死因不明の大斧使い   作:猫山白

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ガワを偽るヤツは大抵ろくでもない

「おらよっ! 」

 

 振り回した斧がサルの魔獣に命中し、上半身と下半身を泣き別れさせる。

 

「さっきまで器用に避けてた癖に霧を避けてる範囲に引き込んだ途端コレか」

 

…この霧、どうやらこっちの動きを支配下の魔獣に伝えてるらしいな。

 となると手っ取り早くこの件を終わらせるにゃ霧を退かす他無いが、力任せじゃどうにもならんのはさっき試した通りだ。

 参ったな、俺の探知能力じゃ接近して来る敵やら攻撃を仕掛けてくる敵を掴むのが精一杯、こういう薄く広くかかってる魔法の出処を掴むのは専門外だ。

 

「どうしたもんだろうなぁ…」

 

 思案しつつサルの魔獣の死体を袋に入れる。

 木っ端魔獣だろうと魔獣である以上素材には価値がある、捨て置くのは勿体ない。

 

「ま、最悪村の人間の安否だけ確認して帰りゃ良いか…居る魔獣の多さやら異常性やらを報告してやれば流石に組合もさっさと動くだろ」

 

 そう結論づけて記憶の中のパルフェナ村へと歩を進める。

 霧が濃いんであんまり方向とかわからんが…まぁ道なりには進んでるしそろそろだろ!

 

──────────────

 

「ようやっとついたか…まったく面倒な魔法仕掛けやがって」

 

 時計も無いし太陽も見えないんで体感でしかないが数時間後、新たに倒した何匹かの魔獣を袋に詰めて、俺は村の門の前に立っていた。

…妙だな、防壁はキチンとしてるし、攻撃を受けた跡もある。

 だが見張りが居ない…鳥の魔獣はここに来るまでで既に見てるから飛べる魔物が居ないって訳でもねぇ。

 切羽詰まった連絡を寄越すようなヤツらが対空防御を結界だけに頼る、なんてことがあるか?

 まさか見た所結界も防壁も破れてねぇのに中の人間が全滅って事は無いよな…まぁいい、取り敢えず入ってみりゃわかる事だ。

 

「おーい、悪ぃが誰も居ねぇならこの防壁、跳んで越えるぜ? 」

 

…応答無し。

 そんならちょいと足に強化を施して…っと。

 ドム! という音と共に地面を蹴り、6m程度の防壁を軽く跳び越す。

 さて、村の様子は…なんだ、居るじゃねぇか村人。

 村の様子は思ったよりも悪く無く、壊されている家屋は見あたらず、村人達も食糧の供給を絶たれているのか少しやつれた様子ではあるが表に出ている人々は問題なく生活できているように見える。

 

「よう! お前らからの要請を受けてきた組合の魔獣狩りだ! 今の状況を把握したいんで代表者を出しな! 」

 

 大声で呼びかけると村人達がざわめく。

 

「魔獣狩りだってよ」「助かったのか? 」「こんなに早く来るもんなのか? 」「わかんねぇよ」

 

「えぇい、良いから代表者を出せ! なんでこんなに早く来たかもソイツに話す…それから証拠に関しちゃこの通り! 」

 

 首にかけていた紐を手繰ってプレートを鎧の内側から引っ張り出して掲げる。

 

「識別用のプレートがある! わかったらさっさとしろ! 」

 

「そうカッカしなさんなよ若いの」

 

 それでもなおざわめく群衆を割って、1人の老人が姿を現した。

 

「ワシがこの村の代表よ、スマンが状況が状況なもんでな…村人達も疑心暗鬼になっておる、容赦してくれよ」

 

「こっちも別にキレてるつもりはねェよ…悪かったな、こういう稼業やってっとちょいと言葉遣いが荒くなるもんだ。

…俺はカール、短い間だが仲良くしてくれよ? 」

 

「それはこちらも望むところじゃが…その手はなんじゃ? 」

 

