ヨルに咲くツキ、零れたホシ 作:もちもち
使用楽曲:コード
左右盲:275-1108-1
アンハッピー・リフレイン:702-3752-2
題目『ハッピー』
「あー……先生? どうして此処に?」
月明かりの差す薄暗い教室で、ホシノがあなたに見せた表情は悪戯を見つかってしまったばつの悪そうなモノであった。
”ホシノが学校に残ってたからね……”
夜も更けている。
他の対策委員会のメンバーは帰宅したことだろう。
「……はぁ」
自身の内側を見透かされたと悟った彼女は、諦めたように息を吐いた。
すぐ側に置かれた椅子の埃を払って座る。
「先生が思ってるほど単純な話じゃないんだよ?」
昼時に行った慰労会。
シロコのサプライズで連れて来たツキノを見た彼女の表情は、普段の柔和なモノからかけ離れたモノであった。
ばつの悪さそうな、胸の内に抱える罪悪感がありありと浮かんでいた。
普段後輩に向けている煙に巻く言動は成りを潜めて。
だから、あなたは生徒の力になる為に此処に居る。
その心映えはあなたが言葉にせずとも、しっかりとホシノに伝わった筈だ。
「私は失敗したんだよ、先生」
ため息を吐いて、遠く何処かに想いを馳せながら彼女は語る。
全てが零れ落ちてしまった。その顛末を。
かつて二人の中心に居た先輩。
欠けてはいけない大事な人。
たった三人でも強固に結びつき、青春を送りながら共にアビドスを運営してきた要。
大事なその人を喪ってしまった。
ホシノはあなたから目を逸らし、天井を仰ぎながら腕で目元を覆い隠した。
やり直し方を間違えた。
あの時まで一つだった二人の心は二つに分れてしまって……一つは脆く壊れた。
「此処を墓標にしたのは紛れもない私。先輩、ツキノ、そして私。全部、全部私が殺したんだ」
ツキノに幸福の一つでも与えられたら良かったんだろうね。
疲れ果てた顔のまま、深く深く沈んだ眼が天井からあなたへと向いた。
「先生、私の事はいいからツキノに幸せを見せてあげてよ」
その言葉を聞いたのは、二度目である。
精神病棟でピアノを弾く少女もまた、同じ言葉をあなたに投げかけていた。
”私はもういいの……先生、ホシノを幸せにしてよ”
自身の行き着いた先を見定め、足を止めた二人の少女。
互いの幸福を望みながら、自身の幸福を諦めた少女達。
彼女達の願いを叶える?
いや、そんな顛末がハッピーな筈がない。
”私が力になるよ”
「先生?」
”だから、そんな悲しいことを言わないで”
子供が自身の幸福を諦めていい筈がない。
それに二人の歪な関係にやきもきしているのは自身だけではない。
彼女たちを慕う後輩達も皆、あなたと同じ気持ちだ。
”詩は誰かの心に訴えるぴったりの言語。ホシノはそう言ったよね? ”
今は側に置かれたままのギター。
それを弾き終えたホシノはかつて、あなたにそう語ったことがあった。
文字よりも言葉よりも、音楽と詩は誰かの心に響かせる力がある。
預かっていた楽譜をあなたは、彼女に手渡した。
居なくなった誰かを思う曲。
そこに込められているのは哀しみだけではない。
最後には前を向いて、生きようとしている前向きな決意。
この子達に足りないのは切っ掛けだ。
背中を押して、互いに心を交わす環境を作るだけでいい。
此処はもう二人だけの場所ではないのだから。
今なら墓標よりもきっと良い意味を学校に結び付けれる筈だから。
”素敵な音楽を聞かせて欲しいな、ホシノ”