絶望の未来からもたらされ、トキサダと現代人に託された、人類最後の希望を乗せた集積回路。
ルビーをいつも支え、勝った日も敗れた日も寄り添い、胸の鼓動を輝きに変え続けたそのチップは…
最後に奇跡を呼び、超昂戦士に勝利を、人類に新時代をもたらした。
エスカルビーの勇気と希望を支え続けた、最高のバディ・ADDD。
これは、その全てを出し尽くし、今はただ沈黙する戦友へ込めた、アカリの歩みと秘めた想いの物語。
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ…!
《!警告》ADDDに重大な故障発生
!接続回路に致命的損壊
!D2エナジー出力回路に致命的損壊
!D2エナジー転換回路に致命的損壊
!戦闘スーツ形成回路に致命的損壊
!パルシオン接続回路に致命的損壊
!生命維持機能に致命的損壊
速やかに基地に帰投し修復を受けよ
速やかに基地に帰投し修復を受けよ
速やかに基地に帰投し修復を受けよ
速やかに基地に帰投し修復を受けよ
………
……
…
「ぐ…くぷっ…。」
エラーログが悲鳴を上げる。
アラート音がリフレインをやめない。
私を変えてくれる。私を私にしてくれる。
力を、勇気を、希望をくれる。
いつも私のいちばん近くにいる、バディが…引き裂かれて、限界を叫ぶ。
首だけは、繋がっている。
でも、それだけ。
背中から私を貫いた断罪の刃が、空を断つように弧を描いた。
ギリギリで前に逃げて、首は護れたけど。
代わりに…うなじを撫でる太刀筋が裂いたのは、私の相棒…ADDDとの接続シール。
(…負け、ちゃった…。)
決戦場は天空。
翼をもがれた私には、手を伸ばしても届かないステージ。
遠ざかる空、薄れる意識、霞むエナジー。
(私…もう戦えないんだ…)
堕ちる体が雲を破るたび、アステライズフォームが溶けていく。
さやかさんが、長官が託してくれた、最強戦士の翼が消えていく。
絶対にこの力でみんなの…人類の可能性と、希望の未来を取り戻すんだ…そう誓ったのに。
堕ちる、堕ちる、堕ちる。
負けた悔しさが、頬を冷たく伝う。
期待に応えられなかった情けなさが、手足を震わせる。
でも…それ以上にうずく、心。
……
…
ADDD…エスカルビーフォーム。
超昂戦士に志願し、適性を認められたあの日からずっと一緒のバディ。
初めてのDチャージ…ドキドキに震えた初体験のときも。
初めての変身…憧れを叶えて胸を弾ませた、エスカルビーのデビュー戦も。
初勝利…ヒビキちゃんやゴウカさん、シズカさんに助けられたけど…それでも、侵略者からみんなを護れた達成感に胸を熱くしたあの時も。
そして…長官を私のいちばん奥深くで、体と心で熱く感じた、初めての日も…ルビーフォームで。
ADDDは、私のたくさんの初めてを、いつも見守ってくれた。
震える背中を押してくれた。一歩踏み出す勇気をくれた。
そして…悲しさも悔しさも、何も言わずに全部受け止めてくれた。
恐ろしい敵に歯が立たず、先輩や仲間に助けられて、やるせなさと悔しさに身を焦がす日も。
戦いたくない敵とわかり合えなくて、握る拳が痛ぶる日も。
自分の非力と未熟を突きつけられた、泣きたいくらいの惨めさで消えてしまいたくなる日も。
ADDDはいつもと変わらず、力をくれた。
次はもっと頑張ろうって、無言で励ましてくれた。
そして。最高の戦士と私を…あなたが心をつないでくれた日は、忘れない。
『リバースっ! 暴走エナジーに負けないで!』
《があっ…! ぐぐぐ…うぐぐう〜〜っ!!》
ヴァルハラ・エスカレーションの軌道をかい潜って飛び込み、私から剥がして装着したADDDは…邪悪の力に囚われたエスカレイヤー・リバースの凍てつく心を溶かし、解き放った。
ダイビート壊滅を覚悟した恐怖の強敵は、今は頼れる素敵な先輩。
そんな…リバースを仲間にしてくれたのも、ADDD。
「バーカ、お前のお下がりなんか使えっかよ。」
ユカさんはそう言ったけど…きっと照れ隠しで。
私のADDDシールは私が最後まで使うべきだ、って思って、返してくれたんだ。
ADDDはいつも私のいちばん近くにいた。
体には、漲るパワーを。心には、滾る勇気を。
一緒なら、どこまでも戦えるって、信じられた。
だけど、いま。
たった3cm四方のホログラムは。
私がエスカルビーとして歩んだ、全ては。
断ち切られた。
……
…
「アカリっ、アカリいいいっっ!!」
「だめだ…ADDDが完全にズタズタだ…!」
「もう…戦うどころか、命の維持も…!」
「何でだよおっ! 何でアカリがあ!!」
…薄れる意識と、途切れるみんなの悲痛な声。
入れ替わりに包まれる、ひだまりの朝。
(もう頑張らなくていいよ。)
(もっと強い人がいるから。)
(みんな、いるから。)
…違うんだ。
私じゃなくてよくても、私が頑張りたいんだ。
(…そうか。そうだったね。)
(…わかったよ。君はそういう人だ。)
(僕も行くよ。最後まで、一緒に。)
…えっ…?
