本年の抱負はもう少し更新頻度を上げることです、頑張っていきたいと思います。
「やー、どうしたんだい? 君の方から僕を訪ねてくるなんて、結構珍しいね」
寝床に横になりながら組合長がニヤニヤと笑って問いかける。
そう、俺が今いるのは組合長の家だ。
何度が来たことはあるが…うん、確かに自分から来たのは初めてだな。
「ちょいと事情があってな」
「なぁんだ、ついに情がわいてお見舞いにでも来てくれたのかと思ったのに」
「俺がそんな殊勝なヤツだと本気で思ってんのか? 」
「いやー? でも僕の容態がもーちょっと悪くなったら来てくれそうな気もするんだよねぇ。
君、身内には結構優しいタイプじゃん? 」
「仮に俺が身内に優しいとしてもアンタは身内じゃねーよ」
「えーっ! それは僕ショックだなぁ! だって僕、それこそ君が産まれた頃から…ゲホッ! ゴホッ! 」
「どーせ咳に化けるんだからあんま大声出すなよ…」
組合長の背中を擦りながら咳が収まるのを待つ。
…ってかいつの間にか本題切り出し損ねてるな、コイツ無駄話多いんだけどどうにかならんか?
「あー…やっと収まった…ごめんね、話の途中で」
「ケッ、呪いなんだから仕方ねぇだろ、文句言うならコカトリスに言うさ」
「まーもうそのコカトリスも僕達が切っちゃったから死んでるんだけどねぇ…」
組合長が壁に掛けてある2振りの短刀を見て嘆息する。
…件のコカトリスの嘴から削り出した、と言っていたはずだが、実際の所使っているのは見た事がない。
まぁそもそもアレを使うような大した相手と競り合うのはもう組合長自身が持たないだろう。
「勿体ねぇなぁ…アレ、使わねぇなら俺にくれよ」
「君は使わないでしょ短刀なんて。
そもそもゴリ押し上等の君には手数と技術で攻める軽いのよりも一撃で仕留めるでっかくて重いのの方が向いてるって自分でも言ってたじゃない。
それに解体用に使おうにも切った所から石になっちゃうんだからそっち方面も無理だしね」
「いや、まだ使い道あんだろ、投げるとか」
「投げないでよ腐っても貴重な物なんだから。
それに君が普段投げてんのは礫かその斧だろ? 短刀投げるのとは勝手が違うし、結構鍛錬が必要になるよ。
君そういうの嫌いじゃないか」
「まーな…と、普段なら言うとこなんだがなぁ」
「…え、マジ? 今日はなんかその後に続くの? 」
「おう、悪ぃがその鍛錬って奴が今日は俺の目当てだ」
「うぇ!? 君が!? 」
驚き過ぎてまた咳き込み始める難儀な生き物の背中を取り敢えずさすっておく。
…まぁ驚くのもわからんでもない、鍛錬自体は勝手に自己流でやってたが、組合長に師事するってのは随分前に無理やりやらされて以来だし、その時もクソほどやる気無かったしな。
正直その時は戦闘技術ってやつには欠片も興味が無かったんだから仕方ないが、今となっては事情が違う。
自分で言うのもアレだが、俺は力の面では世界中の生物全部の中に入れられても片手で数えられる範囲に居るつもりだ、更に鍛えても短期間での伸び幅は少ない。
という訳で元から大した事のない技術の方を伸ばした方がかじる程度でも伸びがいいと思う、んだが…
「なんだ咳が収まった途端にその微妙そうな顔は、前は俺がなんも言わなくても勝手に教えてきただろうが」
「いやだってアレはどっちかと言うと君が自分の力で周囲に被害を出さないように制御方法を教えてただけだし…そりゃまぁ戦闘で使えるように礫の投擲は教えたけどアレもどっちかって言うと気軽に吐息を撃たれると困るから別の遠距離攻撃手段を教えただけだもん」
「じゃー今度は強くなる方を教えてくれれば良いじゃねぇか、なんで渋るんだよ」
「だってさー、要らんでしょ、これ以上の力。
今の所君が本気で殴って死なない相手、なんか思いつく? 」
「吸血鬼なんかは中々死なんぞ」
「そんなん普段の仕事で会う? 」
「会わねぇよ神官じゃねぇんだから」
「だよね〜、じゃあ要らないじゃん」
「はー、確かになー」
…クソ! 思わず納得しちまった!
