死因不明の大斧使い   作:猫山白

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お人好しってのはろくなもんじゃない

「遺体と被害者の固有魔力波の一致が確認できました、これにて依頼達成です! お疲れ様でした! 」

 

 猫耳の受付嬢─馴染みの受付嬢でルアナという名だ─が笑顔で報酬金の入った袋を差し出した。

 ここは魔獣狩り組合(ハンターズギルド)、魔獣関連の依頼…具体的には魔獣の間引きや人を襲った魔獣の駆除などの依頼を受け付けて所属する魔獣狩りに斡旋したり、魔獣狩り同士の繋がりを作ったりする国営の機関だ。

 

「おうよ、次はもっと楽で稼げる依頼だと助かるんだがな」

 

「あはは、貴重な腕利きさんに楽な依頼なんか振っちゃったら私が怒られちゃいますよー」

 

 袋を手に取ると、先程までのシャキッとした態度とは一転、ルアナが椅子に腰かけてぐにゃりとカウンターに上半身を横たえる。

…いくら人が居ないからと言って職務中に世間話モードに入るのはマズいんじゃないのか?

 俺のそんな思いとは裏腹に、ルアナはそのまま間延びした声で話始めた。

 

「いやー、組合(ギルド)として依頼が無事達成されたのも勿論嬉しいですけど、今回の依頼については個人的にも嬉しいですねー。

 あの熊が塞いでた街道、港町方面なんで、おかげで魚の値段は上がるし鮮度も下がるしでまぁ大変でしてー。

 ほんと、ありがとうございましたー」

 

 ありがとうとか言いながらコイツ姿勢も正さねぇんだけど。

 いつもながら仕事中以外本当にやる気無いな…いや今も一応仕事中だったわ。

 

「礼を言うなら報酬に色つけてくれよ、こちとら金欠のバカ2人抱えてるんで金がいくらあっても足りゃしねぇ」

 

「そういうのは私の一存じゃどうしようもないですねー、依頼主さんか上層部(うえ)に掛け合って貰わないと」

 

「その掛け合うってのをアンタに任せてぇんだよこっちは。

 魔獣相手なら勿論、人相手でもボコスカ殴り合うなら良いが舌戦ってヤツは俺ァ得意じゃねェ」

 

「まー確かに口なら魔獣狩りの皆さんより私の方が上手いとは思いますけどもー、ただの受付なんでそういう交渉が専門な訳では無いですしー?

 大体受付なんて顔が可愛ければ役割果たしてません? 」

 

「その認識でやってんのはお前だけだ、んな事言ってっとまーた犬獣人のねーちゃんに怒られるぞ」

 

「や、最近はちゃんと来た依頼は上層部に上げてるんで大丈夫です、前怒られた時みたいに必要な手順スッ飛ばしたりとかはもうありえないんでー」

 

…コイツその必要な手順スッ飛ばした依頼全部こっちに振ってきてたの忘れたのか?

 平気な顔で笑うルアナに戦慄しつつ、話を戻す。

 

「んで、追加報酬の話に戻る訳だが…」

 

「あららー、バレちゃいました? 話変わったと思ったんですけどねー。

…あっそうだ、追加報酬ですけど、可愛い私の笑顔で許して貰えません? ほら、にぱーっと」

 

 カウンターにぺったり頬をくっつけながら、ルアナは金色の猫目を細め、ふにゃりと緩めに口角を上げて笑ってみせる。

 にぱーっ…と本人は言っているが、この力の抜け具合はどっちかと言うとにへら、みたいな感じだな。

 笑顔までやる気が無いとはまったく恐れ入る。

 

「金欠の仲間が居るって言わなかったか? 笑顔で矢だの鎧だのが買えるわきゃ無いだろ」

 

「えーっ、これで勘弁してくれなかったらいざ本当に報酬が上がった時に今の笑顔代請求しますけど良いんですかー? 」

 

「そっちが勝手に見せた物に返済義務を見出すのはやめろ」

 

「乙女の笑顔ですからねー、勝手でもなんでも有料なのは当たり前ですとも、ええ。

…あ、でも報酬の追加もできるし私の笑顔も無償で見られる方法がありますよ」

 

「おう、言うだけ言ってみろよ」

 

「そのー、ここにですねー、手頃な依頼がもう1つ転がり込んで…あいたぁ!? 」

 

 頭に手をやり、のたうち回るルアナ。

…自分でも驚く程自然に手が出たな。

 

「おい、まさかそれが本題か?

