そこに性癖のキャラをぶち込んでぬるぬる動かすのもいいよね。
ということで書いてみた短編集。
基本的に一話完結です。
「……」
「……」
「……」
『……ねえユウカ、何をしているのかな?』
「見てわかりませんか?先生。ここにいる、仕事もせずにただシャーレの部室でゴロゴロしているだけのゴクツブシに仕事をするように催促しているんです。」
『そうなんだ……』
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連邦捜査部シャーレには、ただいるだけで一切の仕事をしないゴクツブシがいる。そんな噂が、いつの頃からだろうか、シャーレ部員の中で広まっていた。
まあ。
噂なんて言ってはいるが、実のところ噂扱いしているのはまだ当番を迎えたことのない生徒か、注意散漫な生徒だけである。それ以外のシャーレ部員は皆、目撃したことがある。
曰く、シャーレの最古参でかつて凄まじい活躍をしただとか、連邦生徒会の密偵だとか、万魔殿のメンバーだとか。当人からすれば荒唐無稽の噂話が広がっていた。
彼女の真実を知るものは、確かにいる。それこそ各学園の要職についていたりだとか、年長者だとか、そういった生徒は見たこともあるだろう。黒いローブを纏ったその少女のことを。
しかし、皆同じようにして口をつぐむ。何か重大な秘密でもあるのか、それとも彼女を恐れているのか。その心は当人達しか分からない。
……まあ、知らない人からすると、そうでもないわけで。
ただの怪しい無職(推定)なだけであるので。
今日も、とある無謀な少女達がその正体を探ろうとしていた。
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「カエデちゃん、イズナちゃん、準備はいい?」
「勿論です!モモイ殿!」
「もちろん!とうとうあの悪党の正体を暴いてやるんだから!」
そういいながらシャーレに突撃してきたのは、モモイ、イズナ、カエデの三人。
前二人はシャーレにはそこそこ早い段階で所属してはいるものの、主に先生にかまっていた為に考えもせず。
カエデに関しては、シャーレの当番に来たとしても回数がそこまで多くないために聞くに聞けず。
たまたま正体を知らない三人が、いつものように任務を終えて帰還する最中、たまたま彼女の話となり、三人ならばと一気呵成に飛び込んできたのが事の顛末である。
いつもなら飛び込む先生を無視……はできないので軽く挨拶をする程度で済まし、定位置と化している窓際のデスクに座っている彼女の元へ一直線。
「さあ!覚悟して!この私が来たからにはあなたの野望は失敗に終わるのよ!」
ちなみにここまで野望云々の話は一切出ていない。全てカエデの脳内での出来事である。
「ちょ、ちょっと、カエデちゃん!」
「おお!カエデ殿はアグレッシブですね!」
コトリ、と飲んでいたティーカップを置く。
中には黒い液体が見えるので、おそらくコーヒーだろう。
「あっ、コーヒー!あなた飲めるの!?」
答えようとした彼女の発言を遮ってカエデがコーヒーに驚く。前飲んだときに苦くて泣きそうになったことを思い出したのだろう、どことなく顔が青くなっている。
対して少女の方は、少し困惑しているのか所在なさげにカップを上げ下げする。
「とりあえず!あー、えーと、その、うーん……はじめまして!わたしはモモイ!」
見かねたモモイが話を続けようとするが、良い話題が思いつかなかったのだろう、挨拶から入る。
「どうも、イズナです!」
「修行部のマスコット、カエデとは私のことよ!」
とりあえず2人も追随する。まあ深く考えるだなんて高尚なことをやっているのはキヴォトスでも少数派で、大体の生徒はなあなあで生きているから何も考えず追随するのは仕方の無いことなのかもしれない。
黒いローブの少女はますます困惑しているのが手にとるようにわかる。
「ええと、名乗るのは初めてだね。私はセンジュ。役職は……無職?」
なんで自分のことなのに疑問形なのだろうかと思わないでもないが、そこを気にしてしまうと進まないのでとりあえず代表して事情を話す。
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「なるほど、私に一人で声をかけるのは恥ずかしいから三人で話しかけにきた、と。」
「「違うよ!!」」
思い切り否定したが、否定した二人については一人で話しかけるのはちょっと……と思っていたのも事実である。
イズナはあまり興味が無いのでまあどっちでも……と言う様子。
そして少女は困り顔。
『ははは……、ごめんね、センジュ。』
「いえ、先生。確かにゴクツブシと思われても仕方ないですし、現にそうでないとは言い切れません。」
