ヨルに咲くツキ、零れたホシ 作:もちもち
チノカテ:757-5807-5
題目『読書』
本を読む。
紙の捲る音。綴られた文字を眼で追う。
此処にはあったのだ。かつて重なり合っていた心が。
「何を間違ったんだろうね……」
ひぐらしの鳴く声がする。
茜色に差す光が一人ぼっちの私を晒す。
「ホシノ、いらっしゃい。どうしたの?」
静かに開いたドアの音。ホシノが部屋の入り口に立っていた。
さっさと中に入ればいいのに、戸惑ったような感情が眼の中で揺れている。
あぁ……足の踏み場もなかったね。
「ごめんね、今片付けるから」
散らばった紙面を適当に纏めて、隅へ追いやる。
アビドスの借金を返済する企画案達。
どれもが雲を掴むような内容だ。
それは置いておいて、今はホシノが座れるスペースがあればいい。
「ツキノ、ノノミが心配してたよ」
ホシノが花瓶に差された花を眺めている。
……いつの間にか枯れていたみたいだ。
しおしおに干乾びた花を眺めていた視線がわたしに向けられる。
「ノノミが? そう……」
そういえば、この間部屋に入ってきてたんだっけ……。
「何日も外に出てないよね?」
「うん」
あの花は外に出かけた時に摘んだモノだった。
「ごはんも食べてないって」
「うん」
食事も水も喉を通る気がしなかった。
「ツキノ?」
「うん」
「……」
ホシノの手が本の背表紙を掬う。
パタンと閉じられたページ。
あぁ……怒ってるんだね、ホシノ。
「……もう、全部諦めようツキノ」
「どうして? これはわたし達の夢でしょ」
ユメ先輩とホシノ、そして私、三人の将来の展望を綴ったアビドスの夢。
まだ終わりを迎えていないソレ。
途中までしか描かれていない軌跡。
先輩が居なくなった後もこの夢に一番拘っていたのはホシノだったのに。
自分を変えてまで夢に縋っていたのはホシノなのに。
「わたし達の夢があの子達の夢を縛っているからだよ」
ノノミとシロコ。
ホシノの言葉でたった二人の後輩の姿が瞼の裏に浮かんだ。
……。
……ホシノは。
ホシノは、変われたんだね。
私はまだ此処にいるのに。この夢がなければ前を見れないというのに。
「ごめんね! ツキノ」
ペコリと下げられた頭。
垂れる髪の毛。
どうしてホシノが謝っているの?
悪いのは変われなかった私なのに。
「わたしがもっと早くこの決断を出来ていたら……ツキノも苦しまなくて良かったのに」
描いた夢を、求めた未来を捨てることが苦しいことなのに。
どうしてホシノはコレを捨てれるの?
これから先を描いた地図が欲しい。それがあれば迷わずに歩けるのに。
立ち止まった私。前を歩くホシノ。
ホシノはどうして歩けるの?
ただ暗闇の中を歩いているのに。暗闇を照らす光は何処にあるの?
ねぇ……ホシノ、教えてよ。
「私は……どうすればいいの」
「外に出よう、ツキノ。きっと大丈夫、なんとかなるよ」
その言葉がわたしには苦し紛れの言い訳に聞こえたんだ。
やり直し方を間違えたのだ。きっと。