パパ黒が親バカだった世界線   作:限界社畜あんたーく 

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モジュロとマンガとアニメを見て先の展開色々考えてたら全然筆が進まなかった…


27.才華爛発 その2

 

コレまでの乙骨は、(うぶ)(うぶ)な初心者の構えを取っていた。

腰も引け、重心もブレブレ。力み過ぎて身体の各所に震えが見られ、見るからに慣れていないのが伝わる。不安定さを全面に押し出したひ弱な構え。

だが…今の乙骨の構えは、言うなれば堂に入っている。

重心が低く安定しており、刀を握る手も力み過ぎていない。

その上、直立した立ち姿からは、まるで傷一つ負っていないかのような、堂々とした気迫を感じる。

 

(さっきまでとエラい違いやないか)

 

警戒しつつ、直哉も乙骨を見据え構える。

 

(さっきまでのアホ面に、すぐに戻したるわ)

 

術式『投射呪法』を発動。

一秒間の動きは先程と同じく、奇襲と打撃の連撃。

イメージを作り、視界に投影。そしてその動きのトレースに移行する。

 

ダッと一直線に乙骨に駆ける。

一回目の投射にも関わらず、その速度は既に一般人には視認が難しい程の域に達している。

あまりの速度故に、乙骨が瞬き一回を済ませる内には、既に間合いに侵入していた。

 

「フッ…!」

 

超特急で距離を狭める直哉に対し、乙骨は力一杯の突きを放つ。

正確に胴部中央を狙った一撃。タイミングは抜群。そのまま直哉が進んでいれば、直撃確定コースであった。

しかしながら、それは残影に溶ける。

投射の段階で攻撃を予測していた直哉は、突きをギリギリで躱しつつ、その勢いを維持したまま拳を胸部へ打ち付ける。

 

「ッ………」

 

呻くような吐息を漏らしつつ、 同時に乙骨は後ろへバックステップで下がる。再度間合いを取ろうとした。

だが、相手は神速の術師。バックステップよりも更に早い速度で間合いを詰める。

互いの距離は広がるどころが、その一切の距離が変わらない。

追撃を警戒した乙骨は、冷や汗を垂らしながら牽制に左から右への雑な横薙ぎを放つ。

 

(…アホらし。何も変わっとらんやんけ)

 

雑な攻撃。雑な移動。雑な牽制。

しかも、牽制を仕掛けた為に移動の速度も落ちる始末。

わざわざ術式を使わずとも、このまま追撃を仕掛けられる。

 

術式の重ね掛けを止め、そのまま頭を少し下げることで、刀を避ける。

そして速度を落とした乙骨に接近し、顔目掛けて拳を突き出そうと────

 

 

(あ─────?)

 

 

一瞬視覚に写った、赤く長い何かが、直哉の右頬を打つ。

威力はそこまで。しかしバランスを崩すには妥当な一撃。

衝撃を受け流すように体を捻りながら、少しだけ距離を取る。

 

───なんや、今のは…?

血が滲む頬を撫でながら、乙骨を見据える。

 

(…あぁ、そういう。中々汚い手使うやん)

 

乙骨の左手に握られていたのは、腰に下げていたはずの鞘。

成程。横薙ぎの際に腰から鞘を抜き、続け様に狙ったわけだ。

 

(しかしまぁ…素人やな) 

 

当たりどころは悪くなかった。威力次第では脳震盪も狙えただろう。

だが、与えられたのは擦り傷と程度。

この場合怪我を負わせたという事実を褒めるべきか、もっと上の一撃を狙えただろうと叱咤するべきか…。

───尤も、直哉にはそのどちらの気も一切ないのだが。

 

心の中で乙骨に対し採点を下している内。

すると乙骨は片手に握った鞘を戻さずに、そのまま不格好な二刀流を構え始めた。

表情は相変わらず無愛想で無表情ではあるものの、「この構えが現状最適解である」という心情が薄く感じ取れる。

実際、それは最適解であった。

 

(チッ。もとに戻せや。ダルいわ〜ほんま…)

 

刀のような長い得物一本だけであれば、ある程度の動きも予測、先程のようにカウンター前提の動きを作ることができる。

しかし二本となれば話は別だ。予測は難しくなり、その上適当に振られればそれに動きを妨げられ、こちらが一秒フリーズする危険がある。

それも素人ともなれば、予測不可能な動きをしてくる可能性も高い。それがこの上なくうざったらしい。

 

