死因不明の大斧使い   作:猫山白

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原作での死因わからんけどまぁなんとかなる

 

”流石はカールのアニキだ! まさかあのグレートベアをぶった切っちまうなんてよォ! ”

 

”まったくだ! これで兄貴の名も轟くってもんだぜ、もしかすると二つ名なんかついちまうかもなぁ! 兄貴は斧使いだから…”大斧”なんてどうだ? ”

 

 2人の仲間が嬉しそうにそんな事を言った時、俺の視界はぐにゃりと歪んだ。

 一介の新人魔獣狩り(ハンター)である俺が知る筈もない情報が頭の中に流れ込んで来る…酷い頭痛と不快感だ、脳ミソを直接手でかき混ぜられているような感覚。

…気づくと俺は膝を地面についていて、仲間達の声が水の中にでも居るかのようにぼんやりと………

 

 

 あるゲームがあった『コール・フロム・ミッドナイト』というゲームだ。

 名前のセンス通りにパッとしないゲームで、そんなに売れなかった…俺は買ったようなのだが。

 この世を征服しようとする吸血鬼達と、人類の守護者である神官達のある少女を巡った争いを描くSRPG…というのがあらすじだったはずのゲーム。

 そんなゲームの世界が…あろう事か俺が24歳になるまで過ごしてきたこの世界だったのだ。

 俺は今、”大斧”とカールという名が並ぶ事によってそれを悟った…否、()()()()()

 思えば俺には初めて聞いた人物名や、初めて見る景色を以前に聞いたり見たりしたような気持ちになるという体験が多々ある。

 それはきっと、埋もれていた()()がそれに関連する情報という刺激を受けて燻っていたのだろうと、今ならばわかる…()()という概念を身をもって理解した俺ならば。

…もっとも、蘇った記憶はこのゲームとその周辺の記憶のみ、親の顔や名前はおろか自分の名前も思い出せない体たらくだが。

 まぁ現在の俺にとっては最も重要なゲームのシナリオは頭に入っているのだ、充分と言えるだろう。

…そう、重要なのはシナリオだ。

 このゲームのシナリオにただ従えば俺は死ぬ…死んで、屍人(グール)になって、そして主人公達に討ち果たされる。

 だが、俺はこういう時ありがちな解決法である死ぬ場所に行かないとか、死に繋がる縁を作らないとか、そういう事をする訳には行かない。

 何故って…

 

(まさか転生先がネームドモブ敵になる前の出番が酒場会話で2、3度…それも名前だけ、みたいなキャラになるとは思わなかったな…)

 

 そう、単に死亡状況も死亡時期もわからんのである。

…いや、正確に言えば大まかな死亡時期はわかる、『カールの奴、最近見かけねぇなぁ…体調でも悪いのか? 』みたいな会話がラスボスである『夜の王』の復活直後に酒場で聞けるからだ。

 裏を返せばそれだけの情報しかない…そもそもこれ以外に俺が登場する会話が『噂の暴れドラゴン、カールの奴が単騎で叩き切ったらしいぜ、凄ぇ奴だとは思ってたがまさかそこまでやれるとはなぁ』しかない。

…プレイヤー目線で見ても全然偉業なんだけどなぁ、これ、なんで屍人の俺あんな微妙性能なんだろうな、顔もモブ屍人の流用だし、武器もなんかその辺のモブと同じ片手斧だし…大斧の名が泣くぞ?

