歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回はみんな大好き、あの娘の登場。

その友達枠でジオンのおでこちゃんも。
……『ギレンの野望』のジオン編ではやりようによってはポコスカ人が抜けて、最後にはこの子とあいつしか頼れるのいなかったなぁ。

注:今回はニュータイプについての作者の考察(持論?)や、『原作』でのあるキャラの行動について若干アンチ気味の内容です。
  その辺りの苦手な方はお気を付け下さい。



第22話 少女が問う、人の革新

「……」

 

 国葬が終わり、ガルマは椅子に座っていた。その視線は魂が抜けたように宙を漂い、所在無げに前髪をいじる。

 国葬が終わって今の今まで心のどこかで信じられなかったキシリアの死を現実のものとして受け入れ、その胸には亡き姉との思い出がよぎる。しかし、不思議なもので何故か涙は流れない。

 ガルマは今、そんな虚脱感にも似た感覚に身を任せていた。

 

「ガルマ、その癖はあまりいいものではないぞ」

 

「あ、ドズル兄さん……」

 

 言われてバツ悪そうにガルマは前髪をいじるのをやめる。そんなガルマにため息をつくと、ドズルはガルマの隣に座った。

 

「俺も気持ちは分かる。 家族の死はいつでも辛いものだ。

 キシリアが死ぬなど、俺も未だに信じられんし信じたくは無い。

 しかし、お前も俺も生きている。必要以上にキシリアの死に引っ張られているのは、死したキシリアも望むまい。

 気をしっかり持つんだ、ガルマ」

 

「わかってますよ、ドズル兄さん」

 

 その言葉にドズルは破顔すると、ガルマの肩をポンと叩く。

 

「その意気だ、ガルマ少将」

 

 ガルマはフェニックス大会戦での活躍、そしてキシリアの死によって少将へと昇進した。名実ともに『地球方面軍』の総司令官である。

 

「少将というその責任の重さ……僕にはまだ自分がそれほどの器があるのか疑問です」

 

「謙遜するな。

 お前の活躍、そしてその実力は俺も、そしてギレン兄貴も認めている。

 だからこその昇進だよ。

 決して、お前の思っているような『親の七光り』というわけではない。

 だから自信を持て、ガルマ」

 

「……ありがとう、ドズル兄さん」

 

 そう言うドズルの気遣いに、ガルマも表情を崩した。そんなガルマに満足そうにドズルは頷く。

 

「そうだ、ガルマ。

 お前の昇進祝いだ、何か欲しいものはあるか?

 俺に出来ることなら何だって用意しよう」

 

 ドズルのその言葉に、ガルマはハッキリと言った。

 

「それなら……シャアを下さい、兄さん」

 

「わかった、すぐに手配しよう」

 

 そのあまりにもアッサリな様子に、ガルマは少し拍子抜けする。

 

「あの……自分から望んでおいてこんなことを言うのもなんですが、本当にいいんですか?

 あのシャアほどの男を、そんなに簡単に手放して」

 

「確かに『赤い彗星』ほどの男、手放すのは惜しい。

 しかし手放す相手がガルマだというのなら、何も文句はない。

 それに、お前ならシャアを欲しがるだろうとは予想していた。

 あいつを今回の俺の護衛に加えたのは、こうなるだろうことを見越してのことだ」

 

「さすがの読みですね、ドズル兄さん」

 

「おだてるなよ。

 それに戦力に関しては補充のアテもある。

 キシリアの子飼いだった『深紅の稲妻』と『黒い三連星』……俺のところに来るそうだ。

 ギレン兄貴が突撃機動軍を率いると聞いた途端、これだ。

 他にもこういう鞍替えの話はいくつもある。

 まったく……兄貴も嫌われたものだ」

 

 ドズルはガハハと笑うと、すぐに真剣な表情に戻った。

 

