魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~ 作:唐揚ちきん
すっかり日も沈んだ夜のホオズキ市。
星空のカーテンが空覆う時間帯、魔法少女たちの活動は始める。
「それじゃ、パトロール始めるわよ。もし魔女の結界を見つけた場合、各自連絡をすること……よろしくて?」
「よろしくってよー!」
「りょーかい」
「はい」
「うん」
年長者兼リーダーのハルカちゃんの突然のお嬢様号令に、俺たちはそれぞれバラバラの返事を送った。
ハルカちゃんはそれを聞いて、小さく笑みを
「見事にばらばらね。でも、その方が私たちらしいかもしれないわ」
「そうだね! それが『ホオズキ・マジカルファイブ』らしさだよね!」
「いや、サラッと変なチーム名付けないでよ!? っていうか、カナミは一緒に活動すんの今回が初めてでしょーがっ」
アリサちゃんは相も変わらず、キャンキャン吠える駄犬系イジられキャラ振りを披露してくれている。
見晴らしの良いビルの屋上に集合していた俺を含む魔法少女たちはこれから魔女退治のため、巡回に向かおうとしていた。
「それにしてもカナミの馴染みぶりには驚かされるわね。私自身つい数時間前に会ったばかりの相手のようには感じられないし」
チサトちゃんは一歩引いた目線で感心するように言う。
「ふふふ。人徳っていうヤツだね!」
「自分で言っちゃうんだ……」
「自分で言っちゃうよ!」
マツリちゃんがやや呆れ気味に言ってくるので、俺は力強く返した。
わちゃわちゃしたやり取りの後、それぞれ魔法少女の衣装に変身していく。もっとも俺はあくまで“それっぽく”見えるように細工しただけなんだが。
制服を魔力でケープ状の白いガウンに変え、首元に埋め込まれた宝石を皮膚の内側から
手元には先端が
他の子たちもまた、パーソナルカラーに沿った色合いの衣装に身を包んでいた。全体的に体のラインがくっきりと浮き出るデザインのコスチュームが多い。
むむっ。ハレンチですぞ、姫。もっとやれ。
ハルカちゃんは髪型がストレートから先端部を結んだものに変わり、胸元が開いた修道女風の衣装。武器は双刃の薙刀。
チサトちゃんは婦人警官と競泳水着を組み合わせたようなデザインの衣装で、特に尻がヤバい。ハイレグ競泳水着風のレオタードをタイトスカートっぽく見せたベルトで覆っているが、かえってそれがマニアックなエロチズムを醸し出している。ほとんど痴女だ。武器は二丁拳銃。
アリサちゃんは一番の胸のラインがはっきりと分かるタイツのような衣装で肩と背中が大きく露出している。武器は大鎌。
マツリちゃんは両肩が剥き出しになったワンピースタイプの衣装だが、両腕にやたら大きなグローブ状のガントレットを嵌めていた。武器は特に持っていないので、そのガントレットが得物と見ていいだろう。
「それじゃあ、皆それぞれ持ち場に……って、カナミさんの担当区域は決まってなかったわね。今更、再分配するのも時間のロスだし、今回は私と同じ区域を受け持ってもらおうかしら」
「オッケー。じゃあ、私はハルカちゃんと一緒に魔女を探せばいいんだね。がんばるぞい!」
俺としては、何か隠し事のありそうなマツリちゃんと一緒の配置になりたいとこだったが、ここは大人しくハルカちゃんの判断に従っておくことにする。
他三人とはビルの屋上で別れ、ハルカちゃんと共に夜の街並みへと降りていく。
街灯の光があまり入らないような路地の裏などを見回り、二人で魔女の結界を探し始める。
「そういえば、まだ聞いてなかったけれど、カナミさんの魔法はどういう効果のものなの? よかったら私に教えてもらえないかしら」
少し歩き回ってからハルカちゃんがそう口にした。
何かと思えばそんなことか。まあ、これからチームで行動していく以上はそういう戦力の情報の開示は必要か。
案外、そういう話をするために俺と二人きりになる口実を作ったのかもしれない。もし、そうだとしたらなかなかに管理者としては素養があると言っていい。
魔法少女の固有魔法は、契約時の願いの内容が反映される。個人のパーソナリティにも関わるからこそ、あえてあの場では聞かずに、二人だけの状況下で何気なく聞いてきた。
もっともそんな配慮ができるってことは、自分の願いごとが相当えげつないか、そういう魔法少女に心当たりがあるかのどっちかだろう。
「そんなことー? いいよいいよ。教えてあげるよ」
その場に立ち止まって、俺は分かり易く、実演して見せてあげることにした。
「私の魔法はね、一言で言い表すなら『吸収』ってところかな? こうやって、相手に突き刺した魔力を吸い出して、取り込んだ魔力を自分のものに変換できるんだよ。ソウルジェムそのものを吸収すれば、魔力だけじゃなく、固有の魔法や記憶なんかも一緒に手に入れることができちゃうの。スゴくない? スゴいよね? えっへん!」
魔法少女と違って、“願いを叶えてもらった”なんて惨めな工程は挟んでないが、俺の意思や感情が性質となったのは間違いない。
『イーブルナッツ』で
全知全能を極めた全盛期の俺とは比べ物にならないほど劣化したが、それでも魔力は
