緋弾のアリア -強襲科の狂戦士-   作:南瓜お化け

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第6狂―――ズタズタに

さて、この話は、いわゆる第三者視点、もしくは神の目で進行させてもらう。こうする他ないのだ。この話の中では、西条四季の視点での話などとうてい無理なのだから。

 西条四季は両親の才能を色濃く受け継いでいる。特に母親の存在は大きい。大きすぎると言っても過言ではないだろう。最強の赤色でさえ、最終の橙色でさえ、暴君の青色でさえ、危険な黄色でさえ、失敗作の殺し屋でさえ、小山の策士でさえ、そして血統書付きの殺人鬼でさえ、到底到達し得ない領域に到達してしまった母親の才能と呼ぶにはあまりにも制御のきかない、それこそ災害や現象といったほうが正しいあれは、父親譲りの卓越したナイフ術さえ霞んでしまう。彼は否定するだろうが、ナイフ術そのものは根気よく教えれば、ある程度は再現できる。関節の異常なまでの柔軟性は、さすがに再現は難しいかもしれないが、身長差がある程度カバーしてくれるだろう。

 しかし、母親の災害は、不可能だ。あれは人間が足掻いてどうこうなるものではない。

 はっきりと言おう。西条四季は喜ばしいことに殺人鬼ではない。現象だ。と。

 もしも仮に、この話を西条四季の主観にするとすれば、会話文も回想もなく、地の文にこう書かれるだろう。---ズタズタに、と。

 

「ぐ、ううううう!」

 神崎・H・アリアは苦戦していた。

 バスジャックが起きて、実践での実力を見るために、四季と遠山キンジ、そしてレキを引き連れて、救出に向かった。

 爆弾を無効化し、バスを追っていたセグウェイは、四季の活躍によって見事ズタズタに破壊した。問題はそこからだった。四季が暴走したのだった。少なくともアリアの目にはそう写ったはずだ。

 なんとか、バス内部ではなく、バスの屋根の上での先頭にもつれ込ませたが、バスを止めてから移ればよかったと公開している。キンジは負傷した運転手の代わりにバスの運転にかかりきりで、レキはアリアごと撃ってきそうなメンタルの持ち主なので、予めキンジが味方を打たないようにいってあった。

 結果として、高速道路を走るバスの上でアリアと四季は争っていた。

「あ、んったねえ!!」

 運が悪かった。と、アリアは本気で思う。実際に運が悪かったのだ。車輌科が朝練で、バスに誰一人として載っていないこと。四季の暴走によって、実力のあるものは負傷し、ないものは腰が抜けた。

「っ!?」

 アリアは大きく引いた。普通であれば、例え、一流の武偵であろうとも本来は入り込んでこないところを、本来は踏み込めないあと一歩を、平気な顔をして、一歩どころか、二歩三歩と踏み込んでくる。日本刀とナイフ、小太刀とはいえ、接近戦になればなるほどナイフの方が圧倒的に有利になる。だから、引かざるを得なかった。しかし、バスの上という限られた空間の上で、引くという選択肢はあまり褒められたものではない。引かなければズタズタに、引けばバスから落ちる。最良の選択などなかった。

 バスの方は少しずつ、少しずつではあるが、減速している。ブレーキなどかけられようものなら、慣性の法則で吹っ飛ぶ。

 

 アリアは苦戦する。苦く長い戦いになりそうだ。

 

 

「二人共、ただの出血が多かっただけですよ。あれなら、減速などせずにそのままかっ飛ばして、病院に来るべきでした」

「……そう、だな」

 武偵病院のロビーで、紅梅楽器と遠山キンジは、話をしていた。

 結局あの戦いは、四季が血を流しすぎたため、倒れ、続いてアリアが倒れた。命に別条はないまでも、武偵高でもトップクラスの実戦経験と実力のある西条四季と、世界規模で見てもトップクラスの武偵である神崎・H・アリアの両方が、バスジャックに向かい満身創痍で帰ってきたという事実は、武偵高中に瞬く間に広まった。

「いまのところ、二人がバスの上で、……死闘を繰り広げたということは出回っていません。バスジャックの被害者の皆さんも、口をつぐんでいますし」

 バスジャックに為す術がなかった、というだけでも武偵として恥なのに、たった一人に負け、一人の女子生徒にすべてを任せたなど、口が裂けても言えないだろう。

「四季は、覚えていないんだろうな」

「ええ、暴走した時の記憶は見事なまでにありません」

 二人共、今は麻酔で眠っている。四季には暴走時の記憶はない。だから、いくら注意しても、実感が無いのだ。最初の頃など、つくり話と思っていたらしい。記憶も実感もなければ、いくら注意しようと、そして、その注意をいくら真摯に受け止めようとも、制御できるはずがないのだ。

「俺が、出るべきだった」

「あなたが運転を始めてから、暴走したんですよ。出るべきではなかった」

 たしかに、遠山キンジがでていれば、暴走するまもなく鎮圧することはできただろう。遠山キンジと西条四季とでは、遠山キンジの方が有利になってしまう。

「そういや、紅梅さん。あんたはなんで、四季と契約したんだ?」

「ちっちゃくて可愛いからです」

 遠山キンジはかなり前から気になっていたことを、現実から少し離れるために聞いたら、思考が停止した。ちっちゃくてかわいい、確かにあいつは、写真で見せられた母親にそっくりであったし、父親に似ている部分もあったのだが、どちらにせよ、カワイイの部類に入る顔であった。そして、西条四季もまた可愛らしい顔立ちで小柄であった。一年の頃など、性別を間違われ、CVRに勧誘されたこともあった。

 だが! あのバーサーカーを可愛いからという理由で身近においておくなど、キンジにしてみればありえないことだった。だからこそ、思考が停止しながらも、精一杯の言葉を口に出す。

「は?」

 精一杯だった。精一杯だったのだ。

「ちっちゃくて可愛いからです。正直、最初は断ろうかな、と思っていたのですが、ドストライク。断る理由がなくなりました」

「馬鹿じゃねえの!?」

「可愛いは正義です! 法ってなんですか!? 可愛いこそが至高! だいたい、同い年ですからYESタッチです! 気絶している時に頬ずりしていますがなにか!?」

「教務科に引きずり出すぞ!」

「すいませんでした!」

 なんなんだ、このギャグ漫画の登場人物みたいな奴は。と、苦い顔をしながらキンジは、話を元に戻そうとする。

「たぶん、あのホシはすぐに動く。目星も大体ついた」

「言わなくて結構です。どーせ、内部の犯行でしょうし。あと、その奇妙な血流早くどうにかしたらどうですか? 聞いていて気持ち悪いです」

「切ったら寝ちまうから無理だ」

 どうやったら聞けるんだ、とキンジは思ったが気にしたら負けだとなんとなくわかったので、そのまま病院を後にした。

 

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