「……正直、ギレン兄貴の周りは最近やたらときな臭い。

 もともと稀代の策略家と呼ばれた兄貴だ。

 俺は政治に関しては疎いが、綺麗事だけではやっていけん世界だということは理解している。

 しかし、それにしたって最近はどうも、な……」

 

「……」

 

 ドズルは言葉を濁し、ガルマも黙って頷いた。

 キシリア亡き後、突撃機動軍を取り込もうとギレンはかなり強引に動いているという。反抗的な旧キシリア派の将校を排除の方向で動き、どこまで本当かわからないが、粛清の噂まであるくらいである。そのため、ドズルの宇宙攻撃軍への転属を願い出るものや、ガルマの庇護を求めてか、地球への転属を望む者もいるという。

 

(ただでさえ連邦との戦争で人手はいくらあっても足りないというのに……。

 ギレン兄さんはいったいなにを考えているんだ……)

 

 そんなギレンの行動に、さすがのガルマも腹を立てていた。

 今は一致団結して連邦と戦うべき時である。そこを派閥争いなど馬鹿げた話だとも考えていた。

 

「なぁ、ガルマ……いや、ガルマ少将。

 シャアの件、頼みを聞いたのだ。

 一つ、俺の頼みも聞いてはくれんか?」

 

「構わないけど……どんなことです、ドズル中将?」

 

「ああ、実は……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「見えたな……」

 

 サイド3を出港した私のザンジバル級機動巡洋艦『ユーピテル』は、サイド6を経由して地球への道行きを急いでいた。

 見えてきたコロニー群、これこそジオン・連邦双方に対して中立を宣言している『サイド6』である。

 そしてそのサイド6の1つ、パルダコロニーが我々の目的地だ。

 振り返れば、そこにはリザド隊の面々が全員揃っている。

 

「目的地に到着だ。

 ガルマ少将とシャアを呼んで来てくれ」

 

 今、『ユーピテル』にはガルマの他にもシャアが乗っていた。ガルマの部下として地球に降りるためだ。そして……ここはシャアにとっては無関係の場所ではない。

 

「それはいいのですが……今回我々はここに何のために立ち寄ったんです?

 まだ目的を聞かされてませんが……」

 

 クスコが少し遠慮がちに問うと、私は笑って答えた。

 

「何、囚われの幼き姫君を助けに参ったのだよ」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 ……何やら全員からの視線が冷たい。

 

「……冗談だぞ」

 

「えっ、今の冗談だったんですか?

 私たち一同、『また女の子を囲い込むのか』と思っていたのですが?」

 

「しかも『幼い』と付いている以上、小さな子なのでしょう?

 わたくしたち、良からぬたくらみの片棒を担がされるのかと思いましたが?」

 

「……私は人攫いか何かかね?」

 

 クスコ中尉とキリシマ大尉が代表して言うが、何とも失礼な話だ。それでは私がどうしようもない男のように聞こえるではないか。

 しかし……『誘拐』に近い話ではあるので、『良からぬたくらみ』やら『人攫い』というのはあながち冗談というわけではない。

 マイ中尉の話では近日中にここは『公国突撃隊』の監督下に置かれる。その前に、ことを為さねばならない。

 

「とにかく、ガルマ少将とシャアを呼んで来てくれ。

 フラナガン機関に到着したとな」

 

 サイド6『パルダコロニー』……ここはジオンのニュータイプ研究の最前線、フラナガン機関のある場所だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 白い壁に囲まれたそこは、まるで病院のようだった。どこからか漂ってくる鼻をつく薬品のにおいがそれに拍車をかける。そのにおいに、私の横を歩くメイ嬢とマリオンは顔をしかめていた。

 ここはフラナガン機関の研究棟、今我々5人、私にガルマにシャアにメイにマリオンは研究員に案内されながら歩いていた。

 

「こちらは薬物によって強いストレスを与える実験でして……」

 

 ガルマやシャア、そして私といったジオン内でも地位もあり有名なものを前にしたからだろうか。聞いてもいないのにその研究員は、まるでおもちゃを自慢する子供のように楽しそうに人体実験の過程について事細かに説明してくれる。

 

「……」

 

「……」

 

 その話を聞きながら、メイ嬢とマリオンは私の服を不安そうな顔でギュッと掴んでいた。

 私はその頭を撫でてやると、シャアとガルマに目配せする。すると、シャアもガルマも無言で頷いた。

 

「君たちの研究についてはよくわかった。

 だが……それは今する話ではないのではないかな?

