【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第265話 語尾が「サメ」なのかよ

 

「はむはむはむ……ぐぁふぐぁふぐぁふッ……!」

 

 ガシャガシャ、と行儀もへったくれもなく皿の上の料理を口へと放り込んでいくサメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)。

 

 ちなみにフォークもナイフも使わず、素手で。

 いっそ清々しいほどに豪快な食べっぷりである。

 

 口を開ける度にチラッと見える鋭いギザギザ歯も相まって、その姿は文字通り大海の殺人鬼であるサメを彷彿とさせる……なんてのは言い過ぎか、うん言い過ぎだな。

 

「お、落ち着いて召し上がってください。おかわりならありますから……」

 

 カウンターの向こうで苦笑いを浮かべるシャノア。

 ちなみに今サメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)が全力で頬張っている料理を作ったのは誰であろうシャノアだ。

 

 ――俺たちは今、シャノアの喫茶店にいる。

 道端で拾ったサメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)が「お腹が減って死にそうですサメ」などと言うものだから、親切極まりないシャノアが自分の店で手料理を振舞っている次第。

 ハハハ、人助けてって素晴らしいですね~。

 

 実際サメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)はよほど腹を空かしていたらしく、無我夢中で料理を食べ続けている。

 まさに得物に食らい付く獰猛なサメの如く……にしては姿形が些か可愛らしすぎるが。

 

「おい、そんな急いで食ってると喉詰まらすぞ~」

 

「ぐぁふぐぁふ……――んむっ!? むぅ~~~むうぅ~~~ッ!!!」

 

 ほれ、言わんこっちゃない。

 さっそく料理が喉につっかえたらしく、大慌てで自らの胸を叩き始めるサメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)。

 

 そんな憐れなサメ娘の口元へ、レティシアはすぐにコップに注がれた水を運んでくれる。

 

「ほら、お水飲んで……。よく噛んで食べないと、消化にもよくないわ」

 

「ごくっ、ごくごくごくごく……ぷはぁ! た、助かりましたサメ……。陸の上で溺死するかと思ったシャーク……」

 

 どうにか一命を取り留めるサメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)。

 

 っていうかお前の喋り方、語尾が〝サメ〟と〝シャーク〟なのかよ。

 マジで名は体を表しすぎだろ。

 

 そんな偏見とかステレオタイプを名札にして首からぶら下げてるみたいな奴なんて、今時いるか?

 騎士のキャラが「俺は騎士だナイト」って語尾にナイト付けて喋るようなモンだぞ。笑かそうとしてんのかって。

 

 サメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)は大きなサメの尻尾を嬉しそうに左右に振り、

 

「お腹いっぱいですサメ。あなた方は命の恩人ですサメ」

 

 ペコリとお辞儀をする。

 どうやら最低限の礼節は弁えているらしい、サメなのに。

 

「ど、どういたしまして……。えっと、まだお聞きできていませんでしたが、あなたのお名前は?」

 

「サメ? サメはケイ。ケイ・ウェイトリーと言いますシャーク」

 

 シャノアから名前を聞かれ、自らをケイ・ウェイトリーと名乗るサメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)。

 

 ケイの年齢はおそらく十代前半。

 体つきはやや痩せ型で、身長はたぶん150センチ以下。

 肌は色白で顔立ちは幼げで可愛らしい感じ。

 

 ライトブルーともライトグリーンとも取れる明るい青緑色の長髪を左右で結ってツインテールにしており、そんな全身を使用人(メイド)服とフリフリのカチューシャやワンピースドレスといったゴスロリファッションを組み合わせた特異な衣装で包み上げている。

 

 あと尻尾な。

 尾てい骨辺りに生えるやたらデカいサメの尻尾。

 

 シャノアはユラユラと揺れるケイの尻尾を見て、

 

「それでその……ケイさん? ケイさんの、その大きな尻尾は……?」

 

「尻尾? 尻尾は尻尾ですサメ。皆持ってるシャーク」

 

「「「……」」」

 

 答えになっていない答えを聞いて、思わず沈黙してしまう俺たち三人。

 

 持ってないけど、俺もレティシアもシャノアも尻尾なんて。

 さも「尻尾はあって当たり前」みたいな言い方をされても……。

 

