ただでさえ生きるのが厳しい呪術世界なのにクズ一族に生まれて死相しか見えないんですが   作:楓/雪那

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#13 カミサマの食卓

「御三家について、ですか?」

 

 

ある日の高専寮にて。

偶然にも二年、一年、そして袴が揃った夜にその質問を振ってきたのは七海だった。

 

 

「ええ、私は一般の出なのでその辺のことには疎く、気になったので」

「確かに!僕も気になる!」

「私も教えてもらいたいな。悟の話だけじゃ物足りなくてね」

 

 

七海に便乗して同じく一般家庭育ちの灰原と夏油も興味を示す。

一方で以前同じ話を振られたのに自分だけでは不満と評された五条は見るからに不機嫌になる。

家入は特段興味はないが、なんとなく聞いている。

 

 

「人格面で言えば上層部(腐ったミカン)含めてどこも大差ないですよ。あれは年寄りが使ったぼっとん便所と同じです。誤飲した後に排泄された宝石が相伝術式と考えてもらえば大体あってます」

「そこまで言いますか?」

「七海さんだってもう分かってるでしょう?呪術界はクソです。その中枢なんてクソオブクソですよ」

 

 

仮にも自分の実家に対してあまりにも辛辣な評価を下す袴だが、呪術界がクソなのは紛れもなく事実である。

一年組がやや引いた表情を浮かべるのに対して、二年組は腹を抱えて大爆笑。

これにはさっきまでぶー垂れてた五条もにっこりである。

 

 

「でも術式の傾向とか分家の特徴は結構異なりますね」

「まあそこら辺が違わなければ御三家同士で勢力争いとかしないだろうしね」

 

 

呪術界御三家というだけあって、この3つの家の勢力は非常に大きく、数多くの術師を輩出してきた。

御三家において最も重要とみなされるのは昔から受け継いできた相伝の術式であり、相伝を持って生まれればほぼ確実に次期当主の座につけるほど価値が高い。

とはいえ他の術式に価値がないわけではない。

地方の術師家系の強み―――例えば芻霊呪法の釘崎家や演舞による祈りを得意とする庵家―――がよく言えば特定の案件・要望に対する専門家、悪く言えば一芸しかない家だとすれば御三家の術師としての強みは長い歴史の中で積み重ねられた呪術に関するノウハウの多さだろう。

 

 

「御三家の中で今一番力があるのは五条家ですね。意外かもしれませんが人格面で一番マシなのも五条家です」

「今意外って言ったか?」

「このクズがトップなのにか?世も末だね、御三家って」

「硝子チャン??」

「どんぐりの背比べなんじゃないかい?話聞く限り全部マイナスっぽいし」

「傑???」

 

 

袴が「五条家はまだマシな方」と評したのはあくまで禪院家と比較した場合である。

術師であることが五条家の一員としての最低条件ではあるものの、男尊女卑であったり他の術師家系すべてを見下していたりはしないあたり、まだまともな部類ではある。

老いた者ほど上層部の爺たちと変わらなくなっているし、外から家に属した者は冷遇されがちであったりはするが、他二家よりかはマイルドな部類である。

 

そこに男尊女卑と実力主義が付いたものが禪院家、血統至上主義と術式の質による評価が付いたものが加茂家だからだ。

 

 

「五条家が今最も強い理由は五条先輩がいるから、これにつきますね」

「当たり前だろ。だって俺、最強だし」

「逆に言えば万が一このロクデナシが五条家からいなくなった場合、あの家は終わります」

「あ”?」

 

 

唐突なロクデナシ呼びに夏油と家入はまたもや吹き出し、五条はガンを飛ばす。

しかし五条本人もまた自分の家が術師としてパッとしないとは以前から思っていた。

 

相伝の術式『無下限呪術』と特異体質『六眼』の抱き合わせは数百年ぶりであり、これこそが五条悟を最強たらしめ、かつ五条家の格を遥かに上げた理由である。

しかし六眼だけならまだしも、無下限単体だと原子レベルの緻密な呪力操作を要求されるため、順転を一発撃つのが精いっぱいなくらい。

故に歴代五条家の当主の中で無下限呪術を十全に使いこなせたものは極めて少なく、死ぬまでニュートラルな効果である無限の防壁以外の手段を使った術師の方が少ないまである。

時には相伝ではなかった元当主候補の方が当時の当主より強かったということもあったようで、そのような人物らが家を抜け独自の家系を作ったほどに不満が蓄積していたらしい。

 