 彼女たちレディに聞かせる話ではないな」

 

「す、すみません、シャア少佐。 つい……」

 

「謝罪はもういい、それよりもはやく案内を頼む。

 地球のこともあって、我々もあまり暇ではないのだよ」

 

「は、はい! ガルマ様!」

 

 2人にそう言われると、その研究員も黙って案内に戻った。

 

「……すまんな、2人とも」

 

「なに、君の気にすることではないよ、シロッコ」

 

「僕たちも思ったことを言ったまでだ。

 事実、レディたちに聞かせるような話ではないだろう?」

 

 小声での私の詫びに、シャアとガルマは気にするなと言う風に小さく肩を竦める。

 やがて、我々は1つのドアの前へとやってきていた。

 

「ここですよ」

 

 研究員が指し示すドア、それを開け我々は中に入る。

 

「誰……?」

 

 そこには1人の少女がいた。無機質な部屋の中、ベッドの上で熊のぬいぐるみをギュッと抱きしめていた。

 年はメイ嬢とマリオンの1つほど下、将来の美貌を約束されたような整った顔立ちに、フルフルと揺れるツインテールの髪。その瞳は不安そうに揺れている。

 ガルマはそんな少女の前に出ると、目線を合わせるように膝をついた。

 

「初めまして、私はガルマ・ザビだ」

 

「ガルマ様……? どうして、こんなところに……?」

 

「私は君を、ここから助け出しに来たんだよ。

 マハラジャ=カーン殿のご息女、ハマーン=カーン嬢」

 

 そう、この少女こそあのアクシズの氷の女帝となる、あのハマーン=カーンであった。

 ハマーン=カーンのフラナガン機関からの救出……これを言いだしたのはガルマだ。聞けばどうやら、ガルマもドズルに頼まれての行動らしい。

 ハマーンは幼くしてそのニュータイプとしての才能を見いだされこのフラナガン機関に送られていたが、これはマハラジャ=カーンに対する人質という意味合いもあった。基本的に中立な立場を取るマハラジャ=カーン、それを逆らえないようにするキシリアの策である。

 だが、そのキシリアは死んだ。それを機にドズルはハマーンを救出してほしいと、ガルマに頼んだのだ。

 ハマーンには姉がいた。彼女はドズルの侍女……その実はマハラジャ=カーンが忠誠の証しとして差し出された妾である。彼女の死について、ドズルは大いに責任を感じていた。そこでせめてその妹であるハマーンを助けようと思ったのである。人情厚いドズルらしい話だ。

 しかし、そこに1つ問題がある。助け出したハマーンをその後どうするか、である。ハマーン=カーンはマハラジャ=カーンに対する、これ以上ないくらいのカードである。あのギレンが放っておくはずもない。実際、『公国突撃隊』の管理にはニュータイプ研究をそのまま消すのは惜しいという思惑と同時にその意図もあるだろう。

 初めはドズルも自分の信用できる場所に匿おうと考えていたが、今ギレン周辺には不穏な空気が漂っている。しかも相手は政治力にかけてはドズルなど足元にも及ばないほど格上のギレンだ、ドズルですらいつまで匿えるかわかったものではない。そこでガルマによって地球……ギレンの手の届かないところまで連れて行って欲しいとのことだ。

 

