魔法少女すずね?ナノカ~revenge comedy~   作:唐揚ちきん

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第八話 俺を裁いてはいけない

「おはよー。おばあちゃん。今日の朝ご飯はなぁに?」

 

 可愛い孫ロールプレイに興じる俺は、あくび一つとっても愛くるしい仕草を欠かさない。

 パジャマ姿で片腕を真上に上げ、眠たげに目を閉じて伸びをする俺ことカナミちゃん。

 我が身ながら、今日も今日とてプリティーだぜ。全時空可愛い大賞をそう()め間違いなしだ。

 居間に向かうとテレビが()いていて、早朝のニュースが流れていた。

 内容はホオズキ市内の某所で暴力団組員が全員殺傷されたという変わり映えしない平凡な事件についてだった。

 世界には戦争や貧困で大勢の人間が今も死んでいるっていうのに、たかだか反社会の人間が数十人っぽっち死んだくらいでピーピー騒ぐ日本はすこぶる平和だ。やっぱり平和が一番だな。日本人で良かったー。

 

「ほぇー。ヤクザさんたちの抗争だって。怖いねぇ、おばあちゃん」

 

 まあ、全部俺がヤった訳だが、それは大した問題じゃない。

 問題があるとすれば、リュゥべえとあの魔法少女を取り逃したことくらいのモンだ。

 あそこで殺せなかったのはちっと痛手だよなぁ。

 食卓に着き、いただきますと挨拶を済ませてから味噌汁を(すす)る。

 

「お。優しいお味。今日も大変ばっちぐーだよ、おばあちゃん」

 

「……ねぇ」

 

 良い具合に皮がパリパリに焼けたシャケの身を(はし)(ほぐ)している最中で、おばあちゃんが話しかけてきた。

 

「なぁに? おばあちゃん」

 

「……あんた、誰なんだい?」

 

「? 誰って、カナミだよ?」

 

「違う……」 

 

 押し殺すような低い声でおばあちゃんは否定した。

 

「お、おばあちゃん。変だよ……どうしてそんなこと、言うの? 私のこと、嫌いになっちゃった?」

 

「カナミと何もかもそっくり同じに見えるけど、あんたは……違う。カナミじゃない。あたしには分かる」

 

 静かな声でそう言ってから、おばあちゃんは再び、問いかける。

 

「もう一度だけ聞くよ。あんた一体誰だい?」

 

 右手の箸でシャケの身をほじくりながら、俺は左手に握り締めた剣をババアに突き付ける。

 

「それをわざわざ本人に聞くってことは老い先短い命をもっとショートにカットしてほしいって意味でイイんだよな? ()()()()()()

 

 はてさて、俺の演技は完璧だったはずたが、一体いつバレたのやら。

 このババアを殺すことはたった今確定したが、それだけは吐かせておきたいところだ。

 

「…………っ! そ、それがあんたの本性なんだね……」

 

 目と鼻の先に馬鹿デカい凶器を作り出したことに息を呑んだが、すぐに俺を睨み付けた。

 ただババアにしとくにはもったいない根性だ。そこらの魔法少女より肝が据わってやがる。

 

「本物のカナミは……」

 

「正真正銘、この肉体はアンタの孫のカナミちゃんだぜ? 魂はとっくに壊されちまったがよ」

 

「…………そうかい。あの子はもう、この世には居ないんだね」

 

「安心しろ、ババア。あんたもこの世から居なくしてやる。何なら抵抗してくれてもいいぜ。()()()()()()()()()()()で、やれるモンならな」

 

 今日起きた時からずっと隠し持っていた包丁について言及すると、ババアは観念したように下へ落とした。刃の先が畳に刺さる。タタミちゃん、イタイイタイだぜ。

 

「いつから俺がカナミちゃんじゃないって気付いてた? 理由は? 答えてくれたら、可能な限り、苦しまずに殺してやる」

 

 まあ、答えても俺を舐めた罪として地獄の苦しみを味合わせた後で殺すがな。ババアの分際で俺を騙していた事実が許し(がた)すぎる。カナミちゃんを殺したことに感謝の言葉を無理やり述べさせて、尊厳を完膚なきまで破壊した後、筆舌に尽くせない死体にしてやる。

 