 ここまでの無駄話全部その話が切り出しにくかったからしてた、とかそういうオチじゃないよな? 」

 

「あ、あはは〜…そういう側面もあったり…なかったり? 」

 

 震え声、冷や汗、泳いでる目…クロだな。

 俺はそう判断して、寝そべり続けているルアナのモチっとした白い頬を摘んで捏ね回す。

 

「おい、俺はな、これでも命がけの仕事を終えて今戻ってきた所なんだぞ。

 こういう仕事だからな、命を懸ける程度で今更どうこう言うつもりもねェがよ、それでも骨休めも無しにまた死地に放り出されるとくりゃ俺だってキレるぜ? 」

 

「いひゃい! いひゃいれす! しゅいまひぇん! 」

 

 ノータイムで口から謝罪の言葉が紡ぎ出されるが、こういう事は何度かあったので、今度こそ本気で反省させにゃならん。

 

「おうおう、一言謝って済まそうってか? お前前にもこういう事やったよなぁ! なーんも成長してねぇじゃねぇかドアホ!

 もしかして俺らの命とか毛ほどの重さもねぇと思ってんのか? 言ってみろやおい! 」

 

「ほめんにゃしゃい! しょんなつもりじゃ! 」

 

…よし、涙目になってきてるし摘んでる部分も赤くなってきたから一旦離してやろう。

 

「はぁ…はぁ…いつもの事ながら容赦無くないですか? ほっぺが腫れ上がってこの美少女フェイスが崩れたら責任取ってくださいよ」

 

「こっちが命の心配してる時にツラの心配とは、どうやらもっかい欲しいらしいな? 」

 

「いやいやいや、じょーだんじゃないですって、めっちゃ痛いんですよそれ! 」

 

 焦げ茶の髪を振り乱しながらブンブンと首を振るルアナ。

 

「こうされるのがわかってて、痛ぇのも知ってんならなんで毎度俺に理不尽なスケジュールで仕事押し付けんのか言ってみろやルアナッ! 」

 

「だっ…だって依頼人が切実そうだったんで…」

 

「バッッッカじゃねーのかお前ッ! できねぇ事を安請け合いすんのは優しさじゃねぇぞって何度言ったと思ってんだよドアホッ! 」

 

「で、でもぉ…人が死んでるんですよ? 急いで人員を送らないともっと犠牲が…」

 

「そんで! 焦って! 送った人員が! 死んだら! 犠牲増やしてるだけじゃねーか!

 大体よぉ、こんな時勢で旅してるよーな輩はそういう危ない街道の情報くらいある程度仕入れてんだからそこまで犠牲出ねーってのに…」

 

「あ、いや、違うんです」

 

 ルアナが俺の説教を遮る…これで説教は聞くだけなら素直に聞く奴だ、それを態々止めるということは…なんだか猛烈に嫌な予感が…

 

「今回の依頼はその、街道に魔獣が出るとかじゃなく、別種の複数の魔獣が出没して村を襲ってるみたいでして…」

 

「…は? 」

 

 別種の複数の魔獣…村を襲う…頭痛がするような文字列が頭の中でグルグルと回る。

 まず、魔獣というものは同種でもなかなか群れない。

 そもそも魔獣という物の定義が、普段はごく微弱な魔法を無意識にしか使わない普通の獣達の中から突然変異的に現れる強力な魔法を能動的に扱える獣、という物なのだ。

 大抵は身体強化の他に1つの魔法を行使する、というパターンなのだがこの身体強化というヤツが曲者で、単に身体能力を上げる他に、これを行使した状態で生活していると成長が促進されたり、より強くなるようねじ曲げられたりするという効果がある。

 だから魔獣は通常の獣の何倍も大きく、丈夫なのだ。

 しかし、その代償として魔獣の食事量は跳ね上がり、容姿が変わることで例え元となった種族が群れる生物であっても同種の存在とは見られなくなる。

 まして魔獣同士ならばより大変だ。

 大食いが2頭生活できるほど彼らの生活圏が広くない以上、彼らが出会ってすることなど、縄張り争いの他に無い。

 そうでないならば魔獣の皮が態々魔法を弾く…つまり敵対する魔獣からの攻撃を防ぐようになる理由が無い。

 そういう訳で魔獣は基本的に群れない…そして群れる魔獣が居たならば、ソイツは多分村を襲ったりはしない。

 先ほど説明したデメリットを乗り越えてまで群れを作る…つまり群の力を知っている存在ならば、群の極致である人間の村なんかを襲ったりはしないだろう。

 ここまでの事をざっくり言うと、『魔物は群れないし群れたとして村は襲わない』という原則があるという事だ。

 そして、今告げられた情報はその原則に完全に反した物、つまり………

 