 この話を聞かされた私の動きは早かった。何故ならマイ中尉からの忠告で『公国突撃隊』なる組織がフラナガン機関の監督に着くはずなのを知っており、この『公国突撃隊』がギレン子飼いの中でも要注意なのを聞いていたからだ。『公国突撃隊』と鉢合わせし、何かがあれば不味い。そこで滞在予定を大幅に短縮し、フラナガン機関へと向かうことになったのだ。おかげで隊員たちの休暇は途中で取りやめとなり、レイチェルには大いに不満がられたものだ。

 とにかく急ぎフラナガン機関へ行き『公国突撃隊』の到着前の今のタイミングでハマーンを救出、そのまま地球へ降下。あとは距離を理由に何を言ってこようとのらりくらりとギレンをかわす……これが基本的な計画である。

 

「君は私と一緒に地球に降りるんだ」

 

「地球? 本当に?」

 

 そう言ってハマーン嬢はガルマの手と顔を交互に見やる。その目には拭いきれない不安が見て取れた。

 

「……」

 

 それを見て、私は意識を集中させニュータイプとしての力を開放した。

 瞬間、世界は反転し私は宇宙のような空間に浮いていた。同じく、その空間に浮くハマーン嬢が驚きで目を見開いている。

 そんな彼女へと、私は大仰に礼を取った。

 

「初めまして、ハマーン=カーン嬢。

 私はパプティマス=シロッコ、君と同じくニュータイプだ」

 

「あの『紫の鬼火(ウィルオウィスプ)』の。

 あなたも……ニュータイプ?」

 

「その通りだ。

 ……さて、ハマーン嬢。 我々は君を連れだしに来た。

 君は不安がっているようだが、心配する必要はあるまい。

 ガルマやシャアはよき男だ。 そして私のような『同類』も、私を含め部下には幾人かいる。

 安心してガルマの手を取るといい」

 

「はい……」

 

 ハマーン嬢はそう言って頷くが、やがて顔を上げて私を見て言った。

 

「あの……教えてください。

 『ニュータイプ』って……何なんでしょうか?」

 

「何?」

 

「ここの大人たちはみんな言います。 私は『ニュータイプ』だ、って。

 『ニュータイプ』の研究のためだって言って、色んな……いやなことをするんです。

 そんな実験のせいで……私を可愛がってくれたお姉さんも……」

 

 その時、私の中にハマーン嬢の見た光景が入り込んでくる。

 自分の身体を調べられることへの不快感。薬物などの投与による、自分が削られていくことへの恐怖が伝わってくる。

 その記憶の中には、ララァ=スンの姿があった。優れたニュータイプとして、ハマーン嬢を庇うかのようにその身を差し出し、率先して実験に参加するララァ。

 その辛さを隠し、常にハマーン嬢やほかの子供たちを気遣う優しさを見せるララァ。

 そして……実験により意識を失い、目覚めぬララァ。

 心を支えてくれた先輩であり姉のようなララァを失ったことで、ハマーン嬢の不安は抑えきれないところに来ているようだ。

 

(ララァの与える影響はシャアだけではなかったのだな……)

 

 ララァ=スンという稀代のニュータイプの影響は、途方もなく大きいようだ。そのことに私は少しだけ驚く。

 

「『ニュータイプ』は人の革新、素晴らしい能力……その研究のためだからと、私たちを散々に扱っておいてここの人たちは陰で言うんです。あいつらは『化け物』だ、って。

 教えてください、シロッコさん。

 『ニュータイプ』は……私は、『化け物』なんですか?」

 

「『ニュータイプとは何か?』……か。

 ハマーン嬢はその歳で難しいことを考える」

 

 言われ、私はしばし思案した。

 

「反応速度の上昇、未来予知とも言える危機察知能力、空間把握能力の増大にモビルスーツを始めとしたマシーンへの適応力……なるほど、ざっとニュータイプの特徴を列挙してみたが確かに『化け物』と称されても仕方ないかもしれん」

