歴史の立会人に   作:キューマル式

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今回はみんな大好き『あの部隊』の様子です。

そして今回も言ってみたかっただけだろ、な内容。



第25話 重力戦線 戦果報告書(後編)

 暗いコックピットの中、光は計器からの明かりだけ。そんな中を、ソナーと解析された海図情報を頼りに、男は海中で黙々とモビルスーツを進ませる。

 

「……」

 

 男は自然な動作でコックピット脇から煙草を取り出すと火を付けようとしたが、途中で気付いたように手を止めた。この煙草はまだ、吸うべき時ではない。

 

 モビルスーツパイロットは、よく『儀式』を行うことがある。

 例えば任務前に新しい本を買って読まずに自室に置いておく。

 例えば先の休暇の申請書を作っておく。

 例えば酒場で一番高い酒をボトルで買って、封を開けずにおいておく。

 例えば……。

 その内容は様々、意図的にやりのこしを作ったりして『生きて帰る』という思いを新たにするための『儀式』である。

 そして彼にとっての『儀式』こそ、この煙草だ。

 作戦中は決して吸わない。そして終わった後の一服のために、また生き残る……そう決意を新たにしながら煙草を元に戻すと彼……『サイクロプス隊』隊長、ハーディ=シュタイナー大尉は部下たちへ通信を送った。

 

「全機速度このまま。

 予定通り、襲撃時刻は03:00(マルサンマルマル)

 海上は現在ハリケーンによって視界は限りなく悪いとの報告だ。

 戦闘時には周辺警戒を怠らないように。

 ミーシャ、景気付けもいいがほどほどにな」

 

『へへっ』

 

 通信機の向こうで部下のミーシャが笑うのが分かる。大方、また作戦前に一杯あおっていたのだろう。本来コックピット、それも作戦前ともなればアルコールは禁止だが、それがミーシャなりの『儀式』だということを知るシュタイナーは、ただそれだけにとどめた。

 

「ミーシャとアンディは突入後は東側へ進出、目標を破壊していけ。

 ガルシアは俺と一緒に西側から目標を破壊していくぞ。

 敵戦力との交戦は判断に任せるが、我々の作戦目的は忘れるなよ」

 

『了解。

 へへっ……派手なおはようのあいさつと行きましょう』

 

「ガルシア、やる気があるのはいいが足をすくわれるなよ。

 ……時間だ、行くぞ!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 シュタイナーの号令とともに、サイクロプス隊全員のハイゴッグは強襲用ジェットパックの出力を最大にして、海中から一気に空中へと躍り出た。

 下降しながら、全機が右手のハンドミサイルユニットを発射する。そのミサイルは空中で多弾頭に分かれると、さらに空中でバラバラになり、胞子のように何かを広範囲にばら撒く。そして、連邦施設に連続した爆発音が響いた。

 今の大量に分かれたのは吸着爆弾である。広範囲の『建物』を倒壊させることを目的にしたそれは、瞬時にして周辺を瓦礫の山へと変えた。

 連邦の施設からサーチライトが夜の闇を切り裂く。そんな中、瓦礫の山となり炎の燻るそこにサイクロプス隊は着地を果たした。

 

「では作戦通りに行くぞ。

 散開!!」

 

 滑るようにシュタイナーのハイゴッグは疾走しながら、右手のビームカノンを射撃した。夜の闇と嵐の雨によってサイクロプス隊を発見できなかった連邦は慌てて迎撃態勢を整えようとするが、起動したばかりのザクや戦車がそのビームに次々と貫かれていく。

 シュタイナーはビームを受けてドゥっと倒れたザクの脇をそのまま駆け抜け、続くガルシアが倒れたザクのコックピットにバイスクローを突きたて、トドメを刺した。

 そのまま抵抗を排除しながら進んだシュタイナーは目標……基地司令部の建物に辿り着くと120mmマシンキャノンとビームカノンを乱射、瞬時にボロボロになった建物にトドメのバイスクローを突き立てて完全に崩壊させた。しかし、そこでシュタイナーは空中へと飛び上がると、残されていた左手のハンドミサイルユニットを発射する。その弾頭は先が鋭角的になったミサイルが3発へと分離すると、基地司令部のあった場所の地面へと潜り込んで行く。そしてしばしの後に爆発した。

 これはヅダの135mm対艦ライフルを元に開発された特殊貫通炸裂弾、いわゆるバンカーバスターである。基地司令部の地下壕に避難した将官も、これでは1人残らず生きてはいまい。

 その時、同じような音が基地のそこかしこから響いた。それは目標としていた施設……兵舎などの人員収容施設を破壊し、念入りに避難先の地下壕まで潰したという証拠である。

 

「よし、作戦は完了だ。

 戦果を拡大しつつ、撤退を開始する」

 

