死因不明の大斧使い   作:猫山白

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 この作品の、ポイントが1000を超えていました、嬉しい!
 皆様、この作品を応援いただき誠にありがとうございます。
 そして、この折角ポイントが4桁に乗った節目に散々悩んで全然更新できていないのは非常に申し訳ないです…。
 こんな拙作ですが、今後とも応援して頂けると幸いです。


嫌いな仕事を済ませた後は良いもんだ

「翠玉が落ちる…か、本当なら一大事だな」

 

 エイルディンの口から紡がれた言葉は、しかし俺の想定よりも余程穏やかなものだった。

 

「へぇ、結構あっさり信じるんだな、てっきり”滅多な事を言うな! ”とか言われて胸ぐら掴まれるかと思ったぜ」

 

「ポールならしたかもな。

 だが俺はそもそも聖石とはかなり近い存在だ、彼ら彼女らとて死ぬ事はよくわかっているし、人に向ける以上の敬意を向ける事もできん。

…だが、同様に聖石が皆、容易には倒れぬ強大な力を持っている事も私はよく知っている。

 胸ぐらを掴まれるつもりだった、と言うならば”その状況なら彼女とて死ぬだろう”と納得するような情報があるはずだ、違うか? 」

 

「話が早くて助かるぜ。

 お前の疑問はトーゼンだ、明星が二十一で聖石が十二なのに未だに人類が滅んでねェのは奴等の足並みが揃ってねぇのと同じかそれ以上に、明星に比べて聖石は実力に幅がねェってとこにある。

 お互いの上位こそ拮抗しちゃいるが、下位の明星は同じく下位の聖石とタイマンで戦えば確実に負ける…それより格下の”2つ名持ち”程度なんざ逆立ちしても聖石にゃ勝てん。

 でもって唯一聖石を単身で殺し得る上位の明星はいつもお互い派閥争い、簡単にゃあ動かん。

 そういう訳で普通は聖石は死なん、ってな話がしたいんだろ?

 ま、それでも今回は死ぬ…奴らはこの問題を解決するのに最も楽な手を取ったのさ」

 

 1人じゃ倒せない相手を倒すには、どうする?

 こんな問いの答えなんざ深く考えるまでもない、どんな馬鹿な人間でも…いや、知性の無い獣共ですらよく知っている。

 

「クランバルに、2人の明星が来る…2つ名持ち1人のオマケ付きでな」

 

「高位の吸血鬼が3人組む…それもかなり都市への襲撃の為に、か。

 生憎だが信じ難いな、そんなリスクの大きい行動の為に奴等が足並みを揃えるはずがない」

 

「だろうな、俺もあんたの立場ならそうだろう。

 だが、ここに天狼星が裏で動いてるって情報を混ぜたらどうなる? 」

 

「なんだと? 」

 

 エイルディンの目が見開かれる。

 

「あの怪物が…私利私欲では動かぬ、あの筆頭でありながら異端の吸血鬼が動く、と言うのか? 」

 

「おう、その通り…いや、より正確に言やァもう動いてるって方が正しいか。

 ちなみにこの情報は予知もだが、こないだ魔獣卿を殺った時に現実で確認済みだ」

 

「そうか…あの女が異世界人と名乗った時点で空間に干渉できる天狼星の関与はあると思っていたが、奴が首謀者とはな。

 となると奴の性格上、今回の件は不死者全体の勢力拡大に繋がっている筈だが、何か知っているのか? 」

 

「ああ、それは………」

 

 急に水を向けられたせいで、咄嗟に口をついて出かけた言葉を慌てて飲み込む。

 大事な大事な交渉材料を危うく自分からおっことす所だった。

 やっぱ話し合いってのはまだるっこしいなチクショウ!

 

「お前が交渉に乗ってからのお楽しみだ、今回の件に直に関係ある訳じゃねェからな」

 

「それは残念だ…では本題に戻るとしよう。

 高位の吸血鬼が3人現れるのはそれで良いとする、そもそも天狼星が動いているなら3人と言わず4人でも5人でも動くはずだからな。

 しかし次に問題になるのは都市に張られた聖域だ。

 上位の神官と認められる条件でもある聖域の展開は、その難度に見合った効果を持つ。

 聖石が張っている物ともなれば生半可な吸血鬼ならば入った時点で灰と化す…無論、明星ならば小規模な力の減衰程度で済むだろうが、問題なのは侵入経路が完全に潰れる事。

 聖域という物が空間に力を与える形で展開される以上、天狼星が空間を操って兵力を都市内に送り込む事は不可能だ。

 さりとて外から普通に入るのも検問と結界が邪魔になる為、当然気付かれる。

 確かに聖石は飛び抜けて強力だがさりとて追随する者が居ない訳では無い、気取られた時点で下級の明星2人と2つ名持ち程度では都市の神官全員は落としきれまい? 」

 