(かといって、素人との一対一で速度で轢き潰すんは…なぁ)

 

里香がいるならいざ知らず。

こんな戦いでムキになって音速特攻するのは大人げない。

それも五条たちの観戦がある手前。生徒相手に下手に本気を出したりしたら、後でどんなイジリを受けることになるか。

 

(…しゃーない。つっても、術式使わんでも、あの程度の動きなら二本に増えたとて余裕やろ)

 

ポリポリと後頭部を掻きながら、面倒そうにしつつ構える。

 

「さっき当たったんはマグレや。あんま調子乗らんとき」

 

 

言い切ると同時に、再度乙骨へと迫る。

流石に投射を使わない分速度は落ちている。

が、式を使わずとも素の実力だけで、相応の速度は出せる。

 

繰り出したのは右拳。慣性により自重を乗せた正拳突き。

瞬速を伴って放たれたその剛拳は、しかし乙骨が直前に振るった鞘によって弾かれた。

 

「ようやく、目が慣れました」

 

加茂との戦闘、里香との共闘、そして先の一瞬の攻防。

それらを経たことで、直哉の速度にやっと目が追いついた。

といっても、術式を使わない直哉を相手に、攻撃をギリギリで弾くのが現状関の山ではあるが。

 

「ほぉん」

 

感心の吐息を漏らしながら、カウンターに振られた鞘をスラリと避ける。

避けた反動を利用しつつ、カウンターの隙を縫うようにして拳を放つも、また刀に弾かれる。

 

 

そこから始まったのは目にも止まらぬ高速の攻防。

乙骨は直哉の放つ拳を鞘と刀で捌きつつ、隙を見つけてカウンター。

直哉はカウンターを避けながら、連打の速度と密度を落とさないよう打ち続ける。

 

優勢はやはり直哉だった。

いくら目が慣れたとはいっても、身体は直哉の速度に追いついたわけではない。

その上、両手に長物を握る乙骨と無手の直哉では回転率が段違い。

更に、刀と鞘で重い拳を受けているが為に、乙骨の腕部に掛かる負荷は通常の倍。受ける度にスタミナを多く削ると同時に、骨と関節部に激しい痛みを発生させる。

 

次第にカウンターのペースも落ちて行き、乙骨はその内防戦一方へと追い詰められてしまう。

 

(…そろそろやろ?)

 

手の震えから、乙骨のスタミナ切れを察知した直哉は、両手を少し下げることでわざとらしい隙を作る。

普段であれば疑り深く警戒するであろう露骨な隙。しかし起死回生を狙う乙骨にとって、満身創痍の乙骨にとって、その隙は天から向けられた一筋の光明に近しかった。

 

直哉の誘いに乗せられる形で放ってしまった、余力を込めた全力の袈裟斬り。

思惑通りの一撃に対し、直哉は呪力で固めた拳を放ち、迎え撃つ。

 

素手と刀。刃引きされているとはいえ、どちらがどうなるかなど見ずとも分かる───そう本来ならば。

だが、拳と刀がぶつかり合った瞬間。

まるで金属同士が激しく衝突したかのような、鋭く高い衝撃音が走った。

 

互角。

 

どちらが折れるわけでも切れるわけでもなく。ぶつかり合い、互いの一撃が相殺された。

 

「グッ……」

 

───そう。確かに相殺はされた。

だが、その威力と反動まで無くなるわけではない。

この一撃に全霊を注いだ乙骨にとっては特に、その反動は予想だにしていなかった。

まるで金属バットを地面に打ち付けたように、指先から肘、肩から全身へとビリビリと響くような痛みが走る。

その痛みに対し乙骨は苦悶の表情を浮かべるも、しかしなんとか耐えようとする。

 

……そう、耐えようとした───そのために、意識は一瞬痛みへと向いた。

 

たかが一瞬。されど一瞬。

その一瞬は、直哉が意図して生ませた、布石であった。

 

刹那の隙。その、無防備になった鳩尾に目掛けて、左掌による高速の掌底を放つ。

当然、避けるどころがその攻撃を認知する間すらなく、乙骨はその一撃を貰ってしまう。

意識を咄嗟に戦闘へと戻す。そして続く攻撃を防ごうと鞘を構えようとするが、時既に遅し。鞘を握っていた左腕は直哉の右手によって抑えられている。

その事実に気付くよりも前に、直哉は続け様に裏拳で顎をかち上げ、更に浮いた顎目掛けて流れるように肘打ちをキメる。

脳が揺れ、意識が一瞬途切れる乙骨。その最大の隙に目掛けて、腹部へ全力の前蹴りをぶち込む。

 