まぁそりゃそうなんだよな、こっちがドラゴンな以上、魔獣相手なら基本的に勝てないって事ないしな俺!
事情を言わなきゃそりゃそうなるよな!
「じゃあ君も納得した事だし別の話題を…」
「待て! ちょっと待て! 今理由を考える! 」
「今考えるって言っちゃってる時点ででっち上げじゃないか」
「おう! 今でっち上げるから待っとけ! 」
「清々しいまでにヤケクソだねぇ!? 」
思わず大声を上げた組合長が再び咳に囚われて機能停止に陥る。
…よし、なんかよくわからんがまぁ作戦通りだ!
「まぁ聞けよ、こう…アレだ、どうしても強くならなきゃならねぇんだ、わかるか? 」
「ぜぇ…はぁ…その論はアレだね? 何も思いつかなかったね? 」
「おう」
「わぁ、真っ直ぐな瞳…そんなに複雑な事情に巻き込まれてるのかい? 」
「複雑、か…」
前に神殿で未来見えるって言ったら思ったより話がこじれてめんどくさい事になったから二度とホントの事言うのやめようと思っただけなんだがな。
さて、これに乗っかると組合長にいらん心配をかけることになる訳だが…
「まぁ、そういう事になる」
「うわー、マジでぇ…? いやまぁ急に神殿と関わり出すとか絶対ろくでもない事になってるだろとは思ってたけど、マジでなってんの…? 」
うん、良いやコイツの心労とか。
厄介事がなんのは今更だろうし、今はどっちかと言うと話が前に進む方が大事だろ。
「ま、そういう訳で指導頼むぜ」
「頼むぜじゃないよぉ…君の指導内容考えるのめちゃくちゃめんどくさいんだからなぁ」
「…今、めんどくさいって言ったかお前!? 」
「あっやっべ」
組合長の目がスッと逸らされる。
「まさかとは思うが、それが今まで頑なに受けたがらなかった理由か? 」
「まぁその…そういう事になる、かも? 」
あはは…という乾いた笑い。
「ザッケンなよこの黒猫野郎! テメェこっちが真剣に頼んでるってのになんだそのふざけた理由は! 」
「いやー、真剣かと言うと君もまぁまぁはっちゃけてた気もするけどなぁ…」
「そこじゃねーだろ今大事なのは! 」
「はいはい…でも君の指導ってホントにめんどくさいんだから勘弁してくれよぉ…」
「勘弁なるかそんな事で! 大体俺ァ結構飲み込みは早ぇ方だって自負してんだが? 」
「残念ながら飲み込みの問題じゃないんだなぁこれが…」
組合長が近くの棚に手を伸ばし、中から1つの物を取り出す。
「あ? こりゃリンゴ…だよな」
「うん、そーだよ、ちょっとこれで実演しようかと思ってね」
器用にも取り出したリンゴを立てた指の上で回転させながら組合長は笑った。
「僕の技術は基本的には”理解”を旨としていてね。
例えばこのリンゴ、1つの”リンゴ”として捉える見方もあるけど、実際のところ皮、種、果肉など、材質で見れば結構違った物体同士が寄せ集められて1つの物として存在しているワケ。
材質が違うなら衝撃の伝わり方や受けた衝撃に対する反応ってヤツも当然異なる。
それらを正確に”理解”する事ができれば…」
指がたわみ、再び伸びる。
その上にあったリンゴは当然ながら投げ出され、ほんの束の間空中へとその居場所を移す。
パスッ…というような小さな乾いた音。