 まぁそもそも今俺が使ってる斧が両手斧な辺り、あの辺の整合性の無さもモーションの流用とかが関わっていたのだろう。

 現実になった事でその呪縛から解放されて、めでたく俺も両手斧デビューという訳だ。

…少し脱線したが、ともかく俺はゲームでは死ぬし、ほぼモブだからどう死ぬかわからない、という状況なのだ…普通なら絶望的とすら言える。

 が、俺は色々考えた末にこの辺はなんとかなる、と判断した。

 先程も言った通りゲーム世界の俺は片手斧なんかを持っていた、それも別に特別では無い、終盤の敵なら普通に持ってる『魔鉄の斧』みたいなやつ…それだけならモデリングをサボっただけだと考えれば良いが、問題は俺を倒した時に落とす装備品だ。

 俺はタリスマンを落とすのだが、それが『魔よけのタリスマン』という装備品で、これは元が魔獣狩りの屍人ならほぼコレ、という装備品なのだ。

 例外は名前付きの魔獣狩りが屍人になっている場合で、彼らは『障魔のタリスマン』とか『反魔のタリスマン』とか、そういう『魔よけのタリスマン』の上位互換を落とす…つまり装備している。

 そして重要な事実としてタリスマンにはグラが存在しない事、つまりデータと名称だけで簡単に実装できる事が挙げられる。

…これらの事実から導き出される結論、それは『”大斧”カールは自分固有のタリスマンを持たないくらい装備品に対してケチ』という事である。

 屍人になっていた事から見て吸血鬼の誰かによる他殺であろうということも踏まえて考えると、そこそこの斧でドラゴンを切って慢心し、ろくに装備も整えずに居たら闇討ちされて死んだって所だろう。

 愚かな事だ、装備を買うのは命を買うのと一緒だと教えられただろうに、そんな事も忘れてしまったのだろうか。

 そんな訳で俺の方針はざっくりまとめるとこんな感じである。

 

1、装備を整えておく

2、修行して身体的にも強くなる

3、余裕があったら神官と接触して対吸血鬼用の道具も仕入れる

 

 ま、ゲームでは舐めプして死んだだけの事、しっかり本気で挑めばなんとでもなろう…というのが既に慢心か。

「…ニ…ッ…! 」

 慢心は俺の死因だ、ちゃんといつでも気を引き締めるようにしておかなきゃ…

「…ニキッ…! 」「起…て…れよ兄貴ィ…! 」

 いや、うるさいな! めっちゃうるさいなコイツら! ちょっと倒れただけだろうが、こっちは色々前世の記憶とかで悩んでるってのに。

「アニキッ! 」「死んじまったのかよ兄貴! 」

 わかったわかった、起きるから待ってろってホントにコイツらは…

─────

 

「だーっ! 騒ぐんじゃねぇよお前ら、ちょっとフラッときただけだろうが」

 

「アニキッ! 」「生き返った! 」

 

…起き上がるなり罵声を浴びせる俺も俺だが、こんなに大袈裟に喜ぶコイツらもバカなんじゃないのか?

…そういやバカだったわ、何を思ってコイツらは生まれつきのフィジカルでゴリ押すだけの男に付き従っているのか。

 

「だーれが死ぬかボケナスどもっ!

 さっきの俺の狩りを見てなかったのか?

 俺のダメージなんざちょっぴりこの熊野郎に小突かれてちょっぴり肉がえぐれただけだろうが」

 

 俺は傍らに転がしてあった愛用の両手斧を掴んで生前は立ち上がれば15mはあったであろう首無しの熊の死体をつついてみせる。

 

「けどよォ…新調した鎧もぶち抜かれちまったし…てっきり俺ァあの時のダメージが残ってて死んじまったのかもって…でも生きてて良かったぜアニキ」

 

「ええい寄るな寄るな髭面! 視界いっぱいに来ると圧迫感凄いんだよお前…しかも今めっちゃ汚ぇじゃねぇか! マジで寄るなお前! 」

 

 モッサモサの黒髪と黒髭を涙と汗と鼻水でベチャベチャにしながら寄ってくる悪人面の小男を腕で退け、衛生状態を確保…そもそも今血塗れだわ俺、じゃあ普通に嫌だから遠ざける。