 老人は差し出した右手を訝しげに見た。

 

「そら握手に決まってんだろ。

 それともアレか? 魔獣狩りとは握手できねぇってクチの人間か? 」

 

「そんなことは無いが…血塗れの手と握手をする趣味も無いわい、その手は拭え」

 

「おっとソイツは失礼」

 

 篭手の甲側についていた魔獣の血をポーチから出した布で丹念に拭い、改めて手を差し伸べる。

 

「ほれ、これで問題ないだろ? 」

 

 黙り込む老人。

 

「ほう、できねぇか? ま、当たり前だよな。

 お前が嫌がってたの、()()()()()()()()()()? 」

 

 ゴソ、と何かが動いた。

 血の気の引くような感覚。

 慌てて背中の袋を放り捨て、構える。

 

「…なるほど、繋がったぜ」

 

 音を立てていたのは…ズルリ、と袋を破って突き出したサルの腕。

 それに目掛けて聖水の瓶を投げつけると、たちまち真っ白な炎を上げて燃え上がる。

 聖水は水系の神器使いが生成する水で、数少ない一般人でも使える不死者への特攻を持つ道具。

 それが効くということは…!

 

屍魔獣(ビースト・グール)とは、いい趣味してやがるな吸血鬼! 」

 

「「お褒めに与り光栄だよ魔獣狩り君」」

 

 向き直ると、村の光景は様変わりしていた。

 家屋は崩れ、屍魔獣がうろつき、村人は皆屍人(グール)になって…吸血鬼の言葉を代弁させられているのだろう、同じ言葉を口々に話している。

 

「ケッ、観念して姿を現すかと思えば…まさか自分の手下で囲んでもまだ怯えて俺の前に出る事すらできねぇとはな。

 吸血鬼ってなァこの程度かよ臆病モン」

 

「「見くびらないで欲しいな…私は君のような下賎の存在が直接拝謁できる程安い存在では無い、それだけだよ」」

 

「へぇ、それでその高等な頭で考えた作戦を下賎の存在ごときに見破られた吸血鬼サマは俺と話なんぞしてどうするつもりだ?

 仲良くお茶してくれってか? そんなお人形遊びをしてる所を見るとお前、友達居なそうだからな」

 

「「見破った、ねぇ…私の想定の裏をかいたつもりで鼻高々なところ悪いが、君がここに来た時点で私の作戦はもう既に成功しているんだ。

 なにせ私の作戦は、偽の依頼でこの村に魔獣狩りを誘き寄せる事なんだからな」」

 

 おっと、思ったよりペラペラ喋るぞコイツ。

 

「おいおい、誘き寄せてどうするかって話のねぇ事が作戦か?

 自分で上等だのと抜かす割にゃ随分杜撰じゃねぇか」

 

「「君の無い頭でもわかると思っていたので省いたのだが…当然殺す、に決まっているだろう? 」」

 

「ほーん、俺程度の存在を殺す為に態々呼び寄せるたァ、吸血鬼サマってのは随分とまぁ暇なんだな」

 

「「…私の事を挑発して情報を引き出そうって魂胆らしいが、態々そんな事をする必要は無い。

 君はどの道死ぬ運命だ、そんな遠回しにしなくとも冥土の土産くらいくれてやるさ…我々はね、今多くの魔力を欲しているんだ。

 この村を滅ぼしたのも血が欲しかったのさ…だが、村にある人間の血をすべて吸い上げた時、私は困ってしまったんだ。

…こんな程度の血で、魔力で、我々の悲願は達成させられない、とね」」

 

 ”代表者”として出てきていた老人の屍人──偽装の魔法で誤魔化していたのだろう、今見てみると腹を引き裂かれて大半の内臓がどこかへ行き、腸がプラプラと垂れているのが見える──が芝居がかった動きで顔を覆った。

 

