特級不死 デッドムカデ   作:ゾエア

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不死の墓守

 

 

「獄門疆──開門」

 

 

 中空に浮かぶ白髪の長身。外界からの情報が入ってこないうえに、物理的時間も流れていない空間から、今しがた解放された男──五条悟はその状況を概ね理解し始めていた。

 

 

 穏やかな表情のまま眠るのは五条の()()の姿。その額にあった縫合糸は取り除かれ、まるで生前の姿へ戻ったような。戦闘の痕は施された死化粧によって隠されていた。葬った事実。そして弔う意思があること。それらを言葉なく示されたことで、五条は地へ足を着け少年へと向き直った。青い眼は真っ直ぐに出戸環を捉えている。

 

 

「中身は取り除いた。白衣の人はいい腕してるね。縫い目の痕はもう見えないよ」

 

 

「……オマエは──傑に会いたかったのか」

 

 

 五条は渋谷で環と対峙してはいない。しかし夏油傑の裡に潜む者こそが一連の主犯であることを理解していた。そして、環が組んでいた事実と、葬られた親友の姿。出戸環が望んでいたものは五条悟の封印でも、起こりうる混沌でもなく、夏油傑の解放だけだった。それ故に自らを封印からすんなり解放したのだと、五条は冷静にそう推測した。

 

 

「百鬼夜行の時、夏油さんに言えなかったんだ。でも、もう伝えられた。それで十分かな……今から()るかい?」

 

 

「いや……いい。今日は何日だ?」

 

 

 親友を弔う者から、すぐに最強の五条悟へと切り替えていた。渋谷で封印されてから、その後の状況を把握しなければならないと。五条にとって心残りの1つであったものは、既に環の手によって片付いていた。その事実と、五条の気まぐれによるものか、今すぐ敵対する意思を環へ見せることはなかった。

 

 

「11月11日。あんたが封印されて二週間も経たないうちに日本は大混乱。さっさと世界を救ってきなよ最強」

 

 

 死滅回游は羂索が死んでも尚終わっていない。過去の術師の受肉体と呪霊は未だ結界内で争っていた。それらを終わらせるための一手。五条悟ならば1人で全てを片付けることが可能であるとして。

 

 

「詳しいことは……あの白衣の人に聞けばいい。あんたの生徒達も頑張ってるみたいだ。1人は僕が蘇生したけど」

 

 

「そうか。礼を言うよ。それじゃあ──ちょっくら救ってきますか!!硝子〜今どうなってんの?」

 

 

 待機していた家入硝子の下へと向かう五条悟。ひとまず肩の荷が下りたような後ろ姿であった。それを見送った環は高専内の仏閣へと足を運ぶ。天元の後継である彼の帰る場所は薨星宮となっていた。

 

 

 扉を開ければ、木の根がそこかしこに見える空間へ繋がっていた。さらに奥へと進めば、そこにはシャッターの閉じられた忌庫がある。呪具は粗方高専から持ち運ばれてはいたが、呪物は相変わらず保管されたままだった。

 

 

 脹相の要望によって呪胎九相図4〜9番は蘇生を果たしていた。しかし、受肉を可能とする程の力はまだないために、胎児のまま少しずつ成長を待つ形になっている。呪霊との混血児であるためか、人間の胎児程虚弱ではなくすくすくと大きくなってはいるようであった。

 

 

 昇降機で環は地下へと降りていく。空性結界の迷宮すら今では彼の庭となっていた。着いた場所は空性結界によって設定された一部屋。

 

 

「おかえり」

 

 

 紫がかった髪を伸ばしっぱなしにした女性が立っていた。腕を組んだ姿が様になっている。赤い目を四つ嵌めていながら、絶妙な配置とバランスで美しい調和を保っていた。貫頭衣ではなく小袖を纏った女性──天元は帰ってきた環へ挨拶を送っている。

 

 

「ただいま。五条悟は早速出かけたよ。死滅回游もようやく終わる目処が立ったみたいだ」

 

 

「君自身が平定に乗り出してもよかったんじゃないか?結界(コロニー)内の呪霊を殲滅すればすぐに片がつく」

 

 

 環は死滅回游を終わらせるため、積極的に動いてはいなかった。五条悟の解放に貢献したためにそれ以上のことはしないと。天元はその疑問を早速ぶつけてはいたものの──

 

 

「そんなこと言い出したら天元(あんた)でもできる。浄界・梵界……日本の呪術界を支えた歴史ごと犠牲にすればすぐにでも終わる」

 

 

 羂索は日本を覆う天元の結界──そのさらに上の位階である浄界と梵界──を利用して死滅回游の永続にこぎつけていた。つまり、天元がそれらを解除すれば死滅回游はすぐに消滅する。しかし、それらの解除は呪術界を支える根幹を犠牲にすることと等しい。天元と呪術界が脈々と続けてきた呪いとの対抗策。そのノウハウを纏めて捨てれば、呪術界そのものがひっくり返ることは間違いなかった。

 

 

「現への干渉はもう終わり。あとは天元らしく見守っていればいいでしょ」

 

 

「渋谷事変での死者──補助監督・窓の多数、それに学生1人、あの子達の蘇生は干渉ではないと?」

 

 

 重箱の隅をつつくように天元は返していた。天元は環の奔走をこの目で見たように語ることができる。自分の撒いた種でもあるから──なんて言いながらせっせと働いていた彼なりの思い。それについて揶揄う天元の目は愉快そうに開かれていた。

 

 

「気まぐれとか……色々。あんまり深く考えてないよ。萎れた花をもう一度咲かせられる。だけど、ずっと花開いたままでいてほしい──そんな気持ちはもう尽きたかな」

 

 

「まだ宿儺の指は残っている。呪いの時代はすぐそこに迫っているかもしれない。君が人類の味方になれば尚のこと有利になるとは思うが」

 

 

 宿儺の器も、指も未だ失われることもなく健在ではあった。宿儺の完全復活は呪いの時代を呼ぶことになる。環が対抗するように動く可能性もあったのだが──

 

 

「これからいくらでもそんなことが起きるさ。僕がいたところで、人も呪いもどうせ生きて死ぬでしょ。時間はたっぷりある。なんせ僕達──死なないんだから」

 

 

 溜息を1つ吐いた天元は、とりあえず環相手に説教を始める。呪術師としての倫理、人としての価値観。それらを捨てて悟った気になっている齢17の若造の耳へ、長寿からの長話が入っていった。

 

 

 







ご愛読ありがとうございました。
たくさんの感想・評価・お気に入り登録・しおりやここすき機能に至るまで、全て執筆の励みとなりました。心よりお礼を申し上げます。

最後はちょっと駆け足気味ではありましたが、ダラダラと書くべきでもないかと思い至りました。ご容赦ください。原作の流れ次第で本作の有り得る未来も変わってしまいますが、無闇に書くべきところでもないかと思いましたので、想像におまかせする形にいたします。

最後になりますが、読者の皆様にはぜひ原作の『呪術廻戦』を読んでいただければと思います。そしてこのハーメルンでの活動の糧になれば何よりも幸いです。本当にありがとうございました。
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