魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~ 作:唐揚ちきん
私の名前は
ホオズキ市立西中に通う中学二年生! 好きな食べ物は焼き芋!
好きな色は赤と白。趣味は貯金! おばあちゃんが大好きなどこにでも居る女の子!
でもね、でもね……その実体は魔法少女なの!
スゴい? スゴいよね!? うんうん。そうだよね!
「まあ、そのすごいカナミちゃんは昨日おっ
脳内に残ってる情報からカナミちゃんを俺なりにエミュレートしたモノローグをしてみたが、やっぱりこのテンションを維持し続けるのは俺でも無理だわ。
大体、記憶の中にある会話でも常に言葉尻にビックリマーク付いてるような女の子、やべーだろ。明るいを通り越して、アッパー系のおクスリやってんのかってレベルだぞ。
あの後、カナミちゃんの家の場所を記憶から引きずり出して帰宅した俺だったが、血塗れの制服を一緒に暮らしているお婆ちゃんに目撃されてしまい、色々と面倒くさい言い訳をする羽目になった。
具体的に言うと、車に
いっそ、殺してしまおうか若干迷ったものの、カナミちゃんの記憶によれば、料理の腕は良いらしいので始末は当分見送るつもりだ。
その甲斐あって、昨日の夕飯の肉じゃがはなかなかイケた。レバ刺しじゃなかったのが難点だったが、まあまあの満足度だった。
加えて、俺だって別に老婆を殺して悦に浸る趣味はねぇ。老いさらばえたシワシワなババアの死骸なんぞに興味もないしな。
むしろ、可愛い孫娘が別人に成り代わられた事実を教えて、外部に助けを求めるも痴呆扱いされるって展開の方が面白そうだ。
だけど、今は余計なことして引っ掻き回さず、スズネちゃん抹殺に向けて、情報収集に
つー訳で……。
俺はカナミちゃんの通うホオズキ私立西中学校、通称『西中』に登校してみましたぁ。
ワーワー、パチパチ。
ちなみに汚れた制服の上着はただいま絶賛クリーニング中なので、ジャージの上着を
無難な市立の中学ということもあってか、校門に風紀委員や生活指導の教師が服装検査しているということもなく、普通に校門を通り抜け、二年の教室まで向かった。
途中、スズネちゃんが万が一、この学校の生徒であることを考え、他学年の教室まで見て回ったものの、それらしい生徒は見つからず、断念する。
流石にそこまで運よく再会とは行かないらしい。行ったら行ったで興ざめだからいいけどな。
教室のドアを開いて中へ入ると、一人の女の子が反応して声を掛けてくる。
「あ。おはよー、カナミ。ジャージ登校とか
「ふっふっふ。カナミちゃんは生まれ変わったのだよ、チミィ」
何キャラなの、それー、とノリの良い受け答えをしてくれるのはカナミちゃんの友達のユタカちゃん。
昭和の香りがほのかに香るクソダサリボンさえやめれば、そこそこ男子にモテそうな女の子だ。
最近、カナミちゃんが魔法少女になったせいで友達付き合いが悪くなってるものの、以前と変わらず、仲良くしてくれる相手でもあるらしい。
ユタカちゃんの机の上に尻を乗せて、顔だけそっちへ向ける。
「まあ、私が転生系オシャレ番長なのはこの際、置いといて。ちょっちユタカに聞きたいことあるんだけど」
「置いとくんだ。いつもと違うベクトルでテンション高いねー。それであたしに聞きたいことって?」
「最近、この辺で面白いウワサ話とか聞いてない? 年頃の女の子が首ちょんぱされたとか」
理由は分からないが、あのスズネちゃんがカナミちゃんの時のように魔法少女の惨殺と死体放置を繰り返しているのなら、近場で同じ手口での犯行が起きている可能性は大いにある。
スマホで調べるのもありだったが、昨夜、夕飯を食べた後、風呂場で女の子の身体の神秘を調べるのに夢中で忘れちまった。