「「そんな時私は気づいた、そうだ、魔獣狩りが居るじゃないか、とね。

 高い魔力を持つ癖に群れても4、5人程度の木っ端共が! 魔獣という餌を撒けば簡単に釣れるバカ共が! 死んでも本人以外誰1人気にしやしないゴミクズ共が! 居るじゃあないか…」」

 

 屍人達が一斉にケタケタと笑う。

 

「「そういう事で魔獣狩り君…いや、哀れな生贄の巨人君。

 この”魔獣卿”ヴァニティが…君の血を、頂くよ? 」」

 

 そこまでぺちゃくちゃと喋っている以外は平成を保っていた屍人と屍魔獣が一斉に動き出す。

 最初にかかってきたのは当然最も近くに居た老人の屍人だ。

 腕を振り上げ、およそ人間とは思えない速度で飛びかかる所を蹴りで迎える。

 骨を砕かれながら屍人が吹っ飛んでいくのを眺めつつ、斧の柄についている蓋を開けて中にポーチから取り出した白色の筒を突っ込んで閉める。

 そのまま斧を1回転、2回転…数回回して近場にいた屍人へと叩きつける。

 

「さっきから聞いてりゃくだらねぇ」

 

 胴体を切断された屍人がパッと白色に燃え上がる。

 筒の中に入っていた聖水が斧につけていた溝を伝って刃へと流れていたのだ。

 魔獣狩りという物は相手の弱点を付くことを求められる、それ故往々にしてこういった仕込みを武器にしている物だが…まさか念の為で作っていた白の筒(不死者用)を使う日が来るとはな。

 

「得意げな顔してるがお前、3つも間違えてるぜ」

 

 飛びかかる屍人を2人纏めて斬り伏せる。

 

「1つ、俺は巨人じゃなくて半巨人だ」

 

 振り抜いた斧を地面に突き立てて支点にし、体ごと回転して屍人の顔面を蹴り飛ばす。

 

「2つ、数を揃え過ぎだ、こんなに居たんじゃ魔獣狩り(俺たち)でも普通は近寄らん」

 

 半回転した所で着地、斧を引き抜きざまに背後にいた屍魔獣の頭を両断する。

 

「そして…3つ! 」

 

 霧を吹き飛ばした時のように斧を構え、振るう。

 巻き起こった風は精神集中を挟まなかった分先程より余程規模が小さい物だが、風に乗って飛んで行った聖水が屍人に付着し、殺せはせずとも白い炎を上げて相手を苦しめる。

 

「今日死ぬのは俺でなくお前だって事だ!

 こんな雑魚をぶつけた所で小揺るぎもしねぇよ! 」

 

「「それはどうかな? 」」

 

 そこに居るかは知らないが、斧を虚空に突きつけて切ってみせた大見得に余裕綽々、といった風な声で吸血鬼が返す。

 

「「今の君に数は有効だ、と考える理由を…そうだな、私も返礼に3つ教えよう」」

 

 苦しんでいた不死者達のもとに霧が集まり、炎が消えていく。

 

「「1つ、所詮聖水は神器の代用品、威力は劣り…何より有限であること」」

 

 四方八方から一斉に不死者が群がる。

 

「「2つ、君の得物はあくまで斧、いくら巨人…ああ失礼、半巨人の膂力で振るおうととても小回りが効くもので無いこと」」

 

 斧の刃を盾に跳躍して包囲を突き破るが、着地した地面からモグラの屍魔獣が飛び出して足に向かって爪を振りかざす。

 

「「そして3つ…君は今、巨人最大の強みであるサイズの変化を限定的にしか行使できない。

 紋様が崩れて戦化粧の効力が無くなってしまい、私の霧に巻かれてしまうからね。

 さて、これでもまだ強がれるかな? 半巨人君…今すぐやめるなら苦痛の無く私の配下にしてあげよう」」

 

「お断りだなヤブ蚊野郎! 」

 