 この髭面の男はグドー・ガドランセ、ドワーフだ。

 暑苦しくて人情家、涙脆いし怒りっぽい…困ってるヤツをほっとけない性格で、いつまでもみすぼらしい装備をしてやがるからちょっと小遣いをくれてやったらその日のうちにスラムのクソガキ共に全部くれちまったせいで相変わらずみすぼらしい装備をしている愛すべきクソボケ野郎である。

 カモにされてるぞ、と言えば大人をカモにしなくては生きていけないガキに思いを馳せて勝手に泣き出すし、自分の装備を大切にしなきゃいつか死ぬぞと言ってやれば今使ってるオンボロを丁寧に手入れし始めるんで、コイツに新しい装備を買わすのは諦めた…まぁ手入れ用の道具代は流石に残し始めたんで良しとしよう。

 ちなみに元々は中々評判の良い鍛冶屋の息子だったらしいが、腕が良くてもこんな気質なんで気がついたら店が大赤字になってたらしく、家は次男が継いだらしい。

 そんで80になった頃、とっくに独り立ちの年齢なのに穀潰しになってんのは耐えきれんと思って家を飛び出し、生来の施し癖が災いして行き倒れかけた所を俺が拾って今に至る。

 俺の真似して斧で戦う、ドワーフなんで膂力もあって結構強い…まぁ身体強化込みなら俺の方がパワーあるけど。

 

「離れろよグドー、兄貴が困ってんじゃねぇか…全くお前はいっつも考える前に動きやがって」

 

「んぐ…離せよオルファ、俺はガキじゃねぇぞ」

 

「離せばガキみてぇに兄貴にしがみつきに行くだろうがお前」

 

「あんだとぉ! 」

 

 今俺からグドーを引き剥がしてギャーギャー騒いでる金髪色白のイケメンがオルファ、エルフだ。

 クール…に見せ掛けて普通に激情家だ、冷静さが顔にすべて持っていかれた男である。

 そもそもグドーと対等に喧嘩してる時点で知能的には対等のバカな事がよくわかるだろう。

 グドーとの相違点は面の良さと、育ちの良さのお陰でギリギリ存在するキレてから行動するまでに働く自制心、金を自分以外の為には使わんという鋼の意思、それから戦闘スタイルだ。

…こう挙げてみると結構あるし、まだまだあるかも知れん。

 ちなみに自制心はあると言ったが、昔まだ家にいた頃に客人に不快な事を言われたとかでボコボコにのして唾を吐きかけて勘当されたとか言うパンチのきいたエピソードを持っているので、吹けば飛ぶようなもんである。

 まぁエルフらしくない情動の激しさは本人も気にしているようなので、俺もあまり触れはしない。

 戦闘スタイルは弓と魔法…と言っても魔獣は大抵鱗やら毛皮やらが魔法を散らすように進化しているので、魔法は大抵サポートに使う程度、矢も鉄の鏃とかだと基本刺さらんので魔物の骨を使ったり特別な金属を使ったりせねばならない…という訳でコイツもそこそこ貧乏である。

 もっともこっちは施したりはほとんどしないので普通くらいには暮らしているが。

 

…てかコイツらはいつまで喧嘩してんだよ。

 

「ほーらお前ら、そろそろ喧嘩やめろー…ってか騒ぐなー? タダでさえ血液ぶちまけまくって匂い撒き散らしてんのにギャーギャー騒いでっと変な魔獣寄って来るぞ。

 態々獲物横取りに来る魔獣なんざ大抵めんどくせぇ奴だからな変なことはよせ」

 

「「だってコイツが…」」

 

「仲良しかよお前ら」

 

 いい歳こいてガキみたいにお互いを指さし合うバカ共を後目に俺は熊の死体に手をかけ、ゴロンとひっくり返した。

 巻き込まれた木がバキバキと折れ、俺が腹に斧を叩き込んでやった時の傷から血がドクドクと流れ出る。

 

「…アニキ、俺らには騒ぐなって言うくせに自分はそんな爆音立てるんですかい? 」

 

