死因不明の大斧使い   作:猫山白

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勝利の確信とは最も巨大な隙である

 とんでもない速度と面積の斧に押された空気がその鬱憤を晴らすように荒れ回る。

 直下の地面は巨大なクレーターが穿たれ、その中に元々あった樹木や建物は縦向きに圧壊した。

 そうでない場所も暴風に晒されたが故に土ごとひっぺがされた樹木達が無惨にも吹き飛んでいくなど、酷い有様だ。

 周囲の森を覆っていた霧も、術者がそれどころでないのもあいまって今度ばかりは完全に吹き飛び、隠していた森を月光の下に晒している。

 そんな状況にあってつい先程まで圧倒的な威容を誇っていた吸血鬼の群れはと言えば、ある者は斧に直接叩き潰され、ある者は風と地面とに挟まれ、またある者は風に巻き上げられた樹木に命中し…と、とにかく見るも無惨な姿になってほぼ全滅状態になっていた。

 

「有言実行ってな、まぁ大体今ので死んだろ? 」

 

 ガハハ、と笑うカールの足下が蠢き、中から少し潰れて楕円になった金属の球体がコロンと出て来る。

 球体は変形するような動きを一瞬見せたものの、潰れかけたせいで何かが引っかかったのかすぐに動きを止め、程なくしていくつかのパーツをパージして強制的に鎧の形に戻る。

 

「あっぶねーよ! 俺まで死ぬとこでしたぜ! 」

 

「あー? なんだグドーか、良いだろ、死なねぇと思ったんだから…んで、実際死ななかったし」

 

「良かぁ無いですよ、まったく、俺もこの始末です」

 

 話に入ってきたオルファが苦々しげに自身を覆っていたらしい傷ついた木の球体を指し示す。

 ひび割れた宝石が埋まっている所を見るに、いつもつけている指輪型の魔道具を犠牲にして護りを作ったらしい。

 

「いくらすると思ってるんです? アレ」

 

「悪ぃ悪ぃ、まぁ帰ったら新しいの買ってやっから」

 

「あっなら俺はいいです」

 

「おう、そんなら良かった」

 

「俺は良くねぇけど!? 」

 

 いつもの調子でギャーギャーと騒ぐ3人、そこから少し離れた岩の隙間に1人…いや、最早一塊とでも言った方がいいような有様の吸血鬼が居た。

 言わずと知れたヴァニティ…その本体である。

 今の彼はそれこそ人と言うより挽肉とでも言った方がいいような有様ではあるが、そんな事は再生用の魔力のストックが残っていればいくらでも復活できる吸血鬼にとってはさしたる問題では無い。

 だが、それでもヴァニティの体は再生を始めない…当然だろう、元々彼は再生を始められないからじっとしているのでは無いのだから。

 己の分身をたったの一撃で壊滅させられた、その経験は彼の動きを確かに鈍らせていた。

 本人は決して認めないだろうが、言ってしまえば彼は怯えていたのだ。

 

(このままやり過ごすか逃げるか…)

 

 そんな考えがチラリと頭をよぎる。

 それは確かに現状を打破する為だけならば最高の手だった。

…しかし、それは、そればかりは取れない。

 散々に煽られ、手玉に取られ、遂には挽き潰されたかのような姿になって瓦礫の下に埋もれていても、それでも捨てきれなかった小さな小さなプライドが、そんな手は取るなと囁きかける。

 

(逃げる…逃げるだと? 私が? この魔獣卿が? 役目も果たせず、配下を失い、それでいてそんな事をした輩を殺す事もせずに逃げ帰る…? )

 

 そんな事できるわけが無い、しかしこのまま物量で押してもまた蹴散らされるだけだ…そう考えて彼は必死に思考を巡らし、そしてこれまでの戦いでたった1つだけ届き得る牙の存在に思い至った。

 

─────

 

「だーからよォ、こんなの別に今回が初めてじゃねぇだろ? 」

 

「初めてじゃねーから怒ってんです! 」

 

「まぁそらそうか…でも多分治らねぇし、お前らが死なん程度にやるから許してくれよ」

 

「そうだぞ、良いじゃねーか死なないんだから」

 

「なんでオメーまでそっち側なんだよ! 」

 

「そりゃお前…っと、やっぱ生き残ってたか。

 悪ぃな放ったらかして、お前仕留めるよりグドーを抑える方が難しいんですっかり忘れちった」

 