『そこは言い切ってほしかったけどね……」
ここで、ふと思いついたか、イズナが割り込む。
「主殿はセンジュ殿がここにいる理由を知っているのですか?」
先生がチラリとセンジュの方を向く。
「別に構いません。知られても良いことですし。」
『ありがとう。そうだね、イズナ。センジュがここにいる理由はねーー」
【先生!ゲヘナの風紀委員会から連絡です!】
『っと、ごめん。』
ゲヘナからの連絡によると、厄介事が起きて、しかも他所の自治区にまで影響があるから、シャーレに仲裁して欲しい、ということだった。
『ごめんね、用事が出来てしまって……
急な話になってしまうけれど、3人とも手伝ってくれないかな?』
「大丈夫だよ、先生!」
「護衛ならおまかせください!」
「心配しないで!厄介事に遭遇しても、レディーなら慌てないんだからね!」
『ありがとう、帰ってきたら続きを言うから、手早く解決しよう。さ、行こうか。』
「「「了解!!」」」
そう言って先生と3人は慌ただしく出かけて行った。
「……まあ、大丈夫でしょう。彼女達が聞きに来るのは2回目ですし、きっと前回と同じように忘れるに決まっています。」
自分への関心がすぐ消えてしまうのを、なんとも言えない表情で噛み締めながらセンジュは呟く。
ちなみに、1回目はカエデの初めての当番の日のことで、大体同じような流れだった。かなり前のことだし、先生も忘れていたようなので覚えていろという方が酷なのかもしれない。
「さて、そろそろクーデターの件ですけれど……
……先生も覚えてらっしゃらないでしょうし、モモトークで通知だけしておきましょう。」
さてはて、先生にはこれから用事があったようなのだが、どうするつもりなのだろうか。
……本当にこの先生大丈夫なのだろうか?
センジュをこのような不安が襲うが、いつものことである。毎回なんとかなっているので、気にしてはいけないのだろう。
「ま、とにかく現場に向かいましょうか。」
シャーレの戸締りをして、駅に向けて歩き出す。
途中、エンジェル24のアルバイト、ソラに見られて「あ、あの人引きこもりじゃなかったんだ……」と呟かれ、結構大きなダメージを負ってはいるが、仕事には問題ないだろう。多分。
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1週間後。
D.U.にて、ヴァルキューレ警察学校の局長、尾刃カンナは緊張した様子でとある建物の前に佇んでいた。
(やはり、いつ来ても落ち着かないな、ここは……)
その建物は、一見すると普通のビルのようだ。シャーレのある建物よりは大きいが、それでもカイザーグループ等の大手企業のビルには及ばない大きさである。
『お待たせ、カンナ。』
「先生、お疲れ様です。」
カンナの後ろからシャーレの先生が話しかけてくる。
『ごめんね、待たせちゃったみたいで。』
「お気になさらず。本官も今着いたところです。」
当然カンナは30分前には着いていたが、そのことは御首にも出さない。部下には「シャーレの先生が来るからって早めに行くんですね」なんて言われたからそいつに面倒な業務を押し付けたがそこにやましい事なんてありゃしないのである。
閑話休題。
2人はようやく中に踏み出す。
その建物の中にいる生徒はそこまで多くは無い。共通点と言えば、全員が黒いローブを身につけていることか。
『カンナはここに来たことがあるの?』
「ええ、前に2回程。外では違うようですが、キヴォトスではここのお世話になることは少ないですからね。弾劾裁判は連邦生徒会の施設でありましたし、先生がここに来るのは初めてになるでしょう。」
『そうだね、私としてもセンジュのシャーレの外での様子が見れるのは嬉しいよ。』
「長官はシャーレの中とここでは様変わりします。期待しているといいでしょうね。」
そんな会話をしながら歩みを進めると、1番奥の大きな扉に辿り着いた。
「さあ、行きましょう、先生。」
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中で待っていたのは、そこそこの人数の生徒だった。手前には教会のように椅子が並べられ、最前列の前には木製の柵が設けられている。
柵の向こう側には、中央に入口と反対側を向いた講演代のようなものがあり、その台を挟むように机が左右に並べられ、最奥には一際高い席が設けられている。
最奥に座っているのはセンジュであり、左右の席にはそれぞれ連邦生徒会の面々とヴァルキューレ警察学校の生徒達が座っている。
先生に一礼したカンナがヴァルキューレの席に着くと、センジュがガベルを鳴らし、開幕を宣言する。
「全員揃いましたね?