「そうだな、だが前提が間違ってる。

 俺しか知らねぇんだから仕方ねぇが、天狼星はかなり魔力を使えば聖域内の空間を歪められる。

 前例がねぇのは今までする意味が無かっただけだ。

 なんせ結構な力使って開けた先にあるのが聖域だぜ? 上位の吸血鬼以外を送り込んでも仕方ねぇし、数を送れんからちょっと暴れて終わり。

 仮に上手いこと中で不死者を増やそうが増えた先から燃え尽きて死ぬんだからヤツらの貴重な戦力が削れるだけになる」

 

「だが、今回はその意味がある…と? 」

 

「おうとも」

 

 俺は頷き、指を1本立てる。

 

「理由は1つ、お前らが件の魔力無しの女の価値を図りかねてるからだ。

 俺からの情報が無けりゃ、お前らの中でのあの女の評価は”吸血鬼共の基地から奪取したあからさまに不審な点のある女で、しかも小規模とは言えコイツ目当てで襲撃まで来るようなヤツ”という事になる。

 要は”何に使うかは知らんがよっぽど大事らしい”って事だな。

 ほんでそんな状態で前代未聞の十二聖石が守る都市への襲撃…当然お前らの目はあの女に向き、必然的に他の守りが甘くなる。

 例えば神殿内で今も浄化中の”夜の王の痕跡”とかな」

 

「ではヤツらの真の目的は彼女では無く…」

 

「その”痕跡”って訳だ、その襲撃に関してはな。

 どうだ? 面白ぇ話だったろ? 」

 

 エイルディンの言葉の後を継ぎ、話を締めくくる。

 さぁて相手さんの反応は…

 

「ああ、まだ半信半疑ではあるが中々興味深い話だった。

 俺もこれから少し、対応を考える事にする」

 

 よっし上々、後はしっかり予言通りにコトが起これば俺の話にゃ乗ってくれるはずだ。

 

「そーかい、それなら結構」

 

 勢い込んで椅子から立つと、ガタンという音が静かな部屋に響いた。

 あークソ、長話のせいで肩が凝っちまったよチクショウ、ガラじゃ無い事するもんじゃねぇなぁ、まったく。

 

「くぅ〜…っと」

 

 パキパキ、と音を立てて背中が伸びる感覚を味わい、肩と首を少し回してから歩き出す。

 

「…何処へ行くんだ? 」

 

「あ? 帰んだよ、魔獣狩りが長居する場所でもねェだろ? 」

 

「なんと言うか…自由だな、君は」

 

「ま、それが売りの職業なんでな。

…っと、そーいや挨拶し忘れてたか、悪ぃ」

 

「いや、構わんよ…見送りは? 」

 

「要らん…と思ったが、道がわからんな」

 

「そうか、ならポールを付ける」

 

 エイルディンも俺に追従するように静かに席を立ち、ドアを開く。

 

「どうです? 助けてやれそうでしたか? 」

 

 ドアの外のポールが開口一番そう言った。

「そうだな…面白い話は聞けた、後はもう少し時間が要るな。

 ああそうだ、客人を出口まで案内してくれ」

 

「ええ、わかりました」

 

 一礼した後、手に持っていた斧の柄をこちらへと差し出す。

 

「ほら、さっさと受け取れ、重くてかなわん。

 それから先程部屋に入った時は緊急時だったので床に置いたが、構わんな? 」

 

 コイツ態々持ってたのかよ…こっちとしては普通に壁にでも立て掛けといて貰えばよかったんだが。

 

「律儀か! 外なら百歩譲ってわかるが屋内だぞここ…てか外でも普通に置いとけよ重いんだから」

 

「たとえ貴様であろうと客人から預かった物を床になど置けるか」

 

「ほんっとに融通効かねぇなぁお前…まぁ一応礼は言っとくぜ」

 

 斧の柄を掴み、回すように持ち上げて背負う。

 うん、やはりこの重みが無いとどうにも落ち着かん。

 

「ほんじゃあまたなエイルディン、次はコトが済んだ後のクランバルで会おう」

 

「ほう? 君も来るのか」

 

 意外そうな顔だな…まぁ吸血鬼の襲撃が来る…ってかその段階だと来た直後の場所なんかに行こうってやつは少ないか。

 奴ら罠とか仕掛けとか大好きだからなぁ…

 

「おうよ、こっちとしても事実確認はしたい所なんでな。

…あ、助力は期待すんなよ? こないだ鎧が予備までぶっ壊れちまったんでな、修理が済むまで動けねぇんだ」

 

「元よりこちらの専門分野だ、なんとかするさ」

 

「…? 何の話をしていらっしゃるんですか? 」

 

「ああ、お前には後で話すから、今は客人を帰してやってくれ」

 

「はぁ、わかりました」

 

 頷いたポールがこちらへと向き直り、手招きする。

 

「ほら、こっちだ魔獣狩り、案内してやるから速やかに帰れ」

 

「はいはい言われなくともさっさと帰るってのに…ああ、エイルディン、頼み事はしっかりやってくれよ? 」

 