……
…
「力を完全に喪い、なお立ち上がるとは。
その蛮勇も、超昂の力無き今、風前の灯だろうに。」
「…力なら、あるよ。この胸に、私の中に!」
とくん。とくん。
とくっとくっとくっとくっ……
「…この力は…!!」
……
…
………ぴいーーーーっ。
【!】ADDDインテグラルフォーム
ブートフェイズに移行しました
!初期化フェイズ成功
!起動フェイズ成功
!歓喜感情D2エナジー化回路…正常
!激昂感情D2エナジー化回路…正常
!悲嘆感情D2エナジー化回路…正常
!幸福感情D2エナジー化回路…正常
!D2エナジー出力回路再構築…成功
!全感情エナジー変換モジュール…マウント成功
インテグラルフォーム起動率72%
サブ回路起動を継続します
!慈愛感情D2エナジー化回路を起動し実装します
!友情感情D2エナジー化回路を起動し実装します
!母性感情D2エナジー化回路を起動し実装します
!恋愛感情D2エナジー化回路を起動し実装します
……
…
「そ…そんなっ…!
ルビーのADDDは機能停止、完全沈黙だったのに…!!」
エラーログの洪水から一転、ラボのADDD遠隔監視システムは未知の機能実装を矢継ぎ早に告げる。
「こ…こんなの私、ハードウェアもプログラムも組んでないのにっ…どうして!?」
科学者として受け容れ難い、起動プロセスが示すADDDの機能の数々は…そのいずれを取っても、さやかが夢にまで見た、いつかこの手で叶えてやるんだと追い求める、オーバーテクノロジーの結晶。
人間の全ての感情をエナジー転換する、ADDDの究極形態・インテグラルフォームへの進化が…終焉の法理に抗い、人類と幻魔を繋ぐ輝星を誕生させたというのか…!
「私の…みんなの、全部を賭けて!!」
想いは六芒星となり、青い地球を燦と照らす。
その煌きこそ、ルビーが望んだ未来への灯火。
「スターバースト・エスカレーション!!」
………
……
…
「ほーい、そんじゃ変身、行ってみよー!」
「はいっ! フラックスプロージョン・ビートチェンジ!」
しゃきいい…ん!
「どうかな、ルビー? 違和感とか無い?」
ぐっ…しゅっしゅっ。
きゅっきゅっ…
「はあっ!」…しゅっ!
シャドーボクシングのように、パンチを、フットワークを試し、最後にハイキック。
「はい! 手足の感覚も元通り、ガッツ全開です!」
「良かったー、モニターも異状なし。
接合部を斬られたから、再装着がちゃんと馴染むか、少し心配だったけどねー。」
一つの戦いが終わった。
致命的な胸の刀傷も癒え、燃やし尽くしたエナジーも、腑抜けたようにぽっかり空いていた心の隙間も、ようやく回復。
激戦を支えた天才科学者の戦場は、いつも以上に機材もぐちゃぐちゃ、書きなぐりの技術資料は散逸し、季節外れの台風が過ぎた後のよう。
そんなラボで、ルビーは新たなADDDの装着テストと慣らし運転をしていた。
ADDDのシールは、あくまでメインシステムと装着者を繋ぐ端末。壊れても交換すれば、別端末からクラウドに接続するように、ルビーは再びルビーとして立ち上がれる。
言わばADDDシールは、替えの効く消耗品。
それでも。
「さやかさん…こっちのシールも、もらってもいいですか? …その…記念に。」
「えっ…?」
アカリがおねだりしたのは、ラボの机でテスターやら補助電源やらに繋がれたADDDシールのかけら。
苦楽を共にし、最後に超人的パワーをくれた、エスカルビーのかけがえないバディは…今は沈黙し、動くことはない。
「ああ…改造痕も、結局消えちゃったからね。
もう技術的に必要な解析も無いし…。」
「いいですか? ありがとうございます!」
「あ…ちょっと待ってね。」
さやかはADDDメンテナンス用の検査機を手に取り、何やら改造を施す。
「ポチッとな。」
ぱあああっ…!
