ヨルに咲くツキ、零れたホシ   作:もちもち

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 使用楽曲:コード
 あの夏に咲け:N00505804

 題目『夏休み』


アビドス生徒会
あの夏に咲け


 

「ぁ……あれ? 私……」

「……あ、起きた? 大丈夫?」

 

 すやすやとした呼吸が止まって、意識を取り戻したホシノが額に手を当ててぼんやりとしている。

 うだるような暑さの中、遠くから聞こえる蟲の声はとても安眠出来る様な環境ではない。

 照りつける太陽に燦燦と差す熱射の中で私の言葉に聞かなかった馬鹿が倒れたのだ。

 

「はい、飲める?」

「……ありがとう」

 

 仰いでいた団扇を止めて、側に置いたクーラーボックスからサイダーを取り出す。

 カッシュッ。

 プルタブを引いた彼女は、渋面を引っ提げてごくごくとサイダーを飲んでいる。

 血の気がちゃんと脳に回ったのか、今の状況を理解したらしい。

 

「納期までにはまだ時間あるじゃん。あんま無理したってしょうがないって」

「……」

 

 陽炎の中に佇むホイールローダーに目をやる。

 頻繁に故障が起きるオンボロ。ガス欠で止まったソレの整備を休憩も入れずにやろうとしてたのだ。

 

「……今回の仕事が早く終われば、花火見に行けるじゃん」

「……そうだね」

 

 ほんっと素直じゃないな。

 ユメ先輩が花火見に行こって言った時には、そんな暇ないって返してた癖に。

 そんな心が表に出ていたみたいだ。

 ぎろりとした視線と共に笑うなって拳が飛んでくる。

 

「ユメ先輩は?」

「そーいえば、まだ帰ってきてないねー」

 

 軽油たくさん買って来るよー。

 なんて、勢いづいてぶんぶん手を振って彼方に消えた軽トラを思い出す。

 いい加減帰ってきてもいい時間が経っていた。

 

「……あ」

 

 未読のメッセージが一通届いている。

 

 HELP!!

 

 ……どうやら向こうでもトラブルが起きたらしい。

 暫く忙しかったから、整備も出来てなかったなぁ。

 思い返せば何時故障してもおかしくないオンボロだった。

 遠い目をしながら画面を見つめる私の側で、ぶっ倒れていたホシノが身体を起こした。

 

「そのまま、寝ていなよ」

「そういうわけにもいかないでしょ。あの人、ポンコツなんだから」

 

 日陰から出てふらふらしながら歩く彼女を見て、ため息が零れた。

 さっさと歩いて追い抜き、熱を発するハンドルを握る。

 足を止めたホシノがポカンとしながら此方を見てる。

 

「ほら、乗りな。運賃はアイス一本でいいよ」

「骨は拾ってあげる」

「……それはどうも」

 

 荷台に荷重が掛ったのを確認して、ペダルを踏む。

 加速した身体が風を切るお陰で汗が滲む暑さの中でもわずかに涼しい。

 

 

 

 ……いや、暑いわ。

 後ろに余計な荷物乗せてる所為で全然速度出ないし、ペダルも重い。

 ヒィヒィ言いながらペダルを漕ぐ。

 

「遅いよ~、こんなんじゃ日が暮れちゃうよ~」

 

 煽りおる。こいつ……私が頑張って自転車漕いでいるって言うのに。

 

「あとで覚えてろよ──!!」

 

 夏の青い空。

 私の声は高く、高く昇って溶けた。

 

 

 

 

「あ、起きた? セリカちゃん」

「先輩……私──」

「あー、ダメダメ。まだ横になってて。大丈夫、仕事なら今シロコちゃん達が片付けているからさ」

 

 起き上がろうとした後輩の肩を抑えて、ホシノは穏やかな笑みを浮かべた。

 夏場の臨時アルバイト。

 その勤め先からアビドスにセリカが倒れたとの一報が入った時は肝を冷やしたが、先方の応急処置もあってか、大事には至らなかったようだ。

 

「サイダー……飲める?」

「……うん」

 

 プルトップが引かれる音と共に炭酸が抜ける音がした。

 既に封を開けていたサイダーを飲みながら、ホシノはアスファルトの上で揺らめく陽炎へと視線を向ける。

 

 既視感。

 

 あぁ……昔もこんなことがあった。

 

 ひたむきに前を見つめて現実にあがこうとする後輩の姿が、ジリジリと照りつける夏の日差しが、日陰で飲むサイダーの味が──いつか、経験したあの日を思い出させる。

 

「……ホシノ先輩?」

「ううん、なんでもないよ」

 

 あの夏の日に。

 

 もし、あの夏の日に戻れたら君にどんな言葉をかければよかったのだろう。

 けたたましい蝉の声が感傷を打ち消す様に鳴り響ていた。

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