「そろそろ息が上がってきたのではないか? 半巨人! 」
「けっ、まだまだ余裕だっての! 」
四方八方から覆い被さるように押し寄せてきた屍人の壁を強化した筋力で一気に弾き飛ばし、できた穴に飛び込んで一瞬だけ巨大化させた腕で押し潰す。
潰しついでに腕で地面を押して勢いをつける…こうする事で着地点がズレ、安全に着地することがっ…!
「っと、流石に腐った脳ミソでも学習するか」
さっき押し潰した時鎧を食いちぎられたんで腕は警戒してたんだが、ズラした着地点に先回りしてくるってのも今後は考えなきゃいけねぇか…ま、何度かやったんで仕方ねぇが面倒くせえなぁ。
取り敢えず着地点に居るやつ諸共地面に斧を突き立てて固定し、斧を軸にして身体ごと回転。
周囲に向かって蹴りを放つ事で群がっていた不死者を弾き飛ばして当座の安寧を得る。
「この通り、まだ死にゃしねぇっての! 」
…吸血鬼と戦い始めて十数時間か1日くらい経ったか。
聖水は早々に切れちまったが、全員喋ってた屍人を交代制で1人ずつ喋らせる、みたいなしょっぱい節約をしてる所を見るに、相手も消耗してる…だからまだ状況は五分だ。
それに最初はわからなかった事がいくつかわかった。
まず、屍人や屍魔獣は俺に殺し切られても聖水をかけられてなけりゃ無事なパーツ同士を集めて吸血鬼から力を込められれば復活可能って事…無論2、3体を集めて1体復活させる訳だから数自体は減るがタダでさえしぶとい事を考えれば面倒だ。
対処法は殺し方を決めること、無事なパーツを集める以上例えば頭ばかり狙ってやれば首なし死体が沢山できるだけで復活は成らん。
無論多く殺す事の方が大事だし、こういう事をしていると…
「うわっ! 気持ちわりぃな元々何人だよお前! 」
と、この眼前の胴体を3つ分融合させてあってそこにトラの腕やら人の腕やらサソリの針やらがごちゃごちゃついた謎キメラのように、余りパーツをゴテゴテつけた強化版屍人…これ屍人か? 違うかも知れん…まぁともかくこういう無駄は多いが一応素の状態より強いヤツが誕生してしまう訳だが。
仮称謎キメラが腕を振り上げて攻撃を仕掛けようとしてくるので、先んじて固定していた斧の背を蹴り飛ばして勢いをつけ、振り上げる事で真っ二つに切り分ける。
腹の中から内蔵の代わりに湧いて出た蛇の屍魔獣は噛みつきを躱して掴み、握り潰す。
背後から火球も飛んできていたので回避ついでに蛇の胴体を火球の射線に突っ込んで焼く。
「残念、またハズレだ。
残念賞でもくれてやるからちっと顔出せよ」
「折角の申し出だが辞退させて頂こう」
それから、コイツはさっき使ったみてぇに不意打ちにしか不死者の魔法を使って来ないって事…それも直接攻撃系の魔法だけを、だ。
不死者になったからと言って魔法が使えなくなると聞いた事は無い、現に最初に出会った屍魔獣共は魔法を使っていた…となると後は制御の問題だろう。
屍魔獣はともかく、屍人が弓はおろか剣すら使わず突撃一辺倒なのはおそらくこの数を能動的に操った時にできるのがそれだけだから、という事だと考えられる。
つまり数を揃えた分、体の操作も魔力の操作も大雑把になり、魔法も単純な物をたまに使うのが精一杯…という事になる。
…もっとも、他に理由があるとか俺に前提を誤らせようとしてるとかそういうこともあると思うが。
「ま、そういう可能性は頭の隅に引っ掛けとくくらいで充分だからな」
斧を振るって不死者を十数体まとめて薙ぎ払い、隙を突こうと駆け寄ってきた屍人の1人の頭を片手で引っ掴んで高速で振る。
詰まってんだか詰まってないんだかわからない頭の中身をこれで液体にしてやる事で相手は死ぬ…無論再生するのでもっかい振る、死ぬまで振る。
そうしている間に周りにまた集まってきた不死者共にその死体を投げつけて隊列を乱れさせ、そこに産まれた空白地帯で斧を十分に加速、ぶん回して残りの敵の腰から上をかっ飛ばす。
「ほれ! 言ったろう? 俺はまだまだ元気いっぱいだってな!
ジリ貧なのはむしろお前の方だろうが! 」
「まだ減らず口を叩けるか…だが、そうだな。
これ以上イタズラに兵を減らされるのも面白くない…」
パチン、と何処からか指を弾くような音が聞こえて周囲に群がっていた不死者達が引いていく。
なんだ? ここまで粘った割にはやけにあっさり引きやがる…
何かあるのは間違いない、全部は無理でも今のうちに殺せるだけ殺しておくか!