 

「じゃあ……」

 

「いいや、ハマーン嬢。 今あげたのはあくまで戦闘におけるニュータイプの特徴だ。

 そして……ニュータイプは戦争の道具ではない。

 戦うことだけがニュータイプではないよ」

 

 私はそう答えていた。

 

「私も、ニュータイプの本質は何かと問われても、正解は分からない。

 しかし、今のように時間も空間も越えて他者と心を通わせ、互いを理解する……これが『ニュータイプ』であると思う」

 

 だがしかし……と私は続ける。

 

「だからと言って、人は肉体を持ち、互いの生きる環境の違いがある。仮に全人類がニュータイプになって心を通わせ理解し合おうとも、争いは無くなるまい。

 ニュータイプは万能ではないからな。

 だが……ほんの少しだけ争いの少なくなった、優しい世界にはなるだろう」

 

 これは、前世の記憶とこの世界で生きた私を統合した上での、私の結論だ。

 『ニュータイプ』は万能でもなく、魔法のような力でもない。誰かと分かりあえるようになるための、一種のコミュニケーションツールに過ぎないと考える。

 

 だからこそ、私は『原作』におけるシャアの思想、そしてアクシズ落としは下策と切って捨てる。『原作』のシャアは人類が皆ニュータイプになれば世界は変わると思っていたようだが……ニュータイプを過信し過ぎている。

 ニュータイプであろうが無かろうが、人である以上譲れぬものがある。仮に全人類がニュータイプとなり相互に理解し合おうとも、譲れぬものがあるのなら互いを理解し合いながらも争うことはやめられない。私とて相手がニュータイプでありその心を理解しても、その相手が私の周りのものを害しようとするなら容赦なく引き金を引くだろう。

 シャアの思想には『人類をニュータイプにする』、というものが終着点で、それ以降がない。それなのにアクシズ落としにより強制的に宇宙に人類を出すことでニュータイプになることを促進するという、性急すぎる手段をとったのだ。目指すべき終着点が誤っているのに退路を断つような下策……これはもはや笑うしかない。

 もっとも『原作』におけるシャアにとってアクシズ落としなど、ただアムロ=レイとの決着の場を整える『舞台演出』でしか無かったのかもしれない。

 無論この『世界』での我が友、シャア=アズナブルにはこんなバカなことをさせるつもりはないし、そこに繋がるだろう『歴史』など私が打ち砕いてみせるが。

 

「ニュータイプの力は、そんな『今より少しだけ優しい世界』に繋げるためのものだと私は考えているし、今はその力で戦うことを私は躊躇わない。

 しかし……これは私の答えだ。 ハマーン嬢、君の答えではない。

 君はその答えを見つけなければならないだろうが……ここでは決してその答えは見つかるまい。

 だからこそ、ガルマの手を取りたまえ。

 君の問い……『ニュータイプとは?』という問いの答え探しは、その瞬間に始まるのだから」

 

 私の言葉を、ハマーン嬢がどのように受け取ったかは分からない。しかしハマーン嬢はゆっくりと、しかししっかり頷いた。

 私はそれに満足して頷くと、開放していた力を止める。周りの宇宙は消え去り、意識は先程の部屋へと戻る。

 ハマーン嬢の前には変わらずにガルマがいた。恐らく本来の時間の流れでは数秒の時間程度しか経ってはいまい。

 ハマーン嬢はゆっくり、ガルマの差し出す手を取った。

 

「ガルマ様、1つだけわがままを言っていいですか?」

 

「何だい?」

 

「友達を1人、一緒に……」

 

「分かった、呼んできたまえ」

 

 ハマーン嬢はガルマにペコリとお礼をすると、どこかへと出ていく。

 しばらくの後、ハマーン嬢は1人の少女の手を引いて戻ってきた。歳はハマーン嬢と同じくらい、金のショートヘアをカチューシャによっておでこが大きく出ているのが特徴か。

 

「君の名前は?」

 

 ガルマの問いかけに、その少女はゆっくり答える。

 

「レイラ。 レイラ=レイモンド……です」

 

「ほぅ……」

 

 飛び出した名前に、私は思わず声に出してしまった。なかなか面白い人物がハマーン嬢の友人でいたものだ。

 

「レイラ、一緒にここから出よ?」

 

「……本当にいいの、ここから出て?

