魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~   作:唐揚ちきん

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第三話 正直な答えは真の友情の印

 午前九時半。真面目な学生が授業を受け、勤労な社会人が業務に励む時刻。

 俺はホオズキ市内をうろついていた。

 この地域にはカナミちゃんが通う西中以外にもう一校、中学校がある。

 それが茜ヶ咲中学校。

 たった今、俺が到着した場所の名前だ。

 

「魔法少女って言やあ、やっぱ女子中学生だからな」

 

 施錠された正門を飛び越え、ダイナミック無断侵入を敢行した俺は何食わぬ顔で構内へ一階の渡り廊下のから校内へ入った。

 念の為、ジャージのジッパーを下ろして学校指定のデザインが視認しづらく着崩す。これはこれで見つかれば生活指導されそうだが、別にそこまで長居をする気もないので生徒目線で騒がれなければ充分だ。

 ローファーから持ってきていた上履きに履き替え、教室を見に行く。

 二階に上がると、教室に付けられたプレートが『3』から始まっていた。多分、階層は三年教室、二年教室、一年教室の順になっているんだろう。

 低学年ほど階段を上らされる仕組みになっている訳だ。ちなみに西中は逆に高学年ほど階層が上がっていく。

 教室側にもやたらとデカい窓が付いているので、俺は適当に横目で眺めながら授業風景を観察する。

 進学校なのか、わりと真面目に授業を受けている生徒が大半を占めていて、黒板の代わりに壁に付いたホワイトボードに記載された内容を板書している光景が散見できた。

 やはりここにもスズネちゃんの姿はない。カナミちゃんより身長がやや高めだったので範囲として三年生から二年生辺りを想定していたが、意外と一年の可能性も出てきた。

 そろそろ二年の教室を見に行こうかと思い始めた頃、女子生徒の一人が目に留まる。

 ロングの金髪で女子にしてはやや長身。だが、スタイルが良いせいノッポには見えない、そんな感じの女の子だ。

 顔立ちはかなりの上玉。分かり易く男子に人気がありそうな美貌。

 だけど、俺が興味を引いたのは(ツラ)でも身体(カラダ)でもない。肉体を動かしている魔力の波長。

 ソウルジェムによる反応があの子から伝わってくる。もっとも視認できる距離まで近付いてようやく感じ取れるぐらいの微弱な波長だ。

 スズネちゃん本人じゃあないにしろ、収穫ありだな。

 向こうも視線に気付いたようで、顔をこっちに向ける。

 せっかくなので、にこやかな表情で俺は手を振ってやる。

 感情エネルギーの補給としてここでソウルジェムを食いちぎっておきたいところだが、他学年の教室も見ておきたい。

 昔の俺なら後先考えずに教室を襲ってクラスメイトごと惨殺していただろうが、現状、俺がどのくらい弱体化しているか不明な以上、大暴れは我慢する。

 ……やだわぁ、大人なしい対応なんて俺らしくもねぇ。

 快楽のままに暴力を振るうあの日の姿は何処へやら。これも魂が分割された影響なのかねぇ?

