ヨルに咲くツキ、零れたホシ 作:もちもち
ヨルシカ:強盗と花束: 740-9808-0
「遅かったね……」
「ごめんごめん、先生と話しててさー」
空に月が昇る中、ようやくホシノが姿を見せた。
予定していた時間よりもずっと後だ。
”先生……と、ね”
ようやくできた信用出来る大人。
そんな存在と遅くまで話していた割にはナニも変わっちゃいない。
「だからさ、預けてたモノ返して欲しいな」
「……」
シロコに鞄の中を漁られた後、ホシノは大事なモノを私に預けた。
後輩達への思い綴った手紙、そしてアビドスの退学届。
先の一件で希望は潰えてしまった。
現状、滅亡の一途を辿るアビドスの延命を続けているだけではナニも変わらない。
”先輩は後輩を守るモノだから……”
あぁ、そうだ。
結局コイツは自身に科した自縄自縛から抜けられないままだ。
……それは私も同じだ。
ホシノとわたし……そして巻き込んでしまったノノミも同じ罪悪感を抱いている。
強盗と花束に何かの違いがあるの?
理性も手段も常識もわたしたちの空いた穴を満たすことなんてない。
誰も裁いてくれないなら自分で贖いを行うしかない。
だけどもう限界だった。
「ツキノ?」
スナイパーライフルを手に取る。
銃口をホシノへ。トリガーに指はかけない。
奇しくもそれは私が精神病棟に突っ込まれる直前の再現。
「勝負しましょう、ホシノ。勝った方が言う事を聞く」
「なんで……また、こんなことを」
「ホシノ、わたし達はけっきょく同じ穴の狢。ユメ先輩みたいになんてなれない。ただ暴力を振るい他を退け我を通す存在。だから私が勝ったらアビドス生徒会は此処で終わり、カイザーを二人で襲撃して脅しましょう」
「それは──」
「手段を択ばなくなったら私たちは自分を見失う? ううん、そんなことはない。だってとっくのとうに終わってるのよ、わたし達は」
私とホシノならカイザーくらい相手取って立ち回れる。
たくさんの人が混乱に巻き込まれるかもしれない。不幸になるかもしれない。
ああ、ユメ先輩はきっとこんなことを絶対に望まない。
分かってても、ここでホシノを信用出来ない大人の下へ引き渡すことを認めてるわけがなかった。
「ツキノは対策委員会に必要だよ」
「その重荷を背負わせたことを悪いとは思っているわ、ごめんなさい。けど、あの子たちの先輩は貴女よ、ホシノ。私には成れない」
私の方が先に壊れてしまったから。
シロコとノノミの先輩という役をホシノは演じなければいけなかった。
ユメ先輩のやることなすことに理想を叩きつけて噛みついていた彼女にとって辛いことだっただろう。
まさかその後に新しい後輩が出来るなんて、当時の私もびっくりするような奇跡が起きってしまったのだけど……。
「はぁ……どうしてこうなっちゃったんだろうね」
心底嫌そうにため息を吐きながらホシノはショットガンを構えた。
トリガーに指はかけていない。
「誰も私たちのことを裁いてくれないから」
咎人である私たちはお互いに傷を舐め合うことでしか共感出来ないから。