ニット帽の殺人鬼「いいですか、妹という単語は変態がよく使う言葉です」
ショタ四季「はーい」
ニット帽の殺人鬼「そんな変態は海にでも投げ捨てちゃいましょう」
ショタ四季「わかった!」
アリアの立てた作戦は、簡潔に言えば、一年どもがピンチになったら助ける、というものだった。俺からすれば過保護で必要のないものと感じたし、アリアも過保護だと言っていた。そう、必要のないまま終わるべきだった。だったのだが……。
はっきり言わせてもらう。これは当然の策だった。一年たちに、魔宮の蠍こと夾竹桃は荷が重すぎた。出来る限り、ぎりぎりまで、俺は出て行かないように努力した。努力が必要なほど、一年どもは悲惨だった。
間宮は取り逃がし、風魔は慢心し、火野は一撃で、佐々木は出るタイミングを見間違え、悲惨としか言いようがない。
そして何よりも、間宮の隠し持っていた技が、毒でないと理解すると、夾竹桃は興味を失いガトリングガンから、とりあえず手を離した。原理は分からないが、間宮が回転しながら触れたガトリングガンは木っ端微塵になった。だけどそれだけだ。夾竹桃には一切のダメージはなかった。そして、体制を崩した間宮は毒手にかかり、俺は表舞台に出る羽目になった。
「あー、闇鬼の西条四季って言えばわかるか?」
「ええ、零崎でしょう? 頼むから、私を恨まないで」
ちげーよ、とボヤきつつ、戦況を確認する。佐々木が道端に転がっていて邪魔だから、海にでも突き落とそうかな。
「あー、その間宮おいて行ってくれ。別に俺にはお前を捕まえる理由がない」
「あら、貴方は武偵でしょ?」
といって、雑に間宮を地面に落とす夾竹桃。こいつ腹立ってんだな、毒だと思っていたものが毒じゃなくて。
そりゃ俺だって、アリアの信頼を裏切った一年に結構腹は立てているけど、さすがに実際に行動には移さねえよ。
「ああ、そうだ。俺にはないだけで、武偵としてはある」
それでも、間宮と佐々木のグズコンビの救出を最優先にするんだけどな。
「つーか、俺を
「殺さなければいい。それだけよ」
もっとも、零崎の親戚なんて、初めて聞いたけどね。と続ける夾竹桃。
そう、零崎の親戚なんて俺ぐらいだろう。零崎は家族という括りしかない。そして、例外たる親戚の俺のセーフラインはどこまでなのか、それが誰にも分からない。少なくとも殺されたら、オバサンが復讐に乗り出すだろうけど、敵対程度じゃあ、何も起きない。
もっとも、それなしでも対策は講じてきている。毒使い、病毒遣いの感染血統奇野師団とはぜんぜん違うタイプだけど、しかし、ドーピングはしてやがる。恐らく痛みは感じないだろうし、身体もよく動くはずだ。
「じゃあ、始めるか」
「ええ、間宮の子は一応持ち帰らせてもらうわ」
戦いの始まる前の程よい緊張。狂化は、できない。この作戦は俺が俺のままで遂行しなければいけない。
「待って……くだ……さい……!」
「おい、火野。邪魔だから引っ込んでろ」
ハァハァ、言いながら火野出てきやがった。いつの間にか俺の右にいるし。邪魔だなあ。海に突き落とそうかな。
「さ、ぽーとしま……す」
「テメエに何が出来んだ。ウスラトンカチ」
火野はギリッ、と歯を食いしばりながら、決心を固めた主人公みたいな顔で俺をみる。なんともかっこいいが、苦しんでいるのが媚薬だから、格好つかねえな、おい。
「貴方の! 貴方の
海に投げ捨てた。妹と聞いて反射的に投げ捨てた。うわあああ、という無様な声が聞こえてくるが、妹なんていう変態しか使わないような言葉で、戦妹の上にルビ降ったほうが悪い。
「またせたな」
「……漫才なら吉本でやってなさい」
弱冠、いや結構哀れみを込めた目で海を見つめる夾竹桃。
仕方ないじゃん、妹なんて自己申告してきたんだから。
「それじゃあ、作戦コード『Dear Friend』開始だ」
「零崎は始めなくてもいいの?」
なるほど、呪い名じゃねえ! 開始直後に思い知らされた。夾竹桃は結構強かった。しかも避けるのに専念しているから、余計に厄介だ。毒は手に塗っているから、近接格闘はそれなりに得意なはずだ、と予想はしていた。火野との戦闘でも、蹴られながらも毒で犯した。恐らくわざと蹴られたんだろうな。そんな呪い名が、絶対にできないような戦い方を見てもなお、殺し名で鍛えられた俺は毒=奇野=呪い名=戦闘弱い、のなんの根拠もない図式が頭にありやがった。そもそもこいつは毒使いであって病毒遣いじゃねえ。いや、そもそも奇野師団なら戦闘にもつれ込むなんてことはまずしない。馬鹿か俺は!