 悲しみを感じつつ、三階に上がると予想通り、二年の教室が並んでいた。

 また窓から眺めて、ソウルジェムの反応探しタイムに突入する。

 今度、見つけたのは二人。

 一人はピンク髪をツーサイドアップにした子。もう一人は青髪を高めの位置でポニーテールに束ねた子。

 ピンクちゃんの方は注意力散漫で俺の視線にも気付かなかった。

 青ちゃんの方は三年の金ちゃんよりも反応速度は遅かったものの一応、俺の存在に気付いて、視線を返してくれた。

 練度的には『ピンク<青<金』ってところか。実力については固有魔法や頭の回転を考慮するからまだ何とも言えねぇが。

 青ちゃんにはおまけで投げキッスまで付けてやったが、何でか微妙な顔をされた。まったく、サービスし甲斐のない子だぜ。

 最後に四階の一年教室へ向かおうかと階段を上りかけたところで授業終了のチャイムが鳴り響く。

 頃合いだな。一年生にも魔法少女が居るか確認しておきたかったとこだが、ここらで一旦帰るとする。

 俺は移動教室の集団に紛れて階段を下り、適当なところで別れて一階の下駄箱前までやって来る。

 肩掛け(カバン)にしまっていたローファーに履き替えて、当たり前のように昇降口から出て行く。

 最低でもこの学校に三人の魔法少女が在籍していることは把握できた。ある程度、練度の高い魔法少女も居ることからお互い周知の仲と考えていい。

 目的のスズネちゃんは見つけられなかったが、それでもあの子の狙いが魔法少女の惨殺なら彼女たちがターゲットにされる可能性は極めて高いだろう。

 コイツらを餌にして、スズネちゃんがのこのこ現れたら、速攻で強襲(アサルト)。三人がチームを組んでいて、なおかつスズネちゃんとエンカウント時に囲んでいた場合に限り、生還して漁夫の利だけもらう。

 方針としちゃ、こんなモンでいいだろ。

 俺はグラウンドを堂々と横切り、正門の方へと向かう。

 途中、体育の授業で使った備品らしき三角コーンを片付けている女子生徒の一人と擦れ違った。

 緑色のお下げが付いたシニヨンヘアの女の子。

 今日見た中でも一際手間が掛かってそうな髪型だと思ったが、それよりもその身体から薄っすらと染み出る魔力の波長が目に入る。

 流石は俺。持ってるなぁ。根っからの主人公属性っていうのか、俺を中心に世界は回ってるんだなぁ。

 見逃しかけた四人目の魔法少女。

 それを見つけて、顔がニヤけそうになるのを堪えて、俺はその子に話しかけた。

 

「大変そうだね。体育の後片付け?」

 

「え? あ、うん。そうだけど……」

 

 緑ちゃんはいきなり話しかけられて戸惑いながらも会話に応じてくれる。

 うんうん。良い子だ。コントロールし易そうで実にステキ!

 

「あなた、魔法少女でしょ?」

 

「え゛……。ナ、ナンノコト? マツリ、ゼンゼンワカンナイヨー」

 

 一瞬で顔が強張った後、面白いくらいに目が泳ぎ、抑揚(よくよう)を欠いた棒読みになる。

 それより一人称、名前なのか。なかなかに痛々しい子だ。だが、そこが気に入った! 殺すのは最後の方にしといてやろう。

 

「マツリちゃんって言うんだね。私はカナミ。よろしくね!」

 

「えっ、え……よ、よろしく?」

 

 笑顔で手を差し出すと、マツリちゃんは抱えていた三角コーンから片手を外して握ってくれる。

 うんうん。押しに弱い子だ。将来的に友達から連帯保証人にされて借金するタイプだな!

 

「それじゃあ、学校終わったら、仲間の魔法少女と一緒にここから一番近いファミレスに来てよ。そこで色々とお喋りしよう」

 

「ちょ、ちょっと待って。マツリ、まだ状況が呑み込めてないんだけど……」

 

「ほらほら、それ倉庫とかに片付けるんでしょ? そんなに悠長にしてて次の授業平気なの?」

 

 ゴチャゴチャ言い始めたので三角コーンを指差して急かす。

 俺の言葉にのんびりしている暇がないことを思い出したのか、慌てて三角コーンを抱き締めて駆け出した。

 俺はそれを見送ってからその場を立ち去る。

 

「じゃ、待ってるからねー!」

 

 来た時と同じように正門を乗り越えて、茜ヶ咲中学校を後にした。

 もう二度と来ることはないだろう。さようなら、茜ヶ咲中学校。フォーエバー、茜ヶ咲中学校。

 

 

 ***

 

 

「お、やっと来たね。こっちだよ。マツリちゃーん!」

 

 午後三時四十分。

 ゲームセンターやデパートの地下を巡ったり、公園でお弁当を食べて時間を潰してもなお、時間が余ってしょうがなかった虚無の時間が終わりを告げる。

 入店したマツリちゃんを含めた女子四人組を見つけると、俺の居るテーブル席に呼んだ。

 

