魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~   作:唐揚ちきん

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第五話 罪を犯す者は罪の奴隷なり

 ようやく会えたな……っていうにはちょいとばかし拍子抜けする出会いだが、それもまた一興。

 金色の両刃剣を構え、俺は臨戦態勢に入る。

 気分的にはクライマックス。テンションは最高潮。精神状態はトップギア。

 大興奮で俺は探し求めていたスズネちゃんへ間合いを詰める。

 

「さあ、()ろうぜ。俺の愛しい仇敵(マイスイートエネミー)! 不意打ちだけが取り柄じゃないってとこ、見せてくれやぁ!」

 

 片刃剣に貫かれたアリサちゃんの死体ごと切り捨てようと踏み込んだ。

 横凪ぎで振るった刃が夜闇の中で弧を描いて(きら)めく。

 

「っ! 貴女は……本当にあの時のカナミなの!?」

 

 ぶら下げた死体を盾に使うどころか、まるで俺の剣から庇うかのように脇へ退()けたスズネちゃんは、一瞬だけ身を屈めて後ろに引いた。

 てっきり肉壁として使い倒してくるだろうと思っていた俺は、度肝を抜かれる。

 アリサちゃんの死体を庇ったぁ!?

 一体全体何のつもりだ……? 理解ができねぇ。自分で殺した相手の死体を守る理由って何だよ。

 (ふところ)まで潜り込んでから刺突する予定だったが、スズネちゃんの奇行を見て足踏みして思考を巡らす。

 パッと思い付く理由は二つ。

 一つは、殺人のシンボルマークとして死体の損壊状態を維持するため。

 二つ目は、魔法少女を惨殺していいのは自分だけであるという優越感に浸るため。

 承認欲求マシマシのサイコキラーか、歪んだ執着心持ちのナルシストかの二択ってとこか。

 ……それならそれで利用してやらないとなぁ?

 即座に足元に転がるアリサちゃんの死体を爪先で蹴り上げ、スズネちゃんの視界を遮る位置へ飛ばした。

 

「……何のつもり?」

 

 スズネちゃんはそれを身を逸らして(かわ)す。

 

「その言葉、そっくり返すぜぇ?」

 

「……!」

 

 視界が死体で覆われた隙に俺は距離を詰めていた。

 スズネちゃんが避けた方向を予想していた先へ両刃剣を突き出す。

 切れ長の瞳が大きく見開かれる。

 剣の腹で切先を受けようとするが一手遅かった。

 白い剝き出しの脇腹へ金色の刃が牙を立てる。

 赤い飛沫が舞い上がり、辺りに鉄錆の臭いを振り撒いた。

 指先から伝わる刃の感覚からいって臓器を一つ二つ抉っているのが把握できる。

 

「自分で殺した死体を庇って傷を負うとか、アンタ頭おかしいんじゃねぇの?」

 

「……くっ」

 

 即座に刺さった傷口から魔力を吸い上げて、嘲笑してやった。

 冷徹な顔突きが悔し気に歪む。一見、クールに見えるが、感情が薄い訳じゃあないらしい。

 そうでなくっちゃ、つまらねぇよな。

 このまま、ハルカちゃんと同じく(しぼ)りカスにするのは造作もないが、それじゃあせっかくの復讐が呆気なく終わっちまう。

 ソウルジェムとの接続が切れない程度に吸収する魔力を抑えて、楽しい女子トークでもするかな。

 

「なあなあ、スズネちゃん。アンタ、何で死体を切り払わなかったんだ? そうすりゃ、もうちょい楽しい一時を過ごせてたと思うんだがなぁ」

 

「…………これ以上、彼女たちの身体に不要な傷を付けたくなかった。それだけのことよ」

 

 数秒開けてから、スズネちゃんの口から出てきたのは俺の想定外の発言だった。

 

「……はァ?」

 

 まるでその言い方だと死体の尊厳を守るためのように聞こえる。

 皮肉や冗談をいうには表情が硬すぎる。瞳孔の動きや仕草から見ても騙そうする人間の素振りじゃあねぇ。

 だが、それが逆に俺の油断に繋がっちまった。

 スズネちゃんの握ったオレンジ色の片刃剣──巨大なカッターナイフにも見えるそれの柄に、青い円盤が付属している。

 持ち手のすぐ上にあるその円盤の中心部、刻まれた巴紋が淡く発光した。

 

「……っ!」

 

 気を抜いていた俺が、魔力の吸収を行う寸前。

 

「『炎舞(えんぶ)』……!」

 

 魔法の技名らしきものをスズネちゃんは呟く。

 彼女を囲むように中空から生まれたのは八本の炎剣。

 流石に舐め過ぎたか。

 すぐさま舌打ちをして両刃剣を手放し、至近距離から発射される炎の剣を後方へ宙返りを二度三度繰り返して、狙いをずらす。

 狙いを定めず、撃ち放った炎の剣は後退する俺を捉えきれない。コンクリートの地面へ突き刺さった炎剣は燃え広がることなく、息をかけられたバースデーケーキのロウソクのようにフッと消えた。