結果として現在の五条家の術師は『無下限あるいは六眼を持って生まれた当主候補』か『サポート系の術式を扱う当主補佐』かのどちらかに分かれている。

原作で「五条悟が一番強いのは一人の時である」という共通認識は彼らの中にも当然あり、それ故の補助タイプの、ハッキリ言えば地味な術師が多いということになったのだった。

 

 

「五条家が当主一人で全て回るワンマンチームだとしたら、精鋭術師が多数いるのが禪院家ですね」

「質より量、といったところですか?」

「質が悪いってわけでもないですけどね。『炳』という名の部隊があるのですけど、準1級以上の実力者が10人以上いる、と言えば想像しやすいでしょう?」

「へぇ~、フツーに強いじゃん」

 

 

家入が感心したように術師の総合レベルで言えば最も優秀なのは禪院家であろう。

風潮こそ封建的で時代錯誤もいいところだが、術式への理解度は特に高い。

そのきっかけとなったのが現当主・禪院直毘人である。

直毘人の術式『投射呪法』は彼が最初の使い手であり、アニメーションをモチーフにした現代の術式であり、若いころは周囲からの評価に苦労していた。

それでも当主の座を勝ち取ったことから「実力さえあれば、術式の歴史は問わない」という風潮が新たに生まれ、外部から変わった術式を持つ者を娶り新たな術式を増やしてきた。

 

その手段はまさしく禪院家であるが、結果として『炳』や『灯』のレベルはここ数十年で大きく上がった。

元々直毘人より二代前の当主が分家の人間だったように、実力さえあれば立ち位置がそこまで評価されるわけでもなかったのも相まって、術師のレベルは高い。

 

 

術式を持っているかそうでないか、そして性別はどちらか、この2点で生きづらいかどうかが決まる。

それが禪院家がクズの中のクズ一家と呼ばれる所以である。

 

 

「じゃあ加茂家ってどうなの?」

「ふむ…そうですね、血統大好き加茂一族と呼ばれるあの家は、よく言えばオールラウンダーな術師が多いですね」

 

 

無下限や十種影法術と比べるとイマイチパッとしないと馬鹿にされがちな加茂家相伝『赤血操術』。

しかし裏を返せば誰でも使えやすく対応の幅が広いバランスの取れた術式とも言える。

 

相伝以外については歴史のある術式を好む傾向があり、強力ならば新しい術式を取り込むことに躊躇いのない現在の禪院家とは真逆のタイプだ。

分家にも同じ風潮があり、赤血操術の派生形やよく似た術式を本家に渡す代わりに、分家の流れを汲んだ術式持ちなら本家から分家に回されるということもあり得る。

血統・伝統、この二つを重んじてきたがために、現在でも上層部に太いパイプを持つのが加茂家の現在である。

 

 

「やっぱり家ごとに術式の傾向とか違うんだね~」

 

家入が関心があるのかないのか分からない適当なトーンで呟く。

一般家庭組からしてみればバカでかい豪邸暮らしのボンボンという印象(主に五条のせい)と性格がクズな人間しかいない(主に五条と袴のせい)印象だけだった。

加えて御三家の術師はほとんどが高専に所属しておらず任務で同行することが稀なため、術師としてはどうなのかは測りかねていた。

 

「性格のクズ具合はともかく、好みの術式とか待遇の仕方は変わりますね。私の術式は結果として禪院家では認められてますけど、多分加茂家なら拒否られるでしょうし。逆に灰原先輩の術式は加茂家好みだったりしますね。家入先輩も反転術式のアウトプットが可能だから御三家、特に五条家が欲しがると思いますよ」

「よし、五条。自力習得するか去勢するか、どっちか選びな」

「極端すぎんだろ!」

「灰原、変な女に引っかからないようにね」

「大丈夫ですよ、夏油先輩!人を見る眼はあるんで!」

「灰原なら…大丈夫なんじゃないですか?逆に向こうが浄化されそうな気はしますが」

 

 

 


 

 

 

「対象の名は灯里 颯華(あかり ふうか)。15歳でありながら五条家の分家筋に当たる名家の現当主、というのが表向きの情報ですが…」

「事実上、あの家は無くなったものとして扱ってるはずでしょう?」

 

 

目的地である静岡県三島市へと向かっている車内にて。

その家についての『予備知識』を持たない袴は、念入りに事前に受け取っていた資料と補助監督の話を照らし合わせる。

 

 