だが、まあ、その甲斐もあって、今朝の下着を選ぶ時に何も感じなくなるほどカナミちゃんの肉体を知り尽くすことができたので結果オーライだ。
しっかし、カナミちゃん、可愛いマスコットがプリントされてるパンツ。あれは流石にねーわ。
子供っぽいヤツしか持ってないとは思ってたとはいえ、ストライプや水玉模様すら一枚もないとは思わないだろ……。
今度、おばあちゃんにスケスケの大人っぽいパンツをねだろうと俺は心に誓っていた。
「首ちょんぱって、あんたそれ、面白い話っていうかグロ話じゃん。ていうか、連日取り沙汰されてるニュースだけど、カナミ知らないの?」
「うん。カナミちゃん、知らないの」
「……あんたねぇ」
呆れ顔で溜め息を吐くユタカちゃんだが、これはマジな話だ。
ここ最近あるこの子が興味を示したテレビの内容では教育テレビ番組で放送されていた着ぐるみマスコットの中の人が急に変わったってことぐらいだ。
多分、何らかの大人の事情が働いたっぽいがカナミちゃん的にはメチャクチャショックだったらしい。
「ここ最近あった話の中じゃ大分メジャーだよ」
そういう語り口でユタカちゃんが話し始めたのは、一ヵ月前から近隣の街で起きている連続殺人事件。
被害者の数は二名。いずれも十代の女の子で、死因は刃物による切り傷。
「近場でそんな事件があったもんだから『キリサキさん』なんて怪談めいた都市伝説まで作られてるし……」
唐突に謎の人物名が入ってくる。
話の内容が内容だけに口が重くなりそうだったので、もうちょい景気よく話してもらうためにここはボケを少々、隠し味。
「霧崎さん? 誰? ユタカの
「ピッピでもピクシーでもないわ! そういうウワサ話があんの! ……どんだけ世の中の情報シャットアウトして生きてんの、あんた」
「ホントにねぇ」
「何で他人事なのよ」
他人だからに決まってんだろ。
まあ、いいや。そこら辺は説明できないしな。
ユタカちゃんのボルテージが高まってきたところで、話を元に戻す。
「それでそれで? 『キリサキさん』っていうのは」
「さっきの殺人事件が出た辺りから、流行り始めたウワサ話だよ。
そして、その女に名前を聞かれて、素直に答えると刃物でズタズタに切り裂かれて殺されてしまう。
切り裂いて殺すことから、通称が『キリサキさん』。
あと、“切り裂きジャック”の流れも確実に入ってるだろうな。
何とも捻りのないネーミングセンスだが、総じて怪談話のタイトルは分かり易い方が記憶に残るモンだ。
この話を最初に流布したヤツがそれを分かってやったのなら、存外知恵が回るのかもしれねぇ。
そう考えた俺だったが、そこで違和感を覚えた。
「……ん? 待って。それ、おかしくない? 最近ニュースで連続殺人と取り上げられてるぐらいだから一件目と二件目ってスパン短いよね。ってことは二件目の殺人が起きたのって最近ってことでしょ?」
「え、まあ。そうだけど……所詮、色んな人の口で
その理屈は正しい。怪談系のウワサ話なら多少尾ひれが付いて、退散の呪文だの回避方法だとが追加されていくし、話の内部でさえ整合性が取れなくなることもある。
だが、その連続殺人事件が元ネタだとするなら、ターゲットが『十代の女の子』って部分が入ってないってのは妙だ。
一番この手のウワサ話を振り撒くのは中高生だ。それ誰彼構わず襲うよりも無力な少女を明確に狙っている設定が“想像し易い”。
ビジュアルとして想像し易いってのはウワサ話の中でも取り分け重要なポイント。伝聞形式で広がった結果、どこかで削れたと考えるにはデカ過ぎる要素だ。
だと、するなら……最初に創られた時点で意図的に含まれなかった可能性が高い。
何よりおかしい点が、もう一つある。
「まだ
これが四件や五件も続けば、怪談じみて来ることは分かる。
しかし、たった二件。それも一回に一人ずつしか殺されてない時点で流行るほどのウワサ話になるか?
