【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第266話 放っておけません!

 

〝お父さん〟――という単語を耳にして、シャノアが少し目の色を変えた。

 

「〝お父さん〟……?」

 

「そうですサメ。サメには〝お父さん〟がいますシャーク」

 

「えっと……その〝お父さん〟は、今どこに……?」

 

「わかりませんサメ。覚えていませんサメ。〝お父さん〟の居場所も、〝お父さん〟の顔も、〝お父さん〟の声も――サメはなにも……思い出せません……シャーク」

 

 無表情となり、どこか焦点の合わない目で虚空を見つめるケイ。

 徐々に声色も弱々しくなり、その様子はどこか、自分自身でも困惑しているかのようにも見えた。

 

 そんなケイを見ていたレティシアは、悩ましそうに腕を組む。

 

「まさか……記憶喪失(・・・・)、というモノかしら? なにも覚えていないだなんて……」

 

「そ、そんな! だとしたら、放っておけません!」

 

 突然にシャノアが声を荒げる。

 とても悲しそうな顔をして。

 

「〝お父さん〟がどこかにいるはずなのに、その顔も声も思い出せないなんて……そんなの酷すぎます……!」

 

「シャノア、あなた……」

 

 声を震わせるシャノアを見て、レティシアも複雑そうな表情を見せる。

 

 あぁ――うん――シャノアの奴がどうしてこんな反応をするのか、なんとなく察せるな。

 

 シャノアはこの喫茶店を、母親と二人で長らく切り盛りしてきた。

 この父親が遺してくれた(・・・・・・・・・)という喫茶店を。

 

 俺がまだ一年だった頃に聞いた話だが、シャノアの父親は随分昔に事故で亡くなったらしい。

 それこそシャノアが物心付くかどうかの年齢の頃に。

 以降シャノアの母親は再婚することもなく女手一つで娘を育て、今日にまで至るのだという。

 

 そんな母子家庭で育ってきたシャノアだからこそ、〝お父さん〟の顔も声も思い出せないケイに対して同情心を抱いてしまうのだろう。

 シャノア自身、父親という存在に対しては思うところが多くあるみたいだからな。

 

 一応は俺も父母共に死に別れているが、親という存在に対して正直あまり関心はない。

 こっちは物心付く前の死別だったし、セーバスっていう親代わりもいるしな。

 それに俺って転生者だし。

 

 だから俺個人はそれほどケイに同情できないが――父親がいないシャノアとしては、ケイの置かれた現状を憂わずにいられないんだろう。

 

「……ケイさん、これからどうなされるおつもりですか?」

 

「サメ? サメは〝お父さん〟を探すつもりですサメ。きっとどこかにいるはずですシャーク」

 

「なら、私もお手伝いします!」

 

 シャノアは〝バンッ〟とカウンターを両手で叩き、大声でそんなことを言う。

 あまりに唐突な申し出に、傍から聞いていた俺もレティシアも思わず「「え?」」と声をハモらせる。

 

「ケイさんと一緒に、私も〝お父さん〟をお探しします! 〝お父さん〟が見つかるまで、ケイさんはどうぞこの喫茶店の居候さんになってください!」

 

「え……? い、いいんですかサメ?」

 

「あ、でも居候さんになるからには働いてもらいますよ? 働かざる者食うべからず、ですから!」

 

 お母さんは私が説得します、と強く意気込むシャノア。

 そんなシャノアのお人好しっぷりに、俺は少し呆れが出てしまう。

 

 人助けをしたい気持ちはわかるが、いくらなんでもコイツは怪しすぎる。

 記憶喪失で身元もわからず、挙句この大陸にいないはずのサメ尻尾の〝亜人〟なんて、どれだけ警戒してもしすぎってことはない。

 

 こんな怪しさの塊みたいな奴をずっと家に居座らせるなんざ、警戒心がなさすぎるんじゃないか……?

 

「おいシャノア、お前ちょっとは――」

 

「お願いします、オードラン男爵」

 

「……」

 

「お人好しにバカが付くことは理解しています。でも……どうしても放っておけないんです」

 

 ――自覚はある、ってか。

 それでも助けたいと。

 

 やれやれ……と思いながら、俺は妻へと視線を送る。

 すると彼女はクスッと微笑み、

 

「いいじゃないアルバン。シャノアの好きにさせましょう?」

 

「……レティシアがそう言うなら、俺はもうなにも言わん。どうぞご自由に~」

 

「あら、私たちもケイの力なってあげましょうよ」

 

「…………へ?」

 

「シャノアがケイを助けるなら、私たち二人はシャノアを助ける。私たちはあくまで同級生を助けるだけ――これならあなたも納得できるでしょう?」

 

 可愛らしくウインクしながら、俺にそう言ってくるレティシア。

 

 ――屁理屈! それもかなり強引な!

 ああ、でも面倒くさがりな俺をそうやって無理くり説得しようとする愛妻(レティシア)の、なんと愛らしいことか!

 

 可愛い可愛い妻にそこまでお願いされて断れる夫がいるか!?

 いいやいない! レティシアのためなら例え火の中水の中、果ては地獄の中で大魔王と抱き合いながら眠れと言われても、やり遂げてみせよう!

 

 そうそう、サメ尻尾が怪しいからなんだって!

 最悪の最悪、俺たちを騙してるなら全部ぶっ殺せばいいんだもんな!

 なら無問題!

 

「よーし、レティシアの笑顔のために、俺頑張っちゃおうかな。ぱっぱとサメ尻尾の親父とやらを見つけ出すか、もう三十秒くらいで」

 

「その息よアルバン。一緒に頑張りましょうね」

 

「お、お二人共、ありがとうございます……!」

 

 深々とお辞儀をするシャノア。

 なんだかんだで「ケイを助ける」という方向で話が落ち着いた俺たち三人。

 

 ま、面倒くさいけど、なんとでもなるだろ――なんて俺が思った、その矢先。

 

「――あ、ひとつだけ思い出しましたサメ」

 

 文字通りふと思い出した(・・・・・・・)かのような口ぶりでケイが言う。

 そんなケイの発言を聞いたシャノアは、期待に満ちた眼差しでカウンターから身を乗り出した。

 

「な、なにか思い出したんですか!? もしや〝お父さん〟のこととか!?」

 

「いいえ、違いますシャーク。サメが思い出したのは――」

 

 本当に何の気なく、軽い口調で喋るケイ。

 

 

 しかし――次に彼女の口から出た言葉を聞いた直後、俺の右手は反射的に腰の剣へと(・・・・・)伸びることになる。

 

 

 

「サメは――〝このケイ・ウェイトリーは、栄えある『薔薇色の黄昏(ローゼン・トワイライト)』の一員である〟……ということですサメ」

 

 

 




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