死因不明の大斧使い   作:猫山白

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 結局今月も1話しか更新できなかった…
 あ、あとサブタイをセリフ調にするの思ったより大変だったのでやめます。


足止め

「誠に申し訳ございませんが、この先少々トラブルが起こってまして、この規模の馬車隊ですと迂回して頂く他ないですね」

 

 衛兵がそう言って、深々と頭を下げる。

 

「そうか、それは仕方が無いな。

 では代わりにその迂回路を教えて貰えないか?

 最近のクランバルは結構すぐに道が変わってしまうからな、案内無しというのは他所の都市の人間には少々難しいんだ」

 

「ええ、それならお易い御用です、こちらをどうぞ」

 

 衛兵は懐から紙片とペンを取り出すと、それになにやらサラサラと書き付けてエイルディンに渡した。

 見るとそこにはここから神殿までの簡易的な地図が描かれている。

 

「ありがたい、お陰で迷わずに行けそうだ…行けそうだが…」

 

 エイルディンは紙面の端をしげしげと眺めて首を捻った。

 

「…何故、地図の端にわざわざ猫の絵を? 」

 

「何故ってそりゃあ…可愛いでしょう? 」

 

 むしろ何故そんな事を聞くのか、というテンションの衛兵。

 もしや自分の感性が間違っているのだろうか、などと平時ならば間違いなくしない迷いを心に抱いてエイルディンは再度その猫の絵を眺めた。

 簡易的だが、前脚を上げて座っているのがキチンとわかる良く描けた絵。

 にゃあという書き文字がつかずとも、これならば猫だとわかるだろう。

 

「可愛い…まぁ…可愛いが…」

 

「でしょう? 大事な情報は全部既に書いてあるので、余白を使わせて貰ったんです。

 絵ですから嵩張りませんし、ちょっとした目の保養にでも…」

 

 不意に高い音が鳴り響き、衛兵がパタリと話をやめる。

 それに続いて柱の上に取り付けられたラッパのような金色の魔道具から声が流れ出した。

 

『6号道路にて喧嘩騒ぎが発生! 路面に被害が出ている為、近隣の隊員は直ちに鎮圧及び封鎖の用意を行え!

 それ以降の対応は情報が集まり次第追って連絡を行う! 繰り返す…』

 

「…はぁ、8番小隊了解、これより隊員を招集し担当区域の再配分を行う」

 

 衛兵は、眉根を寄せつつ柱にくっついた受話器のような魔道具を手に取ってそう言い、必要な事を言い終えると乱暴にガシャンと音を立ててそれを柱に戻す。

 

「いや、お見苦しい所をお見せしました…最近こんなことばっかりなんで、少々疲れてましてね」

 

「なに、こちらも似たような状況だからな、心中お察しするよ」

 

「そう言って頂けると有難いですね…あっ、そういえば今のでさっき書いた地図が使えなくなってしまいましたね。

 修正するので少々お貸し頂けますか? 」

 

「ああ、そういえばそうか…手数をかけてすまないな」

 

「いえいえ、すぐ終わるんで…っと」

 

 再び差し出された紙片を受け取り、サラサラとよどみなくペンを走らせる衛兵。

 さほどの時間もかからずに地図は修正を加えられてエイルディンのもとへと戻ってくる。

 

「これは…随分と遠回りになったな」

 

「6号は幹線道路なんで、塞がるとこうなるんですよ…喧嘩如きで出る路面への影響なんてたかが知れてるんだから態々止めなくとも良いものを…」

 

「…まぁそう言ってやるな、そちらの組織の事情はわからないが、こちらの話だけで言うなら上層部というのも色々と大変な物なんだ」

 

「あっ、6号が塞がった影響で渋滞もあると思うので、神殿に到着する頃には日が暮れてると思いますよ」

 

「ふむ、前言を撤回したくなってきたな」

 

「でしょう? 」

 

 カラカラと兵士が笑う。

 

「このまま会話を楽しんでいたい所ですが、これから少々配置換えがございますのでこの辺りでお暇を…っとその前に、地図に何か不明な点等ございませんか? 」

 

「そうだな、では1つ」

 

 チラリと地図を眺めて、エイルディンが指を1本立てる。

 

「なんです? 」

 

「この切羽詰まった状況で何故更に犬の絵を? 」

 

「そりゃあ…可愛いので…」

 

「…そうか」

 

 衛兵は慇懃に礼をし、そのままクルリと振り返って小走りで去っていった。

 

─────────

 

「わっ! 可愛いですねこの絵! 」

 

「えっ…はい、そうですね…あの、ちなみにクランバルって犬や猫に何か関連が…」

 

「いや、別に無いです」

 

「えっ…? じゃあ何ですかこの絵…」

 

「わかんないです! 」

 

「えぇ…」

 

(…比率的には1:1か)

 

 衛兵が残した謎の落書きに対照的な反応を見せる2人を前に、エイルディンは静かに安堵していた。

 

「えー、良いですかね、そろそろ。

 その地図に書いてある所要時間を見て頂ければわかるように、このままですと神殿に到着するのにかなりの時間がかかります。

 で、私は日が暮れる前に翠玉に伝えておきたい事が少々ありますので、このままではマズイ訳ですね」

 

「なるほど…もう試されているとは思いますが、魔道具での通信等で連絡を取るのはいかがですか? 」

 

「いやー、それがその情報、傍受されると色んな意味で困るタイプの情報でして、伝えるなら直接口頭が最も安全なんですよ」

 

「なるほど、となると馬車の隊と徒歩の隊を分けて動く感じになりますか?