 カールがゆっくりと振り返り、他の2人も口を噤んでそちらの方向をジロリと睨む。

 その視線の先には1人の吸血鬼が佇んでいた。

 幽鬼のよう、とでも言えばいいだろうか…服も体もボロボロで、銀の糸のようだった髪は汚れまみれたその姿。

 それは最初に出てきた時とは比べ物にならないほどにみすぼらしいものではあったが、それでいて何か得体の知れない気配のような物を纏っていた。

 

「無視とは寂しいじゃねぇか、ところでお得意の分身はどうした、通じやしねぇからもうやめちまったか?

 ソイツは残念だな、あの魔法俺は気に入ってたんだぜ? なんせ手軽に再生用の魔力を削ってくれるからな、殺す回数が減るんで助かってたんだが」

 

 先程までなら間違いなく何か言い返していた筈の煽りにも吸血鬼は反応せず、それどころか歩く事もしない。

 動きと言えばただ1つ、立っているのがやっとというような風情でフラフラと揺れ動いているくらいな物で、それがどうにも不思議な不気味さを発していた。

 

「兄貴、アイツ何か嫌な感じがします、俺が魔法で始末しましょうか? 」

 

「気にすんな、お前らは自衛に努めとけ。

 さっきも言ったがヤツには超個人的に腹が立ってんだ、仕留めるのは俺がやる」

 

「なら兄貴にお任せします…グドー、お前も」

 

「出さねぇよ、アニキのケンカだろ? 」

 

 動かないまま警戒態勢だけ取った2人を確認し、カールはシュルシュルと縮んでいく。

 巨大な姿は強力だが、1人の敵を相手するには大雑把が過ぎるのだ。

 4m程度の大きさまで戻った後、未だ不気味に沈黙している敵へと近寄る。

 少し…また少し…彼我の距離が近づくに連れ、その異様さもよくわかるようになってくる。

 待ち受ける吸血鬼が近づいても一切反応を返さないのだ…それこそ此方を見る事も含めて。

 それでも攻撃を仕掛けない、という訳にはいかないので一旦構えを解き、礫で様子を見る。

 空を裂き、投げ放たれた幾つかの礫が吸血鬼に穴を穿つが、それでも吸血鬼は動かない。

 動かないが、穿たれた穴は次々に再生して埋まっていく。

 

「こりゃあ埒が明かねぇな…そんなら潔くぶった切る! 」

 

 痺れを切らしたカールが斧のみを巨大に変えて薙ぎ払い、見かけから受ける印象とは裏腹にあっさりと吸血鬼の体を上半身と下半身に分かつ。

 そのまま斧を振り抜き、カールに少しばかりの隙ができた瞬間、周囲を4人の吸血鬼が包囲した。

 とはいえ当然罠だろうと警戒していた彼には一切通用せず、振り抜いた勢いを利用した回転斬りで一気に片付けられる。

 

「うおっ!? コイツは…! 」

 

 だが、問題はそこから。

 叩き切った4体の吸血鬼、その断面から凄まじい勢いで村を覆っていた霧が吹き出してくる。

 今は戦化粧を描いた時よりも少し大きい状態、紋様が崩れている為霧から身を守る物は何一つ無い。

 咄嗟に鼻と口を抑えて守るが、それくらいで守り切れるはずも無く簡単に霧を吸い込んでしまい、そんな姿もまた霧の紗幕の中に消えていく。

 

「ハハハハハッ! 掛かったな阿呆が! 」

 

 それと入れ替わるように姿を現したのはヴァニティ。

 再生を控え、息を殺して分身だけをけしかけていたが、勝利を確信して姿を表したのだ。

 

「その霧は吸った者の精神を幻の迷宮へと閉じ込める! しかも例え巨人であろうとも、抗えぬ程に強力にな!