 う~む……なんかイマイチ会話が噛み合わないというか……。

 なんかもう、なにもかも怪しすぎて逆に「むしろコイツ怪しくないのでは?」とすら思ってしまうレベルで……。

 

 サメ尻尾の存在は元より、城下町の中でこれだけフリフリの衣装を着ている奴というのも珍しい。

 使用人(メイド)自体は街でもちょくちょく見かけるし、貴族や商人の中には豪華絢爛でド派手な服装を好む輩もいたりはするので、使用人(メイド)に目立つ格好をさせて自分と一緒に出歩かせるってケースもごく稀にならあるが……ここまでゴスロリ成分がキマッてる使用人(メイド)服ってのは初めて見る、と思う。

 

 だとするとコイツは、どこぞの変態貴族の使用人(メイド)か――?

 と一瞬思ったが、雰囲気からして明らかに貴族に仕えてるって感じじゃないし、それならそもそも腹を空かして行き倒れていた理由がわからん。

 

 なにより尻尾の存在が異様すぎる。

 王立学園も大概に奇人変人の集まりな気がしているが、尻から尻尾を生やした奴は流石にいない。

 というかそもそも、俺は尻尾が生えた人間自体初めて見る。

 

 マジでコイツ何者……?

 何者っていうか、それ以前になに(・・)……?

 本当に人間なのか……?

 俺からすれば完全に謎の生命体Ⅹなんだけど……。

 

 俺がそんな風にモヤモヤと思っていると、

 

「もしかして……〝亜人〟という種族なのかしら……?」

 

 ポツリ、とレティシアが呟くように言う。

 

「? 〝亜人〟って?」

 

「ヴァルランド王国が属する大陸には存在しないのだけれど、遥か遠く離れた別の大陸では亜人と呼ばれる人々が人知れず生存している――と本で読んだことがあるの。〝亜人〟という種族は頭から獣の耳が生えていたり、身体が厚い体毛で覆われていたり、お尻から尻尾が生えていたり……といった変わった特徴を持つと、本には書いてあったと思うわ」

 

 ――〝亜人〟。

 俺がこの世界でその響きを聞いたのは初めてだ。

 もっとも、ここがファンタジー小説の世界であると知っていれば驚くに値しないが。

 

 人間と同じように二足歩行をして、人間と同じように言葉を喋って、人間と同じような生活習慣を送っている半獣人。

 人体に猫耳やら犬耳やらフワフワの尻尾やらが生えた、ファンタジー作品によく出てくるアレだ。

 

 レティシアから教えてもらう今この瞬間まで知らなかったが、どうやらこの世界にも〝亜人〟たちは存在しているらしい。

 もっとも違う大陸にのみとなると、俺にとってはいないも同然ではあるが。

 直近で国外に、ましてや別の大陸に行く予定なんてないし。

 

 それにしても流石はレティシア。

 そんなことまで知ってるなんてやっぱり博学だなぁ。

 夫として誇らしいよ、うんうん。

 やっぱりレティシアは凄い!

 

「だけど、この大陸に存在しないはずの亜人がどうして城下町に……。ねぇケイ、あなた一体どこから来たの? それに雇い主やご両親は?」

 

「サメ? う~んと……」

 

 レティシアに質問され、頭上を見上げて少し考える素振りを見せるケイ。

 だがすぐにレティシアの方へと視線を戻し、

 

「わかりませんサメ。覚えていませんサメ」

 

 えらくキッパリと、そう答えた。

 

「「「え?」」」

 

「なにも思い出せませんシャーク。気が付いたらこの街にいて、ウロウロしていたらお腹が減って動けなくなりましたサメ」

 

「えっと……それはつまり自分が何者で、どこから来て何故城下町の中にいたのか、なにもわからないということなの……?」

 

「はい、ですサメ」

 

 困惑するレティシアに対し、ケイはコクッと頷く。

 しかし「でも――」と言葉を続け、

 

「覚えていることもありますサメ。サメが覚えているのは自分が使用人(メイド)であることと、水の中を自由に泳ぎ回って美味しいご飯を食べていたこと。それと〝お父さん〟のことですサメ」

 

 そんなことを口にする。

 




サメと言えば『温泉シャーク2 九州大決戦』が公開されましたね。
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