ヨルに咲くツキ、零れたホシ 作:もちもち
お題『梅雨』
ヨルシカ:雨とカプチーノ:729-4260-6
灰色の雲が空を覆っている。
シトシトと振り続ける雨が窓の向こう側で水たまりを叩いている。
「傘もささないなんて、ね……」
ホシノのばーか。
伝えたい言葉なんてもう白んでしまった。
正面に置かれた口も付けられていない真っ黒な珈琲。
ため息が漏れた。
どうしてなんだろうね。吐き捨てられた言葉に言い訳ばかり積もっていく。
腕を伸ばしカップを引き寄せる。
添えられたミルクを混ぜれば灰色になる。
なにもかも灰色に白む。
呷ろうかカプチーノ。戯けた振りをして。
振り続ける雨に溺れるように私も泣けたら良かったのかな。
けど……気持ちを溢れさせてしまったら、それはもう思い出になっちゃうから。
泣くな。
泣くな。
色褪せちゃいけない。
まだ白んでなんかいない。
ルーズリーフに描く五線譜。
旋律を。色褪せない今の気持ちを。
どうか。どうか。どうか……。
ねえ、私はこれからどうすればいいの。
生き方一つ教えてよ。ユメ先輩、わたしは……。
もう、なにもないの。
答えられないなら言葉一つでもいいから……教えてよ。
分かんない。ほんとうに分かんないよ。
窓の外を見る。
雨が上がっていた。
梅雨が終わったら、夏が来て……貴女が私たちの前から居なくなって一年が経ってしまう。
そう考えてしまったら限界だったナニカが溢れた。
一つ、二つ、三つ。とめどなく溢れて来る。
「ごめんなさい。ごめんなさい、ユメ先輩」
貴女のことを一日も思わない日なんてなかった。
だけど、私は泣いてしまった。
気持ちを形にして吐き出してしまった。
貴女のことを色褪せてしまわないように願っていたのに。
五線譜の描かれた旋律を。貴女を色褪せないように縋った心を。
白黒付けずに灰色のままでおけたらよかったのに。
空になった珈琲カップ。
雨の中へ飛び出して行ったホシノを脳裏に描く。
頑固者のお馬鹿さん。
私と違って気持ちを吐き出し続けていたのに、とっくに白黒付けていたのに、自身のそんな薄情さを呪い続けた馬鹿。
ばーか。
ばーか。
ばーか……。
ねえ、どうするの。
このままずっと私たちは先輩の影を目蓋の裏に映しながら生きていいの。
季節はもう一周巡ってしまった。
気持ちは思い出になって。思い出は記憶になって。
鮮明だった色もどんどん褪せてしまっていって。
いっそ、全部呑みこんで水底にでも沈むことが出来たら良かったのに……。
支払いを済ませて店を出た。
空は梅雨晴れ。
携帯電話を見ればたくさんの通知が入っている。
わたしはまだどう生きていいか分からないのに、時間はそれを許してくれないみたいだ。
まずは心配かけてごめんねから。
そう思って携帯電話の画面をタップした。