「さあ、座って座って。何頼む? ここねー、パフェ微妙だったよ。下の方、コンフレークでかさ増ししててね」

 

「それよりも……」

 

 俺の話を遮って喋り出したのは金ちゃんこと金髪ロングの三年生だった。

 

貴女(あなた)のお話、聞かせてもらえるかしら。“カナミ”さん」

 

 警戒した面持ちで正面に座る俺を見つめてくる。

 俺はそれを解くために朗らかな笑顔を返した。

 

「まあまあ。そんなに急がないで急がないで。まずはお互い自己紹介しようよ。名前が分からないんじゃ、なんて呼べばいいか分からないでしょ?」

 

「……(かなで)ハルカよ」

 

 会話のイニシアティブを取られたことで不服そうな表情を浮かべたが、話を始めるためにハルカちゃんは答えてくれた。

 

「はい。じゃあ、次の人ー」

 

「私は詩音(しおん)チサト。こっちは」

 

成見(なるみ)アリサよ」

 

「マツリも一応、名乗っておくね。日向(ひなた)マツリだよ」

 

 名前を教えてくれた四人に大袈裟にパチパチと拍手してから、俺も名乗る。

 

「私は穂香(ほのか)カナミ。ほのほの、かなみんでも好きに呼んで。それより皆、表情硬いよー? アイドル目指すならもっと表情柔らかくしなきゃ」

 

「いや、別に誰もアイドル目指してないから」

 

「アリサちゃんは『ツッコミキャラで芸人志望』っと……」

 

 メモ帳に書き込もうとすると、更に大きな声で突っ込みが入る。

 

「芸人も目指してないっての!」

 

「まあ、その芸風じゃあねぇ……もっとボキャブラリーないと難しいよね」

 

「そうじゃなーい!」

 

 騒ぐアリサちゃんにマツリちゃんが噴き出し、チサトちゃんも顔を横へ逸らして笑いを堪える。

 ハルカちゃんだけはちょっと呆れた様子で額を押さえていた。

 

「……アリサ。店内で大きな声出さないで。他のお客さんに注目されるから」

 

「アタシが悪いの!?」

 

「大きな声出したの、アリサちゃんだけだよ?」

 

「うぐぐ……あー、もう! アタシが悪うございましたー」

 

 悔し気に謝るアリサちゃんと、とうとう堪え切れなくなってテーブルに突っ伏して笑うチサトちゃん。

 弛緩した空気が流れ、さっきまでの硬い表情が嘘のように氷解した。

 それから、店員を呼んでそれぞれメニューを注文した後、弾んだ会話を繰り広げる。

 

「それじゃあ、カナミって西中なの?」

 

 チサトちゃんの質問にコーラをストローで(すす)ってから頷く。

 

「そうだよ。ホオズキ市立西中学校。でもって、チサトちゃんやアリサちゃんと同じ二年生。でも、それがどうしたの?」

 

「いや、西中って言うとアリサが一年の時にね……」

 

「チーサートー……知らないんなら別に教える必要ないでしょ!?」

 

 警戒心が解けたせいですっかり口の軽くなったチサトちゃんが続きを言う前に、その隣に座るアリサちゃんが肩を掴んでガシガシ揺らした。

 

「えー、聞きたーい。マツリちゃんも聞きたいよねー?」

 

「うんうん。一年の頃の話ってアリサ、全然教えてくれないから」

 

「って訳で続きを聞かせて、チサトちゃん」

 

「あーもう、じゃあ、せめて、自分の口から話すわよ!」

 

 半ばヤケになったアリサちゃんが一年の頃、魔法少女になったせいでイキリ散らかして、西中の不良グループを病院送りにした武勇伝を自分で話し出す。

 大皿で頼んだポテトの山を全員で摘みながら、リアクションを入れつつの談笑は和やかに進んで行った。

 お代わりしたドリンクバーのジュースが尽きた頃、この場における最年長のハルカちゃんが話し出す。

 

「さて、アリサの黒歴史も聞けたことだし」

 

「黒歴史って言うなー! ……これでも反省してるんだから」

 

「はいはい。そろそろ、本題が聞かせてもらえないかしら、カナミさん」

 