「ガッ!!」

 

大きく吹き飛び、地面をゴロゴロと勢いよく転がる乙骨。

そこへさらに追撃を仕掛けるべく、ダッと直哉は駆ける。

グルングルンと回る視界の端で、迫りくる直哉を捉えた乙骨は、歯を食いしばり全身の痛みに耐えながら、身体を起こすと直ぐ様体勢を整える。

 

───眼前。既に直哉は目の前で右拳を構え、振りかぶっていた。

仕留める気か。終わらせる気か。それほどの剣幕と勢い。

その圧に気圧されたか。

コレ以上受ければ身が持たないと判断したか。

乙骨は刀と鞘で身を守るべく、バツに交差させる。

この瞬間だけは、すべての思考を防御に注ぎ、衝撃に備えようと────。

 

 

 

 

「───そうするやろなぁ思っとったわ」

 

直哉は右拳を振りかぶり、そのまま()()()()()

そして引いた勢いを利用して、左足で蹴り上げる。

狙いは当然、刀と鞘の交差点。爪先で重なり合う点を穿ち、頭上へと打ち上げる。

 

本来の乙骨の握力であれば、落とすことはなかった。

だが、連打でスタミナを削り、握力を落とすことで手から落としやすくした。

一撃で二本を落とす為に、わざと追い詰め守る時間を作った。

全てはこの瞬間のために仕組んだ策謀。茶番。

 

くるくると回りながら。

打ち上げられた刀と鞘は、5m程離れた位置に落下した。

 

呆然と、座り込んだまま虚空を見つめる乙骨。

感情は読み取れない。だが…まるで諦めたような感情があるような気がした。

 

「…まぁまぁ楽しめたわ」

 

今度こそ。

右拳を引き、顔面へ放とうとする。

慈悲はない。

躊躇もない。

理由は単純。

これまで溜まったフラストレーションを解放するため。

術式も交えて。

呪力も込めて。

死なない程度に、本気で殴る。

反転術式で治る程度に、一撃をお見舞いする。

 

 

 

そのつもりで、右拳を打ち込んだ。

 

 

 

 

─────否。打ち込もうと()()

 

 

 

 

 

 

直哉の視界に映ったソレは、まるで幻のようで、到底信じることはできなかった。

土汚れがそう見えるだけなのだと、本気でそう思う程度には、それは非現実的な光景だった。

それは、拳を撃ち込もうとした、その直前。

 

先程までは確かに無かった、何処か見覚えのある()()のようなモノが、乙骨の口に刻まれていた。

 

そんなわけが無い。

ある訳が無い。

思い違い。勘違い。

それに───仮に本当だとしても。

既に術式は発動している。動きを今さら変更なんて出来る筈もない。

 

だから───勘違いだ。

そう決めつけるしか、直哉には選択肢が無かった。

 

 

 

────だが。

 

───現実は。

 

──非常にも。

 

 

 

 

 

『 動 く な 』

 

 

 

 

 

───想像したくもなかった。一番最悪なケースを、引いてしまっていた。

 

 

 

「────は?」

 

直哉が気が付いた頃には、脇腹を拳で殴られ、地面に転がされていた。

恐らく投射呪法の継続条件を満たすことができずフリーズ、そしてその隙を殴られたのだろう。

事実、あの声を聞いてから、殴られるまでの記憶が無い。

殴った本人も理解が追いついていない表情をしている。

 

推測は容易い。

原理も分かる。

だって、それ以外に見当たるような理由がないのだから。

 

たが───そのうえで。

納得ができない。理解ができない。

───この俺が、こんなガキ相手に土付けられたやと……?

 

(ふざけんなや……ッ!)

