【✨書籍化✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】   作:メソポ・たみあ

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第267話 どう思う?

 

「……ねぇアルバン、どう思う?」

 

「どうもこうもない。すぐ殺すべきだ」

 

 レティシアの問いに対し、冷たい声で即答する俺。

 

 ――今、俺とレティシアは喫茶店の外へ出て、ケイとシャノアに会話が聞かれないであろう店の裏手側にやって来ている。

 もっとも俺個人は、戻っていいなら今すぐ店の中へと戻って処理(・・)してしまいたい気分だが。

 

「アイツの正体がなんであるかなんざ、知ったこっちゃない。事実を話しているのか嘘を吐いているのかも関係ない。〝薔薇教団〟の一員って時点でアイツは俺たち夫婦の敵だ。充分殺すに足る」

 

「少し落ち着いて。ここで早とちりして動けば、むしろ私たちが陥れられる(・・・・・)危険だってあるわ」

 

 窘めるように言うレティシア。

 俺は正直だいぶ頭に血が上っている実感があるが、どうやらレティシアはまだまだ冷静らしい。

 

 さっき俺が喫茶店の中で腰の剣に手をかけた時、殺気を見過ごさず間髪入れずに俺の手を諫めてくれたのもレティシアだ。

 彼女が俺の手を止めていなければ、今頃ケイの奴は首と胴体が別れていたことだろう。

 やっぱりレティシアは俺のことをよく理解してくれている。

 

 が……ちょっと止めないでほしかった、と思ったりもするが。

 

「そもそも変よ。アルベール国王を中心に私たちが〝薔薇教団〟の根絶を目指しているのは、あちらだって重々理解しているはず。なのにわざわざ、私たちの目の前で名乗り出るなんて……」

 

 口元に手を当て、考える仕草を見せながらレティシアは言う。

 

 先日の〝薔薇教団〟の集会所(アジト)への襲撃にレティシアは不参加だったが、事の次第に関してはほぼ全て知っている。

〝薔薇教団〟に狙われる彼女は明確に当事者の一人であり、今後の危険を予測するためにも知られることは知っておく権利があるから。

 

 勿論アルベール国王から色々説明はあったし、俺からも話せる範疇のことは大方話した。

 流石に「この世界がファンタジー小説の世界であり、〝外なる神々〟はそれを知っている」っていう部分に関しては、余計な混乱をさせたくないから言及を避けたけども。

 それに知ったとて、なにをどうできるスケールの話でもないしな。

 

 なのでレティシアは、〝薔薇教団〟が既に壊滅状態であることを知っている。

 その上でケイが自らのその一員と名乗ったことに、強い違和感を覚えているらしい。

 

「〝薔薇教団〟は壊滅こそすれど、まだ中心人物たちはいなくなっていない。ならば偶然を装って彼女と私たちが出会うようにした――つまりケイと私たちが出会って起こる事態を、組織が望んでいる……とは考えられないかしら。あなたがケイを斬り殺すことも見越した上での罠、という線ね」

 

「罠って、そんな上手くいくかぁ……? アイツが死んでどうなるとも思えんが……。それにアイツがなにも知らない末端の構成員で、自分でも知らず知らずの内に敵へ情報を送っているってこともあり得るだろ?」

 

「勿論、その可能性もあるわ。だけどあなたもわかるでしょう? 彼女、いくらなんでも怪しすぎる。まるで存在そのものが〝疑ってほしい〟と言っているみたい」

 

「……」

 

「ケイ自身の自覚はともかく、仮に彼女が〝薔薇教団〟から送り込まれた刺客だと仮定しましょう。もし私が逆の立場なら、送り込む先に疑心を抱かれないよう最善を尽くすと思う。敵の懐に潜り込むのにワザと怪しいと思わせては、本末転倒だもの」

 

 う……む……レティシアの言うことはもっともだ。

 もっともではある……。

 

 彼女の言うように考えれば、確かにおかしな点が多すぎる。

 実際俺はケイを殺す一歩手前までいった。

 まるでそうなるのが自然(・・・・・・・・)であるかのように。

 

 それもこれも全て敵の狙いの内――と考えるのは、改めて説明されれば理に叶っているように感じる。

 実際問題、ケイを殺してなにが起こるのかなんてわからんが。

 

 俺としては、どんな問題が起ころうと最終的にレティシア以外全部ぶっ殺せばいいと思ってるから、別になんでもいいんだけど……――

 

「それに――シャノアの事も……」

 

 レティシアが悩ましそうな物悲しそうな、とても複雑そうな表情をしてシャノアの名を口にする。

 

 ちなみにシャノアに対し〝薔薇教団〟のことは適当にはぐらかしておいた。

 ケイ自身も自分が『薔薇色の黄昏(ローゼン・トワイライト)』の一員であると自覚しつつも、肝心の組織のことについてはほとんど覚えていない節があったからな。

 