地面を砕いて跳躍し、斧を振り上げる。
さして速度もなく、反応すらできていない屍人だ、1人を確実に殺りつつ複数巻き込めるように攻撃を………
「おおっと、逃げる兵士に背中から…とは、随分卑怯な手を使うではないか」
「なっ!? 」
ガインッ!
硬質な音…肉を裂いた感覚では無い。
刃を阻んだのは腕だ、背中から突如現れた腕。
病的なまでに青白い細腕…本来ならば斧の一撃を受け切るなど有り得ないような腕。
それが黒いモヤを纏いながらいきなりフッと現れて斧を止めてみせたのだ。
それも屍人の背を突き破った訳では無い、最初からそこにあったかのように現れた。
(ヤツの本体…!? まさか配下を下げて本体で戦うつもりなのか…? )
フッと頭をよぎった予想はしかし、腕がそこから何事もなかったように消え去った事で裏切られる。
だが…本当に何のつもりで腕とは言え推定本体を出張らせた?
あの屍人を守る為…と言えばそうなのかも知れんが、あれだけ倒された上で今更守るのか?
まさかあの屍人に特別な何か…は、無いだろうな、あるならさっきの攻防で使うはずは無い。
ならば………
「…っ!? 」
核心に迫りかけた思索は、突如現れた襲撃者によって破られる。
危険を感じて即座に振り抜いた斧から伝わる確かな手応え。
しかし、確かに何かが居るはずのそこ…今現在も斧とせめぎ合う何かがあるはずのそこには、何一つ目に映る物がない。
「透明化…メジャーな魔法だが、大型の魔獣が発現させる事は稀なはず、一体どんな手品を使って…! 」
直感に従い、透明な敵を放棄して横に跳ぶ。
躱しきれなかった鎧の肩部分がバターのように切れ、カランと音を立てて地面に転がった。
赤熱した断面から鋼の雫がポタリ、と落ちる。
「なーるほど、合体させられるならそりゃこういう事もできるわな」
そこに居たのは爪を赤熱させた黒いクマの魔獣…と、その皮膚に埋め込まれたトカゲの魔獣だ。
トカゲの魔獣が不気味に光り、クマの巨体が一瞬にしてかき消える。
こういう手合いと戦う時、感じるのは押し出される空気の感覚ッ…!
「そこだッ! 」
一閃。
狙いすました斧と振り下ろされた爪。
同時に振るわれたそれらはしかし、両方とも空を切る。
「この短時間で転移を2回…いや、ここまで飛ぶのも含めたら3回か、ちょいとトバし過ぎじゃねぇのか? 」
1度目の転移で爪を振りかぶりつつ迎撃を誘い、振り下ろしつつ2度目の転移を行う事でそれを躱しながら最もスピードの乗った一撃を予備動作無しで放つ。
確かに強力な戦法で、実際俺も転移を認識した瞬間に転がって回避してなきゃ命中してたが…魔力の消費が激し過ぎる、こんな事やってたらすぐに魔力が枯渇するぞ?
それに後詰にさっきの透明の魔物…受けた感覚だと多分イノシシ…を突進させて来ている、大盤振る舞いだな。
再び動き出したクマの姿が当然のように消えたので、イノシシの突進を受けていた斧を蹴り上げて自由な行動範囲を手に入れておく。
転移なんてするのは中々居ないんでちょいと驚いたが、似たような事をする魔獣はまぁまぁ居る。
そういう時の対処法は…!
