頼れる仲間はみんな目が据わってる   作:佐渡ヶシマシマ

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幕間一・食事事情

 

「緊急事態だ」

 

 俺の呟きに、集まった面々は厳しい顔で頷く。

 アスタは目を閉じ、腕を組みながらも珍しく僅かに足を一定の感覚で揺らしながら。

 フィグは、ごくりと生唾を呑みながら腿の上に握り拳を置いて。

 ククラータでさえも、テーブルの上に腕を出し、片手で顎を支えつつ。

 

 無論、代表として話を切り出した俺も、かなり困っている。それゆえに。

 

「……今後の、食事についてだ」

 

 この重要な会議をどうにか、良い結末へと導かなくてはならない。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 俺たちの一党の食事事情は実のところボロボロだった。

 

 俺は干し肉や固いパンなんかのダンジョン内で食べる保存食などの作り方は頭に入っていたが、では一般的な料理の心得は全くない。殺菌消毒が済んで腹が膨れるか、そして長持ちするか。それが食事に求めることでそれ以上ではなかったから。

 

 アスタは実は俺以上に食事には頓着がない。過去満足に食事を食べられなかった経験からなのか、腹が膨れればそれだけで幸せだとか、今はカイトやみんなと食事を囲むのが楽しいなどと言う。無論、料理の経験はない。

 

 フィグはそもそもこの家を借りた時に備え付けらえた調理場に対して背が低すぎる。料理は赫の魔女の館で何度か手伝いをしたそうだが、それでも一人ですべてできる程ではないという。

 

 この中でまともに調理ができるのは、意外にもククラータである。しかし彼は外に呑みにいくのが好きなばかりか、この家でたまに調理器具を握るときはたいてい家で酒を開けるときのアテを作るときである。彼一人に調理場を任せるというのは、不安が残る。

 

 使うあてもない金は無駄にあったから、これまでは各々が必要に応じて外食や出来合いのパンなどを買って過ごしていた。時折ククラータから健康調査の一環だと抜き打ちで日々の食事の様子なんかを見ていたが、そもそものククラータが一番悪いという結果に落ち着くため有名無実化していた。

 

 

 しかし、そこに一石を投じた人物がいたのだ。

 

 

「ダメっすよそれじゃ、冒険者は身体が資本なんすから」

 

 そう。臨時で俺たちの一党にいたタイムである。

 

 村に居た時から妹や弟の食事を母親の代わりに作っていたというばかりか、冒険者として仲間と街で暮らすようになってからは冒険者だけでなく酒場の調理場で仕事をしていたこともあるというタイムが、調理場に立ったのだ。

 

 これによって崩壊していた俺たち一党の食事事情、栄養事情は飛躍的に改善。

 というよりも、恥ずかしながら彼の作る外食で食べるようなものとは違う、所謂『家庭の味』に。俺たち一党には感動してしまったのである。

 

 初めて食べた時、俺は感動にスプーンを取り落としたし、アスタは感動のあまりに涙を流しながら大食漢ぶりを抑えて一噛み一噛み味わっていたし、フィグもべしょべしょに泣きながら休まず食べ続けたし、ククラータに関してはその日酒を一滴も呑まずに料理を完食した。

 

 とまあ、そんな経緯があって。

 

 ひと月にも満たない、彼の加入期間。だが、余りにもその時間は長かった。

 食事が人間にとって必要不可欠だとわからされてしまった俺たちにとって、時間をかけて家で作る料理のありがたみが、感動が、これほどまでに素晴らしいものだとは思わなかったのである。

 

 そして、タイムの元の仲間たちの容体が安定し、晴れて彼は元の一党に、本来の仲間たちと復帰することになった。それ自体は喜ばしいことであり、俺も心からの祝福をもって彼を送り出した。

 

 送り出した……は、いいのだが。

 

 先も言ったとおもり、俺たちは完全に彼の料理に胃袋を掴まれてしまっている。当然、彼の料理の再現を行おうとしてみた。

 

「……すまない、カイト。まな板が」

 アスタは力加減を誤ってまな板を両断し。

 

「カイトさん、ご、ごめんなさい……」

 フィグは危うくスープの中身を床にぶちまけかけ。

 

「やべ、発作的につまみができちまった」

 手癖で料理をしていたククラータは本来とは違う品が出来上がった。

 

 俺も俺で挑戦してみたが、味付けはぼんやりしているし、一口食べただけでタイムが作ってくれたときとは何かが決定的に違う。

 

 そうこうして、今だ。

 