では、連邦裁判所長官古谷センジュの名において、ここに“連邦生徒会クーデター事件に関する特別申立手続”の開催を宣言します。」
普段のセンジュとは異なり、少し硬い口調となっている彼女の見慣れない光景に感心しながら、先生は先に席に着いていた七神リンの隣に座る。
『お疲れ様、リンちゃん。なんちゃら手続って何か知ってる?』
「……先生ですか。少し声を落としてくださいね。それと先日詳しい書類をお送りしたはずですが」
『うっ、ごめん……
読もうと思っていたんだけどね。』
リンは呆れたように少しため息を吐いて、話を続ける。
「特別申立手続というのは、連邦生徒会や各自治区の長、あるいはそれに準ずる立場の人間が拘禁された場合に、自身の不在で職務が上手く回らないことを理由として後継者が正式に就任するまでの間の執行猶予期間を求める、というものです。今回はカヤ元防衛室長がそれを申請したみたいですね。」
なるほど、と思いながら前方に目を向ける。
リンと話している間に、カヤの発言が回って来ていたらしい。
「ですから私は、防衛室長の職務に加え各部署との潤滑剤としての役割を果たしながら外部とのパイプを持つ、連邦生徒会が職務を遂行するに当たって必要不可欠な人材です!私がいなければ、公共事業を進めたり各種装備を更新したりすることが出来ないのですよ!?」
「その体制が今回のクーデターの原因だと言っているんだ!潤滑剤となるのは代行と先生だけで十分だろう!それに外部とのパイプと言うが要は癒着じゃないか!子ウサギ駅の件で証拠は上がっている!貴様に執行猶予は必要無い!」
……ギャーギャーと騒ぎ立てるのはキヴォトス流ということだろうか。誰も止める気配が無い。
「ぐぅっ、し、しかし……」
「なんだ、言ってみろ!どうせ保身のための言い訳だろう!」
カヤがチラリと傍聴席を見やる。
先生の姿を見て何か思いついたのか、一瞬考え込む様子で腕を組んだ後、自慢げな表情で高らかに宣言する。
「そ、そうです!今回の一件に関して、シャーレは正式に処分を発表していません!本件はシャーレが関与していたとの情報もあります!先生の意見を聞くべきでは!?」
「なっ!?おい、今回の件は我々ヴァルキューレで解決しただろう!?」
今回の事件は表向きヴァルキューレが解決したことになっているが、その裏にはSRTの生徒、ひいてはシャーレがいるのはもはや公然の秘密である。
「けれどもその裏にシャーレがいた事は紛れもない事実!先日の弾劾裁判ではあくまで参考人として事実確認程度でしたが、先生の意向も伺うべきかと!」
「先生は全く無関係の一般市民だ!今回は不幸にも巻き込まれてしまったようだが、これは本来ヴァルキューレの管轄だ!」
「「裁判長!!!」」
先生の発言を求めるようセンジュに促すカヤ、それを止めようとするカンナ。2人の眼差しを受けて、センジュは。
「……そう、ですね。本件はシャーレの預かり知らぬことであるとはいえ、連邦生徒会の一大事に連邦捜査部がなにも知らず、関与もしないというのも拙い話。いいでしょう、シャーレの先生が発言したいのならば発言を認めますが。」
そう言って、先生を見る。
言外に、”シャーレの権限なら超法規的措置としてコレを引き取ることもできるが、どうするか”と滲ませる。
先生がどうするか悩んだ一瞬のスキに、カヤは大きく動いた。
「先生!!!」
先生の名前を大きく叫んだかと思うと。
「どうかお慈悲を!!!!!!!」
見事なフライング土下座を決めたのである。
フライング土下座をかまされた先生は当然思考に空白が生じる。そのスキにこれでもかと先生にまくし立てる。