 

殴られた箇所に痛みはない。

唐突に起きたフリーズに反応が遅れたか、腰が入っていなかったのか。

痛みはなかった──が、そんなことはどうでもいい。

どうでもよくなるぐらいに、憎くて憎くてたまらない。

 

マグレだろうがなんだろうが、一年の初心者相手に、殺せるだけの隙を晒してしまった。

 

その事実に憤慨し、思わず呪力を滾らせてしまう。

ぎりぎりと歯を噛み締め、拳を強く握りしめる。

 

───しかし。

それも束の間。

深呼吸を行い、心を静める。

今はそれどころではない。状況を顧みなければ。

(甚爾クンにも言われたやろ。冷静になれや自分)

再度、深呼吸を行い、頭に平静を取り戻した。

 

(アレは呪言やったな。これまでずっと隠しとったんか?しかも、俺を止めてそれらしい反動もなし。一体どんなカラクリやねん────………いや。今はとりあえず、そんなことはどうでもええ)

 

気になることはあるが…それは全て、今はどうでもいい。

肝心なのは────

 

(見られてしもたか…クソ)

 

投射呪法は動きを止めればフリーズしてしまう。

 

先程乙骨が使用した二刀流やそれこそ呪言。

なんなら落とし穴を掘るだけでも、動きを止めることは出来る。

それに気づかれないために、だからこそ、知られてはならない機密事項。

 

無論だが、こちらも対策がないわけではない。

だが、その対策を練りながら1秒間の動きの構築するのは、あの直毘人でも至難の業。

だからこそ、最高速で敵に術式を理解される前に潰すことが、この術式の運用方法としての最適解なのだが…。

 

マグレとはいえ、その弱点を露見させてしまった。

 

(…まぁ…バレてしもたもんはしゃあない。それに、二刀流は封じた。呪言は対策が容易やし、今から馬鹿正直に落とし穴掘るなんて真似もせんやろ)

 

自分にそう言い聞かせながら、土汚れを手で払いつつ、見据える。

 

「中々、やるやん君」

 

無感情な賛辞。

本当は怒りで腹立たしくて仕方がないが、それを理性で抑え込む。

 

「呪言なんて大層な技隠し持っとるなんてな。度肝抜かれたわ」

「…別に…隠してるつもりはなかったんですけど。ただ、やろうと思ったら出来ただけで…」

(なんやそれ)

 

そういえば…と、乙骨の口を見る。

先程、呪言を放った際。一瞬だけ、何か印のようなものが頬に伸びていたのが見えた。

しかし今はそれがない。

 

(呪言が術式や無いってことか。…やりたいこと全部できるみたいなバカ術式やったらブチ切れるけど…多分ちゃうやろな)

 

そんな全能を体現したような術式が、なんのリスクもなしに使えるわけがない。…と思いたい。

一先ずは呪言が使える。その情報が得られただけでも良しとしよう。

 

「しっかし、中々の強さしとるやん。1年時点でここまでやる奴は………俺()以外で見たことないで」

 

何処か遠くを見つめるようにぼやく直哉。

そんな直哉を傍目に、乙骨は首を傾げた。

 

「…冗談ですよね?」

「…君から見て、俺ってそんな意地悪に見えてるん?」

「はい」

 

即答。最早清々とする程早い相槌だった。

コイツは人をなんだと思っているんだ。

苛立ちながらも、会話に意識を割く。

 

「なんでそう思うん?」

「だって、まだ本気出してないですよね?」

「そら勿論生徒相手に本気出すほどガキやないからな」

「いえ、そうじゃなくて。こう、なんというか────()()()()()()()()()()()()()()()というか…」

 

一瞬。直哉の瞳が大きく開かれる。

それは純粋な驚き。

()()を言い当てられた事実に、推測か憶測かを考える暇もなく、思わず目元を歪めてしまった。

 

「…ほぉん。なんでそう思うんや?」

「明確に理由があるわけじゃないです。直哉さんが手加減しているのを、僕がそう勘違いしただけかもしれません。…ただ、直感でそう思った。それだけです」

「…」

 

憶測か。

理論立てて指摘されない分、若干残念ではあるが…。

しかし1年の、それもほぼ初心者のような彼に、ここまで見破られるとは。

 

「成程なぁ。ほんまに…いや、相当出来るやん君。呪術習いたてなん嘘やろ?」

 

多少の妬みの含まれた賛辞。それが口から吐露された。

それは正真正銘、嘘偽りのない、素の言葉であった。

 

 

「確かに君の言う通り、俺はまだ君に本気を出しとらん。意図的に隠しとるのも合っとる。ただ…勘違いせんで欲しいんやけどな。それは、俺がただ本気を出しとらんわけやない。()()()()()()()()()。手加減とか人の目とか、そないなもん関係なしにな」

 

 

本気を出せない…?一体何を言って…?

