本当にガセだと思ってました。
「おい、クソッタレ。表出ろや」
「い、いや、待ってくれ四季! 俺は何にも知らねえよ!?」
知ったことか。と、西条四季は言い放った。その眼は怒りに燃えており、いつもは可愛い、可愛い、ともてはやす紅梅楽器は逃げ出した。依存夫婦の妻のほうの鹿折利根ですら顔が引きつっている。アリアは泣きそうな顔をし、理子はドン引き、白雪は妄想の世界に逃避し、レキははじめから来なかった。ライカやあかりをはじめとした(手伝いに駆り出された)一年生は恐怖で気絶した。
つまるところ、西条四季は切れていた。それも殺人鬼ではないと明言されているのが嘘だと思われるほどの、悍ましい殺気をだして。
始まりはキンジがカジノの仕事を持ってきたところ、と言いたいが、この事件の始まりは入り組んでおりどこが始まりなのかはわからない。しかし、なぜ四季がここまで切れているのかははっきりとわかる。カジノの仕事には役割が割り振られる。キンジは『青年IT社長』などといったところである。そして西条四季に割り振られた役割が『親につられてこられた小学生』だった。そして親役が依存夫婦だったのだ。
小学生の文言の時点で文章を引き裂き、親役が分かった時点で切れた。切れた。もうどうしようもなく切れた。
「殺して解して並べて揃えて――晒してやんよ」
ここで使っていい言葉じゃないだろ、と言いたいほどの言葉なのだが、そんなことすらも忘れるほどの怒りでキンジを殺害宣言する四季。
四季の思考回路では、キンジがこの配役をえさに依存夫婦に仕事の手伝いをさせたと思い込んでいるようだが、それは違った。鹿折は四季と仕事ができると聞き勝手に飛びついてきただけで、こんな配役になるとはだれも知らなかった。カジノ側が四季の容姿と依存夫婦の関係を知り、これなら一番自然だろうといった考えのもと配役を決めたのだが、
その後、キンジと四季による殺し合いは途中から匂宮絵札が乱入し、家財道具が防弾性でなかったら無事なものは何一つとしてなかったであろうことが予想されるほど荒れに荒れ、壁紙は壁ごと変えたほうがいいのではないかというほどに崩壊した。四季の怒りはそれでも収まらず、いつもは嫌がっているフォーシーズンライバルの会と殴り合いに出て行った。
「殺される。ぜってー殺される」
四季の勘違いとはいえ、これはあまりにもひどい配役であり、同情と『普段の四季』との相性の悪さから防戦一方だった。それもそうだ。四季は自身を過小評価しているが狂化でもしない限り、普段のキンジでは勝つ可能性は低い。それこそヒステリアスモードにでもならない限りは……。
「四季先輩って本当に強かったんですね……」
「あいつは感性で戦う天才だ」
志乃の言葉に苦笑交じりに答えるキンジ。四季をよく知らない奴はよく一芸特化の武偵で総合的にはそこまでの実力ではないと勘違いされるが、実際には総合的に見ても高水準にまとまっており、接近戦を押し付けるのがうまいのだ。肉弾戦では学内でもトップクラスだと自負しているキンジだが、鋭利な刃物の攻撃は肉弾戦のように受け流すことができない。そのため四季の攻撃はよけなければいけない。さらに四季は頭がとてもいいため、戦術を組み立てるのがうまい。なによりも戦い方そのものは
一方、『狂化』した四季は傷つくことを恐れない。そもそも傷つくことを考慮に入れてないのか、攻撃をよけようとさえしない。そして行動原理は意味不明だが行動そのものは直線的なので、『俺的必殺問答無用拳』を叩きこむことができる。そのため非常にやりやすいのだ。そしてもう一つ、これを認識するたびにキンジは自己嫌悪に陥ってしまうのだが、『狂化』した四季は非常に『倒すべき敵』として見やすいのだ。
キンジはヒステリアスモードになれば四季とも互角以上に戦える自負はある。しかしなってしまうと、『強さの質』が逆転してしまうのだ。
