緋弾のアリア -強襲科の狂戦士-   作:南瓜お化け

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新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
今回は匂宮絵札VS蘭豹です。
一応、前もって言っておきますが、匂宮絵札は匂宮兄弟の後継機です。めちゃんこ強いです。
それはともかく、ソロモンカムバック。


第35狂 就職活動

 夏休みの初日に匂宮絵札は校長室に呼び出された。すっぽかそうとも考えたが、今は学生。おとなしく呼び出しに応じることにした。

「絵札さん、貴女は匂宮雑技団の構成員ですね」

「気が付かなかったのかい、クソ雑魚松校長さんよお」

 武偵校の校長室で緑松校長と匂宮絵札、そしてこの二人を囲む教師陣。普通の、いやたとえ一流の武偵だろうと絶体絶命の四文字が脳裏よぎるであろうこの状況でなお絵札は余裕だった。

「ぎゃはは、『姿の見える透明人間』たいしたこたあねえ、こんな風によ!」

 絵札は思いついたように、緑松の顎へトーキックをかました。絵札からすれば手加減も手加減、首が取れないように、むしろよけられるように速度を抑えた。

 しかし、緑松はよけなかった。よけようと体が動くのを無理やり抑えつけて、あえて受けた。周りの教師陣はすぐさま臨戦態勢をとるが、緑松がふらつきながら制止する。

「それで、貴女をおいそれと学校においておくことはできません」

「すげえすげえ、まともに食らったのに言語機能がマヒしていない。ぎゃははは」

 軽薄に緑松を称賛する絵札。しかし、緑松は椅子に座り、しっかりとしゃべるのが限界だった。絵札のトーキックはそれほどまでに打ちどころがよかった。

 だが、これでいい。これで確認が取れた。そしてその結果を教師たちに、蘭豹に見せることができた。

「なので、蘭豹先生と戦ってください。そのうえで我々が判断します」

「さよならランピョーセンセー」

 あらかじめ決まっていた路線に乗せた。しかし、同時にここから先はだれにもわからない。蘭豹の勝利で終わるのが最善。しかし、この場にいる教師全員が殺戮される可能性さえはらんでいる。

 そして、絵札はなめくさった態度でニヤニヤしながら蘭豹をみる。そんな絵札を蘭豹は強く睨め浸ける。

 

 

 強襲科の戦闘訓練用モックで、蘭豹と絵札による教師陣が囲むランバージャックが行われる。

 そしてそれを遠くのビルから望遠鏡をのぞきながら観察する人影が三つ。

 隻腕の策士『萩原子荻』

 砂礫の魔女『パトラ』

 吸血鬼『ヴラド』の擬態『小夜鳴徹』

 この三人で、彼女たちにとっては一種の出来レースを見ていた。蘭豹は強いだろう。しかし、たりない。圧倒的に何もかもが足りない。

 故に彼女たちは楽しむための遊びを考えた。

「皆さん、蘭豹さんが何分粘るかで賭けをしませんか?」

 薄っぺらい笑顔で策士は提案をした。他の二人はうなずき、時間と掛け金を提示する。

「30分に100じゃ」

「30分に、そうですね薄給なもので5で」

「30分に50」

 満場一致で30分。これでは賭けにならない。誰か変えないかと、バチバチと視線を交わすが誰も変えなかった。

「では、『飽食(デウス・エクス・マキナ)』をどれだけ引き出せるかで賭けましょう」

「3、いや5に10じゃ」

「えーーっと、9ですかね。4で」

「15に8で」

 これで賭けが成立した。だれもが蘭豹を舐め腐っている。それほどまでに自分たちと同等か自分に迫る匂宮絵札を評価している。しかし、彼女たちは知らない。蘭豹という一人の武偵を、一切知らない。

 

 

 

「武芸十八般だからってわけじゃあないんだけど、杖術でいっかー」

 武芸十八般、すなわち武芸者が最低限納めるべきとされた十八の武術、弓術、馬術、水術、薙刀術、槍術、剣術、小具足、棒術、杖術、鎖鎌術、分銅鎖、手裏剣、含針術、十手術、居合・抜刀術、柔術、捕手術、もじり術、隠形術、砲術の総称である。時として中身や順番が変わることがあるものの、これは十八にわける、もしくは選ぶ際の個人の趣味嗜好であると考えていいだろう。

 さて、杖術はその名前こそマイナーであるが武芸十八般の中では取得者が多いのではないだろうか。なにしろ日本警察には警杖術と呼ばれる武芸があり、武偵の中でも取得しているものも多い。蘭豹もまたその技術は知っていた。知っていたが、絵札の使う杖術はましてや警察、武偵が使う『殺さないため』の技術であるとは考えにくい。