 俺を引き剥がすことが目的だったにしろ、あっさり消したのは人目を避けるためじゃあない。

 ちらりと横まで横たわるアリサちゃんの死体を見る。

 相変わらず、光のない虚ろな目をしていた。まさに、死んだ魚の目ってヤツだ。

 コイツ……マジで死体を損壊させないように戦っているってのか? 飛んだクレイジーだな。

 しかし、今、スズネちゃんへ問い出さないといけないことはそれじゃあない。

 

「オイ……『炎舞』って言ったか。そりゃあ、どういう了見だよ」

 

「……どういうこと?」

 

「しらばっくれてんじゃねー! 魔法少女の技名は“イタリア語”って決まりはどうしたぁ!?」

 

「………………え?」

 

 本気で俺の言っている内容が理解できないという顔で、こっちを見てくる。

 訳わかんないのはアンタじゃいっ!

 

「イタリア語で技名付けるのが魔法少女だろ? よりにもよって何で日本語なんだよ! マジでビックリしたわ!」

 

「……難解な貴女の発言の中でも取り分け理解不能な内容だわ」

 

 開いた腹部の傷に手を当て、魔力で応急処置を(ほどこ)しているスズネちゃんは怪訝(けげん)な表情を浮かべていた。

 まったく、俺の発言に思い至る節がないって面をしてやがる……。許せねぇ! 全国の魔法少女の代わりに俺がビシッと説教してやらねぇと!

 

「いいか、スズネちゃん。魔法少女の技名は基本的にイタリア語なんだ。それは分かるよな?」

 

「分からないわ。それはどこの決まりなの?」

 

 顔をフルフルと左右に動かすスズネちゃんは若干、困惑している。

 何だ、コイツ……。どこの決まりも何も魔法少女の義務教育だろ、そんなモン。俺の知っている魔法少女は全員イタリア語で技名考えてたぞ。

 いや……待て。あれってもしかして、あすなろ市近辺のローカルルールだった……?

 

「……え。待ってくれ。イタリア語関係ないってマジ? マジで言ってる?」

 

「……私の師匠に当たる魔法少女からもそんな発言は聞いた覚えはないわ。大体、どうして母国語でもないイタリア語で名前を付けないといけないの?」

 

 真顔でそう告げてくる。

 急に冷静な発言を食らい、俺もまた落ち着いた頭で考える。

 ……どうしてなんだろ? 皆、イタリア語で言ってたから、そういう縛りがあると誤認してたのか。

 じゃあ、そもそも何であんなにあすなろ市の魔法少女内でイタリア語が流行ってたんだ。

 どっから来たんだ、この命名ルール……。

 俺がうんうん(うな)っていると、応急処置を終わらせたスズネちゃんは今度は自分の番とばかりに攻撃を仕掛けてくる。

 

「『炎舞』……」

 

 放れた炎の剣が宙を駆け抜け、斜めから飛来する。

 同時に彼女自身も間合いを詰めて、片刃剣での白兵攻撃を狙う姿が目に入った。

 人がこの世の真理について思案しているって時に、はしゃいじゃってまあ……。

 だけど、ここは一つ……俺もこの子に合わせるとしましょうかねぇ。

 新たに両刃剣を生成し、そこへ魔力を流し込む。

 

「──『覇閃(はせん)』」

 

 八本の炎の剣と振り抜かれた両刃剣の同時攻撃に対し、俺は一太刀で応える。

 振り払われた両刃剣の先端から流れ落ちた魔力の波は光の刃となって、迫り来る炎剣を切断し、その余波でスズネちゃんを弾き飛ばす。

 

「……っ」

 

「実は俺もちょっぴり思ってたんだぜ。……イタリア語で技名考えるの面倒くさいなぁって」

 

 型に(はま)らないことを信条としてきたこの俺が、実際は誰よりも型に嵌っていたんだって気付かされた。

 良い勉強になった。世界の広さを改めて教えられたよ。スズネちゃん……アンタはスゲーよ。

 だからな……。

 だから、まあ……──。

 

「アンタはここで死んどけよ、スズネちゃん」

 

 覇閃の斬撃を受けた肩を押さえ、剣を杖代わりにして立っていた。

 表情は(かげ)りが見える。

 今の一撃で俺との戦力差をはっきりと把握したからだろう。

 

「……ここまで、みたいね。いつかこうなる覚悟はしていたわ……」

 

「驚いた。死体作りが趣味のイカレ魔法少女の癖にそういうまともな感性残ってたのかよ」

 

「好きで殺してきた訳じゃないわ……」

 

「はん? じゃあ、何が目的だったんだよ。まさか、“魔法少女のまま殺してやれば魔女にさせずに済む”とか考えてた訳じゃねーよな?」

 

 その言葉を聞いて、スズネちゃんは(きょ)を突かれたように目を丸くさせた。

 うーわ、マジかよ。適当に言ったのに大正解を引いちまったてのか?

