ヨルに咲くツキ、零れたホシ 作:もちもち
使用楽曲:コード
ただ君に晴れ:N00570002
題目『暑さ』
ただ君に晴れ
「なにしているのさ、こんなところで」
意識外からかけられた言葉に、ツキノは視線を凪いだ海からずらした。
呆れたような、そんな表情。
賑やかな、暖かな輪から外れて一人黄昏ていることを責めるホシノの視線に、彼女は曖昧に笑って誤魔化した。
「はい、コレ」
「ん? 何これ?」
渡されたかき氷は、半ば溶けてしまって掛けられたシロップと水が容器の中で大きな水溜まりを作っている。
言葉にしないと分らないか。
ホシノは内心ため息を吐いた、
「君があそこに居ないからこうなったんだよ。後輩がせっかく作ってくれたのに」
「……それは、あの子達に悪い事したかな」
ばつの悪そうな顔をしながらも塗装が剥げ、朽ちかけたベンチから腰をあげない彼女を見て、少女は仕方ないなと、息を吐いて隣に腰を降ろした。
凪いだ海。沈みかけた日差しが、まだ夏の香りを風に乗せて髪を撫でる。
数分の沈黙。
シャクシャクと、かき氷を食べる音を聞きながら二人は海を眺めていた。
「この光景がさ……あそこに似てるなーって思ったの。覚えてる?」
「……あー」
錆びた標識。
朽ちかけのベンチ。
目の前に広がるはるか遠くに沈む水平線の太陽。
かき氷を食べ終えたツキノの言葉がホシノの記憶に眠っていた風景が浮かぶ。
ヒトの手から離れ、役割を終えたバス停。
標識は錆び、顔を撫でる熱風は砂を多分に含んでいた。
地平線に沈む太陽。
それは……いつか見た光景の再現。
「……そうだね」
日常の中に転がっている小さな奇跡。
それを拾い上げていることに気が付くことで沸き上がる情動。
穏やかな笑みを浮かべた少女がベンチに深く座り直す。
ミイラ取りがミイラになっちゃたよー。
連れ戻すつもりだったのに、いつの間にか自身もこの時間に浸っていたい。
そんな欲求にホシノは身を委ねてしまった。
横で寛ぐ相方に目をやったツキノは、その首下に巻かれた物体に目を瞬かせる。
何処かで見たような……。
「ところで……それ、どうしたの? アイスリングなんて普段付けてないでしょ」
「暑いよー、溶けちゃうよーって言ってるのに誰かさんが貸してくれないからねー。使い終わったのを冷やし直したんだよ」
「え? それ、私のなの?」
「うん」
悪びれた様子もなく、悪戯が成功したように笑う相棒に彼女は自身の首下に巻かれたモノを見る。
既に凝固が溶け、液体に満ちたソレに涼の効果など無い。
「……」
「……」
視線が交わる。
互いに意図した言葉が通じ合ったのか、視線を投げかけられたホシノはスッとベンチから立ち上がる。
釣られるようにツキノもベンチから腰を上げた。
先手必勝。
クルリとベンチに背を向けたホシノが足早に駈け出した。
無論、逃がすつもりもなく彼女も追走する。
「暑いよー、動いているから暑いよー」
「御託はいいから返しなさい!」
凪いだ海風を受け、沈む太陽の日差しを受けるベンチはただ静かに佇むだけ。