「今の私は武偵だ。殺しゃしねーよ」

 軽薄そうに言う絵札。殺し屋に殺さないように戦う。これは『手加減してやる』と言われているようなもので、お世辞にも気が長いとは言えない蘭豹は間髪入れず斬馬刀で切りかかった。

 蘭豹の攻撃を当たり前のように避ける絵札は、相変わらずヘラヘラと笑っていた。

「おおー、スゲー膂力。羨ましいことで」

「死ね!」

 こうしてバトルが始まった。

 

 

 

「おお。凄いですね」

「チッ、もう負けじゃ。賭けに負けじゃ。妾はかえる」

「帰るのはいいですが、お金は置いて行ってくださいね」

 ビルで蘭豹の評価を改める三名。しかし、彼らのトランプに対する評価はゆるぎなかった。

「殺しちゃった場合どうします?」

「あの場にいる奴ら殺して貸しをつくるのじゃ」

「え、その殺害対象私も入ってませんよね?」

 そもそも彼らは、仮にトランプVS教師全員だったとしても、トランプが皆殺しにして勝利するとさえ考えていた。もちろんそれは過大評価だし、トランプももしそのような状況ならば逃げる。

 だが、蘭豹を勢い余って力加減を間違えて、殺してしまうこととなれば、あの教師陣の円から逃げおおすのはさすがに厳しいだろう。教師の一人であるスナイパーの南郷は不幸にも、彼らがいるマンションにいたからという理由ではりつけにされているが、少しだけだが手こずった。一人でも手こずる相手を、あの人数相手になると皆殺しぐらいしか道はない。

「さてと、せいぜいあがいてくださいよ、えーっとカンピョウさんでしたっけ?」

 

 

 

 蘭豹と絵札、この二人の最大の違いはそのリーチだろう。武器としているものの長さも、身体の大きさも、蘭豹が長い。故に序盤は蘭豹が攻勢一方、絵札が防戦一方という形だった。そう、序盤は。

 時間がたつにつれ、蘭豹の動きは鈍くなっていった。無理はない、斬馬刀などという重く長いものを、膂力にものを言わせて振り回していれば自然とスタミナは切れる。対して、杖術を使っている絵札に疲れは見られない。軽い木の棒をもって、武器を一切振り回さず、よけること、蘭豹に武器を振り回せることだけに集中しているので疲れは薄かった。

 だが、想定外のことが一つだけあった。

「あんたすげえよ、戦国時代だってそんな風に振り回す奴はいなかっただろうに」

「うるっさいわ!」

 蘭豹が斬馬刀を使い続ける。これが想定外だった。絵札はすぐに手放すと思っていた。手放し、徒手空拳で挑んできて、杖術で滅多打ち。これが絵札の青写真だった。

 しかし、どうだろうか、蘭豹は斬馬刀でいまだに切りかかってくる。うっとうしいから杖で手の甲を叩いても、刀を落とさなかった。根性、肉体の強さ、どれをとっても規格外。裏の世界でも十分に通用する。だが、それだけだ。通用するだけだ、生き残れるだけだ。トップを走る絵札にはまだ届かない。

 

 

「ハァハァ、いい加減にせんかい」

「うん、分かった」

 おおよそ20分は戦っただろうか。いままで軽薄な表情だった絵札が、一瞬だが薄ら笑いをして、薄ら笑いをして、薄ら笑いをして――

「ッ!?」

「よけるねえ!」

 杖を捨てて殴った。しかし、問題なのはそこではない。

 もしも絵札があと一歩、否半歩前にいたのならば、今のジャブに蘭豹は反応できなかっただろう。しかし、結果は変わらない。蘭豹はジャブをよけた。

 一瞬、いや瞬く間もないほどの安堵が蘭豹を襲う。誰もこの感情を持ってしまった蘭豹を非難することはできないだろう。

 誰もが抱く安堵、誰も抱けない安堵、それが失敗だった。

「『奪刀術』」

 蘭豹がかろうじて、意地で持っていた斬馬刀を奪う絵札。しかし使うことはせずにガランと投げ捨てる。

 投げ捨てられた斬馬刀を拾おうと跳ぶ蘭豹だが、顔面にジャブを極められる。

「『ボクシング』。10オンスのグローブなんて気の利いたもんはねえぞ!」

「なめんなッ! ガキィ!」

 殴り合い(ボクシング)が始まった。

 手数では、技術では、圧倒的に絵札が上回っている。仮に、仮に、ボクシングに段位があるとすれば絵札は9段は下らない。しかし、ボクシングにあるのは段位ではなく、階級。

 すなわち体格の差だ。背丈だけでも160センチに満たない絵札と大女と形容される蘭豹では違う。筋力もリーチも蘭豹が大きく上回っている。その差を埋めるだけの技術は素晴らしい。素晴らしいだけに、蘭豹は理解できなかった。