「ああ、言われずとも」

 

 快諾されたな、これで当面問題なしだ。

 もう1回確定で来なきゃならんのは面倒だが…まぁ今日は帰れるんで良しとすっか。

 

──────────────

 

(行ったか…)

 

 目の前の男がポールに従って廊下を歩んで行くのを見て、エイルディンは少し安堵していた。

 そのままカールの背が視界から消えるまでその背を見守り続けた後、元の部屋へと戻って椅子にドスンと音を立てて腰掛け、ふぅ、と長い息をつく。

 

(ドラゴン…この目で見るのは初めてだったが、噂通りの手合いのようだ。

 敵対者でも無い相手に気配だけで臨戦態勢に入らされたのは初めてだ…もしアレが不死者なら問題なく倒せるだろうが、今のまま暴れられては俺の手には余る)

 

 神官の持つ神器という物は、不死者を相手にする為に授けられた物であり、不死者以外に対しては本来のスペックで戦えないようになっている。

 だが、不死者以外に効かない訳では無いし、十二聖石やエイルディン程の神官ともなれば大抵の相手には負けはしない。

 その彼が”手に余る”と確信する程に、そして今の所は何事も無く立ち去った事に思わず安堵してしまう程に、目の前に居た相手は強大だった。

 

(なるべく敵には回したくない…ないが、今回の話を無条件に信じる訳にもいかん)

 

 しかし、いや、だからこそエイルディンは相手を信用しきらずに思考を回し続ける。

 

(あの娘の処遇に迷っている時期に未来を見た人間が出現し、しかも此方に友好的で道を示してくれる?

 馬鹿を言うな、こんな都合のいい事が起こるわけがない。

 それに最終的な結論が、あの娘自体は目を引きつけるオトリで実際の目標は”痕跡”であると言う…有り得ない、とまでは言わないがそれだけの存在をアレほど大規模な儀式で呼んだりはしない筈だ。

 最悪あのドラゴンの言に乗って俺と翠玉が揃って神殿に向かった結果、見事にあの娘が攫われる、なんて事も有り得る)

 

 彼には都市一つ分の…悪くすれば世界全体の人間の生命を己の背に負っている、という自負がある。

 信用、という物は彼にとってはそういう重みを持った物になる。

 交渉中に相手を信用するような素振りを見せたのも、単に相手の口を饒舌にさせる為にした事で、1度だけ否定してみせたのも、その演技の信憑性を引き上げる為にしただけの事だった。

 

(…とは言え、あのドラゴン自体が積極的に吸血鬼に協力している訳では無い、というのは救いだな。

 もし吸血鬼の協力者なら少々話し過ぎだ、天狼星の能力への認識の差など吸血鬼からすれば利用しない手は無い。

 それに、これから先何が起こるかは教えない、と言っておきながら直後に真面目くさった顔で、”夜の王”復活以外に使い道の無い物を敵が狙っている、などと漏らす手合いだ。

 ”嘘の予言を抱えて神殿に踏み入る”なんて小器用な事はできんだろう。

 となると”何らかの方法で未来を知ったと思い込まされている”か、それに類する状況という事になるだろうが、その場合の問題は…)

 

 ここまで思考していた事はすべて、ぼんやりとはしていたが既にエイルディンの頭の中にあった事。

 それを態々言語化したのは、状況をしっかり把握したかったからか…それとも、ここから先を考えるのを無意識的に面倒がっていたからか。

 ともかくエイルディンは思考を更に先に進め、面倒な部分へと踏み込む。

 

(彼の話をどこまで信じ、どこまで信じないか…だな。

 下手をすれば最悪聖石が落ちる…いや、これも彼の語った事と考えれば、よりマズイ事態に陥る可能性もある。

 慎重に情報を精査し、本当である可能性が高い物のみを選択…せねばならんのだがなぁ。

…まったく、今まで『情報提供者』と言えば大抵魅了を使われているか、不死という言葉に踊らされた愚か者の罠。

 マトモに外部から情報を仕入れられた試しが無かったせいでどこまで信じていいかサッパリわからん)

 

 袋小路に入ってしまった思考を一旦投げ捨て、エイルディンは眉間の皺を指でほぐした。

 はぁ、という溜息がやけに鮮明に周囲に響く。

 

(まったく、ポールがいつものように騙されたのかと思っていたんだが、こんな厄介な事に…いや、今度ばかりはアイツは悪くないな。

 むしろ情報自体は有用な以上、お手柄と言うべきだろうな。

 世を渡るには行き過ぎたあの誠実さも、時には役立つ…という事か。

…さて、そうと決まれば俺もこの情報を何も考えずに放置する訳にはいかんな、なんとか使ってやらなくては)

 

 自身の職務にいつも真摯すぎる程に真っ直ぐ向き合う同僚の事を思い出し、頬を両手で軽く叩いて気合いを入れ直すと、エイルディンは1度放り出した思考を再開し始めた。

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