兵器の出番なのだが……コロニーでのシミュレーションだけで設計した戦闘機の『ドップ』、攻撃空母『ガウ』などを見ればわかるがあまりにお粗末すぎた。
本来ならその辺りも私が提案すべきかもしれないが、モビルスーツの開発を最優先しているためそこまで手が廻らず、ノータッチである。
(モビルスーツ以外の戦力の増強もしたいところだ……)
思わず天を仰ぐ私。だがその時、私は空から何かを感じる。
「ん?」
『どうしました、少佐?』
動きを止めて空を見る私に、追随していたニキも機体を止めて私に聞いてくる。
「あれは……?」
カメラを向けてみると宇宙から降下してくるコムサイが見える。
『えー……ありました、あれは第603技術試験隊のコムサイのようです。
何でも試作兵器の再評価試験で降下してきたと……』
その時だ。そのコムサイに向かって、ロケットの発砲煙が見える。
『敵襲!? レイチェル、近くの味方は!』
『付近の第67物資集積所、応答なし!
ミノフスキー粒子が濃いのか……』
「希望的観測は捨てた方がいい。第67物資集積所は連邦に襲われたと見て良いだろう。
しかし……なんだ、今日だったのか……」
『はい?』
「いや、何でもないよ」
聞き返してくるニキに私は返してから指示を出す。
「これより友軍の救助に向かう!
ニキ! レイチェル! ついて来い!
味方を死なせるな!!」
『『はい!!』』
その返事を聞きながら、私はほくそ笑む。ドムとドワッジの足の速さなら間に合うだろう。あの人材……死なせるには惜しい。
(運がいいな、私は)
私は心の中で笑いながら、ペダルを踏み込んだ。
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ガタガタと揺れる機体と大音響ドラムのような120mmザクマシンガンの銃声を聞きながら男……デメジエール・ソンネン少佐は薄く笑った。感じる全てが、今、自分が戦場にいるということを伝えてくる。
ソンネン少佐は元は戦車教導団の教官を務めるほど優秀な戦車兵であった。
しかし、時代はモビルスーツの時代。戦車はモビルスーツに主力兵器の座を奪われ、それにともない多くの戦車兵がモビルスーツへの転科適正試験に受かってモビルスーツ乗りという戦争の主役の座を得た。
しかし、ソンネン少佐はモビルスーツへの転科適正試験には受からなかった。新時代の兵器モビルスーツに拒否された、旧時代の古参戦車兵……それがソンネン少佐である。
そのことで自堕落な生活を送り、糖尿病も患った。ドロップがなければ痙攣発作すら止まらない壊れた身体……しかし、それでも軍人としての魂は腐ってはいなかった。
自分はまだ戦える。時代に取り残された戦車乗りでも……モビルスーツとでも戦える!
そしてその相棒も時代に取り残された兵器だった。
モビルタンク『ヒルドルブ』……半モビルスーツ形態への変形を可能にする、超弩級戦車である。しかし、モビルスーツの汎用性によって必要無しと判断された過去の遺物だ。
おあつらえ向きの相棒だと、ソンネンは思う。
時代に取り残された者同士、それでも自分たちは戦えるということを証明してやろう。
コムサイから投下された彼のヒルドルブは、現在コムサイを襲った連邦の部隊と交戦中だ。その敵部隊は鹵獲しただろうザクⅡ6機を使い、味方を装って物資集積場を襲っていたのだ。
すでに2機のザクⅡを撃破している。残りはザクⅡが4機に61式戦車が2両だ。
「スモーク散布!!」
ピンク色のスモークで視界を遮りながら、ヒルドルブはモビルスーツの上半身と戦車の下半身を持つ半モビルスーツ形態に変形するとザクマシンガンを乱射して、一機のザクⅡの足を撃ち抜く。
そして反転すると、今度はヒルドルブ自慢の30サンチ砲が火を噴いた。この30サンチ砲は旧式の宇宙戦艦が装備していたものを転用した物、その火力は凄まじく、直撃を受けたザクⅡが文字通り弾け飛ぶ。
ヒルドルブのキャタピラが猛然と大地を噛み、マシンガンを乱射しながら走り出す。マシンガンの乱射でザクⅡをハチの巣にして撃破。
そのザクⅡの持っていたマシンガンを奪い取り、残った61式戦車が2両を葬る。
「あと1つ!」
残ったザクⅡは猛然とマシンガンを乱射しながら接近戦を仕掛けようとしてくる。すぐにヒルドルブを向けようとしたソンネンだが、キャタピラに撃破したザクⅡの残骸が挟まり、動かない。
しかし、ソンネンはその経験から、すぐさまに適切な、そして大胆な選択をする。
「弾種、