 ――なぜ、この殺し屋はボクシングに必要な筋肉をつけなかったのかと。

 その答えはすぐにわかった。

「『飽食(デウス・エクス・マキナ)』限定発動」

 そんな声が聞こえたと思う間もなく、蘭豹は捕まった。そう気づいたときにはすでに遅かった。

 

 

 

「『飽食(デウス・エクス・マキナ)』。技というよりも流派のようなものですね」

 ある日、イ・ウーで『どの格闘技が最強か』というある意味では定番の話題で盛り上がっていた。最終的に弓だの剣だの刀だの槍だのと格闘技ではないものまで入ってきたところで、トランプは当たり前のように答え(・・)を言った。

『全部覚えりゃいいじゃん』

 確かにその通りだ。全部覚えれば最強だ。相手に合わせてこちらが有利になる武術を使えばいい。それが最適解だ。だがそれはできない。それを実現するには人の命はあまりに短い。

 一つ一つでの競技レベルなら話は別だ。しようと思えばいくらでもできるだろう。しかし、複数を実用レベル、それも並行で実践レベルにすべてを覚えるなどまず無理だ。その無理をなぜかできてしまったのがトランプだった。

 しかし、すべてを覚える過程で筋力はどうしても抑える必要があった。技術は極められても威力が追い付かなかった。

 しかし、いくら追いつかないとはいえ『暴力の世界』の人間。常人なら最初のジャブは避けられず、二発目のジャブで意識を失っていたはずだ。そこはさすがは武偵校の教師と言ったところか。

「ほめてあげますが、ここまででしょうね」

 

 

 

「ぐううぅ……!」

 ここで初めて蘭豹の動きが封じられた。一方的に攻められることはあったが動きが止まることはなかった。

 それもそうだ。彼女は知識として知ってはいても、本格的な攻撃は初めてだったのだ。

 『ムエタイ』。近接格闘技では最強とも言われており、年末の罰ゲームでも有名な武術だ。

 しかし、絵札が行ったのはタイキックではない。ムエタイにおいて最も評価の高い首相撲だ。

 相手の首を両手で捕まえて胴体に攻撃を叩きこむ。これが評価が高いのは、相手に何もさせないからだ。

 膂力で、筋力で、パワーで、覆せるほど技術(武術)は甘くない。否、膂力を、筋力を、パワーを、制するために技術(武術)は作られた。

 ガッ、ガっ、ガッ、ガッ、と絵札の蹴りが続く。蘭豹はガードの姿勢をとっているが、それでもいくらか骨は折れた。

 周りの教師は、当初の『ランバージャックで袋叩き』の計画があっさりと覆ったことと、彼我の戦力差からそれを行った場合押し出す腕がおられることを理解した。

 しかし、実力差がありながらも絵札は決め手に欠けていた。攻撃を当てるのは楽だ。しかし蘭豹のタフネスが常軌を逸していた。あるいは生徒には負けるわけにはいかないという教師としての気概からか、一向に倒れる気配のない蘭豹に苛立ちを覚えていた。

「チィっ!」

 一分間蹴り続けて、それでも倒れなかった。その事実によって根負けした絵札が圧倒的に有利な状況を捨てて距離をとった。しかし、そのことに蘭豹に安堵する暇を与えずに一度やめた杖術で再度攻撃する。

 周りのものにも、蘭豹にもそう見えたはずだ。しかし、最初に蘭豹に届いたのは杖ではなく肩への蹴りだった。続けて杖が蘭豹を襲う。

 が、これは防がれた。

「サバットぐらいは知っとるわ。ボケェ!」

「あっそう」

 ストリートファイトが原型とされるサバットであるが、ラ・カンとよばれる杖を使ったものもある。しかし、これはサバットの武偵向きな性質上、蘭豹にとってやりなれたものだった。

 しかし、たかだが『武芸百般(メアリー・スー)』のうちの一つを攻略した程度で、有利不利が傾くわけではない。絵札の多彩な攻撃の数々に圧倒され続ける蘭豹という構図は変わらなかった。

 

 そして薄ら笑いから10分が過ぎようとしたところで、限界が来た。蘭豹の体が糸の切れた操り人形のように倒れたのだ。無理もない、『暴力の世界』のトップランカーの打撃を受け続けたのだ。限界というならとうの昔に来ていた。それを意地で補っていたにすぎない。そして限界が来た。精神や心、脳機能よりもさきに身体が危険信号として、安全装置として倒れることを選んだのだ。蘭豹に意識はある。しかし身体は戦うことを拒否した。