 貴様も勘づいて霧への接触を避けてきたようだが…最後の最後でしくじったようだなぁ! 」

 

 気分良く語りながら爪を剥き出し、霧の中へと飛び込んで行くヴァニティ。

 だが、彼がもし、もう少し慎重であったのならば…否、普段通りの判断ができていたのならば、きっと気づいただろう。

 

「で、お前は勘づかなかったみてぇだな…避けてた奴が急に隙を晒す不自然さってヤツに」

 

 霧によって感じる敵の姿が、()()()()()()()()()()()()()

 

「ばっ…バカなっ! 貴様半巨人では…! 」

 

 口走った疑問に応えるように、ソレは瞳孔が縦に割れた黄金の眼を細め、嗤う。

 

「あ? 半巨人だよ…ただしドラゴンと巨人との、だがな。

 普段なら本来のツラを見せるのは森の獣共が騒ぐんでマズイんだが…有難ぇ事にどっかのバカがその辺全滅させてくれてるんでな、気兼ねなく戻れるって訳だ」

 

 苦し紛れに振るった爪が、緋色の鱗に命中して折れ飛ぶ。

…まるで歯が立たない、そう判断したヴァニティは遂に折れ、敵に背を向けて逃走を選択する。

 

「おっと、逃がす訳にゃいかねぇ…何の為にこの姿封印してたと思ってんだ、逃げに徹されちまったら仕留めきれねぇんだよ」

 

 巨大な顎が音を立てて開き、象牙色の鋭利な牙がギラリと輝く。

 その瞬間、跳躍したヴァニティが枷でも付けられているかのように口腔内に転がり落ちた。

 顎の巨大さとソレを開く速度によって発生した風が、この小さな吸血鬼を押し戻したのだ。

 しかし、当人からすれば一体何が起こったのかなど理解できるはずも無い。

 初めて目の当たりにする謎の力に一層恐怖しながらも、死を恐れる為に牙の間から覗く外へと再度必死に飛び立つが、すぐに顎は閉じてしまい、完全に退路が絶たれる。

 ならば、と逡巡したその瞬間…

 

「なんだ…この焼けるようなっ…! 」

 

 ヴァニティの喉から灼熱の血反吐が流れ出した。

 続いて肌がボロボロと灼け崩れ、眼球が、流れる血が、沸騰し始める。

 無論彼は吸血鬼、崩れた場所などすぐに再生できるのだが、それが逆に無限の苦痛を生み出していた。

 そんな正しく地獄のような光景を作り出した正体は、カールの喉から伝わる熱波。

 最初の血反吐も生前の名残で呼吸していたヴァニティが、余りに熱い空気を吸い込んだ為に呼吸器が傷ついて出た物である。

 だが、これはあくまで先触れ、程なくしてその発生源である灼熱の炎…龍の吐息(ドラゴンブレス)が溢れ出す。

 ヴァニティが己を守る為に必死で作っていた冷気の膜が無慈悲にも吹き飛ぶ。

 

「───ッ!! ァ─────ッ!! 」

 

 声帯すら溶かし尽くされ、最早悲鳴も上げられないような状態。

 そんな状態になっても吸血鬼の体は再生を止めない、止められない。

 己の為に啜ったはずの命、まるでそれが牙を剥くかのように地獄の苦痛を長引かせる。

 伸ばす手も無く、紡ぐ言葉も無く、ヴァニティという吸血鬼はただ薪のように燃え上がり続けた。

 

─────────────

 

「終わったか」

 

 そう独りごち、俺は頭を人の頭へと戻す。

 変身の邪魔にならないように変形させていた兜がカシュッと音を立てて元の形に戻る。

 既に熱気が収まっていることを確認してからフッと息を吹いた。

…うーむ、口の中で焼死させた相手が居るというのはこんな気持ちか、微妙に口の中が気持ち悪い感じがする。

 

「おい見ろよこれ! 掘り出し物じゃないか!? 」

 

「だからやめろっつってんだろ!? 」

 

 目線を移して仲間の方を見ると、元気に殴り合っていた。

 どうやらさっき倒壊した民家からオルファが金目の物を文字通り掘り出していたらしい。

 

「お前ら程々でやめとけよ。

 ああ、それから持ってき過ぎると流石に捕まるからそっちも程々にな」

 

「大丈夫です、その辺は心得てるんで」

 

「心得んなそんな事、いっそ捕まれ」

 

「あんだとこのヤロ…」

 

───不意に、ジジジ…という微かな音が耳に飛び込んできた。

 

「…っ! お前ら…」

 

「ああ、俺にも聞こえたぜ…! 」

 

「俺もです、それに微細ですが魔力の反応も…! 」

 

「辿れるか? 」

 

「勿論」

 