音声入力に指示すると、30サンチ砲を迫るザクⅡとは逆方向に撃った。その反動でヒルドルブが浮き上がる。その瞬間に片側だけのキャタピラで走行したのだ。
そのまま体当たりを受けたザクⅡは倒れ込みながらもその手のザクマシンガンを向けてくるが、次弾を装填し終えたヒルドルブの
「へ、へへ……惜しかったな」
倒れ込んだザクⅡにそう呟いてから、ソンネンは手の中のドロップを見つめた。
このドロップは自分の象徴、新時代の象徴であるモビルスーツに受け入れられず、自堕落な生活に堕ちて行った象徴だ。
だが……そんな自分でも戦えることを今、証明してみせたのだ。
安堵と充実感でゆっくりとソンネンは目を瞑る。だが、その充実感は長くは続かなかった。
「っ!?」
突然の振動に現実に引き戻されたソンネン。そこには、撃破したはずのザクⅡの姿があった。足を撃たれたザクⅡだが、その足を引きずってヒルドルブに組みついたのである。
ザクⅡはザクマシンガンのストックを鈍器変わりにヒルドルブの頭部にあたる部分に叩き付けた。そのたびにコックピットが揺れる。
ヒルドルブには腕があるが、それでも格闘戦など出来ない。
『ははは、ほんと、惜しかったな。
片足くらいで仕留めた気になるなよ!』
この至近距離だ。何処を撃とうが120mmの弾丸は装甲を貫徹できるだろう。
0距離でザクマシンガンを構えながら連邦のパイロット、特務部隊『セモベンテ隊』の隊長、フェデリコ・ツァリアーノ中佐は勝利を確信する。
しかし……。
『そうだな、本当に惜しかったな』
『えっ?』
次の瞬間、ザクⅡはコックピットのある胸のあたりから、真一文字に両断されていたのだ。
「何、だ……?」
コックピットを襲った衝撃のせいで頭を打ち付け、血を流したソンネンは見た。いつの間にかやってきた紫色のモビルスーツがヒートサーベルでザクⅡを切り裂いたのである。
『こちらはパプティマス・シロッコ少佐だ。
そちらは無事か?』
「へ、へへ……噂の鬼火さまか。俺も運がいいな。
助かった。 ちょいと頭を打ったが、こっちは無事だ」
『わかった。 コムサイはこちらに任せてもらう。
救援も呼んだのでしばらく休んでいるといい』
「ああ、そう……させてもらうぜ。
今なら……いい夢が見れそうなんだ」
『そうか……それなら話は後にしよう。
では、良い夢を』
その言葉に、ソンネンは朦朧としていた意識を手放す。
最後の最後でヘマをしたが、まぁいい。
自分は生きている。生きて……また戦車兵として戦える。
「俺は……まだ戦えるぞ……」
それだけ呟くと、ソンネンはしばしの間眠りに入ったのだった……。
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「あの高名なパプティマス・シロッコ少佐とお話しできるとは……光栄であります!」
「いや、こちらこそ技術を齧るものとして有意義な会話ができるのを嬉しく思うよ、オリヴァー・マイ中尉」
私は帰還したキャリフォルニアベースの工廠で、コムサイに搭乗していたオリヴァー・マイ技術中尉と握手を交わしていた。続いて、その後ろにいた、キツい眼をした女性が名前を名乗る。
「モニク・キャデラック特務大尉です。
今日は助かりました、シロッコ少佐」
「友軍を救援するのは当然のことです。
私はジオン軍人としての責務を果たしたにすぎませんよ」
あのあと私が呼んだ輸送隊によってコムサイは無事に回収、2人を保護することに成功した。
そしてヒルドルブとソンネン少佐も無事に回収、ソンネン少佐はこのキャリフォルニアベースの所属となることになったのである。
「これが少佐が手掛けたというモビルスーツですか……」
「ああ、ドムとその改修型となるドワッジだ。
双方とも中々のものだよ」
「あの……少佐殿。
出来ればお願いが……」
『技術馬鹿』とも揶揄される彼の眼は、まるで子供のように輝いていた。私はそれに苦笑すると頷く。
「君たちを
それまでなら、好きに工廠を見て回っていい。
私が許可しよう」
「ほ、本当ですか!?」
マイはそう言ってモニクを見ると、モニクはどこか諦めたようにしながらも頷いた。
「では、早速見させていただきます!」
言うが早いか、彼は制作途中のドワッジの元へと走っていった。
「あの技術馬鹿は……」
「ははは、良いじゃないですか。
私は同じ技術を齧った者として、彼のような愚直な技術者には尊敬にも似た念を感じますよ。
そしてその技術への飽くなき探求心がジオンの未来を造るのです」
ため息をつくモニクに笑いながら、私は答えた。
「さて……モニク大尉も疲れたでしょう?