「相伝術式は巫蠱争葬術(ふこそうそうじゅつ)――所謂蠱毒を原型とした如何にも保守派が好む式神タイプの術式。家全体で何かしらの縛りを課してるのか、その手段は知りませんが灯里の家で産まれた術師は全員がその術式を持っている。けど巫蠱争葬術の本質はそこじゃない」

「確か当主が40を過ぎるか、それより前に当主に何らかの不具合が起こると家全体を壺、親族・使用人問わず家にいる人間全てを蟲と見立てて蠱毒を開始。10年だったか?それくらいかけて生き残った一人を次期当主候補にするってのが、あの家の頭の決め方だよな」

 

 

袴の台詞を引き継いだのはガタイのいい爽やかな顔立ちの青年。

特別準一級術師 藤宮 陽鷹(ふじみや ひおう)。彼もまた御三家の一つ、加茂家の分家筋に当たる名家に属する術師であり、袴と同じくまだ高専入学前でありながら単独出撃を認められている実力者である。

 

 

「尤も、その儀式は時代の流れに合わせて変容してきたらしいです。かつては名目上は形式立てた試合を行いながら、実際は闇討ち不意打ちなんでもありだったようです。けど少なくとも大正時代初めの頃には不殺のルールが、恐らく暗黙の了解で浸透していたらしいですね。恐らくは降霊術師、あるいは水子の霊を悪用する墓荒らしが横行し始めたからでしょう」

 

 

元来は生き残れるのであれば邪法ですら構わないという風潮があった灯里家の儀式も、悪質な呪詛師に利用されたとなると名家の恥になりかねない。

しかも呪術全盛期であった平安から江戸までならまだしも、現代に至るまで呪術師の存在がよりマイノリティになるほど術師の数を無暗に減らすのはよろしくないと判断されたがために、巫蠱争葬術の形は1000年前のものから離れていった。

 

 

「不殺が基本となった儀式はシンプルな式神同士の試合へとなり、勝者は敗者の式神のみを食らい、敗者は一時的に己の式神を失う。そして当主が確定すると当主の呪力をわずかに帯びて式神が返還される。結果として当主は式神に纏わせた自分の呪力の残穢を通して一族の様子を監視することができ、高い統率力を誇る一族になることができた、はずでした」

「禪院術師の仰る通りです。しかし今年の元旦から開始された巫蠱争葬術による当主争いの儀において、事態が一変しました。」

 

 

灯里颯華による一族惨殺。

巫蠱争葬術の歴史において最速記録である、4ヶ月での儀式の終幕。

そしてその半月後、本来なら灯里颯華以外は人がいないはずの灯里邸内で、呪術総監部が把握していない人物が複数人生活している様子が確認。

 

 

「これらを総括して上は灯里颯華を呪詛師に認定、6月2日に準一級術師1名、二級術師1名、準二級術師1名を派遣し対象の確保を依頼しました。しかし派遣された術師は3名とも戻ってきませんでした。それと同時に静岡県内の呪霊の発生が前年度と比較して明らかに減少していると窓からの報告が入りました。地域によって疎らではありますが、真っ先に呪霊がいなくなったのが灯里家邸宅がある三島市であり、そこから広がる形で呪霊の減少が確認されています。代々灯里家が請け負っていた青木ヶ原樹海についても同様です」

 

 

富士山北西に位置する、日本でも一際強力なパワースポット、もとい呪いの吹き溜まりこと青木ヶ原樹海を管理してきたのも灯里家であった。

高専術師が年に数度、修練の為に利用することもあるこの霊峰で、学生の手におえないような強力な呪霊と対峙しないように一定のレベルに調整する役割を担っていた。

 

 

「この急激な事態の変化に焦った上は、灯里颯華を一級相当、最悪の場合は特級クラスに当たるかもしれないと警戒を強めており、本家当主である五条悟に迅速な始末を命令しようとしていました。一方で呪術高専東京・京都校の両学長は県内の呪霊による被害が圧倒的に低下した現状を考慮して、高専にスカウトできないかと打診しました」

「それで同い年(タメ)の俺らに白羽の矢が立ったってわけか」

「儀式の終わり方が本来のものであったというのもあるでしょうね。これが他の家だったら乱心扱いで確定でしょうけど、保守派の好きな昔のやり口ですもの」

「禪院術師、藤宮術師はともに実力も十分と判断されての依頼です。可能であればスカウト、不可能であれば祓除とのことです。くれぐれもお気をつけて」

 

 

 


 

 