「なっ…! 正気かこの男! 」
「正気に決まってんだろ、むしろこっからが真骨頂だぜ? 」
肩口に来る衝撃と、少し焼けるような感触。
引き換えに穿ったのは…クマの腹から臓物を溢れ出させている巨大な一文字の傷。
単純な話、あのクマ公は俺がどんなに攻撃しようと転移で簡単に躱す…それこそ全方位になぎ払いをかけた所で間合いの外に出られて終わりだ、攻撃の予備動作も攻撃の直後も魔法には関係ないんで意味が無い。
だから攻撃の最中を狙う。
ヤツの腕の動きを注視し、俺にあたりそうな位置まで腕を振り下ろした瞬間に全方位に薙ぎ払いを仕掛ける、これでダメージを受けるが相手にもダメージが入る…ま、纏めりゃなんの事は無い、俺の十八番のカウンターだな。
と、ダメージを与える方法を確立したのは良いが…
「とはいえダメージレースを仕掛けんのは得策じゃねぇなこりゃ」
俺の方が与えた傷は大きい…しかし、その傷も跡こそ残っているが、もう既に再生しつつある。
こっちも再生ができない訳じゃないが、魔力の減少は身体強化の強度に直結する…多用はできん。
魔力を削るって意味なら追撃も無くはないが、この転移の乱発具合…無理して数回転移を使わせたくらいじゃ痛くも痒くもねぇだろう。
それにむやみに攻撃を仕掛けるとイノシシの方の追撃が………いや待て、そもそも転移をここまで多用できんのがおかしいだろ。
なーんか違和感あんだよな…そう、違和感。
吸血鬼についちゃ今生の俺は詳しくないんで多分ゲームの知識。
なんだったか…そう、アレだ、自我のある屍人の話だ。
確か、不死者になった奴は不死者になってから時間が経って、充分に魔力を蓄えると生前の自我を模倣するんだかなんだかで自我に目覚めるハズ…でも、居なかったよな、自我のあるやつなんか。
…全員この森でとっ捕まえたのかもしれねぇって? バカ言え、あんな量の人間がこの寂れた村にいる訳ねぇだろ、魔獣もあんな量1箇所には居られねぇ。
それなら連れてきたハズだ、ヤツの軍隊として、どっかから連れられて来たのが…不死者になってから日が経ったのが…だが、自我は持ってねぇ訳だ。
それから違和感と言やさっきのだ、さっきの手のガード、アレもだ。
さっきの考察、アレ良いとこまで行ってたハズなんだよな。
なんだったか…そうだ、原因はあの個体じゃ無いってとこまでは行ってたハズだ。
個体じゃないなら…全体はどうだ? あそこに至るまでと過程であの場になんの違いがあった?
時間帯? いや、時間帯で守るかどうか変えるってなんだよ…感情? あんまり蹴散らされるんで慈悲でも持ったってか? だとしたらこの話は終わりだな…もっと他にあんだろ。
例えば…そうだな…数? 数か…
「そうか数だな! 」
ピースが繋がり、ようやく納得できる答えが出た瞬間、礫を不死者が固められている場所にぶん投げる。
…まぁ当然迎撃されるわな。
割り込んだのはクマか、相変わらず本体を晒す気は無さそうだな…となるとやっぱあの時は相応に焦ってた訳だ。
「随分怖がるんだなァ! やっぱ魔力の供給がこれ以上減るのはキツいようだな! 」
「ほう、我が魔力の源に勘づいたか…だが勘づいたとてどうする! 」
そう、ヤツの魔力の源、それは配下の不死者だ。
何故あれだけ転移を使って魔力が尽きないのか、それはクマとトカゲの魔力だけで行っている訳では無いからだ。
何故自我を持つ屍人が居ないのか、それは自我を持つ為の魔力を生産する度にヤツに掠め取られているからだ。
そして何故…慌てて俺の追撃を防いだのか、それはアレ以上に数を減らされては魔力の採算が取れなくなるからだ。
ヤツの目的はあくまで目的の為の魔力集め、その魔力を吸い取る為に俺を捕まえようとしてるのにそれ以上に魔力の源である不死者を散らされては本末転倒。
そう考えれば魔力を大きく消耗する転移を使うクマを出してこなかったのも、初手以外で屍人に唱和させる形での発声を行っていない事も頷ける。
逆に言えば今、恐らく切り札である合成屍魔獣を投入し魔力を湯水の如く使って魔法を連打しているということは、もう随分と数を削られたんで魔力と配下集めから危険因子の排除へと目的が変わったってことだ。
…ま、ここまでの思考全部これなら辻褄が合うってだけだが、今さっきカマかけたらあっさりバラしたんでほぼ確定だな。
そうとわかりゃ当然…
「そらお前、そっち削るに決まってんだろ! 」
「ほう、まさかそんなもので削れるつもりか? 」
投げ放った礫数発はすべて破壊され、どさくさに紛れて投げた油壺だけは丁寧に払い除けられて不発に終わる。
そーいや霧のせいでこっちの行動は把握されてんだったな。
「へっ、今のは小手調べよ…魔獣狩りの手札の多さ、舐めんじゃねぇぞ? 」
…と、強がってはみたものの、現状取れる手段が魔法薬の投擲くらいとなりゃヤツのガードを抜くのは厳しいな。
距離を縮めりゃどうとでもなるが、流石にそりゃ警戒されてるハズだ。
思案しつつもクマとイノシシの攻撃を捌きつつ、隙あらば容器に入った魔法薬を礫に混ぜて投げてみる。
大きな身体を広げてクマが割り込み、投擲物を一身に受ける。
色とりどりの瓶が砕け、炎が、氷が、雷が溢れ出し、弾けて消える。
なんのことは無い、相手は不死者になったとはいえ魔獣、毛皮に弾かれたのだ。
じゃあ次は接近の方を試して…っと、ガードが硬ぇなオイ!