「思いっきり厄ネタじゃねーか! 俺がなんも聞かずに安請け合いして行ったらどうするつもりだてめぇ! 」

 

「説明はちゃんとするつもりだったんです! 本当です! 」

 

「それが本当だったとしてなんで俺に託そうとしてんだ! 先に組合に言え組合に! そしたら《大雪崩》とか《花弁》とか《千里眼》とかの俺よりもっとベテランの奴らが行くはずだろうが! 」

 

「言いましたよぉ! 言いましたけどみんな別件で出払ってるって…依頼をちゃんと遂行したいなら焦らずに待てってぇ…」

 

「じゃあ待ってろよ、勝手に俺に頼むんじゃねぇよ」

 

「だって転移郵便での依頼だったんですよ! 手紙には村常駐の魔獣狩りも死んでしまって直接外部に助けを呼ぶこともできないとも書いてありました、可哀想じゃないですか! 」

 

 転移郵便…結構な魔力を食う癖に、生物はおろか食材なんかも何がしかの干渉を受けてマトモな状態では送れず、結局文書のやり取り程度にしか使えねぇって話のアレか。

 あんなもんを使ったら村の結界を起動できる時間もかなり減っちまうハズだ…つまり結界で耐えて反撃、なんて事ができる相手じゃないって事だ。

 ますます厄ネタ度が上がっていくな…そして、村に残された猶予ももういくらも無さそうだ。

 

「ったく、可哀想、なんて理由で人を差し向けるべき場所じゃねぇだろうが、大人しく待っとけよ」

 

「…わかってますよ、理屈じゃわかってますけど! 」

 

 ギリッと歯を食いしばってルアナは唸った。

…痛むのだろう、幼い頃に失ったという足が。

 苛むのだろう、魔獣に食い殺されたという両親の影が。

…ったく、幾ら人材不足だからって人選ミスだろうが組合長め。

 

「チッ…名前は? 」

 

「え? 」

 

「村の名前だ、さっさと答えろ」

 

「パ…パルフェナ…ですけど…」

 

「そうか」

 

「…行って、くれるんですか? 」

 

 こちらの意図を汲んだのか、姿勢を正して真面目な顔でこちらを見るルアナ。

 その頭に手をかざし…

 

「痛〜っ!? 」

 

 スパァン! と音を立てて額を弾いた。

 

「だーれがそんな無謀な依頼なんぞ受けるか、ちょいと気になっただけだ」

 

 カウンターに背を向け、立てかけていた斧を手に取って、背負う。

 

「用事を思い出した、これで失礼するぜ」

 

「はい…私が言えたことじゃないですけど、ご武運を…! 」

 

 背中に投げかけられた言葉には何も返さず、組合の扉を乱暴に開け放ち、雑踏へと踏み出す。

 

「ケッ、簡単に勘づきやがって、カッコつけが台無しじゃねぇかよ」

 

 口をついて出たそんな言葉が、扉の閉まる音と混ざりあって雑踏に消えた。

…さぁて、面倒だが仕事と行くか。




魔獣狩り組合(ハンターズギルド)
 作中では基本的に組合と表記される。
 魔獣に脅かされていない都市は基本的に無い為、1つの都市に1つは必ず領主が設置している。
 主な役割は魔獣狩りの管理と依頼の受付であり、魔獣狩りのこれまでの実績に応じて評価を行い、力量に合った依頼を割り振る他、虚偽の申告を行うなど不正を働いた魔獣狩りや、報酬を支払わなかったり故意に情報を改竄する依頼主などに対して然るべき罰則を科すのもまた彼らの仕事である。
 その為、依頼は組合を通すのが常道であり安全だが、依頼に組合の取り分が発生する為割高である事から組合に所属しない魔獣狩りに直接依頼する者が後を絶たない。
…もっとも大概の場合そんな少額の金をケチった事を後悔する羽目になるのだが。
 また、受付などの運営の方を行う人材は当然ながら事務仕事ができる必要があるが、事務仕事ができるような教養のある人材は基本的に血なまぐさい荒くれと接触する仕事を選びたがらない為、組合員は万年人材不足気味である。
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