とある昼下がり。めぐみんとゆんゆんが庭で座禅を組みながら、ブツブツと何かを呟いている。
「……にいちゃん。ねえちゃん達は、何やってるの?」
「あれはね、食後にああして呟いて、太らない様に自己暗示を掛けているんだ。……こめっこ、みかん食べるか?」
俺は、アクセルに遊びに来ているこめっこに、皮を剥いたみかんを差し出した。
「食べる。……ねえちゃん、寝る前とかにも、あれやってることある」
「それはね、寝て起きたら成長している、寝て起きたら成長している、って寝る前に呟いて、自分に言い聞かせてるんだ。……ジュース飲むか?」
「飲む。……ねえちゃんもゆんゆんも、太らない様に大きくなりたいのかー」
そんな話をしていると、めぐみんとゆんゆんが立ち上がり、こちらへと駆け寄って来た。
「妹に変な事を吹き込むのは止めて下さい!」
「私、太ってませんし! 成長期だから、まだ背も伸びてますし!」
いやまあ、さすがに成長は冗談だが。
どうやら二人は呪文の練習をしていたらしい。
「まほーふはいにとっへ、魔法えいひょうの……んぐっ、早口練習は基本なのです」
「ねーちゃん、わたしのみかんー!」
こめっこが抱いていた籠を取り上げると、めぐみんはみかんを一つをほお張りながら教えてくれた。
「高速詠唱スキルにポイントを振っていても、早口を練習することでより速く、より滑らかに詠唱が出来る様になるんです」
さらにゆんゆんが補足を入れる。
なるほど。確かにそれは、戦略的にも大変重要だ。最も、めぐみんにはそれ以前に、他の魔法も覚えて欲しいのだが。いや、爆裂魔法の威力上昇に全振りしたのは俺だけども。
そんな事を考えていると、めぐみんがこめっこに注意を促した。
「こめっこ、みかんは一つにしておくのです。でないと、晩ごはんが食べられなくなりますよ」
「横暴だ! わたしがもらったみかんなのに!」
怒ったこめっこがめぐみんにまとわりつく。するとめぐみんは、みかんの籠をゆんゆんにパスした。
「えっ? あっ!」
籠を渡されたゆんゆんにこめっこがまとわりつくが、ゆんゆんの背は高い上、どうしていいか判らないゆんゆんは頭上へと籠を持ち上げたため、こめっこが背伸びしても手が届かないでいる。
「ゆんゆんがみかん盗ったー!」
ひとしきりまとわりついていたこめっこは、突然大声で喚きだす。
「ああっ、こめっこちゃん!? ち、違うの! 別に盗った訳じゃあ……! ね、ねえめぐみん、どうしよう! どうしたらいいの!?」
「妹の為にもみかんは死守して下さい。この子は際限なく、夕飯までずっと食べ続けます。そして、お腹が一杯の時に今晩のご馳走を見て、食べたいのに食べられず、泣き出すに決まってます。なので絶対に渡さないでください。
……私達、友達ですよね? 信じてますよ?」
「と、友達!?」
出たよ、伝家の宝刀、「友達」。ぼっちのゆんゆんには効果的なセリフだ。実際今も、「と、友達に頼まれたら、仕方がないよね?」なんて言いながら、心を鬼にしてみかんを死守している。いつもの事ながら、ゆんゆんの将来が心配になってくる。
そんな様子を見ながらめぐみんは、小さく息を吐いてから俺の横へと移動して腰を下ろした。
「もう練習は良いのか?」
「妹に余計な事を吹き込んで、修行の邪魔をしたのはカズマではありませんか。……はあ、今日は天気もいいですし、このまま昼寝でもしますか」
そう言ってめぐみんは、気持良さそうに寝転んだ。
「……みかん食うか?」
「そうですね、一切れください」
俺がひとつだけ取っておいたみかんを剥き始めると、それをこめっこが目聡く見つけ、こちらに駆け寄ってきた。
「私にもください」
「よし、全部あげよう」
「なっ、カズマ!? あなたはどうしてこうも、こめっこに甘いのですか!?」
どうしてと言われても、紅魔の里でのあの暮らしを見ていたら、そりゃあ甘やかしたくなるのが人情ってもんだろ?
めぐみんが慌てて起きあがるが時既に遅く、みかんは全てこめっこの手の中にある。
こめっこはみかんを美味しそうに頬張り、俺の横に座ってから言った。
「にいちゃんは物知りだと聞きました。ゆんゆんをやっつけられる魔法を教えてください」
「こ、こめっこちゃん!」
籠を抱えたゆんゆんは涙目になっている。そんな彼女を見ながらめぐみんが釘を差してきた。
「カズマ。言っておきますが、この子はかなりの才能があります。なので下手に魔法を教えないでください。教え込めばいきなり中級魔法ぐらいは使える様になってしまうかも知れません。……まあ、カズマにたいした魔法は教えられないとは思いますが。……良いですか? どれだけ甘えられても絶対に教えてはいけませんよ?」
「たいしたとか言うな。まあ、俺だってバカじゃない。子供に魔法を教える危険性は理解してるよ」
めぐみんに、心配するなと笑いかける。そんな俺の服の袖口を、こめっこがくいくいと引っ張ってきた。
そして、今にも泣き出しそうな悲しげな表情で。
「魔法……」
「ごめんな。俺はまだ、初級魔法しか覚えてないんだ。次の機会までにいい魔法を覚えておくからな。とりあえず初級魔法でも……」
「カズマ!? 駄目、駄目ですよっ!」
おう!? 思わず教えそうになってしまった。恐ろしい。さすがは魔性の妹だ。しかしこのままってのも……。
そうだ! あれなら……!
