緋弾のアリア -強襲科の狂戦士-   作:南瓜お化け

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さあ、今年中に人理を救わなきゃ!
だからだれか私の単位を救って!


第34狂 友情と再会

「知るかァ!」

 アリアに追いついた四季とキンジは、涙ながらに語るアリアの話を聞いた。いろいろな苦悩、曽祖父に認められたということへの気持ち、兎に角いろいろなことを言っている最中に、四季はアリアに無造作に近づいて顔面をぶん殴った。

 アリアは殴られたことよりも、自分の苦悩が「知るかァ!」で済まされたことにキョトンとしていた。キンジはキンジで、あーあ、という顔をしている。あーあ、という顔をしているが止める気配はなかった。

「ざっけんな、家族に認められなかったから犯罪集団の長になりますとか、ガキの癇癪よりもひどいぞ!」

「あんたに、四季に何が……」

 何が分かる、とは言えなかった。思い出したのだ。四季は、いないもの扱いどころか、あったことすらなかったのだ。記憶にないとか、物心つく頃にはとか、そういう領域ではなく、本当にあったことがないのだ。

 そんな、四季に家族の悩みを言うとは、いかに残酷なことかを今になって思い知った。

「家族に認められない、いないもの扱い、んなもん知ったことかよ!」

 歯を向いて怒鳴る四季から目をそむけてしまうアリア。

 初めてできた親友に刃を向けた。親友の敵になることを選んだ。何よりも、親友が絶対に手に入らないものの悩みを言ってしまった。そのことがたまらなくつらかった。

 だから、思いもよらなかった。親友の言葉が。親友が思いもよらないことを言ってくれたのだ。

 

「だったら、俺が認める!」

 眼がしらに涙を蓄え、顔を紅潮させ、歯を食いしばりながら、四季は言い放った。

「ああ、そうだ、俺が認めてやる! そこのキンジだって認めてるだろうさ! 一年坊は認めるどころか目標にさえしている! ああそうさ!」

 ああ、そうだ。いつだって四季は、キンジは、みんなは、アリアを認めていた。

「これでも足りなきゃ、依存夫婦にだって認めさせる! 理子だって、レキだって、俺のストーカー達だって、瑠河だって、白雪だって、楽器にだって認めさせる!」

 それを忘れて認められなかったと、自分たちが勘定に入っていなかったことに怒って四季は殴った。

「ああ、いや違う! みんな認めてんだよ、アリアの事を!」

 眼がしらにためていた涙が限界を超えて頬を伝う。四季は怒っているのか泣いているのか、多分どっちもなのだろう、そんな表情をしながら地べたでしりもちをついたまま動かない、動けないアリアの胸ぐらをつかんだ。

「それに、頼むから気が付いてくれよ!」

 親友だと思っていた、パートナーだと思っていた、仲間だと思っていた、可愛い後輩だと思っていた、可笑しな同級生だと思っていた、頼れる先輩だと思っていた、それを自分はないがしろにしたのだと、アリアは四季の言葉で気が付かされた。

「ごめんなさ……」

「俺らはそんなにも無力なのか!? 無価値だったのか!?」

「違う……、違う!」

 だったら言ってくれよと、相談してくれよと、悩みを打ち明けてくれよと、泣きながら呂律がめちゃくちゃになりながら四季は言った。言ってくれた。

 アリアは四季の肩に顔を押し付けて涙を流す。ここが敵地のど真ん中であることを忘れて、泣いた泣いた。

 

「ねえねえ、肩がぐしょぐしょで気持ち悪いんだけど」

「お前は少しぐらい感動を持続させろ」

 泣き晴らした四季とアリアの目は赤くなっているが、四季は早々に切り替えて文句を言い始めた。アリアはいまだにぐすぐすと泣いているが、それでも前に進む。

 そう、アリアを取り戻して終わりではない。名探偵にしてイ・ウーの頭目であるシャーロック・ホームズを逮捕しなければいけない。

 道のりはアリアが知っている。ここまでがシャーロックホームズの掌の上で踊らされていることは、彼らも理解していた。

 理解したうえで前に進む。前に、進んでいたはずだった。

「……こんな部屋、私知らないわ」

 行き止まり、というよりもある部屋の扉の前にたどり着いてしまった。

「空間遣い……、腹が立つほど踊らされてるね」

 と言って扉を開ける四季。キンジとアリアはあまりにも唐突で、何の相談もしない四季の行動にギョッとする。さっきの相談しろという発言を思い返せと言ってやろうか。

 

