「ごちゃごちゃ聞いてりゃ、なんだアンタ。キンジと同じロリコンか?」
「……なるほど。彼はそういう性癖を持っているのか。そこまでは推理していなかった」
この名探偵はアリアをまた拉致しようとした。もう追いかけんのは面倒なんだよ! だからここで止める。
今にも割れそうな氷上の上で、俺はナイフを構えて叫ぶ。親友の曾おじいちゃんに……。親友をさらった犯罪者に!
「殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
俺の言葉に少し懐かしそうな顔をする名探偵。お姫様抱っこしてたアリアを下して、ボストーク号へ行くよう促す。もう正常な判断ができていないアリアはそのまま行ってしまうが、ふらふらとしているのですぐに追いつくだろう。
「なるほど。君はお母さんの生き写しだ。しかし、お父さんにもよく似ている」
「あ?」
「ならばこそ、僕は君の言葉にこう答えよう!」
名探偵はスクラマ・サクスを構えて、大きく息を吸い、空に向かって今までの落ち着いた雰囲気からは考えられないほど大きく叫んだ。
「私は探偵、依頼人は秩序! 十四の十字を身に纏い、これより使命を実行する!」
匂宮絵札が聞いたら激昂するようなセリフを叫び、俺とシャーロック・ホームズは激突した。
「クソッ、四季君が邪魔で銃が撃てない!」
「完全に出遅れたな。兄さん」
致命傷を負い、それでも戦わんと『ヒステリア・アゴニザンテ』を発動させたキンイチだったが、攫われた時点で勝手に行動を起こした四季には追い付けなった。銃は動き回る四季に当たる可能性が高く撃てず、しかし教授はこちらを攻撃、否、牽制のために銃弾を撃ってくる。せいぜいそれを打ち落とすのが限界だっにた。
キンジも久方ぶりにヒステリアモード、いや初めてのヒステリアモードである『ヒステリア・ベルゼ』となったが、
「無茶苦茶だ! せめて四季くんはキンジと一緒に行動するべきだった!」
「四季が無茶苦茶なのは今に始まったことじゃない。それに兄さん、あいつはいたって冷静だぞ」
キンイチの言葉はもっともだったが、四季に連携とかチームプレイをそこまで期待していないキンジにしてみれば、いつものことでしかなかった。そしてなによりも、これはキンイチも強く感じていることだが、あの場、四季とシャーロック・ホームズとの剣戟の場にいたところで、何もできなかっただろう。遠目から見てもわかる、人類最高峰の刃物同士の戦いであると。もしあの場に割って入ることが許されるのは、四季と常日頃から戦っている四季のライバルたちぐらいであろう。
「四季くんの実力は素晴らしいの一言に尽きるが、
キンイチは歯を食いしばって、教授の牽制攻撃である銃弾を撃ち落としながら、少しでも前に進もうとする。
四季の実力は相当なものだ。イ・ウーでもナイフ使いはいた。だからこそ断言できる。刀剣のみで彼と拮抗できるのはトランプかアドルファぐらいだが、それでも足りない。キンイチとキンジに飛んでくる牽制が何よりの証拠だ。四季の猛攻に対しても教授は片手で持ったスクラマ・サクスだけで対応しきっており、空いている左手でキンイチとキンジを銃で撃つ。さらに氷上が崩壊しないように超能力を使い続けていた。
「クソッ! 年長者として恥ずかしいことこの上ない!」
「銃弾よけて前に進めないのか?」
「無理だ。教授にそんな小細工は通用しない」
二人は見ていることしかできない。しかし、それでも少しづつ、着実に前に進んでいった。
「そう、京都連続殺人事件の犯人もそんなナイフ捌きだった!」
こいつ、強い! さっきからいろんな戦い方をしているのにすべてに対応、いやそれ以上のことをしてくる。キンジと死神に対して牽制として銃を撃つ。それに対して二人係で撃ち落とすのがやっと、というかどうしていちいち撃ち落とすの? 馬鹿なの?
「澄百合学園の狂戦士は僕でも推理できなかった。京都連続殺人事件の犯人は僕の推理の外側にいた。いや、僕と同じステージに立っていたゆえに推理しきれなかった」
「さっきからごちゃごちゃと!」
余裕綽々といった感じが気に食わない! まじめに戦われたらひとたまりもないことが余計に腹が立つ。こいつは俺を使って過去の思い出を鮮明に思い出そうとしているだけなんだと、さっき分かった。こいつの口調から、お父さんとお母さん、その両方と名探偵は戦ったことがあることが分かった。
「イ・ウーの勧誘にいったら、狂戦士は自分で自分を何となくずたずたにして死にかけてたし、血統書付きの殺人鬼には金をたかられた!」
両親がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした! 反射的に頭の中で謝ってしまった。知れば知るほど碌な人じゃねえな、俺の両親。
「彼らは推理できなかった。君もまた推理しきれなった」
「そりゃどうも!」
じゃあなんで、俺の攻撃に完璧以上に対応してくれているんだよ。
クソ、あっちは防戦一方とはいえ、実力は数段上だ。それにスクラマ・サクスも素晴らしい。俺のナイフを数本を台無しにしたのにまだ刃こぼれをしていない。凄くほしい!