 言うが速いかシュタイナーは反転、周辺の施設にビームカノンと120mmマシンキャノンを撃ち込みながら後退を開始した。燃料タンクが爆発し、嵐の豪雨でも消えない業火が基地をなめる。

 

「む……?」

 

 見ればホバートラックと歩兵隊が、対戦車ロケットランチャーを必死になって準備していた。シュタイナーは即座に武器を選択するとトリガーを引く。

 ポンッという軽快な音とともに撃ちあがったそれは、歩兵隊の頭上で炸裂した。空中からベアリング弾を浴びせかける対人兵器である。文字通りのベアリング弾の雨によって砕かれ、引き裂かれた歩兵隊は、それ一発で無力化されていた。

 

『うわぁ……ミンチよりひでぇや』

 

「……これも戦争、命令のうちだ」

 

 そう、これも命令のうち。シュタイナーは逃げ惑う敵歩兵や人員へと2発3発と対人兵器を撃ち込む。

 

『そういや、そうでしたね』

 

 ガルシアも頷くと、ビームカノンを乱射し周辺の施設を破壊、シュタイナーと同じように対人兵器により歩兵を掃討しながら撤退ポイント……海へと戻ってきた。

 ミーシャ、アンディのハイゴッグと合流を果たし、シュタイナーたち『サイクロプス隊』は来た時と同じように海の中へと消えていく。

 

「……今回も生き残れたな」

 

 合流ポイントでユーコン級潜水艦に収容されながらシュタイナーは煙草を取り出すと火を付け、大きく吸い込む。

 

「ふぅ……」

 

 シートに深く身体を預け、ゆっくりと紫煙をくゆらせた。

 潜航中の潜水艦は当然換気などできない。だから空気が汚れるような煙草は嫌われる。おまけに整備の若い連中が、計器からヤニが落ちないと愚痴を漏らしていたのを思い出す。

 だが、知ったことか。

 作戦終了後のこの一服だけは誰にも文句は言わせない。

 シュタイナーは生き残ったという証しである煙草を、再び吸い込んだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふむ……」

 

 私は各地からの報告書を読みながら、地球を離れていた間の状況を確認する。

 

「どうやら私の提案した戦略はうまく機能しているようだな」

 

 そう言って私は頷く。

 私は宇宙へ行く前に、この戦争での地上軍の動き……戦略を提案していった。ガルマの口利きもありその戦略は実行に移されている。

 

 連邦の工業力は絶大だ。その工業力を持ってザクの量産を始めた連邦に、ジオンはこれからかなり辛い戦いが予想される。

 この状況で戦争に勝利するために提示した戦略だが……これは至って単純かつ当然の話だった。

 

 

 まず1つ目が、徹底した海上輸送網の寸断である。

 連邦の地上での主な支配領域はジャブローを中心とした『南米』、トリントンを中心とした『オーストラリア東部』、マドラスを中心とした『インド・東南アジア』、ベルファストを中心とした『ブリテン』である。これに北米のフロリダを中心とした地域や一部のヨーロッパ地方が加わるといったところか。

 どんな軍でも補給は最重要課題だ。それに自慢の工業力で兵器を作るにしても、工場までの資源の輸送が必ず必要になる。これらの支配地域は海で繋がっており、海上輸送が重要な役割を持っていた。

 そこでハイゴッグを搭載した潜水艦隊による徹底した通商破壊……『MSウルフパック』とでも呼ぶ戦法で、これらのシーレーンの攻撃を強化したのである。

 いかに国力があろうと、それを支える物資と人の流れを止められてはたまらないはず。今は膨大な備蓄資源で廻っているかもしれないが、そのダメージは連邦にボディブローのようにゆっくりと、そして確実に蓄積されていくだろう。

 

 2つ目……これは戦争の側面を、より強調させたものだ。

 『戦争』とは、国同士の果てしない命の損耗である。そして私の提示した戦略は、言うなれば『徹底した人殺し』だった。

 モビルスーツだろうが他の兵器だろうが、必ずそれを操る『人間』というパーツを必要とする。操る人間がいなければどんな強力なモビルスーツもただの置物になりさがるのだ。しかし、兵器を操るという特殊な技能を持つ人間を作るには大量の物資と、何よりも時間がかかるのだ。基本的には兵士というものは決して、畑では取れないのである。

 モビルスーツなどの兵器生産力……これはどう逆立ちしてもジオンでは連邦には敵わない。それならばその訓練中の人間や、基地への強襲でも『人間』を重視して襲う……徹底した『ソフトキル』の戦略である。

 ジオンは本国が宇宙……連邦からは手の届かないところにあり、人材の育成を安全に行える。しかし連邦は地球という、現在戦端の開かれた地域で人材育成をしなければならない。地球上というだけでは、基本的に安全な『後方』というものがほとんどないのである。しかも、その数少ない安全な後方(ジャブローなど)で育った人材も、先の『MSウルフパック』によって他の地域にほとんど移動できずにいる。