目的地である灯里邸宅付近で、袴と陽鷹は補助監督の車から降り邸宅前まで少し歩いて向かった。

如何にも古民家といった雰囲気の門を叩き、灯里の姓を呼ぶと使用人が二人、扉を開け二人を招き案内をする。

そして今、袴らは応接間に通され、当主の到着を待たされていた。

 

 

「……結構すんなり通されたな。門が開いたら即戦闘、じゃなかったのはよかったぜ」

「今回は予め総監部から訪問を通達されていたからでしょうね。前回は事前連絡なしの奇襲作戦でしたから」

「てことは灯里颯華はある程度話が通じる相手って考えていいのか?」

「ええ。ですが警戒は解かないように。使用人で友好的に見せかけて罠に嵌めている可能性も存分にあり得ますので」

「あぁ、あの式神か」

「……式神って分かるんですか?」

 

 

袴の眼では灯里家の使用人は一般人、もしくは4級程度の術師よりかは呪力操作が整っている程度の存在としか認識できなかった。

そのため一目見て正体を看破した陽鷹にやや驚いた視線を向ける。

 

 

「そういうのに造詣が深い家なもんでね。人間そっくりだが生者が出せる雰囲気じゃないな」

「…確かに灯里家の相伝は式神に関するものですが、しかし人蠱なんてありえますか?」

「それは流石に無いな。擬態の方があり得るだろ」

「群体型の式神なら呪霊の急速な減少も含めてある程度は説明がつきますね……そのケースで戦闘を想定した場合、私が苦手な相手ということになりますが」

「頼むぜ班長、あんたは俺より強いんだからよ」

 

 

初対面でありながら気兼ねなくお互いの意見を交換できているのは、陽鷹の生来の人当たりの良さかと袴は考えていた。

呪術師の家系出身だと、そのプライドからか高圧的・差別的な口調になりがちな人間が多いが、目の前の彼は違うらしい。

あるいは準一級相当の実力と経験から裏打ちされた任務前の情報共有の重要さからか。

 

そんなことを考えていると、いきなり横の襖が開き一人の少女が入ってきた。

歴史のある名家には似合わない金髪の、まだ幼い顔立ちのその少女がターゲットであると理解すると同時に、少女の歪な様子に二人は恐怖する。

 

 

(うっそだろ…なんだこの呪力量…無尽蔵、とまではいかねぇが相当多い…何より信じらんねぇのが、こんな分かりやすい呪力なのに、部屋入ってくるまで気づけなかった…!)

(…見えては、いた。その上で予知に疑念を抱くほどの気配のなさと、実際に相対したときのギャップが気味が悪い…)

 

「いやー、ゴメンねお待たせー!あーしさっき起きたばっかでさー!初めて会う人ならよりバチっと決めたくて準備に時間かかっちゃった!マジでごめん!」

 

 

客人が恐れていることなどつゆ知らずの家主は、やはり名家には似合わないギャル口調でまくしたたてるように話し始め、入ってきた襖から様々な箱を引っ張り出し、その中からお菓子を並べ始める。

 

 

「でもさー、ショーがないじゃん?あーし今まで同年代の友達とかできたことないからさー、何話そうかなーとか仲良くなれるかなーとか、楽しみ過ぎて寝れなかったんよ!とりあえず家にあったお菓子かき集めたから食べてよ!こういうさ、お家パーティって憧れてたんだよねー!あ、飲み物ないね!?今持ってくるからちょっと待っててねー!」

「ちょちょちょストップストップ」

 

 

嵐のような勢いで部屋から出掛かった少女――灯里颯華を現実に戻った陽鷹が引き留める。

第一印象の不気味さといざ話した(一方的だが)際のギャップのせいで呆気にとられたが、このままペースに飲まれるわけにはいかないと、なんとか正気を取り戻したようだ。

なお袴は「この人格は特級寄りね」などとややズレた感想を抱いていた。

 

 

「えーっと、まず自己紹介からいいか?俺は藤宮陽鷹、よろしく」

「禪院袴です。さっきの口ぶりからすると、灯里さんは総監部からどのような相手が来るかを聞いていたようですね」

「ひおーくんとハカマちゃんね!あーしのことはふーかでいーよ!タメの子が来るっていうのは聞いてたよ!でも2人はなんであーしんちに来たの?」

 

 

ん~?と疑問符を浮かべる颯華の様子を見て、陽鷹は直感で理解した。

この子は根は善良である、と。

これなら話は進めやすいと思い、陽鷹は本題に入る。

 

 