「……ってもう聞こえてないかー? ハルカちゃーん? もっしもーし、私の魔法どんなものか、これで分かってくれたー?」
首元に浅く突き刺した金色の両刃剣を見ながら、俺はハルカちゃんに尋ねた。
カランと薙刀が床に落ちて、魔力の粒子に変わる。
魔力を吸い尽くされたハルカちゃんは黄色と白を基調にした修道女風の衣装を維持できなくなり、茜ヶ咲中の制服へと戻っていく。
二又に別れた刀身の隙間に挟まっていた五角形をした黄色の宝石が剥がれ、卵形のソウルジェムに変化した。
「おっと……剣で砕いて吸収してもいいんだけど、やっぱり最初ぐらいはちゃんと食べてあげたいからねー」
刀身の隙間に入っている黄色いソウルジェムを抜き取って、口へと運ぶ。
「いっただっきまーす」
歯と歯の間に挟んだ宝石をくるみ割り人形のように噛み砕いた。
それは舐めることに飽きて、口の中で溶け切らなかったアメ玉を噛んでしまう瞬間に似ていた。
細かく砕けた魔力は粒子状になって、俺の喉へと落ちていく。
喉に埋め込まれた
うんうん。やっぱりコレだよなぁ。身体にエネルギーが
瞳から光の消えたハルカちゃんの首元の肉を抉るように切り裂いて、刃を引き抜いた。
糸の切れた
とりあえず、死体に付いた傷跡は、特徴のある刺し傷から切り傷に上書きできた。多少、傷口が大きくなったが、そこはまあ仕方ない。
「やっぱ、我慢は身体に毒だわ。ヤリたいことはヤっておかないとな」
どうして、このタイミングでハルカちゃんを殺したのか。
そう聞かれたら、俺はこう答える。
つい
別に今すぐ殺す必要はなかったし、何ならもう少し俺に依存させてコントロールしてもよかった。
だが、それ以上に
大人しく魔法少女ごっこに興じるのも、丁寧に魔法少女たちと信頼関係を構築していくのも、急に飽きた。
それに俺の思い通りに事が進んでいるのもつまらない。
順当な結果なんて、俺の最も嫌いなものだ。
カオスがイイ。混沌がイイ。
メチャクチャで先が読めないからこそ、世界は楽しい訳で。
「ハプニングこそ、人生のスパイス! ってことでハルカちゃんには死んでいただきました。まる」
さて、早速、ハルカちゃんが“何者かに”殺されちまったことを皆に連絡しよう。
頼れるリーダーの無惨な死体に絶望した顔を堪能して、動揺したところを殺すも良し、優しい言葉をかけて慰めてからいたぶるも良し。
今まで我慢してた分、たっぷりと遊ばせてもらうとするか。
俺は血の付いた両刃剣を魔力に戻してから、念話を全員に送る。
『皆ぁ! ハルカちゃんが……ハルカちゃんがっ!』
迫真の演技で思念を魔力で飛ばすと、すぐにチサトちゃんから返事が返ってきた。
『カナミ!? 先輩の方でも何かあったの!?』
『……うん。ハルカちゃんが……』
ん? 待て。チサトちゃん、今、『先輩の方
『待って。そっちでも何かあったの?』
報告を一旦止めて俺がそう尋ねると、チサトちゃんが答える前にマツリちゃんの思念が届く。
『マツリたち三人で連絡し合ってたら、急にアリサだけ念話が途切れて……それから何度も繋げようとしても応答がないの』
『一番アリサの担当区域に近い先輩たちに、様子を確認しに行ってもらえないか連絡しようって話し合っていたところよ』
アリサちゃんからの連絡が突然途絶え、二人はちょうどハルカちゃんに判断を
これはひょっとすると、獲物がかかったか?
ほくそ笑む俺にチサトちゃんの思念が来る。
『それでカナミ。先輩がどうしたの?』
『……とりあえず、アリサちゃんのところに向かうね』
『カナミちゃん。何があったの!?』
二人からの念話が届くが、応答せずに無視した。
一応、死体は放置せずに肩に担いで持って移動する。
ソウルジェムが消滅したおかげで魔力によって流れていた血流は止まり、傷口からの出血もほぼ収まっているのが
これで純白の衣装の汚れは最小限に抑えられる。
カナミちゃんの肉体は小柄なので、肩が狭く、乗せた死体の重心を取るのに苦労したが、何とか運び出した。
こんなことならアリサちゃんのところに移動してから、殺せばよかったと若干後悔した。
「この辺、だったか? ……お、あれか」
アリサちゃんの担当する区域までやって来ると、路地の裏手で二つ並んだ人影を発見する。
近付くと、ソウルジェムの反応を一つ感知する。
そう、感知したのは一つ……つまり、一人分。
あー……。そういや、アリサちゃんのソウルジェム。背中に付いてたっけなぁ。
深々と片刃剣に背中を刺し貫かれたアリサちゃんの死体を眺めて、俺はそんなことを思い出していた。
物言わぬタンパク質の塊になった彼女をぶら下げた魔法少女は気配に気付いて、振り返る。
その顔は忘れもしない俺の標的──スズネちゃんだった。
「……! 貴女は……確かに私がっ……」
鉄面皮の無表情が俺の顔を見て、動揺を隠せず、驚愕に染まる。
担いでいたハルカちゃんの死体を無造作に地面に転がした俺は、魔力で両刃剣を作り出した。
「どうした? 死人に会ったような面して」
「……そんなはずない。貴方は……一体誰?」
誰? 誰と来たモンだ。
コイツはいけないねぇ。忘れちまったなら、思い出させてやらないと。
「俺か? 俺の名前は