「……罠はありませんよ。するとしたらあなた方はとうの昔に転がっています」

 部屋の奥から声が聞こえてきた。声の主は安楽椅子に座っている髪の綺麗な隻腕の美女だった。

「狭い密閉空間。ガスマスクもなしに入ってくるなんて、まったく、万全どころか十全すらできていない」

 隻腕の女性は幽鬼のようにつかみどころのない、あり大抵に行ってふらふらと三人のもとに近づいてくる。

 三人、否、キンジとアリアはなぜか警戒ができない。なぜかは分からないが、この人は大丈夫だと、この人の邪魔をしてはいけないと、分かってしまった。

 

「やっと会えた。やっと約束を守れた」

 泣きながら四季に抱き着く女性に四季は目を見開いて抵抗をしない。

「四季君、やっと、やっと会えましたね」

 

 

 

 きっと忘れている。もう十何年前の話か。四季は幼かった。自分は若かった。年月も、身体の変化も、あまりにも長すぎた。

 この約束の成就は自分のわがままだ。いたずらに四季を混乱させるだけだ。そんなことは分かっている。

「四季君、やっと、やっと会えましたね」

 この言葉に、やはりキョトンと、玉藻の生き写しというには十分なほど似通っている四季の顔はしていた。もしも玉藻がまっとうな感情を持っていたのならばこんな表情もしたのだろうか、と思いをはせるが、そんな仮の話を、死んだ人間の仮の話をしても始まらないと切り捨てる。このように約束も切り捨てればよかったのだ。

 何も言わない四季の肩から手を放し、立ち去ろうとする。これでいいのだ。このために多くのものを犠牲にした。きっと上ではNo.3の手によって何十人かは死んだはずだ。

 まあ、いい。いまさら自分が生きていく中で何人死んだなんて気にするほど、殊勝な生き方はしていない。

 だから、これでいい。これでよかったはずだった。

「お姉ちゃん、ずっと待っていたんだよ!」

 策士の目に映ったのは、頬膨らませた四季の顔だった。

 

 

「人の記憶というものは不思議でね」

 イ・ウーの最奥で、教授は独り言を言う。No.3たちを信じて、策士の策というにはあまりにも自暴自棄な、それでいて崩しようのない策を崩すために、様々な手段を講じた。

「ある記録によると、胎児期の記憶すら持っている人間がいる。齢一歳となるともっとだ」

 あの策士の策はあまりにも悲しかった。柄もなく助けてやりたいと思ってしまった。

 No.3達とはかろうじて闘争という名のつながりを持っていたが、それ以外とのつながりは皆無であった。

 故に簡単に推理できてしまった。策が終わると、あの策士は死ぬだろうと。

「だれしも、テストが終わる鐘の音で思い出せなかった答えが思い出せたという経験があるように、記憶にはトリガーとなるものがある」

 だから、崩す。彼女には死んでほしくなかった。たったそれだけだ。それ以上に理由は必要だとも思わないが。

「故に、四季君の周りに大量のトリガーを置いた。もっとも決め手になったのは彼女と直接会ったことだろうがね」

 それでも成功するかどうかは五分、いや甘く見積もっても三分に行くか行かないかだ。それでも賭けに勝った。

「まったく、彼女の策が敗れた顔を見てみたいものだよ」

 きっとNo.3も同じように笑ったのだろう。そう思いをはせながらほほ笑む教授は、来客を歓迎する。人数は三人、この後のことも考えると少々厳しいが、まあ何とかなるだろう。

 

 