「だから、推理だけではなく、彼女から『策』を学んだ。推理しきれないのならば思い通りに場を動かせばよいとね」
策策策策! ほんっと余計なことをするなあ! その策士とかは!
名探偵にスキはないのかと言われれば、ある。普通の戦いであれば絶対に見せないであろうスキを故意的に見せつけてきた。そう、心臓、喉、頭の急所と呼ばれる場所だ。武偵は人を殺せない。武偵として戦うならよし、狂戦士として戦うとしても母似た奴と戦えるからよし、殺人鬼として戦うとしても父と似た奴と戦えるからよし、とでも思っているのだろう。
――上等だ! 武偵として圧倒してやる!
「残念だ。実に残念だが、時間切れの用だ。これ以上は僕にも時間がないし、彼女を怒らせてしまう」
名探偵はそう言って、また大きく息を吸った。……どこかで見たことがある。そうだ、キンジが最終手段の一つとして一度だけ使ったことのある『音使い』の技術に似ている。喉をダメにするとかで使いたがらないし、精神系だから物理的なのを正しく使うことができないとか……、まずい! ようやく気が付き、俺は反射的にかがみ、耳をふさいだ。
――イ゛ェアアアアアァァァァアアアア!!!
叫び声というにはあまりにも大きく、爆音というのにはあまりにも意味を持たせた音があたりに響いた。この周波数は聞いたことがある。楽器がキンジのHSSを面白がって解除する音だ。何で作ったかを聞いたら心拍が気色悪かったからとか言ってた。
HSS解除の原理は簡単だ。音は生物に大きな影響を及ぼすことが証明されている。それは動物にとどまらず植物の発育にまで及ぶ。HSSは子孫を残すためのすべだと説明された。突き詰めればただの性欲だ。性欲を減衰させる周波数をぶちまける。いや、それだけじゃない。この爆音だ。それだけで鼓膜を破くには十分すぎる!
「素晴らしい反応速度だ。これをどこかで聞いたことがあったのかな?」
「て、めえ……」
キンジは大丈夫か? いや、それ以上に死にかけの死神が心配だ。あの死神は強いが、戦い方が不自然なうえにあの重症だ。今の音で傷が広がっている可能性が……。それだけじゃない。今の俺は音のせいで全身がしびれてうまく動けない。音もうまく聞こえない!
「兄さん!?」
キンジのかすれた声が聞こえてきた。音に音をぶつける荒業でもしでかしたのか? いや、それよりも今の俺の状況を打開しなきゃ……。
「君は僕を追うだろう。友情のために」
名探偵は俺に向かって言う。ここでとどめを刺そうと思えばいくらでもさせるだろうに、それをせずパキパキと氷上を広げながらボストーク号へ向かう。
「なめてんじゃねえぞ、このクソ野郎が!」
とびかかる俺に見向きもせず、地面に叩き落とす名探偵。すぐに起き上がって後ろにいき体勢を立て直したところで、気が付く。いや、なんで気が付かなかったんだ俺は!
「アリアを追うなら来るといい。ただし
氷上にはいつのまにか人であふれかえっていた。どれもこれもそこそこ強いが顔色は悪い。脅されているのか?
「『空間遣い』という技術だ。君が気が付かなかったのも無理はない」
そう言い残して名探偵は潜水艦へと入っていった。キンジはまだ兄と話している。いや、こっちの状況を認識できていないのか! 空間遣い、話以上に厄介な能力だ。
「恨みはないが「死ねええええ!!!!」トラ、ぎゃあああああ!!」
トランプが現れた。唐突に表れて俺の前に立ちふさがった侍っぽい人を絨毯爆撃(ひん死)した思ったら、とどめと言わんばかりに大きい爆発(致命傷)で吹っ飛ばして、最高到達点で指パッチンしたと思ったらさらに爆発(とどめ)が起きた。ひどい。
「ぎゃははは! おい、
「ゲババババ! やり過ぎだ馬鹿!」
「妾はキンイチの治療で忙しいのじゃ!」
オオカミの顔をした異形の大男とさっきまで戦っていたパトラが現れた。いったい何が起こっているってんだ。いや、それ以上にただでさえ顔色の悪かったイ・ウーのメンバーが吐きそうな顔をしている。何人かはすでに海に向かって吐いている。こいつらいったい何やったんだ?
「あのいけすかねえ策士とクソむかつく教授をぼこぼこにしに来たんだよ! 三人で結託して!」
「ゲバババ! こいつらは策士に脅されてるだけだ。手加減してやれ!」
「キンイチ! 大丈夫か!? ここに婚約届けがあるのじゃが!?」
まとまりねえなこいつら!