「あんたすげえよ」

 トンッ、と絵札が蘭豹の頸椎を蹴り、蘭豹の意識はとんだ。

 

 

「私の負けだよ」

 不満げにつぶやき緑松校長をみる絵札。言葉の真意は分からないが、だれがどう見たって匂宮絵札の圧勝以外の何物でもない。

「一つの戦いは30分ってマイルールだよ。30分過ぎた、私の負けだ」

 なんという、なんという侮辱だろうか。仮にこれがスポーツだとして30分ちょうどでレフリーが止めたとしても、絵札の判定勝ちだ。それを過ぎたから負けとは、何たる侮辱。

 それに、それに……。

「その袖の短剣はなんですか?」

「暗器だよ。馬鹿なの?」

 その短剣で刺そうと思えば刺すこともできただろうに。それだけではない。匂宮絵札は杖術をのぞき打撃格闘技のみを使っていた。絞め技、組み技などの非力なものが補うための技を一切として使わなかったのだ。

 そのうえで、負けたなどと言われても、怒りしか出てこない。

「どうするあんたら。死ぬ?」

「……」

 あくまで勝てるという匂宮絵札の言葉で、一触即発の空気が流れる。

 

 

 この空気を絶ったのは一つの銃声だった。威嚇射撃ではなく、緑松校長の肩を襲った弾丸の銃声だった。

「チッ、余計なことしやがって」

「余計なことととは何ですか」

 突然の声にざわつく教師陣とうんざりしたように頭を掻く絵札。そしてそのざわつくとうんざりはすぐに別のものへと変わった。

 声の発生元はトランシーバーだった。しかしトランシーバーを持っている存在がなぞだった。

 いったいどこのだれが砂でできたアヌビス像がトランシーバーを持っていることにざわつかないだろうか。

「パトラもいんのか?」

「ええ。二人そろってパトランプですね」

「そろえんな」

 そんな状況にも全く動じずにトランシーバーの向こうの人物と話す絵札。これを好機と襲い掛かった一部の教師たちはいともたやすく制圧された。

「では、武偵高の皆様、取引をしましょう」

「われわれが応じるとでも?」

「緑松校長、我々があなた方の家族についてなんの工作もしていないとでも?」

 取引とは名ばかりの脅迫に、たじろぐ一同。自分の命だけならばいくらでもかけることはできても、大切なものを賭けにだすほど彼らは人でなしの集団ではなかった。

「ついでに、かつてとある零崎は一賊に仇名す者と同じマンションに住んでいたからという理由で、マンションの生き物全部殺したそうですよ。いえ、ただの世間話ですよ?」

 ダメ押しの脅しにざわつくこともできない。

「なに、そう構えないでください。取引は二つです」

「まて……、君は何者だ……」

「取引が終わったら教えてあげます。一つ目はそこの匂宮絵札を今まで通り生徒として学校に通わせること。二つ目は私を教師として雇用すること。この二つです」

 ふざけるなと言いたい。こんな面接あってたまるか。圧迫面接も圧迫面接。それも立場が逆転した圧迫面接だ。しかし、応じる以外に道はなかった。日米和親条約を結んだ江戸幕府の気持ちが分かったような気がする教師陣。

 彼らは零崎でもなければ、殺し名でもない。狙撃銃の音速を超える弾丸をよけるすべなどないのだから。

「分かった。君を雇用する」

「ありがとうございます」

 しかし、この選択が果たして教育機関として失敗だったかというと、そうでもない。彼らは期せずして優秀極まりない教師を雇用できたのだから。

「では、改めて初めまして」

 彼女は名乗った。その名前にどれだけの価値があるのかは、彼女の掌の上で踊らされていたものならばわかるものだった。

 かつて大鋏と釘バットの二大地獄を相手取り、そのうえで生き残った驚異の規格外。その事実だけでも彼女を伝説とするには十分過ぎた。

 

 ――萩原子荻。

 

 こうしておいしいところだけをかっさらって、ついでに賭けにも勝って、夏休み前の決闘は、萩原子荻の一人勝ちで幕を下ろした。

 

 




就職活動(脅迫)。
いや、名探偵さん、安心しないでください。止めてあげてください。

ちなみにいいわけですが、あそこで蘭豹が倒れていなかった場合、絵札は蘭豹を殺していました。それほどに白熱した戦いだったのです。
いつでも殺せんじゃん、原作キャラの弱体化は認めんぞ、というそこのあなた。人工島を傾ける馬鹿力を持った人間が本気で殴ったら人死ぬでしょ? つまり二人とも相手を殺さないように手加減しながら、真剣に本気で全力で戦っていたのです。
本文に書けって? 忘れてました。すみません。
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