魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~ 作:唐揚ちきん
リュゥべえ、とか名乗った不思議マスコットとカガリちゃんに連れられてやって来たのは、一見何かしらの事業を営んでいるように見える事務所だった。
だが、監視カメラが不自然なまでに多く、窓ガラスは板切れで覆われている。高い塀の内側に至ってはご丁寧にびっしりと有刺鉄線が張り巡らされていると来てる。
あら、素敵!
このカボチャのバカたちは
やだ。シンデレラ、困っちゃう!
「て、アホかよ、テメェら。オシャレなカフェにでも連れて来てくれるかと思いきや、反社会的な事務所ってどういう了見だよ。脳みそ、詰まってねーのか?」
「……そういう場所よりも色々込み入ったこと話しやすい場所だと思うよぉ」
『カガリちゃんの言う通りだぜ。内容が内容だけにな』
常識人である俺と違って、非常識な魔法少女とマスコット共は勝手知ったる我が家のようにドアを開けて、ずかずかと踏み込んでいく。
最後に俺が入ると、想像していた通り、小汚い事務机と背もたれのない上部がクルクル回るタイプの椅子が幾つか並んでいた。
唯一、想像と違った点と言えば、強面の
カガリちゃんは適当な丸椅子に座ると、事務机を挟んだ椅子に腰かけるように俺へ促す。
「座らないの?」
「まあ、座るけどもよ。何でこんな場所なんだよ」
渋々、俺は丸椅子を踏み台にして事務机の上でどかっと
「…………」
カガリちゃんは一瞬、意を突かれたというように表情を強張らせたが、わざとらしい咳払いをした後、パンと手を叩く。
「わかったぞ。ここ、あれだ。コンセプト喫茶なんだな」
メイド喫茶ならぬヤクザ喫茶。強面の中年に
『ボケるのはその辺で終わりにしてくれよ、
リュゥべえがふよふよとカガリちゃんの脇に浮遊しながら、俺にそんなつまらない台詞を吐いた。
なんだ、こいつ。本当に
「じゃあ、さっさと話を始めろよ。ボケナスコンビ」
「……さっきから口の利き方に気を付けてくれないかなぁ」
分かり易く機嫌を損ねたらしいカガリちゃん。
沸点低いぞぉ。カルシュウムが足りてないらしい。
小魚喰え、小魚を。雑魚だけによぉ。
「めんごめんご。カガリちゃん。つい、ナスみてーな色してるから口が滑っちゃった。てへ」
ペロっと舌を出してぶりっ子キャラを演出。
更に目付きが悪くなった小娘を眺めつつ、ティーカップを手に取った。
うーん。ブラックか。俺は甘めが好きなんだよなぁ。
「あ。ウェイターさん。角砂糖とミルク、容器ごとちょうだいな」
俺が可愛いらしくオーダーするが、ぼんくらウェイターは微動だにしない。故障中なのかな? それとも百円何枚か入れないと動かないタイプの置物か。眼球とかに百円玉二、三枚押し込んでみるか?
財布を取り出して、失明コインチャレンジに挑戦しようとする前にカガリちゃんが再び手を叩く。
すると、さっきまで微動だにしなかったデクノボウはスイッチの入ったロボットのように働き始めた。
大体の察しは付いていたが、カガリちゃんの魔法で操作しているって訳ね。
『そろそろ、本題に行こうか。
「カナミでいいよ。リュゥべえ」
『んじゃ、改めてカナミ。俺たちの計画に協力してくれよ』
リュゥべえが提示した計画は端的に言えば、“キリサキさんのウワサ”を利用した感情エネルギーの回収を目的としたものだった。
従来のキュゥべえが魔法少女一人から感情エネルギーを回収する方式とは違い、大勢の一般人の感情をキリサキさんへの恐怖一色にまとめあげて回収するといった形だ。
一人から一万円徴収するより、一万人から十円ずつ徴収する方が儲かる、みたいな話だ。
「理屈は分かるけど、感情エネルギー回収ノウハウはどーすんの? それに感情エネルギーの受け皿だって必要じゃん」
『そこで俺の出番だ。どうだ、この姿を見て、何か気付かねーか?』
「ううーん。羽のデティールがイマイチ?」
『そうじゃねーよ。あと、この羽は別に羽ばたいてるワケじゃねーからこれでいいの! アンタが乗っ取ったのが魔法少女の死体なら、俺が乗っ取ったのはキュゥべえの死体ってワケだ。感情エネルギーの回収もそのノウハウも俺の中にあるって寸法よ』