 こういう場合ですと徒歩の方がむしろ早いって事も往々にしてある話ですし…あ、もしそうなら私は不都合がなければ馬車隊でお願いしますね、何せ足がこうなんで」

 

 義足を持ち上げて指し示すルアナに首肯してみせつつ、エイルディンは再び話し始める。

 

「ええ、そうなります。

 それで勿論あなたは馬車に…と言うか徒歩の方は私が単身で行くつもりです、車道ほどでは無いにしろこうなっては普通の歩道も混むと思うので、少々進むのが困難な道を使わせて頂きますからね」

 

「えっ…と、あの…さっき言ってた治安がどうとかはその…大丈夫なんでしょうか…いや、馬車から出なければいいんですけど、その…ちょっと外の空気が吸いたくなった、とか体を動かしたくなった、とかそういうのがあったら…いや、できるだけ我慢しますけど…」

 

 発言した事で2人からの視線を一身に浴び、だんだん様子がおかしくなっていくレイを見たルアナがたまらず助け舟を出した。

 

「つまり、代わりの護衛を誰に頼んだら良いんですか? って話ですよね、確かに聞いておいた方が良いですもんね」

 

「あっ…はい、それです…すみません…」

 

「いえ、こちらこそ話を遮っちゃってすみません、それに私はそれ気づいてなかったので、お手柄ですよ!

…という訳で、どうですか? 」

 

「ふむ、そうですね…」

 

 エイルディンは少し考えるような素振りをした後、1度手を打ち鳴らしてみせた。

 馬車の扉が音を立てて開き、男が1人顔を出す。

 

「お呼びでしょうか? 」

 

「ポール、今から俺は単身で神殿に向かう。

 俺が不在の間はお前がこの方々を守れ、良いな? 」

 

「はっ! 身命を賭して護衛にあたらせて頂きます! 」

 

 一も二もなく敬礼と共に返答を返すポール。

 

「えっ!? 私ごときにそんなに力を入れて頂かなくても…恐れ多いですっ! 」

 

「私も恐れ多いとまでは言いませんけど、もう少し力とか手とか抜いて貰っても…」

 

「いえ、そういう訳には参りません!

 お2人は元より大切なお客人、それを我が敬愛する主が守れと命ずるのですから、たとえ不死者共の王が現れようと指1本触れさせない、という気概を持って臨ませて頂きます! 」

 

「はぁ…」

 

 困惑顔の2人を見てこのままではいけないと察したエイルディンは、ポールの背中を軽く叩き、笑いかける。

 

「ポール、その大事な客人がお前がその調子だと困るそうだ、もうちょっと楽に構えても良いんじゃないか? 」

 

「主命とあらば従いたいのは山々なのですが、ご存知の通り私は何らかの任務に臨む時、その任務の内容に関わらず手を抜くという行動をするのが非常に苦手なのです。

 ですので力を抜こうとする時は力を抜く事を常に意識し続けなければならず、結果的にむしろ作戦遂行能力が大きく損なわれる事が予想されます。

 そうした能力の欠如の結果、作戦の遂行に失敗したとなればそれは私には受け入れ難い損失です。

 そういう訳なので、力を抜けという命令には従いかねます」

 

「おお…そうか…まぁなら無理にとは言わんが」

 

「はっ! 力不足で申し訳ございません! 」

 

「いや、別に責めてるわけじゃない、気にするな」

 

 頷くポールをそのままに、エイルディンは再び2人の方へと向き直る。

 

「この通り、少々融通の効かないところのある男ではありますが、ここに残る人員に限定するならば”何かを守る”という点において右に出る者の無い男でもあります。

 私が不在の時に何かありましたら是非彼を頼って下さい」

 

「あっ、はい、それはもう前の戦闘の時にかなり実感しました…凄いですよね、あの人」

 

「そうなんですか? 私、あの時は馬車から出てなかったので見れてないんですよ」

 

「ええ、指揮を行うにあたってまだ皆さんの事が把握できていなかったので、とりあえず神器…でしたっけ? の形から判断して足止め役にさせて頂いたんですけど、あの人のお陰で思っていたよりかなり楽をさせて貰えました」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 ふと、ポールが開けていた扉から茜色の日差しが差し込み、エイルディンの横顔を照らし出す。

 突然光があたってエイルディンは少し驚き、そしてボソリと一言呟いた。

 

「…我が父よ、警鐘に感謝を」

 

「…? 何か言いました? 」

 

 不思議そうなレイにエイルディンはヒラヒラと手を振って笑ってみせる。

 

「ちょっとした祈りみたいな物ですよ、詳しくはそこのポールにでも聞いて下さい。

 では、私はもう行きますので…後を頼むぞ、ポール」

 

「はっ! 」

 

「えっ…そんな急な…」

 

 エイルディンは勝手にそう言い置くと、ドアから出て飛び上がり、先程まで自身も乗っていた馬車の屋根の上へひょいと飛び乗った。

 そのまま、街路樹、屋根、その隣の家の屋根…と、飛び移りを繰り返して瞬く間に馬車から見える範囲から出てしまう。

 

「やー、アレは確かにちょっとついていけない感じしますねー」

 

「え? あっ、はい…いや、その…もっと気になる事ありません?