強さには大きく分けて二種類あるとされている。一般的な強さは『派手な強さ』。これは非常にわかりやすい。一見して強いことが分かる。四季やアリアだけではなく、強襲科のほとんどの生徒がこれに分類される。それどころか、ほぼすべての武偵と言っても過言ではない。もう一つの強さが『地味な強さ』。これは分かりにくい。とにかくわかりにくいのだ。一見したところで強いのかさえ分からない。それどころか弱くさえ見えてしまう。実際に戦うものでこの強さの質を持っている人間はかなりまれであり、キンジや匂宮絵札がこれに該当する。そして匂宮絵札が超能力で行っていたのは、『爆発による強さの偽装』だった。派手な爆発で自身の本来持つ『地味な強さ』を隠していた。それにより初見では、匂宮絵札の主力を爆発だと思い込んでしまった。もっともそれを看破したところで匂宮絵札の実力が強いので、偽装する意味は薄いような気もするが……。
そしてキンジの場合『地味な強さ』から『派手な強さ』に変化してしまうと、普段はできることができなくなってしまう。つまり攻撃が受け流せなくなり(厳密には受け流すのが下手になる)、曲絃糸は全く使えなくなる。また女性を守ることを最優先に行動するので(正確には違うが)、四季に裏をかかれる可能性もある。つまるところ、普段の四季は普通に手の付けられないほど強いのだ。『狂化』した四季は訳が分からない、要するに先の見えない不気味な強さがあり、こちらとはまともに戦いたくない。いや、まともに戦うことすらかなわないだろう。どうやってもかみ合わない。それが狂化した四季だ。
あと部屋の女性比率が異様に高いので、あのまま四季と喧嘩してたほうがマシだったかもと本気で考えるキンジだった。
その後、白雪やどういった風の吹き回しかレキもこの任務に参加することになった。
実はこれ、かなりのレアケースなのだ。Sランク武偵がカジノの護衛をすることではなく、レキと四季が同じ仕事をすることがかなり珍しい。というのもこの二人、かなり仲が悪いのだ。一年生のころから異様なまでに仲が悪い。ロボット・レキとまで言われるレキが不機嫌になるぐらい仲が悪い。仲が悪い理由については、四季がいうにはいきなり撃たれてその理由が意味不明だった。レキがいうには全弾、つまりドラグノフ狙撃銃で撃った弾すべてをナイフで弾かれた上に両腕をへし折られたとのこと。レキもレキだが、四季の仕返しも過激すぎる。
そのためアリアが最初の任務であるバスジャックの時に、レキと四季が同じであることを現地で話すという配慮をしなければいけなかったほどに。ちなみにそれでも四季は本気でレキの目を潰そうとしたし、レキもキンジが注意しなければまず間違いなく四季を撃っていた。それもヘッドショットで。
それだけ仲の悪い二人が、いくら合意の上とはいえ同じ仕事になればどうなるかなど目に見えている。
「ロボット・レキは充電済んだの? ああそっか風力発電だっけ?」
「四季さん、貴方は偏差値が高いと聞きました。なるほど人格が歪んでいます」
白雪と瑠河よりも仲が悪い。仕事当日ですらこのありさまである。普段、どれだけ仲が悪いかなど想像に難くない。
「四季さん、その服お似合いですよ。まるで小学生のようです」
「はっはっは、レキもそのディーラー姿とてもお似合いだ。まるでイカサマ師だ」
まわりはこの二人を無視して任務の段取りを話し合っていた。といっても、大まかな位置決め程度であり、綿密なものではない。配役上自由に動ける者と自由に動けない者で別れるので、動けない者を起点に動ける者が補うといった形に収まった。
「それじゃあ、私と四季君はエントランス。というか四季君自由に動けないから。じゃあ、お母さんと一緒に行こうねー」
「やだー! こんな配役やだー!」
四季のガチ泣きを鼻で笑うレキに、ああこいつ一応人間なんだな、と再確認するキンジであった。
なんといいましょうか、水着サバ一切当たらなくてナーバスな中書きました。だから? ってだけなんですがね。
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