密かにアイドルを目指していたら「君となら命の重さを知れるかもしれない!」と半狂乱の大看板俳優に狙われ始めた 作:SUN'S
私は「劇団ララライ」の舞台女優だ。
今は端役や脇役をやってコツコツと経験を積み重ねてしっかりとした土台を作っている最中だ。また、こういうのは大事だとどこかで言っていたような気がするからやってきるだけだけど。
この「劇団ララライ」は実力主義だ。
すごい才能があれば天辺に行けるけど、才能が無ければ底辺街道を真っ直ぐに進むしかない。私は中堅程度の演技力とえげつない眼力でアピールはしているつもりだ。
そのせいなのか。
私は「劇団ララライ」の大看板俳優であり教育係を担当してくれた神木ヒカルに気に入られた。いつも本心の乗っていないニコニコと偽りの仮面を被っている神木さんは薄気味悪い。
いや、正直に言えば気持ち悪いのだ。
いつだったのかは覚えていないけれど。
おそらく「命の重さについて、どう思う?」という神木さんの質問に答えて以降、あの人は私を気に入り始めた。まるで「同類と出会えたような笑顔を浮かべながら」というのがつくけど。
「おはよう、泉」
おはようございます、神木さん。
いつものように「劇団ララライ」の所有する施設の出入り口で出迎えてくれた神木さんに挨拶する。どこか期待に満ちた表情で私を見つめる彼を無視して更衣室に向かうことはできる。
しかし、面倒臭いのでしない。
「この前の答えを聞きたいんだ」
そう言って私を壁際に押さえ込み、じっとりとした眼差しで私を見つめる神木さんを見上げる。…よくよく考えるとこれが人生初の壁ドンなのでは?とショックを受けながらも「命の重さは不平等、相手の命を貪り喰らった分だけ重さを増す」と答える。
「ああ、そうだ!!やっぱり君となら命の重さを本当に知れるかもしれない……僕の本心を分かってくれるのも君だけだよ、泉っ!」
神木さんはギューーーッと私を抱き締める。そういうのは恋人にするものなのにいいのだろうか。なんて考えていると耳を噛まれた。
やめてよ、そういうのはさ。
「ふふっ、かわいいなぁ…」
神木さん、怒りますよ?
そう睨み付けながら言うと「勿論、好きなだけ怒っていいよ。その分だけ君の心を占領できる!」と嬉しそうに宣う彼に呆れる。この人の本性を誰も知らないのがほんとに不思議だ。
「泉、僕を殺したい?」
「そう思ってたらとっくにやってますよ」
嫌々ながらも神木さんの質問にはっきりと答えて女子更衣室に入る。さすがに更衣室の中まで入ってくることはないが、神木さんは絶対に更衣室の外で待っているだろうね。
そんな確信と信頼を持って更衣室を出る。
真っ正面の壁にもたれ掛かって待っているのは流石に予想外だった。もうちょっとドアを開けるときはゆっくりとしようかな。
「ああ、ほんとに最高だよ、泉…!」
うっ、なんかゾワッとした。
〈神木ヒカル〉
舞台俳優。
「劇団ララライ」の大看板俳優。まだ中学生ながらも何十本と主役を務めている少年であり真の理解者を得ることが出来たと少しだけ舞い上がっており、何かにつけて彼女と行動を共にしようとしている。