たったそれだけの、普通なら気にも留めないような音が鳴った…派手に投げ上げた割にはそれ以外に一切の変化をリンゴはおろか周囲にも及ぼさず、リンゴは再び空中から組合長の指の上へと収まった。
…もっともソレは
「このように、分解する事もできるって訳」
指の上に鎮座していたリンゴが窓から入ってきた風に揺られた時、初めて派手な形で変化が現れる。
ベロリ、と赤い皮がリンゴから剥がれ落ちたのだ。
剥がれた皮には果肉が一切ついておらず、果肉の方にも皮は一切ついていない。
「流石の手際だ、と褒めてやった方がいいか? 」
「いやー、まだ終わってないから喝采は後でで良いかな。
まぁ今のはリンゴの表面を何ヶ所か叩いて衝撃を与え、上手いこと皮だけを反らせる事によって皮だけ綺麗に剥いだ訳だけど、これだと理屈的に割れる場所が決まっちゃってるんだよねぇ。
そうなるとどうしてもここで割りたい! って時に手も足も出なくなっちゃう。
だから、そういう時は割りたい部分の周囲に上手く衝撃を与えて振動を伝える事で一瞬”弱点”を作り出して…」
静かに、しかし瞬く間にリンゴを何度か弾いた組合長の指が、仕上げにリンゴのヘタに小さな音を立てて置かれる。
…が、先程とは違って異変はすぐに現れた。
指を置いたヘタの根本からちょうどリンゴが6等分になるように亀裂が入り始めたのだ。
亀裂は素早く静かに進み、今度はリンゴの下部でまた合流。
見事に離れ離れになってしまったリンゴは芯だけを指の上に残してバラバラと床に落ちる…はずが、どこかから組合長が取り出した皿で受け止められ、事なきを得た。
「そこを破壊するって訳」
お食べ、と言いながら差し出してきたリンゴを1つ受け取りながら断面を眺める。
刃物で切ったような…いや、ともすれば刃物で切るよりも滑らかな断面、まさかこれを素手でやったと勘づくような奴はそうは居るまい。
「結構美味いなこのリンゴ」
「でしょ? 職員の子達が見舞いに持ってきてくれるのよ」
「面倒見のいい事で…」
「うん、みんな戦闘以外なら僕の100倍くらい優秀な子達だからね…っと、こりゃ脱線しちゃったや。
まーそういう訳で僕の技術は突き詰めればこんな感じになるんだけど、実際のところ相手にするのは良く知ってるリンゴじゃなくて知らない相手だし、ダメージを与えられるなら断面はこんなに綺麗じゃなくて良いし、正直こんな大道芸ができる必要は無いんだよね」
「じゃあなんで見せたんだよ」
「そりゃ自慢に決まってるでしょ、魔獣狩りは大抵自己顕示欲の塊なんだから」
斜め上のセリフを言いながら胸を張る組合長。
「殴っていいか? 」
「ダメで〜す、で、じゃあ何をさせるかって言うと僕が用意した特殊な石を魔力無しで数秒以内に割れたら合格って事にしてるのよ」
「特殊な石…話の流れからすると部位毎に特性の異なる石、みたいな感じか? 」
「ご明察! これをやらせる事で今対峙している相手がどんな構造でどの部位がどんな材質なのかを感じ取る方法が身につき、同時に見出した弱い部分を割る為の技術も身につくって寸法さ」
「…聞いたとこじゃ俺にもできそうに思えるが? 」
はぁ…と、わざとらしい溜息。
やっぱコイツ1回殴っても許されるんじゃないか?