「彼女、すっかりケイのことを助ける気でいるわ。それにシャノアは〝薔薇教団〟に関することをあまり知らない。もしここでケイを殺すような真似をしたら……」

 

「そんなの、後で説明すればいいだろ。俺にとってはシャノアが悲しむより、キミの身に危険が及ぶことの方がずっと心配だ」

 

「あら、大事な親友が悲しめば私も悲しいけれど?」

 

「う……」

 

「フフ、ごめんなさいねアルバン。これは私の我儘かもしれない。でもやっぱり一人の友達として、私はシャノアを助けたくて」

 

 申し訳なさそうに苦笑するレティシア。

 

 うおぉ……やめてくれ……!

 俺はキミにそんな顔をしてほしいんじゃないんだ……!

 俺はただキミのことが心配で、キミを危険から遠ざけたいだけなんだ……!

 わかってほしいなぁ、この複雑な夫心を……!

 

 レティシアは小さく吐息を漏らし、

 

「ここは一旦様子見をするべきだと思うの。……シャノアのためにも」

 

「……」

 

「〝薔薇教団〟のことも、彼女には伏せておきましょう。ね?」

 

「……はぁ、わかった。レティシアがそう言うなら、俺は剣を納めるよ」

 

 優しい妻の思いやりに対し、俺はケイに対する殺意を飲み込むことにした。

 

 こんな少し甘いと思える部分も、結局は彼女のいいところなんだもんな。

 愛する妻の優しさを無為にするのは、夫としても望むところじゃない。

 

「ありがとう。でも大丈夫、もしもの時は私がなんとか――」

 

「いや、俺が守る」

 

「え……?」

 

「キミのことは俺が守る、なんとしても。だからキミはキミ自身のために、シャノアとケイを助けてくれ」

 

 俺はそう言ってレティシアの手を取る。

 妻を不安にさせたくないから。

 

「なにも心配しなくていい。キミの傍には俺がいる」

 

「アルバン……うん、本当にありがとう」

 

 レティシアは俺の手をそっと上げ、感謝を示すように頬ずりしてくれる。

 彼女の温かさを感じられるなら、ちょっとくらい面倒事を背負うのも本望だろうさ。

 

「――そうだアルバン、そろそろ王城に向かわないと……」

 

「ん? あ、いけね」

 

 レティシアに言われて、ふと思い出す。

 

 あ~、そうだった。

 俺ってアルベール国王に呼び出されてたんだっけ。

 サメ尻尾ゴスロリ使用人(メイド)のあまりの存在感に、うっかり忘れちまってたわ。

 

「……ま、別に行かなくてもいっか。言った傍からレティシアを一人にできないし」

 

「駄目よ。国王との約束をすっぽかすなんて、幾らアルバンでも許されないもの」

 

「で、でもなぁ……」

 

「平気よ。私にもしものことがあれば、コレ(・・)が反応してくれるから」

 

 彼女は首から下げて服の下に隠していた〝タリスマン〟を取り出し、こちらへ見せてくれる。

 エレーナがレティシアに与えたモノで、偽ジャック(ラーシュ)の一件の時にも彼女の危機と居場所を伝えてくれたお守り(・・・)だ。

 

 レティシアが〝タリスマン〟を身に着けている限り、もしも彼女の身に危険が及ぶような事があればすぐにエレーナも気付く。

 それに有事の際にはすぐに俺へも連絡するよう手筈は整えてある。

 

 エレーナが魔法使いとしてかなりの実力者であることは俺も理解しているし、それに今やエレーナは王立学園一年生の〝王(キング)〟。

 なにかあればいつでも一年たちを動員することが可能だ。

 

 あの一年共は奇人変人揃いだが、同時に粒揃いでもあるからな。多少は頼りにならなくもない。

 ま、エレーナ本人はあまり同級生たちを巻き込みたがらないかもだが。

 

 だから一応の保険(・・)はあるワケなんだけど……うぅむ……。

 

「大丈夫だから。ね?」

 

 温かな手で俺の頬に触れ、安心させるように言う我が愛妻。

 

 ……いやはや、俺の妻がしっかりしていると言うべきか、俺が妻に甘すぎると言うべきか。

 

「……わかった。それじゃ行ってくるよ。できるだけ早く戻ってくるから」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 俺はレティシアから離れ、重い足取りを王城の方向へと向ける。

 ――ああ、でも面倒くせぇや。

 どうせこの距離ならひとっ飛び(・・・・・)か。

 

「――〔エアリアル・アーツ〕」

 

 俺は風属性の魔法を発動し、魔力を纏った足で〝タンッ〟と地面を蹴る。

 同時に俺の身体は空高くへと飛翔。

 続け様に空気の壁を蹴って大空を移動し――ものの数秒足らずで王城へと到着した。

 




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