「いいから、ズタズタにさせろよなああああ!」
「いやよ、痛いのは」
しかも極めつけはドーピング。一時的にだろうけど、疲れ知らずになってやがる。
「く、っソガああああああ!!!!」
その攻撃は、必然だった。苛立った俺に生じた致命的なスキ。その隙は毒手が届くのには十分すぎた。
……ああ、まったく。情けねえ。そう思いながら、俺は倒れた。
「は?」
不思議そうな声をだして、夾竹桃は倒れた。西条四季を撃破し、間宮を回収して帰ろうとしたら、ばたりと倒れたのだ。肩に間宮を乗せていたので、間宮は顔から落ちることになったのだが、まあ仕方ない。
「あ、え、でも、どうして……?」
体全体が動かなくなっていることに驚く夾竹桃だが、足にナイフが刺さっていることで、毒が盛られたことを確認したようだ。もっとも、それは毒ではなく、病院に普通にある薬なんだが。
「で、でも、どうして……、どうしてアナタが立っているの!?」
「テメエ、とりあえず、自分の指見やがれ」
そういって、俺、西条四季は勝ち誇りながら、
簡単な事だ。いくら強いとはいっても、毒手が主体で、必然的に近接格闘にもつれ込む必要があり、火野の蹴りを一切痛がらない。これは、もう痛覚がないからとしか思えない。そうでなくとも、爪が短くなったのには気づかない程度には、鈍くなっているのだろう。
そして、いくら隙が生じたとはいえ、ご丁寧にチクリと刺すほどの余裕はなかったらしく、横に切るように俺に触れた。
「気が狂ってるわ」
「よく言われる」
俺の制服を見て、正確には夾竹桃が触れて、敗れた制服から見える右脇腹を見て、憎々しげにいう。そこには、いやそこでなくとも、服で隠されているほぼ全身に、俺は刃物を仕込んでいる。人間の爪はもちろん、肉や骨すらも簡単に切る事ができる、父さんの形見。もちろん普通に転べば、俺だって大けがをする。さっきだって注意しながら、意図的に倒れたとはいえ、軽く切り傷ができた。
もしも、もしも夾竹桃が、この前の火野のように、俺を殴ろうとしていたならば、きっと彼女の左手はズタズタに、皮も肉も骨もズタズタになっていただろう。
そんな全身凶器に無造作に触れて、爪だけとは、どうしてなかなか、運がいいやつだな。
「毒は何を使ったの」
「病院でよく使われる薬」
「なるほどね」
まあ、もしも病院に運ばれて手術するときに、この薬使えねえ! ってならないように耐性は考えて作るはずだ。と賭けたのだが、もし外れても、手負いだから奇襲して勝てたし、どっちに転んでも勝てる賭けだった。
「私の負けね。零崎さん」
「零崎じゃねえよ。西条四季、武偵だ」
次の日、恨めしげな顔の火野にであった。
「なんで、助けてくれなかったんですか……」
「あ、ごめん。忘れてた」
そういや、海に落としたんだった。これキンジにしられたら……何もしねえなあいつ。うん。
「あー、お前ってアイドルとか好きか?」
「なに話題そらそうとしているんですか!? 好きですけど!」
「こんどアイドルの護衛の仕事入ったから、手伝わせてやる。報酬は7:3だ」
「酷い! 色々と酷い!」
「じゃあやめる?」
「うけます! いつですか!?」
こいつイジってておもしれー。まあ、飯でもおごってやるかな。キンジじゃあるまいし(キンジなら北海道から本州まで泳いできたとか言われても驚かない)、結構大変だったろうし、割と本気で悪いことしたし。
一応一区切りついたので、次話は登場人物紹介にしようかなと思っていますので、それほど時間はかけないつもりです。