 オルファが先程までとは違った顔つきに変わり、ゆっくりと、だが確証を持って一山の瓦礫へと接近し、魔法でもって慎重に取り除ける。

 1つ、また1つ、取り除ける度に段々と音は大きくなっていき、そして…

 

「コイツが…」

 

 遂に現れた音の主は、大騒ぎに見合わないほどの小さな札だった。

 札には何やら複雑な陣が書き込んであり、少し光っている…わかってはいたことだが、何がしかの魔道具だろう。

 魔道具の効能は陣を刻む物品にも依存する、例えば切る魔道具を作りたいなら棒に刻むより刃物に刻んだ方が良い。

 だが札や本は別だ、アレらには”記される物”という役割が存在する、だから物品に記号をくっつけて魔法的な意味を持たせる陣とは相性が良い。

…さっきの例で言えば切る魔道具を作るなら棒に刻むよりも札に刻む方が良く、札に刻むより刃物に刻んだ方が良い、という具合だ。

 長々と話したが、つまり目の前の魔道具が何の魔道具なのかを素人が見かけで判断する事はできない、という事だ。

 

「コイツ、こんなに小さいのに転移系の陣が刻んでありますね、勿論簡素ではありますが…あと、悪い報告があります」

 

「なんだ? 」

 

「発見直前に周囲の魔力を取り込んでもう動き出してます、もう正攻法じゃ止まりませんし、もし破壊しようもんなら何が起こるかわかりません」

 

「…マジでか? 」

 

『あー、あー、繋がったか』

 

 オルファが応える前に札から声が流れ出す。

 どうやら正解は遠隔通信の類か、随分使い勝手の良いもん使ってんな。

 即座に害を為すような代物では無いことに若干気を緩めつつ、続くであろう言葉に耳を傾けた次の瞬間。

…俺は度肝を抜かれた。

 

『私だ、天狼星(シリウス)だ』

 

「「「…っ!? 」」」

 

 天狼星、この世界に暮らす者ならガキでも知っている名…そしてゲーム終盤でもかなりの強敵として立ちはだかる相手。

 闇側の十二聖石…二十一の明星、その筆頭が、目の前の札から語りかけて来ていた。

 

『魔獣卿、此度の件で君に供出して貰ったコレクションには随分と世話になったのでな…貴君にも報告をしておこう』

 

 こちらが誰かも知らず、天狼星は話し続ける。

 

『成功だ、()()殿()()()()()()()()()()()()()

 

「依代…! 」

 

 そうか、今日…だったのか。

 なるほど、なにせ()()()()()()()()()儀式だ、万全を期すなら満月に決まってるわな。

 

『…ふむ、今宵は随分と無口だな、魔獣卿』

 

 マズイ、不信感を持たれた、何とか誤魔化して…

 いや、待てよ…確かコイツが、天狼星が不信感を口に出す時はッ…!

 咄嗟に翼を広げ、勢い良く羽ばたいて2人と札を吹き飛ばしつつその勢いで俺自身もその場から飛び退く。

 

「…ッツウ! 」

 

 逃がしそこねた足に、焼け付くような感覚。

 苦悶の声が口からひとりでに漏れ出る。

 この感触は久方ぶりの深手…ってか、んなの見りゃあわかるか。

 なんせ角度的に視界に入らねぇはずの俺の足が見える。

 ついでに言えば普段見れねぇ足首の断面鑑賞権のオマケ付きだ。

 

「アニキッ! 」

 

 グドーの声も、切断された足も後だ。

 奴の得意技は空間への干渉…こんな程度の事なら後100回でも200回でもできる。

 足を切られて機動力に難が出た以上、次以降で前触れを掴んでやらないと今度は最悪胴体をバッサリと…!

 

『…ふむ、今ので仕留めきれぬか。

 なるほど片手間では厳しいか、ここは私が出向いて…む?