ま、魔法少女の魂を肉体から剥がして魔法少女を作る技術は失われているがな、とリュゥべえは付け足す。
いや、さらっとメインの機能失われてんじゃねーか。
突っ込もうと思ったが、俺もカナミちゃん本来の固有魔法消えているからお互い様か。
「要はさ、この街の人間の恐怖を煽るためにも、スズネちゃんにもっと魔法少女を殺してほしいワケだ。だから、俺にスズネちゃんを殺してほしくない」
『そうゆーこと。まあ、分け前もちろんやるさ。これでも集団意識による感情エネルギーの回収はコツコツ積み上げて来たんだ。今更、おじゃんにされても困るつーこと』
ふんふん、そうかそうか。道理で殺人の件数の割りに“キリサキさんのウワサ”の伝達速度がおかしいワケだ。
こいつらが意図的に情報を拡散させて、住人全体に浸透させていたのなら、説明が付く。
一人納得していると、今まで話を聞いているだけだったカガリちゃんも話に割って入って来た。
「そうそう。私がせっかくスズネちゃんを魔法少女の暗殺者にしたんだからぁ、種明かしする前に殺してほしくないんだよねぇ?」
「何それ何それ。詳しく教えて」
「ふふ、いいよぉ。これはね、私の復讐なの。スズネちゃんができるだけ苦しんで魔女になってもらうための復讐劇」
自分語りに酔ったカガリちゃんをちょいとヨイショしてやったら、もう喋るわ喋るわ、口から言葉が止まらない。
長かったんで要約すると、自分ちの家政婦だったツバキって女に死んだ母親重ねて懐いてたが、そいつは魔法少女でスズネちゃんの保護者やってて、魔女になってスズネちゃんに殺されたんで激おこぷんぷん丸ってこと。
まあ、一言でいうと、逆恨み。
しかも、ツバキってのはスズネちゃんの面倒を見るために家政婦辞めようとしてたって話だから、なおのこと、八つ当たり感が強い。
記憶や意識を操る魔法を使って、スズネちゃんに魔法少女を殺させまくっていたのが、『殺人少女☆スズネちゃん』の真実だったらしい。
いやはや、大体の疑問は解決されました。でめたし。
だが、一つ気になることが残ってる。
「ところで集団心理を利用した感情エネルギーの回収してるって話だけど、回収して何かする気なの?」
「あっは。よく聞いてくれたねぇ。私たちの最終的な目的……それはツバキを蘇らせること!」
「はい?」
「感情エネルギーを使って、魔女になったツバキを生き返らせる。そしたら、今度は一緒に暮らすの。邪魔なスズネちゃんを消して……ああ、私をスズネちゃんのポジションに置くのもいいかもしれないねぇ」
何か自分の世界にトリップしたカガリちゃんはその後も語っていたが、耳を貸す気も起きない。
それよりもリュゥべえの方へ聞く。
「それじゃ、リュゥべえの方の目的は?」
『俺はカガリちゃんのささやかな願いを叶えてやりてぇって思って協力してるだけだぜ』
優し気な笑みを浮かべて小竜のマスコットはそう言った。
「そうそう。リュゥべえはどこかリエキリエキうるさいキュゥべえとは大違い。私の最高の友達なんだよぉ」
『よせやい、マイフレンド』
愛おしそうにリュゥべえ掻き抱いて頬ずりをカガリちゃんは自慢した。
……あー。なるほどなるほど。そゆことね。
本心はどうあれ、とりあえずは、全面的にカガリちゃんは支援してるってことか。
『つーワケでカナミ。ここまで聞いた以上はアンタもカガリちゃんに協力してくれるだろ? 頼むぜ。他ならない、同じ魂から生まれた存在同士手を取り合おうじゃねーか』
そう言って、俺へ手を差し伸べてくる。
正直に言えば、そう悪い話じゃない。
集めたエネルギーの分け前の話をなしにしても、俺とリュゥべえと組めば、グッとこの世界でやれる範囲が増える。
先んじてこの世界で暗躍していた以上、今の俺以上に知識を得ていることは間違いない。
「結論は出た」
『じゃ、決まりだな』
「ああ、──俺はアンタらの野望を叩き潰す」
宣言と同時に手元で両刃剣を作り上げ、リュゥべえ目掛けて水平に振るった。
『……一応、理由は聞いとくぜ、