 明らかに最初とは呼び方に含まれる感情が変化したハルカちゃんに俺は内心ほくそ笑んで、承諾した。

 

「うん。私もそれを話そうと思ってんだ。でも、急に話題変えるのもアレかなーって思ってて言い出せなくて。ありがとうね、ハルカちゃん」

 

 わざとらしくない流れで感謝の言葉を言うと、僅かに照れたように自分の髪を掻き上げた。

 

「生徒会長をしてると、こういう司会進行をする機会が多くてね……」

 

「へえ。スゴいねーってまた話逸れそうだったね。危ない危ない」

 

 舌先を出しておどけた俺にクスッと笑みを漏らすハルカちゃん。

 最初は張り詰めていた緊張の糸は影も形も見られない。

 この雰囲気を作るのに二十分も掛かっちまった。昔なら五分もあれば充分だったのに、鈍ったモンだぜ。

 

「まあ、もう皆、分かってると思うけど、私も魔法少女なんだ。なったのは最近のことなんだけど、そこは本筋じゃないから一旦置いとくね。これは昨日のあったこと……」

 

 灰髪の魔法少女に襲われたことを話す。

 当然、殺された部分をそのまま話す訳にはいかないので、不意打ちを食らう寸前に避けられたことにしたが、それ以外は(おおむ)ね事実だ。

 この四人の中に裏でスズネちゃんと繋がっている魔法少女が居る可能性があるので、あえて名前の部分は出さずに話し終えた。

 

「ねえ、皆。その灰色の髪をした魔法少女のこと、何か知らないかな?」

 

 全員の瞳を見回して、そう尋ねる。

 動揺と不安の色が見て取れるが、それは明確に魔法少女を襲う魔法少女に対する感情としては自然なもの。

 自分の背信行為が露見する恐怖とは違う。

 ……間者(スパイ)は居ないと見るか。この程度では微塵も感情を表さない厄介なヤツか潜んでいると見るか。

 まあ、そこは保留しておくか。

 表情を弛めて、暗くなりかけた雰囲気を流す。

 

「ごめん……変な空気になっちゃったね」

 

「い、いえ……。でも、おかげで私の中の疑問が一つ腑に落ちたわ」

 

「疑問……? それってもしかして『キリサキさん』のウワサに関係してる?」

 

 ハルカちゃんにそう聞くと、驚いたような顔をした後、こくりと頷いた。

 

「ええ。ということはカナミさんも同じような結論に行き着いたようね」

 

「どういうことです? 先輩」

 

「そうそう。二人だけで分かったような顔してないでアタシらにも教えろっつーの」

 

 おバカキャラのアリサちゃんはともかく、お利口そうなチサトちゃんの方は分かっていてほしかったが、存外この二人は同レベルなのかもしれねぇな。

 俺が目配せをすると、ハルカちゃんが話し始める。

 

「ウワサの『キリサキさん』……いえ、近隣の街で起きている“連続殺人事件”。その犯人が、カナミさんを襲った灰髪の魔法少女である可能性が高い、という話よ」

 

 驚愕する二人に彼女は、知り合いの記者から聞いたという『切り傷の異様な大きさ』について語った。

 まだ報道されていないが、包丁やナイフなどでは到底足りない、巨大な刃物による傷が死因なのだと言う。

 俺もまた、それを聞いてこの事件が連続殺人として認識される理由に納得する。

 切り傷の大きさのそれほどの特徴があれば、同一犯……もしくは最初の事件の模倣犯として見ていい。

 そこまで考えてから、俺はふと隣に座っているマツリちゃんが話に入って来ないことに違和感を持った。

 

「どうしたの? マツリちゃん」

 

「え、いや、ちょっと……そういう話、苦手で」

 

「そっか。大丈夫? 何か飲み物飲んで気を紛らわせる?」

 

「うん。そうするね。心配してくれて、ありがとね。カナミちゃん……」

 

 席から立ったその背中を、俺は静かに目で追った。

 嘘は吐いていない。だが、何かを隠していることがある。

 俺の第六感はそう囁いていた。

 

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