「よし。それじゃあ、お兄ちゃんの国でとても有名な大魔道士の必殺魔法を教えてやろう」
「ほんとう!?」
「カズマ!? だ、駄目ですってば!」
俺を止めようとするめぐみんに、大丈夫だと手で制する。俺は立ち上がると、ゆっくりと
「黄昏よりも昏きもの
血の流れより紅きもの
時の流れに
偉大なる汝の名において
我ここに闇に誓わん……」
「!?」
「ファッ!?」
「な、なに!?」
この詠唱に紅魔族の三人が興味を示した。
「……我らが前に立ち塞がりし
総べての愚かなるものに
我と汝が力もて
等しく滅びを与えんことを!」
「カズマ、その魔法はなんですか!? 私の知らない魔法です!」
「にいちゃん、もう一回!」
めぐみんとこめっこが興味を示し、紅魔族の中では一般人寄りのゆんゆんですら、耳をそば立てて近づいて来る。
「この呪文は『竜破斬』と書いて『ドラグ・スレイブ』。俺の国で有名な、天才美少女魔道士が得意としていた魔法なんだ。対象の精神を引き裂き、エネルギーの余波は小さな山を砕くほどの爆発を巻き起こす。その威力はドラゴンをも屠る、必殺の魔法なんだよ」
「ほう……。爆発を引き起こし、ドラゴンをも屠る魔法……。天才美少女魔道士という所といい、私に似た魔道士の様ですね」
「はあ? 何言ってんだ。向こうは様々な攻撃魔法を使いこなし、実力も伴った、世界的にも有名な大魔道士だぞ? 高位の魔の物も何体と倒し、付いた二つ名が『
「パチもん!? 私がパチもんですと!?」
俺は思わず言い返したが、はっきり言って言い過ぎたとは思っちゃいない。天才と言わしめたいなら、あらゆる魔法を使いこなしたうえで爆裂魔法を使えと、声を大にして言いたい所だ。
「いいでしょう! この私の実力を、今からその目に見せてやります! 三人とも、街の外まで来るのです!」
「たそがれよりもくらきもの
ちのながれよりあかきもの……」
どうやらめぐみんの爆裂魂に、火を着けてしまったようだ。
俺達が街の外へ出ようと正門まで向かっていると。
「あ、カズマじゃないか。……なんだかめずらしい組み合わせだな?」
そう声をかけられた。
「お、リアか。今日はひとりか?」
三人組
「ああ。今日は完オフで、エーリカは施設に、シエロは実家に顔を出して来るそうだ」
「なるほど」
確かにそうなると、俺と同じ異世界転生者であるリアは、街ブラくらいしかやる事はないだろう。
「それでカズマは、こめっこちゃんまで連れてどこへ行くんだ?」
「あー……、うっかりめぐみんの爆裂魂に火を着けちまってな。街の外へ連れ出されてる最中だ」
「うっかりって、一体何を……」
そこまで言って、リアはふと気がついたようにこめっこを見る。
「ときのながれにうもれし
いだいなるなんじのなにおいて……」
こめっこは相変わらず、呪文を覚えようと詠唱を続けていた。
「これって……」
「リアも知ってたか」
「作品は見たことないけど、向こうのアイドル時代のメンバーに、これが好きな子がいたからね。というか、これ絡みか?」
どうやら見透かされたようだ。
「まあな。めぐみんをパチもん扱いして、こうなった」
「それは、怒るのも無理がないと思うが?」
いや、わかっちゃいるが、言わずにはおれんかったとですよ。
「まあ、いつもの爆裂散歩の延長みたいなもんだよ」
「そう割り切ってるなら、別に構わないが」
リアはそう言うと、少し思案顔をしてから言葉を続けた。
「……そうだな。私も暇を持て余していたし、たまには爆裂散歩について行ってみようか」
「ほう、なかなか良い心がけですね。では、私の真の力、お見せしましょう」
めぐみんが帽子のつばを持ち、少し引き下げるようにしながら格好をつける。
「まあ、俺からいい点数を引き出せるよう、精々頑張るこったな」
「ええ、やって見せますとも!」
俺の煽りに、俄然張り切るめぐみんだった。
いつもの如く、爆裂ポイントへとやって来た俺達。めぐみんはひとつの大きな岩に目星を付けると、ゆんゆんに声をかける。
「ではゆんゆん。前座としてまず、あなたの魔法をぶち込んでください」
「前座!?」
あまりにもの言い様に、ゆんゆんがショックを受ける。
「さすがにそれは、酷くないか?」
リアも当然、ツッコミを入れる。
「酷いとは何ですか。それならば、そう言わせないだけの魔法を見せればいいだけの事です」
なるほど。自身の正当化という一点を除けば、確かに間違ってはいない。何しろゆんゆんは、めぐみんの自称ライバルなんだから。