「ん? あー、じゃあさっきのナシで」

 

 確かにそうだ、と思ったので素直に訂正する。

 俺は自分で言った事が返ってきた時に逆ギレするような奴とは違うのだ。

 

「前から思ってたけど兄貴って適当だよな」

 

「まーな、人生適当な方が…存外生きやすいんだ…よっと! 」

 

 上の空で話しつつ、俺は熊の体内に腕を突っ込んで臓物を掴み、引き摺り出す。

 うーん、やっぱ魔獣は魔法で体構造変えてるから臓器の種類とかわかりにくいな、こういうのはプロの解体屋に頼んだ方が確実…っと、コイツがお目当ての消化器系かね。

 

「おめーら離れてろよー、今からちょっと臓物開くからなぁ、消化液かかって腕溶けても知らんぞー」

 

「じょ、冗談キツイぜ! 」

 

 慌てて離れていく2人を見送り、慎重にナイフを使って…あっ。

 

「アニキーッ! 」

 

 肌が焼けるような感覚に、塞がる視界。

 あー、これ顔面モロだ、きったね。

 

「フンッ! 」

 

「やめろやめろこっちに飛ばすな兄貴! 」

 

 犬のように頭を振って付着した消化液と熊が食った物の混合物を飛ばす、オルファの悲鳴は無視だ。

 手ぬぐい…は無いからしょうがないので拳で飛ばし切れなかった消化液を拭うと、探していた物体が視界に入る。

 

「予想はついてたがビンゴだぜお前ら、ホレ」

 

「わーっ! あんまそんなもん見せんでくださいよぉ! 」

 

 大袈裟…でもないか、まぁ普通は溶けかけた人の頭なんかみたら嫌な顔のひとつくらいするもんだ。

 俺だって人喰いらしい大熊の腹をカッ捌くってわかってなけりゃあんな顔してたに違いねぇ。

…しっかしまぁ随分食ってんなこの熊、バラバラになった馬車が馬も含めて丸ごと胃袋の中じゃねぇか。

 この分じゃ他の奴が食われてる間に逃げて町まで辿り着いたって依頼人以外みんな死んでるまであるな。

 

「ま、とにかく依頼通り街道の往来を妨げるクソ熊はぶっ倒したと思って良さそうだな。

 野郎共引き上げだ! グドーはそこに転がってる首を持て、オルファは臓物だ、証拠品を持って帰るぞ」

 

「えーっ! そんなもんグドーに持たせてくださいよ、汚ぇし死体入ってるしこんなん持ちたくないですよー」

 

「おうこら嫌なもん人に押し付けてんじゃねーよこの腐れエルフ! 」

 

「なんだとこのちんちくりんの髭ダルマめ! 」

 

「お前ら一言喋るごとに喧嘩しねぇと気が済まんのか?

 ガタガタ抜かしてねぇでさっさと持てよオルファ、破ったせいで消化液が出てきちまってんだ、魔法で保護できるお前しか持てるやつは居ねーよ。

 俺なら持てるが…」

 

 グレートベアの毛皮に手をかけ、ぐいと引っ張って肩に担ぐ。

…どう頑張っても大きさ的に下半身は引き摺る形になるが、まぁ丈夫な魔物だし構わんだろ。

 

「コイツを持たなきゃならん、お前これ持てるか? 持てるならそっち代わっても良いぞ」

 

「うっ…わかったよ、わかりましたよ、俺が持ちます」

 

「そういうこった」

 

「そうだぞクソエルフ! わかったかー? 」

 

「話がややこしくなるから黙ってろグドー」

 

「そうだぞバカドワーフ、わかったか? 」

 

「もうお前ら両方黙ってろよ! 」

 

 ギャーギャー騒ぎながら俺達は町へと帰った…道中二、三頭の魔獣に襲われたので取り敢えず全部倒した。

 まぁ土産が増えたと思えばよかろう。

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