「目が、違ったんだ」

 

「目付きのことか? 生前の記憶と変わらねぇようにしてたんだけど」

 

「はっ、違うよ。目付きとか、眼差しとか、そういうんじゃない。あたしに向ける目が、本物のカナミとは全然違う。他の人には分からなくても、祖母のあたしにだけは、はっきりと分かるんだ」

 

「非合理的なお答えドーモ。それじゃ、殺すけどイイよな? 滅茶苦茶苦しめて殺すけど」

 

 明確な違いがあるかと思えば、家族同士の勘みたいなモンか。期待して損した。

 他の人間には分からないなら、気にすることもないしな。

 

「好きにしなよ。でも、最後に教えとくれ」

 

「アンタの死に方を?」

 

「……カナミを、あたしの可愛い孫娘を殺したのは誰なんだい!?」

 

 俺は驚いた。驚愕した。大変ビックリこきました。

 ババアが俺がカナミを殺していないことを見抜いた件じゃあ、ない。

 この窮地で俺の発言からババアが正しく答えを導き出したことについてだ。

 俺は“ カナミちゃんの魂はとっくに壊されちまった”と言った。

 壊した、ではなく、壊されたと。

 よって、下手人が俺ではないことは明白。

 魂が破壊されるというオカルトめいた概念を理解する必要もあるが、孫娘が得体の知れないナニカに入れ替わっているし、今更だ。

 だが、それをこの命がかかった状況下の中、大切な孫がもう死んでいたと聞かされた精神で辿り着くにはただの老婆には途轍もなく困難だったはずだ。

 ご飯とシャケの身をお口に運んで咀嚼(そしゃく)しながら感心していた。

 やるじゃんかババア、と。見直したぜオイボレ、と。

 

(ちまた)で噂の“キリサキさん”だよ。カナミちゃんの魂はヤツに壊された。俺は偶然、居合わせてせっかくだから身体をもらってやった訳だ。これでいいか?」

 

 素直に答えたのは、ババアの冷静さに感心したのが二割。今、口に入れたタクアンが思いの外旨かったのが八割だった。

 

「キリサキさん……。そうかい。あの夜な夜な現れる正体不明の殺人鬼がカナミを殺したんだね……。ねぇ、あんた」

 

「何さ?」

 

「あたしを殺した後でいい。そのキリサキさんを、カナミの仇を討っとくれやしないかい?」

 

 据わった目で俺を見るババアは──本気だった。

 本気でカナミちゃんの仇討ちを俺に懇願している。

 孫娘の身体に入っている、得体の知れない化け物相手に。

 

「あははっ。イイぜ、ババア。その願い、聞い入れてやるよ。アンタの作る飯は旨かったしな」

 

 笑いながら突き付けていた両刃剣を魔力の粒子に戻した。

 百パーセント殺意しかなかったが、こうも愉快な対応されたら考えも変わる。

 ついでに言えば、スズネちゃんの殺人をここまで怨んでる遺族が居るって事実もウケるしな。

 

「じゃあ、もうちょっと家族ごっこ続けよっか。おばあちゃん、おかわり」

 

「自分でよそいな。あんたはカナミじゃないんだから」

 

「えー。カナミだよぅ。おばあちゃん、ひどーい」

 

 やっぱり殺してやろうか、このババア。

 まあ、今はいいや。俺は敬老精神に溢れてるからな。殺すのは約束通り、スズネちゃんを殺した後にしてやろう。

 だが、俺の正体がバレた以上、今まで通り、普通に女子中学生として過ごす理由もなくなった。西中に通う意味もない。

 活動時間もぐっと伸びた、が──。

 問題なのはカガリちゃんとリュゥべえ。

 俺に接触してネタ晴らしまでした以上、キリサキさんのウワサを利用した感情エネルギーの回収も佳境まで入ってるとみていい。

 だとするなら、俺のやることは一つだけ。

 スズネちゃんや生き残ったこの街の魔法少女を利用して、その計画をぶっ潰す。

 待ってろよ、リュゥべえたち。

 アンタの好きにはさせねぇ。

 愛と友情でもって、正義の鉄槌を下してっやっからよ!

 俺は正義の魔法少女としての自覚に目覚めて、白飯を掻き込んだ。

 

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