 震える声でスズネちゃんが俺に聞いてくる。 

 

「……待って。貴女も魔法少女の真実を知っているの?」

 

「真実っていうほどのモンか? それよか、スズネちゃん。魔法少女がどれだけ居るか知ってんのか? こうしてる間にもどんどん増えてるんだぜ。つーか、魔女が減少すりゃ、ソウルジェムの濁らせて魔女になるヤツも増えんだよ? 手作業で殺し回ったところで、出回るグリーフシードの数が減るだけ。結果的に魔女は増える一方じゃねーか」

 

 この子のやってることは、結局何の意味もない。

 要は、ゴミの廃棄場所でゴミ拾いのボランティアでもしてるようなもの。

 どれだけやっても環境は変わらないし、そのゴミ漁って生計立てる貧乏人の餌が減るだけだ。

 ソイツらの死体がまだゴミになって、環境は改善どころか悪化の一途を辿る。

 

「結局のとこ、アンタは死体作って放置してるだけ。嫌々やってようが楽しんでやってようが、関係ねーのよ。お分かりになれますぅ?」

 

 思い切り煽る言い方で言ってやるが、スズネちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔をするばかりで面白い反応は見せてくれない。

 

「……キュゥべえが諦めて、この星を去るかもしれない」

 

「一か月使って片手に(おさ)まる程度の魔法少女しか()れてねぇのに何言ってんだよ。アイツらからしてみたら微々たるモンだぞ。軽めの嫌がらせにしかならねーよ。それくらいで止めるくらいなら、世界が近代化してきた辺りで早々に撤収してんだろ」

 

 魔法少女が生み出す奇跡の価値が高かった時代は、今よりも文明が未成熟だった頃だろう。

 文明が発展して、誰しもそれなりの生活水準で生きられる環境が整い始めた段階で魔法少女の株価のピークはとっくに終わってる。

 それでも貧しいヤツや生まれついての病人くらいならありがたがるかもしれないが、それでも“奇跡”の価値は文明が円熟して行けば行くほど下がっていく。

 一定の回収が見込まれるとはいえ、魔法少女システムは先細りしていくだけだ。

 

「それでも私は……魔法少女を。この負の連鎖を少しでも減らしたい」

 

「いや、ほとんど減らせてねーんだって。スズネちゃん、お話聞いてた? まあ、いいわ。それが最期の台詞ってことでいいんだよな?」

 

 改めて両刃剣を構え直す。

 案外、さっくり復讐を果たせそうで残念だが、ここで逃す理由もない。

 

「…………」

 

 スズネちゃんの片手が、自分の頭の後ろに伸びる。

 チリンッと小さな鈴音が聞こえた。髪飾りに鈴でも付いているのかと思ったその時。

 俺の背後から──円盤状の飛来物が接近する気配を感じ取る。

 剣で背面を庇って、それを難なく弾くと、すぐ脇の地面に突き刺った。

 紫色のチャクラム。

 車のハンドルのように輪の中に小さな円と十字が入っており、風車状に刃が上下左右の四つ生えていた。

 数秒でそのチャクラムは魔力に変わり、地面に小さな痕跡だけを残して消える。

 

「チッ、仲間が居たのかよ。まんまと()()()()()()()ぜ」

 

 視線を逸らした隙にスズネちゃんもまた姿を消していた。

 周囲にソウルジェムの反応もない。引き際としては完璧だ。忍者かよってレベルだ。

 それから少し経ってから、チサトちゃんとマツリちゃんがその場に現れる。

 

「カナミ! 無事!?」

 

「カナミちゃん。アリサたちは……」

 

 俺はソウルジェムの反応を捉えていたので、ちょうど二人が来たタイミングで、並べて置いた二人の死体に縋り付く。

 

「こんなのって……こんなのってないよぉ!」

 

 渾身の涙の演技。悲しみに打ちひしがれる魔法少女カナミちゃんを演じ切る。

 

「嘘……先輩まで」

 

「ア、アリサ……ハルカぁ!」

 

 口元を押さえ、狼狽(うろた)えるチサトちゃん。

 名前を呼びながら必死に駆け寄るマツリちゃん。

 いいねいいね。なかなか良い構図だぜ。

 俺はそこでハルカちゃんの身体を抱き起し、背中を逸らせて膝を突いた姿勢で夜空を仰ぐ。

 

「こんなにも……こんなにも残酷なことができるなんておかしいよぉぉぉ!」

 

 涙を湛えた悲痛な表情でシャウトをかます。

 悲劇的シーン一丁、へいお待ちって感じで提供してみせた。

 気持ちよく悲劇のヒロインごっこも満喫して、スズネちゃんを取り逃した怒りを解消する。

 ……さて、スズネちゃんの情報を二人に共有する前に、チャクラムの持ち主についても考えておかないとな。

 意外と簡単に終わると思った復讐喜劇。

 ようやく、面白くなってくれそうだ。

 たっぷり味わってやるからな、待ってろよ。まだ見ぬ魔法少女ちゃん。

 

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