 どうした、何かあったのか? 落ち着いて報告してみろ』

 

 お? なんか様子がおかしい…ってかアレか、召喚されたのが今日ならそりゃ逃げ出すのも今日か。

 よぉく知ってるぜ、プレイヤーだったからな。

 そうと来りゃあ…

 

『…魔獣卿には悪いが貴君らを相手にしている訳には行かんようだ。

 次に私と相対した時、その時が貴君らの終わりと知るが良い』

 

 ま、俺らなんかにかかずらわってる暇は無くなるわな。

 とはいえ…

 

「跳べ! 」

 

 そう叫んで俺もまた残っている四肢をフル活用して厨に身を踊らせる。

 既に地面に落ちていた札を起点に空間が断裂し、デコボコしていた道が切り飛ばされて真っ平らな道へと変わる。

…ったく、忙しそうなツラして罠はしっかり仕込んで行くんだからな。

 

「イチチ…あークソ、ひでぇ目に遭ったぜ」

 

「兄貴…ソレ、その程度で済むモンなんですか? 」

 

 オルファが指すのはぶった切られた俺の両足だ。

 ちなみにグドーは大泣きしている、大袈裟だからやめて欲しい。

 

「あー? 済むわけねぇだろ、強がりだよ…ったく、このままだと痛くてしょうがねぇ。

 悪ぃけど散らばった足持ってきて貰えるか? 」

 

「まぁ良いですけど…ほら」

 

 あまり触っていたくないのか、2つの足を拾い、投げて寄越す。

 

「もーちょい丁重に扱えよ、俺の足だぞ? 」

 

「そんなワード聞いたの人生で初めてかも知れませんわ」

 

 左右の違いに注意しつつ、断面同士をピッタリと…よっし、修復完了。

 空間ごと切られたせいもあってまだしっかりくっついてないが、とりま戦闘の予定も無いし何とかなるだろ

 

「よっこいせっと」

 

「アニキ!? あんなにスッパリ切れてたハズじゃあ…」

 

「うわっ、ホントにくっついた…」

 

「うわっじゃねーんだわ」

 

 歩いて、軽く跳んで…よし、問題なし。

 服と防具はスッパリいってるがまぁ仕方ねぇ。

 

「さ、帰って報告だ。

 こんな所にこれ以上居んのは御免だからな…お前らは? 」

 

「流石に今の見てここに居ようって程壊れてねぇんで帰ります」

 

「俺ァ元から事が済んだらさっさと帰るつもりだったぜ」

 

「よし、そんじゃ引き上げるとすっか」

 

 頭上に輝く満月が少し傾いた。

 森の霧は晴れど、より昏い夜闇が世界を覆っている。

 始まるのだ。

 夜が終わり、深夜が。




 導入パートはもっと短く済ますつもりだったのになんでこんなに長くなったんだろうね(他人事のような顔)

『ドラゴン』
 全身を堅牢な鱗に覆われ、鋼を泥のように切り裂く爪と疾風よりも速く空を舞う翼を持ち、産まれながらにして強大な魔法を手足のように扱う巨大なトカゲのような姿をした者達。
 彼らの体の一部は武具を作るにもその他の事を行うにも非常に優秀である為高値で取引されており、巨万の富を狙う者は後を絶たないが、大抵はすぐに殺されるのがオチ。
 人によって彼らを人類として扱うか幻獣の1種として扱うかが異なるが、これは彼らの個体差が大き過ぎる為である。
 この個体差の大きさ…言い換えれば勝手さは彼らの寿命の長さと強力さに起因していると言われ、事実として彼らの”生存本能から来る欲求”は非常に薄い。
 その為彼らの行動原理は各々の興味に依存し、”人に化けて人と共に生きる事に興味を持ったドラゴンがその力で難題を成し遂げて英雄になる”事もあれば”己よりも弱い者を虐げる事に興味を持った結果、多大なる犠牲を出しながらも討伐される”事もあるという非常に複雑な種族となっている。
 なお、何に興味を持つかは完全にそのドラゴンに依存する為、場合によっては”子作りに興味はあるが子育てには興味が無いドラゴン”も存在する…というかカールの親はこのパターンであり、カールの産まれた卵は森に産み捨てられていた。
 カールはこちらの血を濃く継いでいる為、彼らにできることは大抵できるが巨人の血が災いしてか、自分の体に関する以外の魔法はまるでできず、親譲りの巨大な魔力は専ら身体強化専用になっている。

『幻獣』
 魔獣が突然変異で魔法が使えるようになった動物ならば、幻獣は種族単位で体構造に何がしかの魔法的器官を持った動物の事を指す。
 また、厳密にはこれは条件では無いが、大抵幻獣は強大な魔力を持ち、魔法を扱う。
 その強さ故かそうでないのかはわからないが、幻獣は基本個体数が少ない。
 代表的な物に吐息を使うドラゴン、息吹に石化の効果があるコカトリス等が挙げられる。
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