魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~   作:唐揚ちきん

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第一話 復讐するは『俺』にあり

 死者の蘇生。並行世界の観測。上書きされた過去への時間遡行。

 一樹(かずき)あきらは何だってできた。

 神様みたいに何でもやれた。

 それこそ、宇宙をメチャクチャに叩き壊すことだって可能だった。つーか、実際できたしな。

 だが、たった一つ。

 だったの一つ最後の仕上げをしくじったせいで、因果律ごとその歴史が綺麗さっぱり消え失せちまった。

 台無しになった一樹あきらから出たのは笑いだった。

 そうだよ。笑い。つまり、大爆笑。ネットなら“w”がいくつも並ぶ例のアレ。

 ……いや、言い訳はしねぇよ? ケチの付けようがなく、一樹あきらは負けたんだ。

 しかも、円環の理どころか魔法少女ですらない、とっくに死んでた雑魚の人格を焼き写しただけの『悪意の実(イーブルナッツ)』如きにひっくり返されたと来てる。

 それは認める。ぜーんぶ認めるぜ。一樹あきらへの敵愾心(あお)って都合良く操ってた、魔法少女を助けたいだとか願ったあのチンケなサソリ野郎に俺は敗北したんだ。

 でも、何もかもが思い通りになった瞬間、『つまらねーな』、『こんなモンか』って思ったのも嘘じゃねぇ。

 だから、最後の最後でちゃぶ台返しキメられた時、無性に笑えた。

 ああ、こういうのもアリっちゃアリかと思えた。

 ただ、同時に一樹あきらはこうも感じた。

 “まだまだ魔法や奇跡には、しゃぶり甲斐がある”ってな。

 そして、一樹あきら(おれだったもの)は消滅の間際に、四分割した自分の魂に人格を複写して、並行する別の宇宙に送り込んだ。

 この最高に笑える世界を愉しむために。自分が喰いきれなかったゴチソウを代わりに堪能させるために。

 『俺』を……。

 『俺たち』を、創った。

 

 これはそうして生まれた『小さな破片(おれ)』の物語。

 だから、魔法少女が主役を張るハートフルな物語とか、魔法少女を助けて気持ち良くヒーローやるような物語を期待してんのなら、悪いことは言わねぇよ。

 さっさと出口に向かった方がいいと思うぜ。

 サディスティックな物好きか、もしくは逆に幼気な少女に感情移入するタイプのマゾならまあ……それなりにイケるかもな。

 何せ、これから起きるのはそういう趣向の興行。

 ちょっした『復讐()劇』ってヤツなんだから。

 

 

 ***

 

 

 “そこ”へ辿り着いた時、すぐに分かった。

 『()()()()()()()』ってな。

 その宇宙に纏わり付いている気配が澄んでいる。

 余計な概念が張り巡らされてない、手付かずの 未開拓地(フロンティア)

 幸先がイイ。きっと俺の日頃の行いがいいからだろうな。まだ生まれて間もないけど。

 多次元宇宙でも円環の理に支配されてない世界はなかなかに希少(レア)だ。

 他の破片(きょうだい)がどこへ飛ばされたのかは知らないが、ここよりは上はまずあり得ない。

 ま、俺のためにも、せいぜい(デコイ)頑張ってくれやって感じだ。

 ルンルン気分で降り立った空間は、街の端にある寂れた廃工場内の片隅。

 そこで出会(でくわ)したのは──魔法少女が魔法少女に喉笛を掻っ(さば)いている場面だった。

 

「……さよなら」

 

