緊張が全身に伝う。
回数を重ねて少しは慣れたつもりでいたけどいざ楽屋に来てみればその場の雰囲気に呑まれてしまって。
目をつぶって思考を一度リセットしようとしてもステージに立ったあの時の景色が浮かんでやっぱり緊張はとけない。
「燈ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、じゃない……」
「ほらこれ、飲んで、それから深呼吸」
愛音ちゃんが心配して隣に座ってくる。
差し出されたペットボトルを受け取り言われた通り飲んで深呼吸して。
少し、気が楽になった気がして顔を上げるとみんなが私を見ていた。
「燈、落ち着いた?」
「うん、少しは……」
「久しぶりのライブだから緊張するよね」
「みんなも、緊張してるの?」
「そりゃもう、数ヶ月ぶりのライブだから緊張しまくりだよ」
よく見れば愛音ちゃんはいつもよりも声が震え、顔からも緊張が見える。
そよちゃんも、平然としているように見えるけど定期的に深呼吸を繰り返してる。
そんな中楽奈ちゃんは楽屋に置かれた抹茶味のドーナツを無言で食べて、全く緊張してる様子がない。
「ん、緊張してるなら、走る?」
抹茶ドーナツを食べ終えた楽奈ちゃんが突然そう言い出した。
前にわたしがライブで緊張をほぐすために、この胸のドキドキを上書きするために走って心拍数上げてるって話をしたんだけど、きっとその事で。
「時間もう少しあるし、やろっか」
「燈、やる?」
「……うん、やろう」
「おっけー、じゃあ外行こ」
そんな愛音ちゃんの言葉にみんな頷いて楽屋から出ていく。
わたしもそのあとについて向かった先はステージ裏。
5人並んでせーのでステージ裏の限られたスペースを往復する。
そのペースはみんなバラバラで、愛音ちゃん、立希ちゃん、そよちゃん、わたし、楽奈ちゃんの順でUターンして。
スタッフさんに止められるまでの間ずっと走って、あっという間にライブの時間。
置かれてたタオルで汗を拭いて、少し崩れた服を治す。
深呼吸して、みんなの方を見る。
「……みんな、準備できた?」
「ん、かんぺき」
「私もオッケー」
「大丈夫だよ」
「うん、出来てる」
わたしの問いにみんなが答えてくれる。その顔は楽屋にいた時に比べて緊張がとけたみたい。
わたしも、走ったからなのか緊張のドキドキは無くなっていた。
「みんな──迷子でも進もう」
「「「「おー!」」」」
円陣を組んでわたしのかけ声でみんなが手を上げる。
今一度みんなを見て、頷きあって最後の確認を終えて。
わたし達はステージに出て行った。
ステージに立つ。
そしたら客席からの歓声が少し残ってた緊張を全て晴らしてくれた。
わたし達を待っていてくれたみんなの声が背中を押してくれる。
何度も折れそうになったり、もう嫌だと思ったこともあったけど、それを乗り越えて今、わたしは、わたし達はここに立ってる。
愛音ちゃん、そよちゃん、楽奈ちゃん、立希ちゃん、みんなと一緒に。
ステージから見えるこの景色を、ペンライトの輝きを、受け取った歓声をわたし達なりの感謝にして。
わたしの歌声が、歌詞が誰かに、
「MyGOです、聞いてください──」
この迷い声は。
この叫びは。
狼煙のように高く打ち上げたこの気持ちは。
きっと君に届くから。
だから、伝える。
「ありがとう」って。