「わかってないなぁ…君、素手で石割れる? 」
「当然だろ? だが鍛錬の時は力を抑えれば問題ねぇと思うんだが」
「最初は僕もそう思ったよ? でも前に教えた時に悟ったけどさ、力を抑えるって言ったらそっちの方に集中力持ってかれるしそれが切れれば本来の力が出ちゃうじゃん。
1番集中してない時に凡ミスで課題が達成できちゃうから最悪の成功体験ができるんだよ」
「ぐ…」
「だからめんどくさかったんだよねぇ、わかってくれる? 」
しまったな、本日2度目の反論が何も見当たらない状態だ。
「理解はしたが…やっぱこっちも引き下がれん、さっきも言ったが何とかしなきゃいけねぇことがあるんだよ」
椅子から立って1歩引き、頭を下げる。
「頼む」
妙な沈黙が辺りを包んだ。
正直俺は頭を下げる事になんら抵抗も無いが、なんせ天邪鬼な性質なもんで押し付けられれば暴れてきたからな。
多分めちゃめちゃ驚いてんだろう。
「…しょーがないなぁ、君が僕に頭を下げて物を頼むなんて中々無いからねぇ、面白いから工夫分くらいは苦労してあげる事にするよ」
「すまん、助かる」
「はいはい、じゃーさっさと頭上げて。
それから修行期間を教えてくれよ、期間の長さでやる事も変わるんだから」
「ああ、そりゃそうだな…」
期間、期間か…今は装備が整ってないから動いてないだけで、そもそも結構短いゲームだったからな、動けるならどっちかってーと修行よりも動く方を優先しておきたい。
で、俺が動けるようになんのは少なくとも1着目の鎧の修理が終わる頃、大体6日か7日後…いや、確かルアナが動いたお陰で材料の調達は済んでんだったな、となると…
「大体3日か4日って事になるな」
「舐めんな」
部屋に一陣の風が吹いた。
冷たい風に首筋を撫でられ、思わず首をすくめる。
気のせいなのか実際吹かせているのか知らないが、こういう感覚に襲われる時は大体組合長が瞬時に抑えられないくらいキレている時だ。
「い、いや、勘違いすんなよ? 俺だってこんな短期間で全部やれるようになるなんて思っちゃいねぇよ。
ただ少しだけでも身につけられたら戦力の強化に…」
「繋がる訳がないのはわかるよねぇ? いや、わからないからこんな下らないこと言ってるのかなぁ…。
そんな付け焼き刃を持ち込んだら動きが崩れてむしろ弱くなるに決まってるでしょ」
「それなら動きに組み込むのも含めて完璧に仕上げてやれば…」
「3日程度じゃできるわけないし、できたとしたら次の戦闘で絶対に”努力の成果”を見せたくなって隙晒すことになるよ。
…要件はそれだけ? なら帰ってくれよ、約束はしちゃったし明日までに3日でできて悪影響が出ない事を色々考えておくけど、今日はこれ以上ここに居られると僕のストレスが溜まるから」
信じられねぇくらいの早口でキレてる…こりゃさっさと退散した方が吉…いや、そういえばもう1つ用件があったか。
「じゃ、帰り際に1つ聞いとくが、ルアナを知らねぇか?
アイツに金を…いや、用事があるんだが、普段居るようなとこ探しても居なくてな」
「…それならもう王都に向けて旅立ったよ。
あの子も君に別れの挨拶をしたそうだったが何せあの足だからね、探し回るのはできなかったんだ」
「そうか、それなら仕方ねぇか…? 」
…いや待て、なんか引っかかるぞ? なんだ?
だがこの話の内容なんて”王都に行く”って話と”ルアナが俺に会おうとしてた”って話と、”アイツの足が悪い”って話くらいしか…いや、よく考えたらこれおかしくないか?
「おい組合長、なんで王都行きの定期便が来る日じゃねぇのにもう王都に旅立ってんだ?
アイツは片足無ェんだぞ、徒歩って訳にゃいかんだろ」
「それに関しては君がこないだ神殿との連絡で組合を使ったんで、ある程度神殿との繋がりができたから同じ王都に向かう神殿の馬車に乗せてもらえるんだってさ」
はー、なるほどな…しかし王都行きの神殿サマ御一行か、最近似たような話をどっかで聞いた気がするが…まぁ身元がしっかりしてる一団と一緒なら間違いはねぇか。
「へぇ、なら王都まで追いかけなきゃいけねぇのか…めんどくせぇなぁ」
「そこまで追いかけなくても途中クランバルに寄るって言ってたからそっちに行けば会えるんじゃない? 」
「なるほど、クランバルに寄るならあ”ーっ!? 」
寄るならそれエイルディンの一行じゃねーか!
そら最近聞いたに決まってるわ! なんつーもんに巻き込まれてんだアイツ!
「えっ? 急に叫んでどしたの…? いくら怒ってる僕でも流石にそこまで正気じゃないと心配が勝るよ? 」
「あ、いや、何でもねぇ…ただちっとアイツの身を案じただけだ」
「…? 」
あの一行、道中でも街でも不死者に襲われるハズなんだが…まぁエイルディンが何とかしてくれるか、してくれるよな…?
「…ったく、なんで俺がこんな心配をしなきゃなんねぇんだよ」
小さく毒づきながら見たクランバルの方の空は、気にし過ぎだとは思うが少し、雲が多く見えた。