 なんか呟いてたとか突然凄く態度が変わった、とか…」

 

「え? …あぁ、なるほどそういう事ですか」

 

 不思議そうな顔で首を傾げるルアナだったが、突然ポン、と手を叩いて納得したように頷く。

 

「あの人が呟いてた”警鐘”っていうのはあの時差し込んできた陽光の事ですよ。

 ああいう感じで太陽の光が用事を抱えてる、とかの大事な事を静かに思い出させてくれる恩寵でして、あの人は神官ですので警鐘を受けたとなったら即座に行動しないと立場的に若干マズイんです。

 こっちでは結構一般的な語彙なのでちょっと失念してました」

 

「なるほど…じゃあやっぱり”神殿”の信仰って太陽信仰なんですか? 神殿内にもかなり多く太陽の意匠が見られたの…で…」

 

 他2人の空気がかなり困惑側に寄っているのを見て、レイの言葉が段々と尻すぼみになって、遂には消えた。

 代わりにおずおずと手を挙げたルアナが遠慮がちに話し始める。

 

「えっと…つかぬ事をお聞きしますけど、もしかしてそちらの世界の太陽って”神”では無い感じです? 」

 

「はい…まぁ神聖視する事はありますし、神として扱う事はありますけど、基本的には物質的な物と言うか…あの、その口ぶりからするともしかして…」

 

「そうですね、こっちではもう神そのものって感じになります。

 神官達に力を分けたり不死者を焼き滅ぼしたりしますし、後これは聞いた話ですけど聖石なんかの神殿のトップには結構語りかけてくるらしいですよ。

 こんな風に色々と超越者の面を見ながら生きているので、私達は太陽と言えば誰しも神って考えるような価値観になります。

 なので今更太陽信仰、とか改めて言われるとなんか不思議な気分になってしまって」

 

「…なるほど、ちなみに市井の方が声を聞いたって話は? 」

 

「ありますね、夏至あたりにはわりと色んな人に話しかけてます、実は私もちょっと夏至祭で声を聞いた事がありますね。

 まぁその時は私宛てでは無くて演説みたいな不特定多数に対する話でしたけど」

 

「そうですか…」

 

 レイが顔に手を当てて天を仰ぐ。

 

「魔法に魔獣、吸血鬼に屍人にその他諸々…それで最後に神の実在と来ましたか、まだこの世界には慣れそうに無いですね」

 

「やっぱり全然違います? 」

 

「ええ、それはもう…いや、人によっては案外同じような物だって言う人も居るかもしれないですけど。

 言葉が通じたのが唯一の救いってモノです…これについても何の作用か判然としないのが不気味で困りますけど」

 

「言葉ですか…? まぁわからないんじゃ気にしても仕方ないですし、使える物は使っておいた方が良いと思いますよ」

 

「そうなりますよねぇ…仮説を立てようにも何がどれだけどう作用しているのか、まだこの世界では新参の私には判然としませんし。

 それから…えっと…それは、それとしてなんですけど………」

 

「なんですか? 」

 

 言いにくそうにしながら若干身をよじるレイ。

 

「あの…本当に私事で申し訳ないんですけど、若干こう…座り過ぎたと言うか…」

 

「あぁ…なるほど…。

 すみません、早速なんですけど護衛、お願いしても? 」

 

「ええ、勿論! 」

 

 快諾したポールだったが、チラリとルアナの義足に目をやって更に言葉を続ける。

 

「ブラウンテイルさんはその…ここに残られますか? 」

 

「長くて呼びにくいと思うので、テイルでもブランでもジーナでも好きなように縮めて呼んでいいですよ。

 それから…」

 

 ルアナは2人を素早く見て、少し考えた後に小さく頷いた。

 

「…いや、私も同行させてもらいますね、ちょっと外の空気が吸いたい所ですし」

 

「なるほど…ではテイルさん、肩でもお貸ししましょうか? 」

 

「大丈夫ですよ、これでも慣れてるので常人程度には動けます。

…どちらかと言うと体力面に問題が出るので、時折小休止を取って頂けると助かります」

 

「かしこまりました、では御準備が終わりましたら再度お声かけを、私は外で待っていますので」

 

「はい、わかりました」

 

 扉が閉まり、ポールが出ていったのを期に、レイがまた口を開く。

 

「…さっき、明らかに考え直しましたよね? 何かここに気になる事でも? 」

 

「あー…気づかれてましたか…まぁ杞憂だとは思いますが…」

 

 苦笑いを浮かべながらルアナはフイッと目を逸らした。

 

「まぁ、()()()ってやつですよ」

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