 灰色の髪を一纏めにした魔法少女は返り血を浴びて、赤く汚れた片刃の剣を軽く振る。

 刀身にこびり付いた血を払われ、飛び散った。

 薄汚れた廃工場の床に仰向けに横たわる赤毛のツインテールの少女は喉の一部と、襟首に付いていたブローチ状のソウルジェムを抉られ、血溜まりに沈んだ。

 付随した魔力が抜け、魔法少女の衣装から戻ったどこぞの学校の制服には喉から垂れる血が(にじ)んでいた。

 灰髪の魔法少女はセーラー服の襟が付いたロングコートを(ひるがえ)し、殺人現場から颯爽と離れて行く。

 ……ってオイオイオイオイ。

 マジかよ。コイツ……。死体そのままにして、帰る気かよ。

 燃やすなり、溶かすなりするだろ普通。

 せめて、埋めるか、河川に捨てろよ。死体遺棄の基本だろうが。

 パパとママに『人を殺したらお片付けしましょう』って教わらなかったのかよ。育ちが悪いにも程があんだろ。

 まったく最近の魔法少女はマナーってのがなってないぜ。

 まあ、でもちょうどいいや。

 部屋の角から投げ出された死体の傍まで浮遊した俺は、波打ち際に打ち上げられた魚のような目を覗き込む。

 うむうむ、モノの見事に死んどるなぁ。どう(くつがえ)しようもなく、この子は死んでいる。

 出血多量や窒息じゃあない。ソウルジェムが砕かれたことによる即死。

 手慣れてやがるな。間違っても初犯(ハジメテ♡)じゃねぇ。

 ソウルジェムを狙いを定めたこの殺害方法は『魔法少女の本体がソウルジェムである事実を知っているヤツ』の手際だ。

 グリーフシード目当てなら持ち物くらいは漁るだろう。周囲には破壊の痕跡はないから直前まで争っていた訳でもない。

 わざわざ反撃のリスクを背負ってまで正面から殺していったところから見て、機械的に排除を繰り返しているのとも違う。

 遊びがない癖に、死体の処理には無頓着。

 別れの台詞まで用意しておいて、殺した相手の(とむら)いには興味を持たない。

 一貫性に欠けたチグハグな行動。まるで出来の悪いAIのNPCの動きだ。

 まあ、頭のおかしいヤツってのはどこの世界にも居るモンだ。どうでもいいな、うん。

 俺は灰髪の魔法少女への考察に飽きて、当初の目的に取りかかった。

 喉に開いた傷口へ自身を滑り込ませて、肉体に定着させていく。

 空になった肉体との接続及び、損傷の修復、生命活動に必要な諸々の再開。後は俺が動かし易いように調整して──。

 

「あー、あー。声帯テス声帯テス。よっし」

 

 ──再起動(ソセイ)、完了。

 聞き慣れない甲高い声音はイマイチだが、これもその内慣れるだろ。

 視界がクリアになったと同時に、生温い血溜まりから身体を起こす。

 制服にじっとり染み込んだ血生臭さが、俺に食欲を沸き起こさせた。

 

「レバーとか食いてぇな。生のヤツを丸噛りしてぇ……」

 

 首の根元に埋まった鉱石状の本体を指先で撫でつつ、近くに見た目を確認できる鏡代わりのものがないか探す。

 廃工場とはいえ、割れてない窓の一つくらいは残っているはずだ。

 少しうろついた後、ようやく見つけた(ひび)だらけの窓ガラスに自分を映した。

 髪型を短めのツインテールにした垂れ目の女の子。

 太っている訳じゃねぇが、全体的に丸っこいイメージがある。

 柔和で人懐っこそうな顔立ちは背格好以上に幼さが引き立っていた。

 指で作ったピストルを顎に添えて、ドヤ顔で覗き込む。

 

「ま、悪くはねぇ。イイ線行ってるぜ。クラスのマドンナにはなれねぇけど、コアな男子からはそれなりにモテてそうな女子ってとこだな。磨けば光るぜ、多分」

 

 その後、セクシーポーズやアイドル風決めポーズを取って遊んでから、脳に焼き付いている記憶を再生した。

 脳内で流れ出す情景は、この魔法少女が見ていた死亡する数分前の映像だ。

 髑髏(どくろ)の付いた巨大な花の魔女との戦闘。突如、そこへ割り込むように現れた灰髪の魔法少女。

 魔女から伸びた触手を巧みなステップで避け、本体を片刃剣で十字に切り裂き、締めは炎の魔法で丸焼き。

 卒のない戦術は場数の多さから来るモンだろう。充分、ベテランと呼んでもいいレベルだ。

 

『あの……。助けてくれてありがとう……あなた強いんだね!』

 

 掛けられた声に振り返った灰髪の魔法少女の顔が正面に映る。

 整った顔立ち。やや吊り目気味の瞳。左目の下に泣き黒子。

 これが下手人のご尊顔か。クール系の美人だ。イイね。こういう澄ました面の女の子は泣き崩れた時のギャップが(そそ)る。

 

『さっきの炎の魔法でしょ? かっこよかった!』

 

 褒め言葉に対し、灰髪の魔法少女は機嫌を損ねたように顔を背けた。

 その反応は言われた言葉そのものではなく、その言葉を聞いて連想した何かを振り払う仕草に見えた。

 もっとも素直に自分の失言と感じたようで、この身体の持ち主ちゃんは謝罪する。

 