 これを繰り返すことで、連邦の稼働できるモビルスーツの数をハードではなく、ソフトの面で減らすというのがこの戦略の趣旨だ。

 

「しかし……思った以上に優秀だな」

 

 私は報告の中でも特に『マッドアングラー隊』、『サイクロプス隊』、そして潜入工作員の『アカハナ』の戦果が目にとまった。『原作』でも名前を聞く者たちだが、やはり優秀なようである。

 これはガルマに頼んで報償を与えるようにしたほうがいいだろう。特に『ソフトキル』は戦場での戦いと違い、『汚れ仕事』とも言えるものだ。これをしっかりと上の命令でやったと責任の所在をはっきりし、それに携わった彼らを正しく評価してやらなければ組織への忠誠心に関わる。

 それにこれは今回が最初で最後ではない。これからも同種の任務はいくらでも頼むことになるだろう。彼らには気持よく働けるようにしなければならない。

 そこまで考えて、私は苦笑した。

 

「……こんな戦略を平気な顔で提案できる辺り、私は死んだら確実に地獄へ堕ちるだろうな」

 

 だが、私は後悔もしなければ謝罪もしない。

 何故なら、これは『戦争』だからだ。

 『恋愛と戦争はあらゆることが正当化される』、とはイギリスのことわざだっただろうか?

 連邦はなりふりかまっていて勝てるような甘い相手ではない。それに訓練所の襲撃なども、降伏した捕虜を虐殺するような明確なルール違反ではない。

 ならばその手段を躊躇いはしない。

 

「誰かの言葉ではないが……我々は『遊びでやってんじゃないんだよ』ということだな」

 

 そう、これは遊びではなく戦争だ。

 勝利のためにあらゆる手段を尽くす必要がある。

 それに、この手が血塗れなのは今さらだ。死んだ後に閻魔大王のお小言が一つ二つ増える程度のこと、我慢するとしよう。

 その時だ。

 

「お兄さん」

 

「兄さん……」

 

「ん……?」

 

 見ればメイ嬢とマリオンが私のところにやってきていた。

 

「新型機のテストの準備、できたよ!」

 

「もうみんな待ってるわ」

 

「そうか、もうそんな時間だったか……」

 

 私は端末の電源を落とすと、立ち上がって歩き出す。そこを両側に並んでメイ嬢とマリオンも歩き出した。

 向こうを見ればそこにいるのは私の部隊、リザド隊の面々である。

 

「……死なせたくはないものだ」

 

 思わず、私は呟いていた。

 あれだけ散々あくどく手を血で染めながら、何とも虫のいい話だ。しかし、知ったことではない。

 知りもしない地球の裏側の他人と、目の前の手の届く人間の生死を同等に考えられる者などいはしないだろう。そんなものが存在したら絶え間なく泣き続けるだけで人生は終わってしまう。

 それと同じだ。

 所詮顔も見えぬ、名前も知らぬ他人の生死など些細事だ。

 そんなものより目の前の知人の安否を気遣うのはまっとうな感覚だと思える。

 

「え?」

 

「お兄さん、何か言った?」

 

「いや……やることが多いなと思ってな」

 

 そう、やることはいくらでもある。

 それは連邦への勝利のため。

 それはザビ家への復讐のため。

 それは……死なせないため。

 

 私は気持ちを新たに、格納庫へと向かうのだった……。

 




シロッコたちのいない間の地球戦線の様子でした。

重力戦線はシロッコの進言の元、『無制限潜水艦作戦による徹底した通商破壊』と『兵器そのものより人を狙うソフトキル重視の破壊工作』に力を入れています。
正直、真面目に考えてこれ以外に連邦への勝利の可能性がカケラも見えません。

これ以外にNBC兵器やコロニー落としを使わずに連邦に勝つ方法があったら、誰か伝授してください。わりとマジで。

普通なら国家が終わるレベルの状況なんですが……これだけやっても普通に戦争継続できる連邦の工業力と人的資源はチートすぎる……。

そして今回のこれが言いたかっただけだろは『サイクロプス隊のミンチよりひでぇや発言』と『シロッコのあそびでやってんじゃないんだよ』でした。

次回もよろしくお願いします。


追伸:ビルドファイターズトライの第一話は主人公のドムが格好良すぎた。
   走る、ホバーターンを使った回し蹴り、ソフィさん並の正拳突き……まさか主人公の操る格好いいドムが見れる日がこようとは……。
   つーか、走るドムとかトゥルーオデッセイにそんな場面あったなぁくらいしか思いつかん。
   一期の時のギャン推しといい、スタッフには明らかにツィマッドの者がいると見た。

   ツィマッド万歳!

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