「ごめんなさい!私が間違ってました!ちゃんと迷惑をかけた皆さんに謝りに行きます!損失も補います!SRTへの仕打ちも反省します!これからは皆さんのために心を入れ替えて頑張ります!いえ、先生の言うことならなんだってします!先生が足を舐めろと言うならば舐めます!犬になれと言うなら犬にもなってみせます!ですから、ですから、どうかお慈悲をぉぉ!!!!!」
これは困ったことになった。
他の生徒はセンジュを除きドン引きしている。人間(キヴォトス人が人間かどうかは議論の余地がある)という生き物は、ここまで汚く執着できるものなのか。
そして同時に、まさか先生が足を舐めるようなことを、あるいは生徒を犬代わりにして散歩なんていう特殊なプレイをやる訳がないだろう。
そして先生は別の意味でドキドキした。
もしかしてカヤはゲヘナの風紀委員2人との間にあったこと(不可抗力であったと弁明したい)を把握していて、それを用いて暗に脅迫しているのではないのだろうか。
コーン………………
シンと静まりかえった法廷を立て直したのは、裁判長のセンジュだった。
一際大きくガベルを鳴らすと、いつもの声から想像も出来ない低音で、しかし淑やかに注意をする。
「何をしているのです?
なぜ、寝転ぶ必要が?
私は今貴方達ではなく先生に意見を求めているのです。
お分かりですか?」
早く立て。黙れ。
実に端的でわかりやすい台詞でもって周囲を黙らせたセンジュは、気を取り直して先生に再度質問をする。
「それで、どうなさいます?」
『そうだね、私は発言しなくて大丈夫だよ。』
この間に意見をまとめ終わったのか、先生が持論を述べる。
わかりやすいくらいにカヤの顔色が悪くなる。
『でもね。』
『いくら悪いことをしたって、君達はまだ子供だ。まだまだ色んな可能性を秘めている。
間違えたって、ちゃんと正しい道に進むことが出来ればいい。
そのためにも、相手のことを信頼してあげて欲しいな。』
「ほぅ、成程。」
先生のどこまでも生徒の可能性を信じる言葉に、センジュが唸る。
「さて、先生からの発言はありませんでした。他に何か発言したい者は?……いませんね。それでは、これより判決を言い渡します。」
「原告、カヤ元防衛室長。あなたはー……」
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一連の手続が終わり、帰路に着く。
その途中でカンナと先生は話していた。
「いやはや、カヤ元防衛室長を信じるとは。本官も、先生のことを見直してしまいました。」
『子供を信じるのは、大人として当然のことだからね。』
ここでふと先生の中に疑問が生じる。
『そういえば、今日の判決はとても早く出たね。何か知ってる?』
「ああ、先生は知らないんでしたね、長官の権限を。」
「連邦裁判所長官は、連邦生徒会長すら弾劾できる強力な権限を持ちます。
ですが、そもそもこのキヴォトスでの裁判は基本各自治体が行うもので、連邦裁判所は関与出来ません。
よって、連邦裁判所長官の業務は、和解に至らなかった学園間の問題を調停室の補佐として解決するか、あるいは、各自治体から要請があったときに出向いて裁判を行うか、基本その二択となります。今回は非常に稀な例でした。」
『それじゃあ、センジュに従わない子が出てくるんじゃないの?』
「そこはご安心を。彼女は、連邦生徒会長から信任を受けた、超法規的な立場にあります。
早い話が、貴方と同じ立場なのですよ。
それだけに彼女の意思決定が重大な意味を持ってしまうので、今はシャーレで無責任でいることが幸せだそうですよ。」