 それにここから出たって結局……」

 

 ハマーン嬢に促されても、レイラは渋い顔をする。そしてこちらを見る目には、明らかな不安と不信感が見て取れる。ここでの体験によって、我々のような大人を信じられないのだろう。私は苦笑すると、一歩前に出た。

 

「ここでの生活のようなものが繰り返されると思っているのなら、そんなことはない。

 それに……私の傍には君たちほどの歳の子たちもいる」

 

 そう言って私は傍のメイ嬢とマリオンを押しだした。

 

「初めまして、あたしメイ=カーウィン」

 

「マリオン=ウェルチよ」

 

「ここでの生活で大人を不審がるのも分かる。

 だが、この子たちを見て、我々がここの大人たちと同じことをしているように見えるかね?」

 

「……」

 

「レイラ嬢、ここにいては何も始まらん。

 大人が信じられないのであればどうかな、メイ嬢とマリオンの態度を信じるのは?」

 

「……確かに、その2人からはあなたへの親愛を感じる。

 分かったわ、ハマーンと一緒にここから出して……お願い」

 

「レイラ!」

 

 一緒に来てくれることに感極まったのかハマーンがレイラに抱きつくと、レイラも嬉しそうな顔をした。そしてそんな2人に「もう大丈夫」とメイ嬢とマリオンも2人を安心させようと撫で擦る。少女たちの美しき光景である。

 

「さすがシロッコ、幼い少女の扱いは上手いな」

 

「常に紳士として接しているだけだよ、シャア」

 

 何か含みのあるシャアの言い草に、私は肩を竦める。実際、こういう説得のために幼いメイ嬢とマリオンを連れてきたのだ。これは私の作戦勝ちといったところだろう。

 そんな光景を尻目に、私はガルマへと声をかけた。

 

「ガルマ、彼女たちを連れて『ユーピテル』に戻っていてくれ。

 私は、シャアと共にもう一つの用事を済ませてくる」

 

「用事?」

 

「言っただろう?

 私たちはもう1人のお嬢さんを連れに行ってくる。 蒼いドレスの素敵な方だよ」

 

 そう言ってニヤリと笑うと、私はシャアと連れだって歩き出した。

 私にとってはここからがメインイベント、こう言っては何だが、ハマーン嬢たちの件はガルマから頼まれた、ついでに過ぎない。

 私は最初から地球への帰路でフラナガン機関へと行くことを考えていたが、その目的は別にあった。その目的を果たすために、シャアとその場所へと急ぐ。

 その途中、私はふと思ったことを小さく呟いた。

 

「……シャア、よくもハマーン様をああもしてくれた」

 

「? 何か言ったか、シロッコ?」

 

「いや、何も」

 

 今のは私の知る『原作』のシャアへの言葉だ。あの素直なハマーン嬢が、氷の女帝に変わったのはどう考えても『原作』のシャアに問題がある。

 

(しかしこの『世界』のシャアは大丈夫だろう。

 そう信じたいし、そうなる状態にはしないようにせんとな……)

 

 そのためにはこれから行く場所の『アレ』……なんとかせねばなるまい。

 私は気持ちを切り替えると、シャアと共に先を急いだ……。

 

 




みんな大好きはにゃーん様、お友達もセットでお買い得だよ。

これでリザド隊主要なメンバー(女性)はほぼ揃ったかな?
これからは男どもの発掘です。

次回はシャアの搭乗機の登場。もうバレバレですが……。
次回もよろしくお願いします。

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