 正直な話、一朝一夕で俺たちがタイムのような料理の腕前を手に入れることは不可能だと思っていいだろう。それは今回の料理ではっきりした。

 とはいえ、なら料理に専念するためにダンジョンに潜らない――なんてのは本末転倒。やっとこれからの方針も、仲間たちと向き合い話し合ったうえで決めることができたというのに、こんな形で足踏みするのは流石にありえない。

 

 タイムを呼び戻す……というのも、酷だろう。

 漸く故郷の仲間たちとゆっくり過ごす時間が戻ってきたのだ、それを奪うような真似ができるはずもない。

 とはいえこのまま暗中模索を繰り返した所で俺たちがあの料理を作れるとも思えない。

 ……というか俺としては仲間たちを厨房に立たせることも少し不安なくらいだ。

 

 

 そうなると、選択肢は限られてくる。

 

(背に腹、か)

 

 意を決して、俺は告げるのだった。

 

「――俺が、タイムに時間を割いてもらえないか頼んでくる」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「そんなことならもっと早く言ってくれればよかったじゃないっすか」

 

 俺が仔細を伝えると、彼は呆れたような、或いは困ったような表情でそう言った。

 

 場所はタイムの一党が宿泊している宿の調理場だ。タイムが宿の女将さんに話をつけてくれ、指導はそこで行うことになったのである。

 ……調理場を貸してもらうための交渉は全部彼がやってくれたが、何か赤面したり大声が聞こえたりしたから難航しているのかと思ったら、そうでもなかった。何があったのだろう?

 

 何はともあれ、彼の手裁きを見ながら料理の流れをしっかりと見、教えて貰う。

 

「いいっすか、この野菜はこう、斜めに切るんすよ。かさが大きく見えるんで」

 

 説明をしながらでも、彼の手裁きは一切鈍らない。身体が覚えている、というのが正しいのだろう。

 同時に味付けなどの微細な加減に関してはかなり曖昧、というか口頭で説明できない分量であることが多く、細かいコツ自体はマネできても完全にタイムの作る料理の味をトレースすることは難しいことも、なんとなく察しが付く結果となった。

 

「とはいえ、メチャメチャ筋いいっすよねカイトさん。ほんと、なんでもできるじゃないっすか」

「教え方と、お前の腕がよかったからだ」

 

 俺がそう言うと、脇腹を小突かれる。――怒らせてはいないようだが、どうにも真意が伺えない。

 

 

 だが、どうしたものか。

 実際、こうして真横で指導を受けながら料理を作ったとしても出来栄えは違う。

 特に味の面に関しては雲泥の差だ。

 味が足りないとか、濃過ぎるとかそういうことではない、もっと根本的な部分が違うような。

 

 

「それは気にしなくていい所っすよ」

 

 そう言うと、タイムは横から俺の作った料理の方を摘まんだ。

 そして、指先をぺろと舐めとりながら、彼は言う。

 

「こういう細かい違いってのが、個性ってやつっす。オレの味はオレにしか出せないし、カイトさんの味は、カイトさんにしか出せないっすから」

 

 そういう、ものなのだろうか。

 悩む俺に、タイムは耳打ちをする。

 

「なら、こういうのはどうっすか……?」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 タイムの言葉を仲間たちに伝えると、皆は目の色を変え各々がタイムに料理を教わりに向かった。

 

 そのモチベーションの高さの理由はわからない。

 タイムはただ「仲間たちに、『料理を作ってれば自分の味ってのが出てくる』と教えてみるといい」と言っただけだ。それは、俺の指導の最後のまとめでもあったのだろう。

 

 タイムの作る料理の味と俺の作る料理の味が違うのは自然な事だ、と。

 

 しかし、ならばアスタが料理を作ったら、アスタの料理の味わいが生まれる。フィグや、ククラータが作ってもそうなる。それは当然の事ではないだろうか?

 

 ……やはり、わからない。

 

 わからない、が。

 

「カイト、よかったらこれを食べてみて欲しい」

「カイトさんっ、このクッキー、僕が焼いてみたんです!」

「おうカイト、つまみ作ったら余っちまってよ。減らすの手伝ってくれや」

 

 ……皆がこぞって自分の作った料理を食べさせようとしてくるようにもなった。

 こっちのほうも、まったくわからない。

 

 何はともあれ全員が料理を作れるようになったのは良い事だろう。皆が気合を入れているせいで外食の時より材料を買う分高くついているような気はするが……。

 

 皆で食事をとる時間が増えたのは、嬉しく思う。

 

 




タイム「皆さんの味が家庭の味になっていくんすよ」

アスタ・フィグ((――!!))

ククラータ(まーた面白いことになりそうだなこりゃ)

R-18 ifは……

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