「俺らが今日来た理由は颯華、あんたを呪術高専にスカウトするためだ」

「ほぇ?高専に?」

「あぁ、今まで灯里家の管轄だった静岡県全域で、立て続けに呪霊の消失反応が確認された。上はそれをあんたの活躍と認めて、呪術高専に引き入れたいと考えている。高専所属になったら術師としての活動範囲は広がるが、その分他の術師とのコネクションも増える。悪くないだろ?」

「つまり友達が増えるってことだよね!?それならウェルカムだよー!高専行きます!」

 

 

言わずもがな、ここにいる3人とも初対面である。

しかし陽鷹はこの僅かなやり取りで、颯華が今欲しているものに気づいていた。

 

彼は生来の面倒見の良さと術式、というよりは家系の影響で他者の求めているものをいち早く見抜けるという特技を持っていた。

そんな彼が見抜いた颯華の求めていたもの、それは友。

 

恐らく術師の名家であるが故に、外の人間と関係を築けなかったのだろう。

幼少期から今まで周りにいたのは親族か使用人、そして年の離れた術師くらい。

宗家である五条家には年齢が近い五条悟がいるが、格上の立場の人間と友達になりたいなど親が許さないだろう。

 

それならば彼女の知らない外界の人間との関係を築けるという誘いは、とても魅力的だろう。

そして思った通り、颯華は陽鷹の提案に完全に乗り気であった。

陽鷹は交渉がスムーズに終わって、颯華は新しい世界に心を躍らせ、ともに満足。

 

ただ一人を除いては。

 

 

「颯華さん、いくつか聞いていい?」

「ん~?いーよー!」

「ここに元々住んでた人たち、それとこの前ここに来た術師3人、どうしました?」

「え、食べたけど?」

 

 

殺した、ではなく、食べた。

その言葉に陽鷹は息をのみ、袴は目を細める。

 

 

「…なぜ、食べたの?」

「食べたかったから」

「…呪霊も、食べたの?」

「うん」

 

 

さも当たり前かのように言い切った少女に、陽鷹は絶句し、袴はある嫌な予感が当たっていたことを確信する。

最初に颯華を目視したとき、陽鷹は彼女の呪力量の多さと、その気配の薄さに驚いていた。

しかし袴の眼はその呪力の異質さ――複数の呪力が混ざり合っていることを感じ取っていた。

 

話は少し変わるが、夏油傑の呪霊操術の基本的な技術は「呪霊の取り込み」と「取り込んだ呪霊の放出」、そして「呪霊の操作」の2つであり、そしてこれらの技術に術者の呪力が使われることはほぼない。

その点が一般的な式神使いと呪霊操術の違いだ。

一般的な式神は術者から呪力を注がれることで起動する。

これを日常生活で例えるなら、術者がコンセント、式神が電化製品のプラグに近いだろう。

 

一方でなぜ呪霊操術が呪力消費を生じないのか。

それは取り込んだ呪霊が生きたままだからである。

極端な話、呪霊操術の術者は扉を開け閉めしてるだけみたいなものなのである。

勿論、自らの呪力で取り込んだ呪霊を強化したり、領域展開や極ノ番を使えば呪力は消費する。

しかし呪霊操術の使い手が戦う時は、基本的には使役した呪霊の呪力がメインなのだ。

 

しかし、メインとなる呪力が操っている呪霊であるのに、なぜ術者の呪力の残穢も残るのか。

簡単な話、取り込んだ時点で術者の残穢がついてしまうのだ。

クローゼットの中に芳香剤を置いておけば、中にしまった衣服にも匂いが移るように、呪霊の呪力にうっすらと術者の呪力が被さってしまうのである。

 

つまるところ、何が言いたいか。

 

残穢が付着するのならまだしも

 

目の前の少女のように複数の呪力が混ざり合うことなどありえない、ということである。

 

 

「…もう一度、聞きます。なんで、食べたんですか」

「………あ~、ハカマちゃんたちもそういう感じ?前来た人たちもそーだったよ。そっちの基準であーしの方が間違ってるって決めつけてさぁ…」

 

 

颯華の表情が険しくなり、

 

その変化に気づいた陽鷹がずっと背中に担いでいた大砲に手を伸ばして、

 

 

「そーいうのさぁ……ホンットーに、ムカつくよね!!」

 

「下がって!」

 

 

その未来を見ていた袴が淵戟を取り出して横薙ぎを放つと同時に、

部屋一面、壁も天井も床も突き破り、無数の蟲が2人に襲い掛かる。

 

植物トリオ以外で救済が欲しいのは?

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