カガリちゃんに抱きかかえられ、俺の凶刃から逃れたリュゥべえが努めて平静な声音で聞いて来た。
「いや、何。アンタも元が“あきら”なら知ってるだろ。コツコツ地道に積み上げて来た努力を踏み躙る快感ってのを。その悦びを」
『おいおい、それじゃ、まさか』
「まして、
俺と同じ内面をしているヤツの努力や頑張りを完膚なきまで破壊し尽くせる。
それこそ、極上の喜びを味わえるってモンだ。
口元がにやけて仕方がない。
「ああ、それっぽい理由が必要なら適当に作るぜ。正義の心に目覚めたってのはどうだい? 可哀想なスズネちゃんを理不尽な企みから救ってやるって方がカッコいいか? 俺はこれから、正義の魔法少女“カナミ☆マギカ”だ。邪悪な魔法少女の野望を打ち砕いちゃうゾ☆」
魔力で衣装を作り上げて、事務机の上でウインクとピースで可愛く決める。
自分で言ってて、惚れ惚れする正義の魔法少女っぷりだ。
よし。この路線で行こう。そうしよう。
「……リュゥべえと魂が同じなんて思えないほど、狂ってる」
ほぼ八つ当たりで記憶弄って洗脳した邪悪な魔法少女がどの口でほざいてるんだろ。サイコパスって自分の行動を棚に上げて他人を批判するから嫌だわ。
「でも、交渉決裂なら、もう容赦しなくていいよねぇ」
パチンとカガリちゃんが指を鳴らすと、焦点の合ってない目をしたヤクザが短刀や小銃を持ってずらりと奥から出てくる。
この手際の良さから見て、交渉決裂するの見越してんじゃねーかよ。
「暴対法で締め付けられてる何の罪もないヤクザさんたちを卑劣な魔法で洗脳するなんて許せない。正義の魔法少女“カナミ☆マギカ”が成敗してあげる!」
気分は日曜日の早朝に流れる女児向けアニメのスーパーヒロイン。
愛と勇気で世界とか救っちゃう。
声もなく、操り人形のように襲い掛かる暴漢たちに正義の光で正気に戻してあげるんだから!
「それっ、『
魔力を収束させた斬撃波は先頭に居たヤクザ数名の斬り刻む。
真っ赤な血が砂糖とミルクを待ったまま、冷めきっていたコーヒーに華やかな色彩を添える。
おお、風流である。
カガリちゃんが批難するように俺へ叫んだ。
「何の罪もない人を斬り殺して心痛まないの? 正義の魔法少女ちゃん」
「反社会的勢力に属しておいて、何の罪もないワケねーだろ。常識ねぇのか、カガリちゃん」
「……くっ、こいつ」
むしろ、あれよ。この正義の魔法少女によって洗脳から解けて、ついでにこの世界からも解き放たれてるワケだから、これは救済。
きっと、殺されたヤクザたちも地獄の獄卒どもに『俺、こんな可愛い魔法少女に殺されたんだぜ』って自慢してる。知らないけど、多分そう。
銃を撃ってくる小癪なヤクザに、死体でできた肉の盾を使って防ぎつつ、きちんと全滅させた。
血の混ざったコーヒーもちゃんと飲んだ。食べ物を残すヤツは悪だからな。正義の魔法少女はたとえブラックコーヒーでも我慢して飲むのだ。
空になったコーヒーカップを赤く染まった床に投げ捨てると、既にカガリちゃんたちは撤退していた。
引き際を弁えている辺り、やはり俺と同じ魂なだけはある。
俺も帰るか。流石にこれだけ長時間血生臭いを
「うっ、痛ぇ。な、何だ……何が起きたんだ。血じゃねぇか。カ、カチコミか?」
比較的人体に欠損がないヤクザが一人生きていたらしく、もぞりと床に這い蹲って
「だ、誰か。生きてるヤツはい、居ないのかぁ。た、助けてくれ」
「おじさん。大丈夫?」
俺はすぐさま、正義の魔法少女として怪我に駆け寄る。
腕を押さえて蹲るヤクザは一瞬、場違いな魔法少女に目を困惑し、その後、俺の持つ血に濡れた両刃剣を見て、
「お、お前がこれ、やったのかぁ……」
「うん。あ、証拠隠滅」
顔を見られたので首を
他に生き残りが居ないか軽く見回した後、無人になった事務所を後にした。
いくら血で汚れても魔力で作った衣装を消せば、綺麗な衣服が戻って来るから便利だ。
色々と情報が入ったせいで少し整理する必要がある。
スズネちゃんを殺すのは当分後回しだ。
先にカガリちゃんとリュゥべえを殺して、邪悪な野望を阻止しないとな。
正義の魔法少女として。
そう、正義の魔法少女として!