部屋を用意してあるというので、どうぞお休みください」
「……それではお言葉に甘えて」
そう言って、モニクは去っていこうとするが、その途中モニクは振り返った。
「少佐。 ソンネン少佐を助けてもらい、ありがとうございます」
「先ほども言いましたが、軍務の上での行動です。
友軍は見捨てられませんので」
「それでも……とても良いものを見せてもらいましたから、個人的にお礼を言わせてもらいたかったのです」
「ほう……良いもの、とは?」
「今日の一度の勝利で、負け犬が負け犬じゃ無くなった。
錆ついた殻を破って昔尊敬した人が帰って来た……それが見られました」
それだけ言ってペコリと頭を下げると、今度こそモニクは部屋へと引き上げて行った。
「……やれやれ、あんなに柔らかい顔もできるのだな」
最後のセリフは、あのキツい眼がずいぶんと柔らかくなっていた。それほどに、ソンネン少佐については思うところがあったのだろう。
ソンネン少佐はモニク大尉の教官であった。モニク大尉はソンネン少佐を尊敬していたのである。しかし、モビルスーツの転科適正試験に落ちて自堕落に変貌した姿に失望、ソンネン少佐のことを『負け犬』と罵っていたのだが、今回の戦いの勝利で、ソンネン少佐が昔の尊敬していたソンネン少佐に戻ったと感じたのだろう。
「では……その負け犬を返上した少佐殿に会ってくるとするか……」
私は工廠の奥へと向けて歩き出した。
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整備兵が忙しく動き回る中、ソンネンはヒルドルブを見上げていた。
「……」
土で汚れたキャタピラに、穿たれた弾痕……そのすべてが、あの戦いが現実だったことを物語る。
そして……自分とヒルドルブは勝った。時代遅れの自分たちが、それでも戦えるということを示したのだ。
「気分はどうですかな、ソンネン少佐殿?」
「これはシロッコ少佐。 今日は助かった。ありがとう」
ソンネンが敬礼をすると、シロッコも敬礼を返す。
見れば見るほど若い。自分の半分程度の歳の若さだ。だが、シロッコがモビルスーツを操り信じられない戦果を叩きだすエースパイロットでありガルマ・ザビの腹心の部下であることは知っている。
これが自分にはなれなかった、新しい世代の軍人の姿なのかも知れない……そんな風にソンネンは思う。
「私のような若造に、そんな大仰な礼は結構ですよ」
「命を助けられたんだ、お礼ぐらい言うさ」
言って、シロッコと共に並んでヒルドルブを見上げる。
「モビルタンク『ヒルドルブ』……データと今日の戦闘の映像、見せてもらいました。
ザクⅡ5機と61式戦車2両撃破……今ならジオン軍のモビルスーツ撃墜王ですな」
「よしてくれよ」
シロッコの軽口に、ソンネンは手をヒラヒラと振って苦笑する。
「そんな称号、俺には似合わんね。
俺は戦車兵として、戦場で戦えるんならそれでいい」
「戦車兵として……ですか?」
「ああ。
モビルスーツに乗るのは、お前らみたいな若い奴らに任せるさ。
だが、時代遅れの戦車兵の俺だって、祖国のために戦うことはできる。
なぁに、こいつは俺の意地だよ。
最後まで捨てられなかった、戦車兵としての意地だ」
「戦車兵の意地……ですか」
しばしの間、両者は無言だ。
「……ソンネン少佐、確かに今回は戦果を出しましたがヒルドルブが量産されることはないでしょう」
「……だろうな。
もう時代はモビルスーツのもんだ。 戦車なんて古臭いものはいらないだろうよ」
「……果たして、そうでしょうか?」
「?」
シロッコのもの言いに、ソンネンは首を傾げながらシロッコを見る。
「新しいものができたから古いものはいらないのか?
もしもそれが正しいと仮定すれば、歩兵などという兵種は残ってはいないでしょうな。
しかし、現実として歩兵は必要であり、存在し続けている……」
「何かい?
モビルスーツに駆逐されちまった俺たち戦車乗りは、まだ必要だってのかい?」
「当然でしょう?
モビルスーツは強力でも数が少ない。 数の上ではジオン軍の主力は未だに戦車ですよ。
そして、嘆かわしいことにジオンのマゼラアタックは連邦の61式戦車に比べ圧倒的に不利だ」
「……OK、シロッコ少佐。
俺に何をさせたいんだ?」
「なに、古参戦車兵として協力して欲しいということですよ」
そして取り出したもの、それはマゼラアタックの改修計画だった。
「この計画に少佐に参加してもらいたい。
モビルスーツとも戦える戦車隊のための計画です。
無論、それを率いるのはソンネン少佐とヒルドルブです」
「……本気で言ってんのかい?」
「無論。
ヒルドルブも今回の戦闘で問題は見つかっているので、改修した方がいいでしょう。
その際には私も協力しますよ」
そんなシロッコの言葉に、ソンネンはしばし沈黙する。
「一つだけ確認だ。
俺達は……戦車乗りはまだ、戦ってもいいんだな?
戦場はまだ、俺達を必要としてるんだな?」
「もちろん、そのための計画です」
「うし! 乗った!!」
パァンと手を叩くと、ソンネンはマゼラアタックの改修計画の書類を受け取る。
「見てな、モビルスーツだって驚くような戦車と戦術を造ってやる」
「楽しみにしていますよ」
それだけ言うと、シロッコは去っていく。
その背中を見送ると、ソンネンは未だ傷だらけのヒルドルブを見上げた。
「相棒。 俺達はまだ、戦えるみたいだぜ」
ソンネンは無骨な鋼鉄の塊であるヒルドルブが、笑ったような気がした……。