訳が分からない。そう言いたげに、首を傾げる乙骨。

しかし直哉にはそれを説明をする気がないのか、疲れたように首を横に振る。

 

「初見で見破られたんは、悟クン除いたら君だけや。誇ってええで」

 

先程の賛辞とは違い、こちらにはほんの少し、その気を感じられる。

ただその上で、全然褒められたような気がしない。

やはり人の印象というのはそう簡単には塗り変わらないらしい。

 

「…あ、そうや。見切った礼に、ええもん見せたるわ」

 

上機嫌そうに呟くと、直哉はそのまま姿勢を動かさずに、呪力を練る。

ほかの術師とそう大差のない───練る際の練度は桁違いだが──動作。しかし途中から、違和感を感じ取る。

それは呪力と言うには少々明るく、負のエネルギーというには清々しさを発されている。

そのエネルギーは直哉の全身を駆け巡ると、すると直哉の頬の傷はみるみるうちに回復。

瞬きをする間もなく、そこにはまるで傷などなかったかのように、気が付けば完璧に治癒されていた。

 

「聞いたことぐらいあるやろ?反転術式。悟クンや傑クンが使っとんの見たこと……いや、あるわけないな。あの二人が怪我負うことなんざありえへん」

 

反転術式───聞き覚えのある単語を頼りに、記憶を掘り返す。

あれは確か…五条先生から聞いたような気がする。

 

────呪力は負の力。その力同士を掛け合わせることで、真逆の正のエネルギーを作り出すことができる。それを上手く使うことで自分の怪我を治したり、難易度は高いけど他人の怪我を治せたり出来るんだ。……僕に出来るかって?そりゃ勿論出来るに…え?他人の治癒の方だって? ………………いや、出来ないなんて言ってないけど?頑張れば出来るんですけど?………………今笑ったパンダと棘。後で話があるから職員室に来るように───

 

後半の記憶は兎も角。

あの時の説明と、直哉の行った呪力操作を頼りに、試しに呪力を練ってみる。

 

(呪力の負のエネルギー同士を掛け合わせる…………)

 

本来の乙骨であれば、このような高難度の技術は扱うことはできないだろう。

だが、手本を目の前で見た後で、かつ頭が冴え渡っている今であれば───

 

「……こうかな?」

 

丹田から生まれた暗く熱い力の塊が脳へと伝達。

脳内で混ざり合い、変換された温かみのある力は、脊髄を通り全身へと駆け巡る。

全身の擦り傷、骨に入ったヒビ、そして加茂によって貫かれた腹の傷が、みるみるうちに回復していく。

 

その才能を幼い頃から持っていた家入硝子を除き、過去に反転術式をたった一日で修められた者は居なかった。

五条悟ですら死に際に立たされなければ習得できなかった技巧。

それを、高専に入学し半年と経っていない若輩者が、実物をたった一目見ただけで、覚えてしまった。

 

 

「…………はっ………ハハ……」

 

 

乾いた笑いが、無意識に口から溢れた。

 

甚爾に虐められながら。血反吐を吐きながら。

文字通り、死ぬ気で努力して、努力して努力して努力して努力して。

そしてやっと身につける事が出来た技。

 

それを何処の馬の骨かも知らない、現れたばかりの一年生が、これまての努力を嘲笑うかのように、一瞬で完璧に習得した。

 

認めたくない。

目の前の、自分よりも遥かに貧弱で脆弱な存在が、自分をも超える可能性を秘めた原石であることを。

 

 

「それならもう───遠慮いらんっちゅうわけやろ?」

 

 

故に。潰す。

全力をもって。

芽吹く前に摘む。

格の差を見せつけ。

自分より下であると。

証明する。

 

眼前の相手を、本気で潰すべき相手と判断し───投射呪法を発動する。

 

手加減は要らない。

現状出せる最高速度。

それを持って、全力で轢き潰す。

 

 

 

「そろそろ時間も潮時や。最後は、お望みの本気で潰したるわ」

 

 

低く、拳を突き出して構える乙骨。

 

 

「えぇ。遠慮なく」

 

 

両雄共に火花を散らし。

 

最後の攻防、その火蓋が切られた。




「くそ…しくじったか…」
「ハチマキを取るのが俺の方が上手かった。それだけだ」
「桃ちゃん…なんか…ごめんね…」
「本当、綺羅羅ちゃんの術式と私の術式相性悪すぎ」

「…さて、残るは───」
「残るは俺たち三人。今度は誰の横入りも入らず、雌雄を決めようじゃないか、秤金次!」
「うわ出た」
「ところで、二度寝して結局、あの…高田ちゃん?には会えたの?」
「……………………」
「………そうか」



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