「四季君……なんで……」

「待ってたんだよ!」

 頬を膨らませて、私――萩原子荻――の顔を真正面から見る四季。

 すでに赤くなった眼にまた涙を蓄える四季に、若干焦る。ああ、どうしてこの子はこうなのだろう。自分はこの子になんて弱いのだろう。

「ずっとずっと待ってて、でも来なくって……」

 --さみしかった。涙を流しながら絞り出された言葉に、再度四季を抱きしめて答える。

 そうだったのか。覚えていてくれたのか。あのまどろみの中の約束を……。

「ごめんなさい。ごめんね、ごめんね」

 腕の傷がふさがってすぐにでも引き取りに行こうと思った。

 しかし、自分は公的には死んでおり、仮に違ったとしても未成年で、後継人なれるわけがなかった。

 そのあとどうにかして身分を作って孤児院に行ったときには、四季は引き取られていた。身元保証人の名前に彼の『赤き制裁(オーバーキルドレッド)』の名前があり、絶望した。

 もうどうやっても手が届かないのではないか。そもそもあんなのに喧嘩を売るような組織など、それこそ零崎ぐらいだろう。その零崎もほぼほぼ壊滅している。

 

 だから、こんなに時間が掛かってしまった。

 ああ、言い訳はよそう。

 

 ただ、今は前もって謝っておこう(・・・・・・・・・・)

 

 

「そう構えないでください。ただの麻酔です」

 策士の腕の中でがくりと倒れこんだ四季を見て、臨戦態勢をとるアリアとキンジ。

 特にアリアは歯を向いて今にも殺しにかかりそうだ。それほどに殺気をみなぎらせている。

「この先には二人でどうぞ。この子は私が責任をもって保護します」

「信じるとでも?」

 怒り心頭と言った口調でキンジは警戒を解かない。アリアにとっては勿論、キンジにとっても四季は大切な数少ない男友達だ。

 そんな二人にとっても大切な親友を、こんな得体のしれない女に、四季を眠らせて、四季に抱き着いて傷一つない女に、任せるなんて口が裂けても言えない。

「……まさかとは思いますが、あなた方は私にも勝って、教授にも勝てるとでも?」

 心底不思議そうな声で語りかける策士。

 策士にとってみれば、この二人は弱い。弱った教授に温情を駆けられてようやく勝てるのだろう。No.3たちにはまず勝てない。ちょっと前までなら、あの三人の慢心に漬け込むこともできただろうが、今の研鑽を積んだ三人には慢心はない。そもそもなぜ乗り込んだのか。策もなければ実力も伴っていない。だから、不思議で不思議でたまらなかった。

「危害は加えません。約束します」

「だから……ッ!」

「じゃあ、さようなら」

 四季を抱きかかえて部屋から出て行こうとする女を、アリアは止めようとするが地に付していた。

「――ッッッ!?」

 そして女は二人の目の前から消えていた。

 

 

「四季、四季! ねえ四季!」

 居なくなってしまった、自分を助けるためにここまで来てくれた親友が攫われてしまったアリアは、四季を呼ぶ。答えが来ないことは分かっていても叫ぶ。

「『ん? 何』」

「四季!」

「じゃ、ねえぜ! ぎゃはは!」

 現れたのは、なぜか小夜鳴先生とパトラを背負っているボロボロな匂宮絵札だった。

「まあ、四季なら大丈夫だろ。あの策士は四季のために生きてんだから」

「でも! このままじゃ!」

 ――あしたも学校で会えるだろうさ。といってそそくさと出ていく匂宮絵札。

「もっとも、この先にゃ、人類の最高峰がいるけどな。ぎゃははは、武芸百般(メアリー・スー)の奥義たる『飽食(デウス・エクス・マキナ)』を使って敗走たあ、いつぶりだあ?」

 

 

 ここから先は、何も変わらない。

 それはイ・ウーの壊滅であり、イ・ウーとの戦いにキンジとアリアは勝利した。

 しかしそれは、名探偵と策士によって終始踊らされ、強制的に四季は舞台から降ろされたという結果に他ならない。




 四季って大切な時にいつもいないような気がしてきました。
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