「あっ…これ、あの時の…!」
立体映像が結んだのは、最終決戦のアステライズフォーム。
マネキンに着せたように立体を成す、ルビーの激戦の勲章は…当然だが、ずたぼろだった。
ロンググローブ、プリーツスカート、ニーハイソックス、シューズも、ヘッドギアも…。
ボディの前から後ろから…五体全てに無数に刻まれる剣と槍の裂傷は、ルビーの苦闘と苦痛、戦慄を雄弁に伝える。
そして…背から胸を貫く剣の痕は、ルビーの胸の輝石を木っ端微塵に砕き、ヴァーミリオンレッドのカラーと純白のレオタード、ハイネックのインナーをちょうど半分に裁ち切っていた。
おびただしい出血は上半身すべて…インナーもアウターも、そして黄金に輝くリボン、四方を援護するブースターユニットまでもをクリムゾンレッドに染めていた。
「…頑張ったなあ…。」
(…!)
物言わぬバディに、ルビーは思わず歩み寄り…最高の戦友に手を伸ばす。
「こんなになっても、私を護ってくれた。
命を護ってくれて…最後の力を振り絞って、私にくれたんだね…。」
その指はスーツの形をなぞるが、触れることはもうできない。
機能を停止し、実体化できないそのフォームを、それでもルビーはいたわるように、慈しむように。
…くすっ。
さやかは面映ゆさに苦笑した。
科学者としては、自分の製品に心が宿るなんて思っていない。
それでも。
私と私の作品を信じて、命を預けてくれたルビー。
感謝したいのはこっちなのに、それどころか、こんなにも私の最高傑作を、愛してくれる…。
…これが、科学者冥利に尽きるってヤツかなあ。
「ログが残っているから、いつでも見られるよ。遠慮なく言ってね。」
「ありがとうございます!」
……
…
人類の未来と希望を繋いだ、エスカルビーの1年にわたる戦い。
その全てをいちばん近くでつぶさに見続けた、超昂戦士の最高のバディは…今はその任務を全うし、名誉の傷をそのままに、小箱に収められ、戦友の部屋をゆりかごに、静かに安らぐ。
戦いは終わらない。
ルビーは今日も、閂市の平和を求めて出動する。
新たな相棒もまた、いくつもの激闘をルビーとともに潜り抜け、たくさんの新たな仲間との出会いに立ち会うのだろう。
絶望の未来からもたらされた、3cm四方のホログラムチップは…。
今日も超昂戦士のいちばん近くで、共に悪の現場に臨場する。
戦士の歴史を傷と刻み、少女の勇気を力に変え。
そして…悲嘆の未来を希望の現在に変えた、奇跡の集積回路は…次の伝説を紡ぐ。
【完】
筆者の環藍河です。実に3週間のご無沙汰でした。
え~…どうしてこげにブランク空いたかと申しますと…
被災しました。
某地域の豪雨で自宅が浸水。家財はある程度逃がしましたが…。
愛車が沈没しました。
ほんで、最後にレッカーされるときに、バッテリー繋いだと思われる瞬間。
スマホにエラーメッセージが津波のように(某社のコネクトシステム契約してたので)。
…そんな経緯で、こちらの単発SSができあがった次第です。
実は超昂SSキリ番・30作目となります。
ええ、こんな話が書けるくらいには生活も環境も回復してきましたので、どうぞご心配なく。
他地域でも被災された皆様方、どうかご無理のございませんように…!
次回は新作(notリメイク)の長編。シンプルなバトルもので1本制作中であります。
よろしければ、是非またのお立ち寄りを!