 地面に突き刺さった斧を振り上げてモグラを切断し、燃え上がらせながら…叫ぶ。

 

「お前らの不死、なんざ名前だけだろうが! 聖水が切れようが吸血鬼以外の不死者なら2、3回死ぬような傷を与えてやりゃあ再生用の魔力が尽きて死ぬ! 」

 

 無造作に屍人の群れから1人の頭を掴んでもぎ取り、胸を蹴飛ばして穴を開け、再生してきた所にもう一度持っていた生首を投げて再度穴を穿つ。

 すると屍人はバッタリと倒れて動かなくなった。

 

「ほれこの通り、全員こうしてやりゃあ聖水が切れようが俺の勝ち。

 なーにが強がりはやめろだ、そっちこそ大恩人の闇の神サマに折角生き返して貰ったのに不甲斐なく死んだ事についての懺悔でも考えとくんだな! 」

 

「「言わせておけばッ! 」」

 

…なーるほど、何が逆鱗に触れたんだか知らんが吸血鬼の野郎、随分キレてるみたいだな。

 不死者共の動きと…ついでに口調まで変わりやがったぜ。

 

「「どうやらそんなにも我が慈悲を受けたく無いようだな…ならば貴様には惨たらしい死を与えてくれる!

 我が配下によってその五体を食い裂かれ、苦悶し、そして私にその血を一滴残らず献上するがいい! 」」

 

 怒りの唸り声を上げ、遅れた同輩や転んだ同輩を踏み潰しながら、不死者が四方八方からまるで巨大な津波のように押し寄せて来る。

 

「やっすい脅しだなオイ、そんな挑発じゃ新入りのハナタレ野郎共でもビビりゃしねーよ」

 

 軽口を叩き、斧を握り直す。

 さーて、本業とはちと違うが…狩りの時間と洒落込むか!




『吸血鬼』
 神に届くほどの未練を持ち合わせた死者がそれを憐れんだ闇の神…またの名を夜の女神の加護によって生き返された存在、言わば闇側の神官。
 未練を持つには強い情動が、強い情動には高度な知性が必要となる為、大抵の吸血鬼は元々人類であり、特に生への執着が強い短命種が多い。
 こういった発生経緯の為、必然的に吸血鬼になるような存在は『他者を蹴落としてでも生きたい』と強く願うような存在が多く、結果的に吸血鬼の大多数は自らの力を向上させる為に他者を殺しても構わないというような思想を持っている。
 夜の女神の加護によって魔力の蓄積と他者の魔力への順応が可能となっており、生前は魔法の類が使えなかった吸血鬼も時間をかけるか他者の魔力を血液の摂取等で取り込むかして魔力を蓄えれば魔法が使える、特に再生の魔法は吸血鬼の代名詞。
 また、こうした再生能力がある為か、それとも1度死亡したからか、筋力のリミッターが外れており常人よりも力が強く、身体強化も使える為個人差はあるが接近戦も弱くは無い。
 光の神の象徴である太陽の光に弱く、逆に闇の神の象徴である月の光を浴びると力を増す。

『屍人』
 吸血鬼が仕留めた人間に、吸血鬼がその魔力を分け与える事によって間接的に闇の神の眷属にした存在。
 目覚めたては自我が存在しないが、時間経過によって魔力を溜め込む事で自我を取り戻していくものの、大抵の屍人は吸血鬼に使い捨ての戦力として雑に使い捨てられる為、自我を取り戻せる屍人は少ない。
 また、魔力の少なさ故に再生能力も段違いに低く、1体や2体なら神官でなくともちょっとしぶとい敵くらいの扱いで葬る事ができる。
 これの魔獣版が屍魔獣であるが、魔法を弾く魔獣は吸血鬼にとっても難敵であり、難敵である癖に不死者になった途端普通に神器が効くようになるのでメインの敵である神官に対してはそこまで強力な戦力として扱えないので数が少ない。
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