ちょっぴり近づく素振りを見せただけで損傷覚悟の突撃たァ困ったもんだな…わかっちゃいたが近づけもせん。
さぁてこれで今んとこ取れる手は出尽くして、このままだとジリジリとすり潰されて死ぬ訳だが…んー、今見せちまうか?
いや、しかしもーちょい引き付けてから…せめて本体が見えてからにしねぇと仕留め損ないそうなんだよな、色々とちょこまか逃げ隠れすんのが得意そうだし。
俺相手に魔力の節約なんて考えてたような野郎、ブチ殺さんと気が済まねぇんだが、やっぱ背に腹は変えられねぇか?
しゃあねぇ、そんじゃあ…
「なんだっ!? 」
ふいに不死者達が一斉にあらぬ方向へと注意を向ける、どうも何か感知したらしい。
おいおい、こっちがなんかしようとした途端に想定外ってか?
あの反応…とにかく無条件にヤツに味方するような想定外じゃ無さそうだな。
いいさ、切り札切んのは一旦やめだ、動揺してる今のうちに戦力を削ってやんよ!
「はっ! 」
跳躍。
不死者の群れに向かって振るった斧は、しかし辛うじて間に合ったクマの肩口を切り裂き、背骨に半ばくい込んだ所で停止する。
「は、はは…私の間隙をついたつもりだろうが、そんな不意打ち…」
「の、実を結ばせるのが俺の役目でね」
吸血鬼の苦し紛れのセリフの後を勝手に受け継いだその声は、聞き慣れていて…しかし、本来ならここに響く事の無いハズの声。
直後、声の主…オルファが霧の紗幕を突き破って飛び出す。
構えた手と手の間に迸るのは…雷光。
「ぼ…防御を…! 」
「させるかァッ! 」
疑問よりも先に体が動く。
転移の要であろうトカゲの魔獣の首根っこを捕まえ、そのまま力を入れる。
指先に伝わる骨を折り、肉をすり潰した感覚。
どの道すぐに復活するのだろうが、一旦転移を封じるならこれで充分だ。
「なっ!? ええい、ならば落とせ! 」
「アニキーッ! 俺も居るぜーッ! 」
鋼色の物体が砲弾と見紛うような速度でカッ飛び、見えない何かにぶち当たって相手から鮮血を迸らせる。
その反動で吹っ飛びながらも鋼色の物体…グドーは突進用に変形させていた魔導鎧を通常の形態に…ん? ああ、霧用にゴーグルとマスク付けてんのか、顔全部隠してっから何かと思ったわ。
偶然だがあのゴーグルの効果でイノシシ野郎も見えるらしいな…正直雰囲気で相手すんのは面倒だったから助かるぜ。
…で、もう防御はねぇなぁ!
「オルファーッ! なるたけ巻き込めーッ! 」
「…っ! 了解でさァ! 【汝追いすがりて滅ぼす者也ッ! 】」
詠唱を受け、オルファの手の中の雷が少し変容する。
鋭く、小さかった雷が、目に見えて大きく膨れ上がり唸りを上げる。
もはや止める術は無い。
【
「貴様ーーッ!! 」
裂帛の気合いと共に雷が放たれた。
ただでさえ悪い視界が、雷光を乱反射して真っ白に染まる。
そんな真っ白な世界に………一筋、黒い影が差した。
『詠唱』
魔力に言葉で性質を付け足していく、という魔法行使の方法である(他作品で例えればマック○ウェルの不思議なノートの感じで使っていると思ってもらえれば良い)。
非常にメジャーな部類であり、陣、舞、詠を一纏めにして三大行使法と呼ばれる程。
あくまで言葉にし、語りかけることによって脳内のみで魔力操作を行うよりも負担を軽くし、操作をしやすくするという目的である為、詠唱に決まった形は存在せず、魔法使いはそれぞれにオリジナルの詠唱を持っている。
また、言葉が決まっている訳では無いが型は存在する為(メールの定型文のような物、拝啓から始めて敬具で締める、みたいな事)完全詠唱という物が存在するが、基本的に戦闘で使うには長いので大抵の人は特に強く顕現させたい部分を抜き出して唱える。
詠唱ではなるべく直接的な言葉を使わない事がセオリー(例えば雷の魔法を使う時は【汝は雷撃である】とは言わずに【汝、轟かす者、輝く者、灼き滅ぼす者】等と言う)であるが、これは現実に存在する物を指定すると存在がそちらに寄ってしまい、制御したり運用する上で不都合な事態(雷撃の例えで言えば、金属に命中した時そこで放電してしまって敵に大した損害を与えられない、等)が発生してしまう事がある為である。