『あっ、ゴメン! 何か悪いコト言っちゃったかな?』

 

『……ううん。何でもないわ。それより自己紹介がまだでしょ? 私はスズネ。あなたの名前は?』

 

 さっきまでの態度の悪さから一転して、目を細めた優しげな笑顔を浮かべる灰髪の魔法少女改め、スズネちゃん。

 う〜ん、見事な営業スマイル。露骨ですねぇ。この切り替え方は違和感バリバリですよ、奥さん。

 

『…………あっ、えーと、そうだよね! アハハハ……私はカナミって言うんだ!』

 

 この肉体の本来の持ち主、カナミちゃんも変わり身の早さに面食らっていたようだが、人を疑うってことを知らないのか誤魔化し笑いをして、名前を答える。

 

『カナミ……良い名前ね』

 

『そっ……そうかなぁ? ありがとう』

 

 朗らかな笑顔で名前を褒められて満更でもないように照れるカナミちゃん。アホですねぇ。騙されるために生まれてきたような子ですねぇ。

 気分を良くしたカナミちゃんは、スズネちゃんに右手を差し伸べて、信頼の証とばかりに握手を求める。

 

『まあ、とりあえず……よろしくね! スズネ!』

 

 この子の視点だから当然、カナミちゃん自身の顔は映らないものの、能天気な笑みを浮かべてる絵が想像できる。

 冷静に考えても、何で技量が遥か格上の相手へ対等な態度取ってるのか意味不明だ。アンタ、相手の胸先三寸でどうとでもなる立場だぞ?

 もうちょい(へりくだ)らんか、普通。

 

『ええ……』

 

 スズネちゃんの作り笑いが消え、目線が首の辺りへ降りる。

 バッチリ狙われてるわ、これ。首元のソウルジェム、ターゲティングされてる。

 しかし、カナミちゃん。この時点でも呑気! 実に呑気! 多分、「これからは二人で魔女退治していくんだ」とか考えています!

 スズネちゃんの右手は何故か左の腰元へ伸びております! で・す・が、脳ミソお花畑少女、カナミちゃん! 未だ気付いておりません!

 どこまでおめでたいのでしょうか! アータは天敵の居ない島で育ったドードー鳥か!

 ジャキッと硬い金属の物体が構え直される音が聞こえる。しかし、可愛らしいドードーちゃんにはその音が何を意味しているのかも分からない。

 そして、俺がこの場所へ着いて最初に見た光景が一人称視点で繰り広げられ、記憶の映像はそこで途切れる。

 まあ、こうしてカナミちゃんの喉はスパッといって、ピシャッと血が出た訳だ。

 両目を見開き、罅割れたガラスに反射する姿を眺める。

 にんまりと余裕ある笑みを浮かべたカナミちゃんへ、俺は言葉を吐いた。

 

「……カナミちゃん。アンタは俺じゃねぇ。だけど、今の俺はアンタな訳だ」

 

 一樹あきらだった時であれば、絶対に浮かばなかった思考。

 肉体から分離し、魂まで分割されたせいで揺らいだアイデンティティのせいか。

 はたまた、記憶を追体験したせいで多少なりとも感情移入したのか。

 どっちにしろ、俺はもう一樹あきらには戻れない。

 

「行き掛けの駄賃だ。どの道、失った魔力は補充する必要もあるしな。……アンタの代わりに仇を討ってやるぜ」

 

 血で汚れた制服が、真っ白いガウンへと変わる。

 手のひらに握るよう作り出した、穂先が二股に分かれた金色の両刃剣でガラスを叩き割った。

 砕けたガラス片が床に散らばり、窓から入り込む夕陽を反射してキラキラと光る。

 

「スズネちゃん……俺が殺してやるよ」

 

 今日から俺が、カナミちゃんだ!

 だったら、面白おかしく復讐ってヤツを愉んでやる。

 待ってろよ。スズネちゃん。

 アンタは俺が懇切丁寧に切り刻んで、殺してやるからな。

 俺はこれからスタートする新しいゲームに喜びを感じて、打ち震えた。

 




削除してしまった『魔法少女すずね?ナノカ∼Glitter Piece∼』のリブートになります。
色々と要らない要素を削り、書きたいコンセプトを全面に押し出した結果、かなり続編としての色合いが強くなってしまいました。
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