ヨルに咲くツキ、零れたホシ   作:もちもち

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 ヨルシカ:だから僕は音楽を辞めた:727-2116-2

 題目『おしごと』


だから僕は音楽を辞めた

 

 何も書けなかった。

 文字一つ書いたら想像が溢れると思っていたのに……。

 ため息を吐いてツキノは鉛筆を机の上にほおった。

 

 進路希望調査票。

 言うは易し。

 自身のやりたいことを書けばいいだけの簡単な書類をツキノは進められなかった。

 

 教室を出る。

 そのまま玄関で上履きを履き替えて外へ。

 

「どこ行くの?」

「外で空気を吸いたいなって」

「そう……私も行くね」

 

 別にいいよ。

 その言葉をツキノは口から取り出すことが出来なかった。

 ホシノを連れたってのなんとなしの散歩。

 まだ冷たい風は肌を撫でる。

 肺いっぱいに空気を吸えばじんわりと熱が冷めていくのを感じながら、だけど未だにすっきりしないもやもやにツキノは頭をかいた。

 

 音楽を辞めたい。

 

 昨年の進路調査票に書かれた一文。

 たったそれだけの文字を書き連ねただけの紙を眺めて続きを想像しなくてはいけない。

 音楽を生業にした職業を夢見ていた情熱はもう何処にもない。

 愛も優しさも救いも人生も全部、全部台無しだ。

 もう何も謳えない。

 だけど未だに机を指で叩く癖が抜けないのはなんで?

 根っこにあるモノを捨てきれていないから?

 返答を求めない自問。

 もっともっと自分を壊して、自分を捨てて、何もかもを真っ白にして……。

 その先どうなっているのか。

 何一つ分らない。

 

「ホシノは書けた? 進路調査票」

「私? 私は……うーん。……っあ、寝具の会社で睡眠のテストをするなんてどうかな?」

「……良いんじゃない。それで」

 

 取って付けたような空虚な会話。

 ホシノがいつも眠いのは過去に大事なモノを取りこぼした罪悪感のせい。

 学校で昼寝をいつもするのは夜に目を閉じて深く眠れないから。

 そんなことを分っているはずなのに。

 空虚でも夢を取り繕えるなんて……羨ましい。

 ホシノの取り繕った上辺だけの夢を頭の中で転がす。

 通りかかった公園にベンチがあるのを見て、其方へ歩みを向けツキノは腰を降ろした。

 隣にはホシノが座る。

 

「ツキノは書けた? 進路調査票?」

「一文字も書けなかったよ」

「そっか……ごめんね」

 

 別にホシノのせいじゃない。

 だからその罪悪感に満ちた暗い表情を浮かべないで欲しい。

 項垂れた親友にかける言葉を作ることが出来ず、ツキノは空を仰ぎ見た。

 

 認めたくない現実に抗うようにがむしゃらな信念が其処にあったのだ。

 思い出になんかしたくない。

 あの日々を。あの色を。目の前で動いた心の情動を。忘れてなんかやるものか。

 なんども。なんども。なんども縋りついたソレが……。

 

 今じゃ塵みたいな想いだ。

 

 自慰みたいに自身を慰める歌なんて金にもならない。

 愛を救いを優しさを積み重ねたって苦しいなら、もうどうしようもないじゃないか。

 

 だから私は音楽を辞めたのだ。





 縋りつくものも全て手放そうとして、彼女は壊れた
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