いくらニュースで取り沙汰されているホットな話題だとしても、ウワサ話として怪談化するのが早過ぎる。
二件目の殺人事件が起きた直後、意図的に拡散でもしなければこうはならないはずだ。
「二件しかって、カナミねぇ……」
何か言いたげな目で見てくるユタカちゃんだったが、俺はそれをあえて無視して気になっていたことを聞く。
「あと、何で連続事件って断定されてるの? 同一犯だって分かる特徴的な殺害方法とかもニュースで出てた? 死体から内臓とか子宮とか持ち去られたり、猟奇的な手口があったりとか?」
「いや、それは言ってなかったと思う……刃物による切り傷としか。犯人の特定なんて全然できてないらしいよ。まあ、ニュースっていっても一般で出回ってる情報って制限かかってるだろうし」
俺の圧に押されて、若干引き気味になりながらもユタカちゃんはしっかりと答えてくれた。
だとすると益々ウワサ話の妙な点が浮上する。
『鈴の音』、『コートを着た女』。これらはウワサ話の方のみにある情報だ。
被害者は殺されているし、そんな目撃情報があったなら鈴の音は置いといても性別くらいは公表されるだろう。
カナミちゃんの記憶を辿れば、魔女と交戦中にスズネちゃんが割り込んできた時、鈴の音が響いていた。
十中八九、連続殺人事件の犯人はスズネちゃんだとして、この妙なところで事件より詳細なウワサ話の出どころは一体どこだ?
……安直に考えれば、スズネちゃんが真性のサイコパスで自分でウワサ話を広めてるってオチなんだろうが、俺の直感は違うと言っている。
恐らく、この事件の裏にはスズネちゃんの強行を知りつつ、それをウワサ話として広めている第三者が居る。
そんな気がするぜ。するったらするんだぜ。ほぼ勘だけど。
熟考している俺を眺めて、微妙な表情を浮かべたユタカちゃんが言う。
「……カナミ。あんた、最近付き合い悪いけど、実は探偵ごっこでもしてんの? それにしては全然情報収集できてなかったみたいだけど」
「お。それいいね。タイトルは『穂香一少女の事件簿』。決め台詞は『おばあちゃんの夕飯にかけて!』」
「一はどこから来たの。そんで、おばあちゃんの夕飯に何をかけるつもりなんだよ?」
「ソースか、マヨネーズかな?」
「丹誠込めて作った料理にそんな調味料かけられたら、あんたのおばあちゃん、泣くよ?」
そんなこんなで友達と馬鹿話で盛り上がってるとホームルームの五分前を知らせるチャイムが鳴る。
俺としたことが、思ったより真剣に話し込んでいたらしい。
「ほら、チャイムなったよ。自分の席に帰った帰った」
ユタカちゃんは面倒そうに手をひらひらさせて、俺を机の上から追い払う仕草をする。
うーん。意外にドライじゃん。
仕方なく、俺は机からプリチーなお尻を降ろすと振り返って、言った。
「いや、今日は授業は休もうと思う」
「はあ? 登校してんのに?」
「登校するかどうかは私が決めることにするよ」
「唐突なサム八語録……」
マガジンは知らないけどジャンプは愛読しているらしきユタカちゃんに背中で語りつつ、俺は教室を後にする。
先公と鉢合わせたら面倒なので女子トイレに入って、誰も居ないことを確認した後、固定されている窓を力づくでこじ開けて、外へダイブした。
三階だったが、難なく着地し何食わぬ顔で裏門を飛び越えて、学校から出る。
さてはて、どこから調べましょうかねぇ。
俺はジャージのポケットに手を突っ込んで、おもむろに歩き始めた。