……さっきまであの作品の話をしていたせいで、天才美少女魔道士の自称ライバル、その実金魚のうんちの女魔道士を思い出してしまった。そういやあの女魔道士もプロポーション良かったな、とか思ってめぐみんを見た途端。
「何ですか。言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
相変わらず勘が良くていらっしゃる。
「さあゆんゆん。めぐみんを見返すつもりで、ドカンといけ!」
俺はゆんゆんが未だに持っている籠を受け取り、代わりに発破をかけた。
「この男、話を逸らしましたね」
そんなこと言われても気にしない。
「ド、ドカンと……」
ゆんゆんは呟くように言った後、呪文を口ずさみ。
「『インフェルノ』ッ!!」
目標の岩を業火が包み込んだ。
「どうよ、めぐみん!」
胸を張りながら言うゆんゆん。その姿に若干機嫌を悪くしつつも、めぐみんはすぐに気を取り直して言った。
「ほう、また一段と魔法の精度が上がっていますね。前座と言ったことは謝りましょう。ですが、私が本命であることに変わりはありません!」
めぐみんはバサリとマントを翻し。
「さあカズマ、リア、そして我が最愛の妹こめっこよ! 我が力を見るがいい! そして誰が世界最強なのか、その目に焼き付けるがいい!」
「世界最強!? ねえちゃんが世界最強なの!?」
「そのとおり! 我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」
高らかに名乗りを上げ、呪文の詠唱を始める。そんな中、こめっこがポケットからチョークを取り出して、地面に何かを書きだした。
まさか、爆裂魔法の詠唱を書き写してるワケじゃないよな? 気になった俺が覗き込むと、それは……。あ、なんか嫌な予感がしてきた。
そんなこめっこの様子に気づきもしないめぐみんが、呪文の詠唱を終える。
「さあ、見るがいい! 我が最大最強にして究極の攻撃魔法を! 『エクスプロージョン』ッッッ!!」
めぐみんが放った爆裂魔法は、爆焔と共に標的の岩を粉砕し、巨大なクレーターを作り上げる。そして魔力を使い切っためぐみんは地面に倒れ込んだ。
「改めて見ると、本当に途轍もない魔法だな」
「ふむ。爆心は見事中心に標的を捉えていたな。吹きすさぶ爆風といい、綺麗な円形に形作られたクレーターといい、ここ最近でも最高の出来だ。ただ、いいところを見せようと、僅かばかり肩に力が入っていたのがマイナス点だが、それを踏まえても99点といったとこだな」
俺の採点に、少し悔しそうにしながらも満足な笑みを浮かべるめぐみん。
「さあ、カズマ。これでも私をパチも…ん……だと……」
そう言ってこちらに視線を移しためぐみんの言葉っ尻が小さくなってゆく。それに合わせてこちらを見たゆんゆんも、驚きの顔に変わり、さらに訝しんだリアが後ろを振り返り驚愕する。
俺も振り返り、やはりそうだったかと額に手を添えた。
「ええと、なんでホーストがこんな所にいるの?」
ゆんゆんがそんな事を訊ねるが、当然こめっこが呼び出したに決まってる。
「何でも何も、このがきんちょがまた勝手に呼び出しただけだ。おい、下らない用事で呼び出すなと、いつも言ってるだろ」
何というか、悪魔なのに、何だか憐れに思えてくる。
「いけにえのみかんです」
こめっこがみかんをホーストに手渡す。
「わが使い魔ホーストにめいず。ねえちゃんが最強らしいので、このいけにえでねえちゃんをやっつけてください。そうすれば、あるじの私が最強になれる」
「こ、こめっこ!? なな何を言ってるのですか!? カ、カズマ達もこめっこを止めてください!」
物凄く慌て始めるめぐみん。そりゃ、たった今爆裂魔法を撃ち終わったばかりで、既に魔力切れ状態。お陰で体も動かせないとなれば、慌てるのも無理はない。
俺としてもこのままにする気はないが、少しばかり揶揄ってやることにする。
「俺が話した天才美少女魔道士なら、こういう危機も乗り越えられるだろうなー」
「うぐっ!?
……こめっこ。お姉ちゃんと話をしましょう。まずは一緒にみかんでも食べませんか!?」
みかんでこめっこを釣るめぐみんであった。
前書きにも書きましたが、ストーリーの構成はWeb版と基本変わっていません。ただ、このファンのオリジナルキャラクターであるリアが出ていたり、こめっこが呼び出す悪魔もこのファン向きに変えています。
あと、このあとオリジナルで書く予定の「このファンコラボイベント風ストーリー」の為の足がかりだったりします。